らん
2017-09-16 22:55:23
3201文字
Public
 

ジュダとカノジョ。

wired発売カウントダウン4日前。

サンプルを配る度に思うのは、律儀に感想を送ってくるヤツと、送ってこないヤツの差。というのは冗談で、一種の安堵感だったりする。
なんだかんだでツイッターを任されている奴等は律儀なヤツが多いのか、大体モモチ以外は直にメッセージアプリを介して感想が送られてくる。今回はじめて配ったヨシュアからも例に漏れず感想が送られてきていて、さっきまで充電が無く押し黙っていたスマートフォンには未読のメッセージ数が大量に表示されていた。
シエルにも送ったけれど届くのは発売日直前か直後だと聞いたので、それまでヤツからの感想はお預けといったトコロか。寝不足のまま乗り込んだタクシーの中で未読を潰していき、それぞれにスタンプを送る。
こうして同業者から感想を聞くのは嫌いじゃない。それぞれロックをやっていて、曲の系統こそ若干違うものの、アイツ等もこの道のプロであることに変わりはないからだ。勿論、オレが一番だと思ってるけど。この感情ですら全員が共通するもので、だからこそ、そんな奴等から貰う感想に嘘は無いから。
悪くない、だとか良かった、だとか、素直じゃないものも混ざっていたが反応は上々だった。当たり前だろ、口の中で呟いた言葉は外界に震わせず、本当なら一番欲しかった相手からのメッセージがないことに気づいてひとつ鼻を鳴らす。
(なんのためにいの一番にあげたと思ってんだよ)
どうせメッセージを書いた盤では聴かないだろうと自分用に貰っていたサンプルもビニールを外して置いておいたのに、カノジョからの反応はひとつもない。ラフは聴かせたけれど、完成版はフルで聴いていないはずだからとわざわざ用意したソレはオレの部屋にポツリと残されている。と言っても、昨日家に帰ってもカノジョが来た形跡は無かったから当たり前なんだけど。
(それなら、メッセージの答えくらい)
まだ正解に辿り着いていないのか、それともカノジョも多忙を極めていて手をつけられないのか。こちらからアクションは起こさないと決めた手前、分かった?なんて聞けるワケもない。
曜日感覚の狂ったこの業界に土日祝なんてあるはずもなく、今日もオレは家に帰れないことが確定している。だから次カノジョに会えるのはいつなのかも分からない。それまでに感想がなかったら。それまでに、答えもなかったら。
ただでさえ寝不足のせいで若干苛ついているのに、こんな小さなコトで心労を抱えるのもバカらしい。やっぱり我慢なんてするモンじゃないのに、ここまで来たら意地だ。引いたら負けなのは分かっている。アイツに関しては負けっぱなしだけど。
軽い渋滞にハマったらしく、運転手が呑気に謝っている。別に急ぎでもないし、なんなら遅れて行きたいレベルにモチベーションがないのでこのまま渋滞ルートで構わないことを伝えて、話をするのもダルいからとヘッドフォンをつけた。
遮断された車のエンジン音の代わりに自分の新曲を流せば、やっぱり最高の曲だと自画自賛タイムの始まりだ。あーあ、なんでアイツはこの曲聴いてねェのかな。特別なんだから甘えればいいのに。
カノジョは、オレと違って我儘がいつだって少なすぎる。我慢ができすぎてしまう。だから、特別をもっと甘んじて欲しいと願っているからメッセージをあげた。多分きっとそれはメッセージを読めれば分かるはずなのに、読めたかどうかも分からないからほんの少しだけ不安になる。
そもそも、カノジョにメッセージを贈ろうと思ったのは紙飛行機を飛ばした日だった。
カノジョは気づいていなかったけれど、アイツが飛翔を口ずさみながら紙飛行機を折る時からずっと見ていたのだ。どうせなら遠くに飛ばしたかった、そんなことも自分だけで反芻させて、オレが帰ってこなかったらあのカレンダーで作られた紙飛行機はゴミ箱に沈んでいたのかと思うと、なんだか寂しいと思ってしまったのはオレのほう。
会いたいと言えないのは、カノジョの性格故だと分かっている。大好きだとオレや曲に対する好意はまっすぐ伝えてくるくせに、自分の我儘にもなる事は我慢する癖みたいなものがカノジョにはあるから。そこがいじらしくて、可愛くて、からかいたくなるトコロでもあるし、なによりオレと続く「我慢強さ」という長所なのかもしれない。けれど、もう少し、相互理解だって出来るようになってきた今、ほんの少しでもいいからもっと甘えてほしかった。
どうしたい?どうしてもらいたい?促せばおずおずと話してくれる事のひとつひとつを、今度はカノジョから欲しい。
形のないものをあげることは得意だった。歌であれ、曲であれ、音楽という形のないものは呼吸をするように浮かぶし、声にした言葉なら素直にあげられる。だけど、言葉を文字にして残すことは苦手だった。
歌詞ならいくらだって書けるのに、ただの言葉ひとつになるとてんで駄目なのだ。音がないだけでこんなにも難しいのかと笑いだしたくなるほどにヘタクソだった。
カレンダーだって苦手だった。書くことが面倒とさえ思っていた。それでも、共有させるために必要な形の残るものがある生活には慣れたもので、今じゃずっと続いている。そうさせたのはカノジョで、そんなカレンダーで作られた紙飛行機が宵闇に消えていくのを見届けた時、形に残るものをあげたいと思った。ただ、それだけだったのに。
(そもそも、そのメッセージが届かなきゃ意味なんて無い)
言葉は、理解されてようやく「形」になる。分からずに文字化けしたままなら、それはただのガラクタと同じで、形はあっても「残るもの」ではない。
もっと素直に日本語で書けば良かった?それが簡単に出来るなら前々から文字を残していた。曲で今まで表現してきていたものを文字だけで形にする術が少なすぎて無理だろう。
なにより、あまりにも恥ずかしくてどうしようもなかった。照れ隠しも含めて英語に頼ったのがこんなところでアダになろうとは。
カノジョからのメッセージも、コールもいまだにひとつもない。今頃オレの家に居るだろうか。居たらいいな。曲でも聴いて感想を送ってきたりしないだろうか。ていうか、送ってこい。アンタのおかげで出来た曲なんだから、って、ラフのときにも言ったけど。
世に出回って大衆化する前に、少しだけでも特別を感じてほしいと思うのは我儘なんだろうか。
メッセージを贈った意味を、カノジョは分かってくれるだろうか。分かってほしいな。ていうか、気づけ。一体どんだけの時間オレと過ごしてんの?マジでこんなオレでも愛想を尽かされなかったくせに、なんでこんなにも不安なんだろう。
どうしていつもオレばっかり我儘で、特別を貰っていて、曲だけで返しきれないとまで思わされてるのか。オレの世界にアンタが居なきゃもうダメなのに、アンタは同じだけのものを持ってないんじゃないかって落ち着かなくなる。
(アホらし)
これまで貰った大好きに嘘はひとつもない。ついこの間貰った体温だってあるのに、たった数日でもうコレだ。どんだけ我儘なワケ、オレ。
考えることはやめにした。全部寝不足のせいだと決めつけて、スマートフォンをバッグに仕舞うと強制的に目蓋を下ろす。
発売日までは待ってやろう。メッセージが分からないって言うならプッツンしそうですけど、まあ許して、仕方ないからお得意の曲でこれでもかというほど聴かせてやる。
「愛してる」だけじゃ足りないぐらいの愛を載せて伝えるんだ。
……ヘタクソは言葉にするなってか」
やっぱりオレに形に残る言葉は無理なのかと、ちょっとだけヤケになっているかもしれない。歌だったらアイツが泣き出すくらい愛を込められるのに。
渋滞にのまれたタクシーはまだ動かない。なんだか停滞しているオレの気分と同じようで、リリース間近なのに少し萎えているオレにも嫌気が差した。いつからこんなに女々しくなったワケ?