らん
2017-09-14 12:29:56
1168文字
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シエル。

ディアヴォ

「しかし君、恋は罪悪ですよ」
ああそうかもしれないと、俺は漠然と、ただ事実としてその言葉を浸透させた。
恋は罪悪かもしれない。恋をして、愛を育み、そうして俺を生んだあの人たちにとってはそうでないとしても、俺自身にとってしてみれば、恋をした両親から生まれたことは罪悪だった。


折檻が当たり前だと思っていた。それがどこか少し歪んでいると知ったのは、あの地獄に閉じ込められるようなヘマをしなくなった頃だった。
薄暗く狭い物置小屋で、幼い俺はいつも泣いていた。次は怒られないように、次はあのひどく暗く、恐ろしい化物の住まう地獄へ足を踏み入れないように。人は恐怖によって従順に動くことを、俺はその時から理解していた。
虐待だと抜かす他人もいるだろう。愛だと諭す者もいるだろう。俺はといえば、後者の人間だった。そう思いたかった。そう暗示をかけていた。
両親が地獄を教えてくれたおかげで今の俺がいる。それに間違いはない。間違ってなんかない。ーー本当に?
「しかし君、恋は罪悪ですよ」
罪悪の物差しは計り知れない。トラウマは事象によって起因するのではなく、人によって植え付けられる。両親によって根付いたこのトラウマを、人は罪悪だとはかるだろうか。だとしたら、俺を生んだ彼等の恋は罪悪だと片付けられるのだろうか。
世の中の理論というものを理解出来るようになった途端、何もかも分からなくなって、逃げた先は音楽の世界だった。
きらきらひかるおそらのほしよ、拙くずっと歌い続けた物置小屋の記憶。暗く沈んだ、埃の匂いが色濃い地獄。瞬く光をただ追い求めて歌った、小さな俺。
過去の俺に今の俺はどう映るだろうか。レールを外れたくて反抗した結果だと思われるだろうか。少なくとも俺はそう思ったよ。確約のない世界、理想が現実には成り難い天国だって。
「しかし君、恋は罪悪ですよ」
無意識的に、子は親に似るのだという。だとすれば、今の俺は両親に似ているのかもしれない。高圧的に、自分が正しいと、信念を貫き通して。彼等にとって俺を閉じ込め、抑圧したことは正義だったように。間違いはない、間違ってなんかない。なあ、その正誤は誰の物差しだ?
だから、お前に恋なんかしたくなかったよ。恋は罪悪だと規定された俺の世界の中で、お前への感情も、お前からの感情も毒にしかならない。こう決めていることだって俺の物差しでしかない。
「逃げ切りたいんだよ」
笑い合えている。知っている。それだけが真実だと願っている。その上で、今日も罪悪に怯えている。この罪が許されることを頭を垂れて祈っている。
多分きっと、許してもらえるのはお前だけだと俺の物差しで考えているせい。
「恋は罪悪ですよ」
きらきらひかる、おそらのほしよ、瞬きをすればまみえる星をお前にあげられたなら、俺は許されるだろうか