らん
2017-09-08 18:59:22
1441文字
Public
 

エーダッシュ。

ディアヴォ

「それじゃっまたらーいしゅー!次回はドラムのアイツがお相手しまぁす!エーたんが来ないからって寂しがるナヨっ!」
ブース外のディレクターが指を折っていく。さん、に、いち、ぜろ。同時にオンエアを示すランプとマイクが落ちたことを確認して、大きく息を吐いた。今日のラジオ収録もいつも通り、いや、いつも以上に饒舌に喋りきれた気がする。
「お疲れ様でしたー!今日の収録は以上です!」
「お疲れさまっしたー!」
舌っ足らずな挨拶と共にスタッフや内番の人たちに頭を下げてルームを抜ければ、今日は同行していたマネージャーが車のキーを指で回しながら待っていた。時間も頃合い、どうやら送迎してくれるらしい。
「ナニ、珍しくね?」
「一応オマエ未成年だからね」
「イヤンっやっさしー!エー子惚れちゃう〜!」
「新曲の売上次第で相手してやる」
「オイオイそーいうトコで萎えさせンなよ」
すれ違う人みんなに声をかけるか頭を下げるか、二人で馬鹿げたことを話しつつラジオ局の地下駐車場へ向かう。控室に置いておいたリュックは予め持ってきてくれていて、こういうところはさすがマネージャーというべきか。
地下駐車場に続く道のりの果て、追いやられたように出来たパーテーションで区切られただけの喫煙所に見える人影はラジオ局のちょっと偉い人だ。NSFWのラジオ収録にもたまに顔を出してくれて、知り合いといえば、知り合い。マネージャーが急に黙るから何かと思えば、やっぱり外面が大事なんだなと他人事のように思ってしまった。
ちょうどあっちもオレに気づいたらしく、うさんくさそうな狸ヅラが柔和な笑みを見せる。
「エーくんお疲れ様、」
「お疲れ様っした!来月もヨロシクお願いしまーす」
「今日のラジオも楽しかったよー、まさかサインを故意に間違えてるとは知らなかったな」
「エッー!なに、ちゃんと聞いてくれてたンですゥ?!」
「そりゃあね。途中まで俺が録ってたし」
「いやそこは最後までやってくださいよぉ」
「上に呼ばれちゃったからなあ。もし秘密を話したくなったらラジオで話してくれよ、視聴率、欲しいんで」
「検討サセテイタダキマース。お先にシツレーしますっ」
このたぬきジジイホントに抜け目ねぇんだよな。
思ったことを表情に乗せてマネージャーと顔を見合わせれば、営業スマイルで相殺された。
駐車場に繋がる裏口の分厚い扉が建付け悪そうに開く不愉快なノイズは慣れたもので、マネージャーの車を見つけて一目散に駆け寄っていく。走るなバカ、聞こえた注意は右から左に流して、普段は乗らない助手席を狙った。
鍵の開いた音と同時に乗り込むと、程なくしてマネージャーが運転席につく。エンジンのかかる音とシートベルトを閉めろとかETCカードスキャン成功とかそういうもろもろの雑音を無視して、さっきまでラジオの感想もなんも言わなかったマネージャーが口を開いた。
「いつまで故意にサイン書くんだよ」
「んー?書かなくても忘れないようになるまで?とか?」
「それ、オマエは彼女に言えば解決するんじゃないの」
「クソほど面白くねェ冗談言うなっつの」
言えたなら、とっくにオレはサインを変えてる。
いつか、話せる日が来るまで待ってて。なんて、待たせることしか出来ない弱虫なオレはやっぱり美しくない。
地下駐車場から抜け出して、多大なビル群が占める都会のバカみたいなライトを窓からずっと眺める。ハニィに会いたい。こぼした本音は、マネージャーにしか届かなかった。