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らん
2017-06-03 16:31:01
1364文字
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ユゥとジュダ。
「なに泣いてんの」
言うつもりはなかった。なかったのに、ためらわず声にしていた。
あまりにも静かに泣いていたから、触れていいものか逡巡する前に反射的に喉から飛び出していたのだ。
楽譜を広げた上にルーズリーフをぶちまけて、そのひとつを凝視したままジュダの頬には涙の跡が伝っていく。
「
…
あ、
……
?」
オレに言われて気づいたのか、そこでようやくジュダは人形から人間になった。頬に触れた手が水滴をすくって、今度はそのしずくを見つめ始める。
「うわ、マジだ」
「いやいや、自分で気づかないって相当デショ。
……
曲作ってたとか?」
「まあな」
「泣くほどイイ曲できたワケ?」
「いや、」
歌いたくない。そう断言したジュダに、オレは開いた口が塞がらなかった。
「そんな曲作ってどうすんの?!」
「歌う」
「ハ?ほんっと意味分かんない」
分かりたくもない、が正しいだろうか。
ジュダがその譜面に起こした曲がなんなのか、そのルーズリーフに記した詞がどういったものかはオレに知る由もない。ただ、歌いたくない曲を作って歌うことの苦痛をオレは知っている。それはツーユゥになる前のオレの最大の痛みで、忘れられない後悔のひとつだから。
歌わなきゃならないワケでもないだろう。篝火は、メンバーが許さないものを作るほど落ちぶれているわけでも、妥協で済ませることができるほど周囲に気を使うものもない。それはフロントマンであり作詞作曲を手がけるジュダにも言えたことで、むしろ、ジュダ自身が拒むもののように思えた。
「歌いたくないなら作らなければ良かったのに」
溜息と共に吐き出したオレの低く沈んだ声は届いたのだろうか。なんの反応もないからもう音楽の世界に戻ったのかともう一度息を吐き出して踵を返したとき、ようやく声が返ってきた。
「それでも、オレには音楽しかねぇから」
物を投げられるかもしれない。罵声を聞かされるかもしれない。そんなコトまで考えていたのに、ジュダの反応はとても落ち着いていた。まるで見えない何かがそこにあるように、どこを見ているのか分からない表情のまま。
「
……
ほんと、オレには分かんないね」
きっとオマエも分かってもらおうなんて思ってないだろうけど。
オレはジュダと違って音楽だけで生きていない。音楽だけに囚われることはない。天才とバカはやっぱり紙一重なんだろう。
それでも、あんなにも気性の荒いアイツが、音楽性さえも激しさを求めているジュダが、あんなにも静かに泣けるのだとはじめて知ったオレの脳裏にアイツの涙が離れることはなかった。
「愛してたと言えるよ、素直に」
音楽だけが世界だったオレの世界に現実の色を織り交ぜさせたのはカノジョだった。そんなアイツの顔を思い浮かべて書いた詞は、無意識に泣くほどオレの心を映し出す。
「
……
歌いたくない」
この曲は、篝火のモノにできるだろうか。オレのモノで創り上げてきたのが篝火だといえど、この曲だけはどうしても違和感が残るような気さえする。
それでも、歌わなければならなかった。
音楽しかなかったオレには、音楽でしか届ける術がないことをもう知っていたから。
なぞる譜面のメロディはやけに綺麗で、さすがオレだと笑ってみてももう遅い。
泣き止み方を知らないオレの頬は、もう一度涙にまみれていった。
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