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らん
2017-05-08 12:04:38
1617文字
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モモチとカノジョ
歌う仕事じゃなくて良かったと思ったのはもしかしたらはじめてだったかもしれない。
モモチはグアムから直行した地方の仕事を終え、都内に戻ってきてから事務所にも寄らず自宅へ帰るためタクシーに乗り込んでいた。
せっかくのオフを潰された挙句そのまま海外に連行、数日間のアメリカをそれなりに、いや、わりとキレながら過ごしたまま向かった地方はまあまあ楽しかった。楽しかったけれど、約一週間近くカノジョに会えていないせいか歌いたくない感情で満たされていたのだ。
(別に歌えるだろうけど)
あの時みたいにカノジョが居ないと歌えない、なんてことは実は無い。ただカノジョをずっと側に置いておきたい言い訳に過ぎない。それこそはじめは確かに傍に居てくれなきゃ歌えなくなりそうだったが、今は落ち着いている。電話でもしてカノジョの声が聞ければそれなりになるし、歌に関して困ることは特になかった。けれど、やっぱり感情には抗えないから歌いたくない。それだけ。
オフの前日は外で会おうと話していたカノジョが自宅に居るわけもなく、今回は閉じ込めることも出来ないまま離れてしまったことが心残りでしょうがなかった。浮気してたら。誰かといたら。オレはあんなにもくだらないことをさせられていた中、アンタは楽しい時間を過ごしていたら。
考えれば考えるだけ気分は降下して、気づいた時には既にカノジョへとコールしていた。
「はい、」
「ねえ、今すぐオレの家来て」
今ではすっかり2コール以内に出るようになってしまったことが苛立ちと喜びをない混ぜにしたような気持ちにさせる。モモチはそんな感情を声に乗せたまま言い放った。はやくきて、待てない。今すぐ。
「えっと、」
「出来ないとか言わないよね?アンタは今日休みでしょ」
「うん、
……
あのね、モモチくん、」
「なに」
今、モモチくんのお家に居るの。
電話越しのカノジョの声は密やかで、モモチは瞬間的に喉が詰まったように呼吸を忘れた。
この子は、いったいどれだけ毒されてきたんだろうか。
「
……
そのまま待ってて」
途端に溢れた愛しさを持て余しそうで、モモチはそれだけ言うと一方的に電話を切った。
無骨な鍵を開け、ただいま、と猫なで声で家に入る。音を確認してリビングの方からやってきた影にそういうところがツメが甘いんだとほくそ笑んで、駆け寄ってきたカノジョを抱きすくめた。
「待ってろって言ったでしょ」
「え、
……
あ、ごめんなさい、?!」
なら、玄関前で待ってろよ。会いたくてたまらなかったって縋ってよ。
おみやげの箱さえも無造作に放り出したことは後悔なんかしない。ただ、今はカノジョの温もりが欲しかった。触れ合わせたキスの味はほのかに紅茶のそれで、相変わらずミルクティばっか飲んでたんだろうと舌を滑り込ませていく。
抱きしめたカノジョから香るシャンプーの匂いも、手首から香るボディソープも、全部モモチの自宅にあるものだ。つまり、カノジョは確実に前日からここに居たのだ。その事実だけでこんなにも舞い上がることが悔しくて、モモチは誤魔化すように折れそうなほど華奢なカノジョの手首を強く握りそのまま玄関先で押し倒す。ばらりと広がる髪の流れと、翻ったワンピース、驚きとこれからの展開に期待したような濡れた瞳が扇情的で、モモチは一度唇を離すとカノジョの下唇を人差し指でなぞった。
「ちゃんといい子にしてた?」
「
……
っ、う、ん、」
ワンピースの裾をたくしあげて見えたランジェリーは確かにモモチの自宅に置いてあるもので、ああこの子は本当にオレが居なくてもここで生活していたのだという事実が胸に染み入っていく。
今日くらいはいい子にしてたって信じてあげてもいいよ。
何度も跡をつけたせいで一週間という時期を置いても赤黒く染まったままの左手薬指の歯型を舐める。それだけでぴくりと反応して反ったカノジョの喉元に食らいつくように、大きく口を開けた。
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