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らん
2017-04-25 00:15:37
3025文字
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ユゥ(カノ)とエーダッシュ。
「もっと取り乱すかと思ってたわ」
「は?」
エーダッシュの放った一言に、隣のソファに身を預けていたユゥは怪訝な一声を返した。
事務所に仕事をしてきていた面々は結局全員だったが、この控えには今、エーダッシュとユゥの二人だけだ。おそらくシエル、レオードはメンバーと、モモチとジュダも先ほどすれ違いはしたのでまだ事務所内に居るはずだろう。モモチに関しては通用口で煙草でも吸いながら経過を見ているかもしれない。
それはさておき、ブラブラと両足を交互に折り曲げたり伸ばしたり、随分とくつろいでいるエーダッシュに対してユゥはもう一度言葉を重ねた。
「取り乱すって、何を?」
「いやもうこの流れじゃ分かるっしょ。閣下のアメリカ行き。ショージキ、オレは今めっっちゃ驚いてるけどォ?でも空気読めるから発言待ちちゅーう」
「あっそ」
「リツイートだけしてさ、レオ様もフレマとのバンドの付き合いなげーからこういう発言すンの分かるけど、それはオマエもそーじゃん」
エーダッシュの言いたいことはユゥ自身にもよく分かっている。そもそも、JETのヴォーカル、ツーユゥの憧れがフレマだということは初期からJETを追っているファンには有名なことだった。過去のマガジンのログを追えば憧れ、追い越したいバンドのひとつにフレマを挙げていることも容易に確認できる。
まさかそれをエーダッシュが知っているとは思えないが、おおかたファンの誰かにでも聞いたのだろう。
「ユゥにとってシエルって同じ事務所のライバルでー、ファンなんだと思ってたンすよね」
「なんとなく分かってるけどそれ誰情報デスカ」
「クレイジーガール兼RATちゃんのコからでェす」
「だろうと思った」
「ま、その情報なくても分かりやすかったですけどォ」
一度スマートフォンから目線をユゥに移し、いたって平静に見える彼の表情を眺める。まるでハナから知っていたように落ち着いた雰囲気なのは、ショックと動揺のせいなのか、それとも。
ここで聞いてもいいものか、エーダッシュは一考した上でスルーすることにした。
「
……
ショックというより、やっぱりレオ様の言う通り悔しいな〜ゼッテェNSFWが先に海外行きすると思ってたンに」
「何言ってんの、JETより絶対後だろ」
「ハァ?どー考えてもオレのラウドでスパークリーでサイッコーなエレクトロロックサウンドのが先に認められるネっ」
「マジでふざけんなよ、オマエのところよりオレのところのが万人受けしますし?」
「カーッ!そーいうとこクソ!ファック! 」
「そっくりそのままお返しシマス」
いがみ合った視線をこれでもかというほどワザと互いに逸らし、二人は黙々とレオードの呟きをリツイートしていく。
正直悔しい。でも、いつか追いつくから。むしろ、追い越す。
ルミエールのフロントマンとして語られるレオードの言葉で語られる感情は、バンドマンとしての彼等だって同じものだ。
エーダッシュに言いはしなかったけれど、ユゥの中でこの件については決着がついていた。このセリフ、オレもさっきシエルに言ったな。思わずこぼれそうになった笑みは気づかれぬように打ち消す。
(
……
多分、エーダッシュは今オレが一人なの知ってたんだろうな)
いつもどうしようもないバカでありえないほどアホだと思っているが、エーダッシュは他人の機微に相当鋭い。大事な話がシエルからある、とレオードの呟きをリツイートしたところでここに訪れた彼を追い返さなかったのは、この帰結をなんとなく察していたからだ。もし何も知らないままだったら、来た時点で扉を閉めていた。
きっと、いつも通りを装えていないユゥのツイッターの雰囲気を察してやって来たであろうことくらい分からないほどユゥ自身も鈍くない。
「
……
オレは別に大丈夫だし」
「
……
ホーントかなぁ?」
「少なくともオマエみたいに驚きませーん」
「うっざァ」
軽口を叩き合いながら、ユゥはようやく呟く。いつものお得意の台詞を促す。自身が蒔いた不穏の種を回収するように、なんてことないかのように。
その意図を汲んだのか知らないが、エーダッシュもツイッターでノッてきた。さすが、そのあとに続く文言など当の昔に染み付いている。
「レオだな」
同時に溢れた声に二人してえづくフリをしたが、それはそれ、これはこれだ。オマエと被るとかないわ、そう毒を吐きつつも、エーダッシュが居てくれたことで少しは気がまぎれていたのも事実だった。
ツイッターでなら軽く聞けるか、誤魔化すことも楽だろうと考えたのか、エーダッシュはもしかして知っていたのではないかという疑問をそのまま呟いた。隣に座っていながら無言でツイッターを通して返して来るあたり、答えはもう決まっている。
「あーあ、閣下と会うのもあと何日だァ?エーたん、そんなに閣下と絡みねーからなァ」
「なにそれ」
「もっと年下の特権でおねだりしとくんだった」
「ナニ、泣きそうなの?オニーサンが胸貸してやろうか」
「うわキモ。つかそれこそオレの台詞じゃね?大好きな閣下が居なくなって寂しーでちゅね〜」
「コロス」
そんなバカみたいな会話をしながらツイッターも動かしていたわけだが、エーダッシュはもう必要ないだろうと一足先に帰り支度を整えるとそのままソファから起き上がる。
「そろそろお開きっぽいし、お先ー。バァイ」
「オコチャマはさっさとカエレ」
「うっわオマエまーじで明日覚悟しろし。昼飯奢ってちょ〜エーたん金欠なの」
「は?死ね。
……
おつかれ」
「おっつー」
軽やかな足取りで控室を後にしたエーダッシュを見送り、ユゥは最後の一文を送信する。向こうに行っても応援してもらえるように、それはフレマをきっかけにこの業界に足を踏み込んだユゥとしての言葉。
『みんな、ありがとな』
その言葉に少し泣きそうだった。
「
……
エーが帰った後でマジで良かった
……
」
目頭を抑えつつ、ユゥはうっすらと口角をあげる。こういうときこそまざまざと見せつけられるのだ。フレマのフロントマンは格が違う。違うからこそ、追い越すだけの価値がある。
ユゥは気を取り直すとツイッターを閉じた。シエルのおやすみは、今はオーディエンスだけのモノにしておこう。その代わり、彼はメッセージアプリを起動してカノジョへとメッセージを打った。
「これから帰る。もうメシ作った?」
簡素なメッセージへの既読はすぐにつき、返信も速かった。
「まだだよ。これから」
「それなら、今日の晩飯は野菜炒めがいい」
「分かった。お味噌汁は?」
「豆腐買って帰るから、豆腐に合う具でヨロシク」
ユゥ、豆腐嫌いなのに?!そう返ってくるであろうことは簡単に想像できた。そしてその予想通りの返事が来て、あまつさえ誤字も見受けられる。
「
……
今日くらいは、さ、頑張らせてよ」
憧れの人の好きなもの。自身の好きなもの。そして、克服しようとも思ってこなかった嫌いなもの。それがなんだと言うかもしれないが、今日はなんとなくチャレンジしたかった。
テーブルに出していた荷物をまとめ、ユゥは眼鏡とマスクをつけると電気を消して控室を出た。文字を打つのも億劫になり、今度はカノジョに電話をかける。
「あのさあ、味噌汁って絹豆腐と木綿豆腐どっちが合うの?」
エーダッシュと同じほど足取り軽く、とはいかないが、ユゥはひとつスキップをするように大きく一歩を踏んだ。
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