らん
2017-04-24 22:17:48
1108文字
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ジュダとカノジョ。


※シエルがアメリカに行くと知った直後の話。

「おかえり、」
聞こえた柔らかい声色を無視して作業部屋に駆け込む。それに対して特に咎めることもしなかったカノジョに今日ばかりは感謝して、オレはパソコンを立ち上げた。その間にギターを選んで、軽くチューニングを始めれば、様子を見に来たカノジョが夜食作っておくね、なんて分かりきったような言葉で部屋を後にしていった。よく忘れるけれど、アイツもクライマックスレコードのオーディエンスだから今日の流れを知っているんだろう。
鳴らすギターはレスポール。テレキャスも、アコースティックも、クラシックも違う気がした。なんてったって、今のオレの感情は寂しさでも、激昂でも、悔しさでもなかったからだ。
ただ、オレよりも先に、オレの知らない音楽を知ることの出来るどっかのスマート鬼畜のおかげで溢れたメロディが脳内で溢れてやまないのだ。ただそれだけ。
いつもは盛大に狂わせるチューニングを、今日ばかりは正統的に合わせた。硬質で綺麗な、板の薄さによって少しばかり引き攣れた音。
「おし、」
起動されたパソコンに触れて、シンセサイザーを繋いだ。ついでにもう一台のパソコンにギターを繋いで、ヘッドフォンを装着する。まずは思い浮かんでいるメロディをギターで起こしてしまおう。ある程度帰ってくる最中に構成は作ったのだ。楽譜がなかったからこの構成がうまくハマるかは全く分からないけれど、とりあえずなんとかなるだろう。というか、今はそれぐらいのごちゃまぜで良い。そう思えた。
……ありがとな、って」
別に今生の別れでもない。空が繋がっていなくても音は繋がる。どっかのバカ共は先に知っててひと悶着あったようだが、それだってオレにはどうでも良かった。そんなもんなのだ、この世界なんて。縁よりも音がオレのすべてで、アイツ等とはそもそも考え方も違うから。
だから、オレはこの感情で音を綴る。
迷惑にならないよう置かれた卵焼きと、具が出ないように作られた柔らかいパン生地のサンドイッチを視界の端で捉える。一応振り返ってただいまと言えば、ヘッドフォン越しだから声は聞こえないけれどお疲れ様、なんて口元が読めた。なんとなくでも愛しくなってキスを投げれば、やっぱりアンタは最高に可愛く笑う。
「あのスマキチ、オレの曲がなかなか聴けなくなるなんてカワイソー」
まあすぐにオレも世界配信してもらうけど。
何を思ったのか後ろから抱きついてきた温もりはそのままにした。あと少しのアイツの音は、せめてもう一度包丁を使ってほしいかも、それぐらい?
鳴らすレスポールの歪みが心地良くて、感情のまま吐き出す歌は別れの声だった。