らん
2017-04-08 23:32:15
2374文字
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ジュダとカノジョ。

7日目

7:花のように笑いたかった

腹の上で震動してオレの昼寝を妨げるのは一体なんなのか。いつのまにかかけられていたブランケットの内側、ロングTシャツの外側で震えているモノを手探りで掴むと、それが自分のスマホであることが分かった。アラームなんてかけた覚えは無いし、第一音が鳴らないので目覚ましではないだろう。となれば行き着く答えは単純で、誰かからの着信だ。
……、あー……?」
互いに一日オフだからと昨日から泊まりでオレの家に来ていたカノジョは、俺がソファで昼寝をしている間に外出していたらしい。朝から掃除やら洗濯やらして、午後はスーパーにでもと言っていたことをそこで思い出す。
もしかして荷物持ちとして呼ばれるのかという予感が浮かんだものの、無視をするワケにもいかない。通話ボタンをスライドすれば、こっちが何か言う前にカノジョの焦った声が寝起きの頭に響いた。
「ジュダ!やばい!」
「うっせ、割れる……
「ごめん!でも大変なの!」
「ハ?」
「通り雨!降ってるの!洗濯物取り囲んで!」
どうやらエマージェンシーコールだったらしい。のそりと起き上がってベランダを見てみれば、確かに外は暗く、大きな雨音が耳に届く。
珍しく早起きをしたせいで、オレも手伝わされた洗濯物を干す作業がこんな通り雨で無駄になってたまるか。その一心で寝起きだということも忘れてリビングを走った。
「濡れてる?!平気そう?ダメかな?!」
「いや、ギリセーフ。さすがオレ」
「良かった……
取り囲んだ洗濯物はどうにか雨にやられず済んでいた。と言っても、ベランダの桟は濡れていたし、少し入り込んでいたので本当に瀬戸際だったワケだが。とにかく間に合えば良いのだ。
朝から昼にかけて、つまり、オレが起きてから昼寝をする前までは雨の欠片など微塵も無かっただろうに。こんなことになるとは思っていなかったのはカノジョも同じで、いまだ繋がっている電話越しに同じことを話していた。
「とりあえず、もう少し待てば止みそうだから止んだら帰るね」
「傘持ってねーの?」
「降ると思わなかったし、近くだからいいやーって折りたたみも置いてきちゃった。お昼寝してたから何も言わずに出てきちゃったけど、今スーパー来てたの」
「朝聞いた。……アンタは濡れてない?」
「んー、……やっぱりもう体育やってないから、体力が衰えてるよね……?」
どうやら帰り道の途中で降られたようだ。走って帰ってこようとしたはいいものの、すぐに息切れして諦めたのだろう。
「濡れたのかよ」
「ちょっとだけね。今は近くのコンビニで雨宿り中。なにか買って帰る?」
「イラネ」
「分かった。あ、洗濯物もう乾いてる?ダメだったらコインランドリー行かなきゃ」
「いや、乾いてる。一応室内で干しとくわ」
「ありがとう、お願いします」
帰ったら畳まなきゃなあ。きっと独り言だったソレは今時の高性能スマートフォンが逃しはしなかった。その前にアンタは帰ってきたら風呂だろ。オレの独り言ももしかしたら届いてしまったかもしれない。まあ、届こうが届かまいが構わないけれど。
「晴れ間見えてきたから、そろそろ帰るね。あと5分くらいかな」
「水溜まりでビッチャビチャになるなよ」
「そんなに衰えてません!」
ムッとする表情がすぐさま思い浮かんで、たまらずに喉の奥で笑いを噛み殺した。通話が切れたスマートフォンをソファに放り、取り囲んだ洗濯物を室内で干していく。
オレの服も、カノジョの服も同じ柔軟剤の匂いが香ることがなんだかこそばゆいと思っていたのはいつまでだったろう?今じゃ当たり前すぎて、時たま違う匂いがするたびに縋りたくなるのはこの柔軟剤の香りだった。カノジョが自宅でも使っているからといつのまにかお揃いになっていた、爽やかなミントのそれ。
タオルや靴下に、キャミソール、枕カバー。ここらへんはオレが干したものだ。男物と女物の混ざる洗濯物は色味が多くてちょっと面白い。オレだけの洗濯物だったら淡い色は混ざらないから。
良い音が思い浮かびそうだ、もう一度吸い込んだ香りに満足したところで、玄関先から物音が聞こえてきた。ひとつだけ手元に残しておいた干したばかりのバスタオルを片手に向かえば、両手にスーパーの袋を抱えたカノジョがちょうど器用に足だけで靴を脱いでいる。
「おかえり」
「ただいま、って、きゃあ?!」
花のように笑う姿は相変わらずで、そのくせ雨の匂いを纏わせた姿はあまり知らないものだった。結構濡れてるじゃん。
包むようにバスタオルをかけてやって、両手の荷物を代わりにキッチンへ運ぶ。中身を見るに、今日は筍が食べられそうだった。とちおとめは?なんの気なしに問えば、ちゃんと買ってきたよ、なんて返ってくるのも相変わらず。
「さすが」
いつも笑顔をくれるから、今日くらいオレも返してやろう。花のように笑うアンタと同じ笑みを、同じだけ。
バスタオルのせいで見えないだろうけど、それで良いのだ。今日のオレは少しバカみたいだから。
……ジュダ?」
「なに」
「なにかあった?」
肩にバスタオルをかけたまま追いかけてきたカノジョを捕まえて、雑に拭いたせいで乱れた前髪にひとつキスを落とした。
……べつに」
多分、こういう何気ない日が、幸せ。
一緒に袋の中のものを仕分けながら、かき消された雨の匂いにほくそ笑む。昼寝したから気分が良いんだとか思ってるんだろう。バーカ。
「洗濯物畳むのも手伝ってくれたらなー」
「もっと可愛くお願いしたら考える」
……手伝ってほしいな」
「ま、及第点ってトコ?」
花のような笑みは、やっぱりアンタだけの専売特許なのかもしれない。


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