らん
2017-04-03 20:14:46
1729文字
Public
 

ジュダとカノジョ。


2:先にキスするなんて許さないからね

「あーっ!これ、新作だ!ねえジュダ、」
その後の一言なんて聞かなくたって分かる。寄り道していい?だ。
お決まりすぎて空でも唱えられるその一言を言われる前に、オレはズカズカと店の自動ドアをくぐり抜けた。瞬間漂うコーヒーと少し甘めのクリームの匂いは、そこらへんの若いヤツが好きでたまらない、なんなら都会の優越感と価値観を兼ね合わせたひとつのアドバンテージ。混んでる店内で列に並んでまで頼みたいモンかどうかは知らないが、ありきたりな音の羅列しかないこの場所にオレの好みは転がってなかった。
「ジュダは何か飲む?」
「いらねー」
「新作のプリンもあるよ」
「プリン?……抹茶じゃん、とちおとめ出せよ」
「いちごの季節はもう終わったかな……。テイクアウトにするから、少しだけ待ってて」
まるでオレがいつも大人しくねェみたいな言い方だ。たしかに苛ついてるときは大人しくないけど、今は可もなく不可もなく。久々の外でのデートだし言う通り大人しくしててやろう。
順が回ってきて、カノジョは新作のフラペチーノを選んでいた。さっき看板で見ていたものと同じ、マンゴーのそれ。クソ甘そー、もれた声はそのままに、カノジョがオレを見て苦笑する。
「ジュダは飲まないでしょ」
「おー」
「もう、」
追加でホワイトモカを入れてるあたり、普段からカスタムもしているのかもしれない。あまりスタボにくる機会はないから知らないだけで、カノジョはオレと一緒に過ごしていない時何をしているのか、その一端に触れた気がした。
(まあ、別にいいけど)
すべてを知らなければいけない義務もないし、すべてを理解したいという考えはあっても不可能であることは世の真理だ。
ただ、事実と感情がおいそれと簡単に納得して混ざり合うことも不可能でして。
カバンから財布を出そうとした腕を掴んで、キョトンと瞬きをしているコイツが動く前に適当に札を出す。
「あ、だめ、」
私が飲むものなのに。続く言葉は店員のにこやかな笑顔とマニュアル通りの声で相殺された。ついでに片手を捕まえてやれば動きも取れないだろう。
「お返しとレシートです!隣のカウンターでお待ちください」
空いていた片手で釣り銭を受け取って、レシートをカノジョに渡す。膨れた頬がブサイクで素直にそれを伝えれば、ようやく笑顔になった。
……ありがと、」
「当たり前のことにイチイチ膨れんな」
「奢ってもらうのは当たり前じゃないよ」
「男を立てろっつってんだよ」
「でも、ジュダは頼んでないでしょ」
「一口貰う」
「結局飲むんじゃん」
モダンな曲が流れる店内で、コイツと他愛もなく話すことは少し楽しい。こんなアレンジをするならオレだったらここにピアノを加えるのに。普段だったらとめどなく沸いては文句をつけるメロディでさえどうでも良くなるわけではないけど、気にしなくてもいいくらいにはカノジョの声が心地良いから。
「お待たせしました」
カウンターから受け取ったソレはやっぱりクソ甘そうで、早速ストローをさしたところでカノジョは写真を撮ろうと思い至ったらしい。フラペチーノをオレに渡すとスマホを探し出すから、その間に一口。これは知らない時間への嫉妬の腹いせだ。
「あーっ!の、のんだ!まだ撮ってないのに!」
「ノド渇いた。けどコレ更にノド渇くわ、ねーわ」
「もー、」
さして怒ってもないくせにまた口をすぼめるのがブサイクで、軽く頬をつねってやる。痛いよ、いたくねーだろ、チーク付くよ、今日ちゃんとメイクしてるしな、アンタ。本当に意味ねーな、この会話。
「ジュダ、そのまま動かさないでね」
「ん、」
撮った写真に写る手はどう見たってカノジョとは違って骨ばっててデカいというのに、それをそのままSNSに載せていいのか。というツッコミはしないでおこう。
先にキスしたストローをもう一度怒られながら、くだらないアドバンテージにさよならをした。
「あ、あそこのお店とちおとめのミルクレープあるって」
「とちおとめは食いてーけど、またカフェかよ」


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