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らん
2017-02-06 19:49:25
1823文字
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エーダッシュとカノジョ
ディアヴォ
なあハニィ、オレと心中しない?
そう言うことは出来ないから、オレはハニィにこう言った。
「なあハニィ、ずっと一緒にいてくれる?」
突然自宅に訪れたオレを不思議そうに玄関で出迎えたハニィは、ぱちくりと大きな瞳を何度か瞬かせる。時刻は朝七時、真冬の今じゃようやく夜が明けたばかりだ。もこもこのパジャマに身を包んだハニィは少し眠たげに、でもハッキリとオレの名を呼んだ。
「どうしたの?」
「だからさ、」
何もかも捨てて逃げよう。ついでそう言うことも出来ないから、オレは手持ちのトランクを指差しながらハニィの返答を待った。なんて言うかな、きっと呆れはしないんだろうな。ハニィはいつだってオレに優しい。
突発旅行?予想通り優しく笑うハニィに、オレは曖昧に笑い返すことしか出来なかった。夢の中から目覚めたばかりのハニィに、これ以上は言えない。
うん、そうだ、突発旅行だよ。死ぬなんて言わないって、生きるって決めたのに、オレは今オマエに死に際を見届けてほしいんだ。
「すぐに準備するから、待ってて」
「さっすがハニィ!」
眠いからなのか、それともすでに覚醒した上での見逃しなのか。ただ何も聞かずにいてくれるその優しさに、今日も、いつも、甘えてる。
*
「うわさっむー!もーちょい厚着してくれば良かったァ!」
降り立った無人駅で吹きすさぶ風に負けないくらいの大声で叫べば、隣でハニィもそうだね、なんて両手に息を吹きかけながら応えてくれた。互いにマフラーを巻いてコートを着ているとはいえ、人が居ないのをいい事にマスクを取った今、オレの顔を寒さから守るものは何もない。
ハニィはいつも通りデートする時とほとんど変わらない格好をしているせいか、旅行に来たとは思えないほどの軽装だった。そんなんでいいの?と玄関で待っていたオレが問えば、突発だからいいの、なんてさすがクレイジーガールの鑑とでもいうような返答がきたのが、三時間前の話。
オレとハニィは黄緑6号のラインカラーの電車から地方の鈍行電車に乗り継いで、各駅停車の最終地点まで来ていた。ボックス席に二人で並んで座って、途中自販機で買ったコーラとホットミルクティーを窓辺に置いて、二人でぐっすりと眠りながらただひたすら電車に揺られていたのだ。段々と減っていく乗客と、車両切り離しをも見届けて、辿り着いた終点ではオレ達以外誰も居なかった。
幸い天気は晴れていて、お昼前の暖かな陽射しがあるものの、風がすこぶる寒い。冬の風はいつも厄介だけど、太平洋側は雪があまり無い代わりに風がキツいよね、なんて少し博識ぶるカノジョが可愛かったので大目に見てやろう。
「ホントに突発ですねー、ダーリン。なんもないですよ」
「いやいや見てみろって、ハニィ。ここからちょーっと歩いたら商店街ありそうじゃん?ない?」
「昼なのにタクシー停まってない駅前とか久々に見たよ
……
商店街は無いんじゃない
……
?」
「えー、じゃあバスでどっか移動するゥ?バス!バスはー
……
次来るの二時間後だわ
……
」
トランクを左手で振り回しながら確認した駅前バス停の時刻表は二時間ごとに一本の運行で、これぞまさしく田舎だというほどの田舎に来てしまったことを実感した。
ICカードの代わりに切符を通して、改札を抜ければあたり一面に広がるのは木造の大きな家や、寂れた森や、販売しているのかも怪しい煙草に酒の自販機たち。ハニィの言うとおりタクシー乗り場には連絡先だけが載っていて、待っている運ちゃんはどこにも居なかった。
随分と、静かな場所に来たようだ。
空を遮るような高い無機質ビルも無ければ、混ざりすぎて雑音にしか聞こえない人声も、誰かの足を踏んでしまいそうなほどの人通りもない。音楽という概念は死んだようにシンと澄んだ世界に、渋谷と同じ日本なのかと疑いたくなるほどだった。
まるで外国に来たみたいだ。誰にも知られずに死ねそうで、でもハニィだけは見守ってくれる世界。大変素晴らしい。
「んー
……
とりあえず、歩くか!」
「はーい」
宿探すのも大変そうだね、そう苦笑したハニィに、オレはやっぱり曖昧に笑みを返すだけ。
自然と互いに出した手を合わせて指を絡める。コートのポケットにそのまま突っ込めば暖かいだろうか。そう考えて実行してみれば、少しは寒さが緩和された気がした。
風を吸い込んで、吐き出すように二酸化炭素に還元する。消化しきれない冷たさに鼻水が出そうだった。
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