泣かないと決めていた。彼の前ではいつだって、彼の理想の彼女であろうとしていた。求められることを従順に、それこそ完璧とはいえないけれど、こなそうとしていた。たった一言、貴方からの「好き」が欲しかったから。
「……っ、」
「おい、」
「もう、疲れた」
ヒールを履いて、自分を可愛く見せて、ピアスに貴方の好みの色を混ぜて、その上でずっと背伸びまでしてきた。私の足の爪は気づけばボロボロで、でもそれを見てシエルはよく頑張ったと褒めてくれるから、それだけが救いだった。
けれど、もう、疲れてしまったのだ。
私がどれだけ頑張ってもシエルに追いつけることはなくて、貴方の隣に立つ時の私は等身大の私じゃない。私は「私」のままで、隣に立つことを許されない。
もう、疲れてしまったのだ。
貴方の求める理想と、私の追い求める先の未来のために、私はあとどれだけ犠牲を払えば良いのだろうか。これは犠牲なんかじゃないって以前の私なら思えた。シエルのために、私のために頑張れた。どんな背伸びだってしてみせた。
恥ずかしさを消すことは出来なくて、それがネックになって失敗することだって多かったけれど、彼の満足する形であろうとした。
そのすべてが、今は疲弊するものでしかなかった。
「もう、疲れた」
もう一度こぼした私の弱音に、シエルはひどく冷めた顔をしていた。ああもうこれで終わりなんだ。ここで私は捨てられてしまうのだ。
残念だ、と、あの深層まで染み込む棘のような声で殺されるのだ。
でもね、私、貴方が思ってるほど強くないの。
「シエルの理想になれなくてごめんなさい」
他に言えることなんて、無いよ。
涙の止め方は知らなかった。だって、泣かないと決めていたから。
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