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らん
2017-01-28 06:04:24
984文字
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モモチとカノジョ
ディアヴォ
目が離せないという体験を、瞬きさえ許されない景色を見つめる権利を、私はその時はじめて手に入れた。
友人に誘われて行った対バンライブのチケットに記載されたVeronicaの文字は、ここ最近人気の上がってきているバンド名だ。そして、友人がこのバンドのファンだということがよく見て取れるように、印字された整理番号は一桁だった。小さなライブハウスだからこそ柵とステージの距離はほぼゼロで、一桁だからこそ手に入れられたセンター最前列、前座のバンドもそこそこ楽しかったけれど、Veronicaは違った。
バンドセットが終わって、メンバーが位置についていく。ライトアップされたステージと同時に振るわれた神様の歌声で、私は一瞬で息を奪われた。熱狂的に叫び、拳を突き上げ、頭を振る多くのファンから押されて腹を柵に圧迫されながら、顔は一度だって下に向けなかった。それだけの迫力と、それだけの力が彼ーーモモチくんには、宿っていたのだ。
私は瞬きも、手を振ることも、伸ばすことも、叫ぶことも、泣くことも、何もかも出来なかった。ただ呆けたようにモモチくんを見つめ続けた。一音も逃さないように爆音の中モモチくんの声だけを拾おうとした。目が合ったかどうかとか、笑ってくれたとか、全部どうでも良かった。
きっとファンから見ても、メンバーから見ても随分とノリの悪いオーディエンスだと思われていただろう。最前に居るくせに動く気も愛を伝える気も無いなら場所を譲れという話だ。腹や腰に痣を作ってまで居る場所ではない。
私もそう思いながら、動くことが出来なかったのだ。地面に根が張ってしまったように固まってしまって、後ろからの圧迫も、髪を巻き込まれて突き上げられる数々の掌のことも、まるでどこか遠い世界のものだった。
ただ、このセンター最前列、モモチくんの眼前という特等席で、神様を見つけてしまった背徳的な高揚感に包まれていたかった。
「みんなありがとーっ!Veronicaでした!またねっ」
ハートマークが語尾につきそうなほど甘い声。艶めいた歌声からは想像できないほど、素のモモチくんはとても可愛らしい人だった。その時の私は彼の名前をよく知らなかったのだけれど、後々友人にモモチくんスゴかったでしょ?なんて言われて、そこではじめてあの神様が「モモチくん」という人間であることを知ったのだった。
続く
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