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らん
2016-12-21 00:52:16
2902文字
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ユゥカノ※色々注意
ディアヴォ。
「ずっと居てくれるって誓ったくせに」
どうして。なんで。もしかして全部嘘だったのかな。あんな天然な態度も、もしかして、全部。
そんなのありえないって分かっているくせに、認めたくないオレは心の中でずっと毒づいていた。雲ひとつない快晴のもと、焼けていく彼女の煙はなんだかひどく味気なく見える。
用意したマリッジリングは永遠に箱の中に仕舞われたままで、自分の指に嵌っているエンゲージリングが馬鹿みたいに見える。
共に燃やすことも出来ないなんて本当に意味がないじゃん。離れずに傍に居ることの証明は、オレの手元にだけあってもしょうがないのに。
エンゲージリングを買いに行ったあの日、こんなシンプルなので良いの?って聞いたら、ユゥに一番似合うのが良いと笑ったアイツの顔も、嘘、だったのかなあ。
「
……
なんで」
アンタはドジだから、そのくせ他人を助けてしまうから、こうやって変に割を食うんだ。
不注意で飛び出した子供を助けるために身代わりになるなんてマンガみたいなことってあるんだね。てっきり遠い世界の出来事だと思っていたのに。
ねえ、オレのこと考えてくれたらそんなことにならなかったでしょ?ねえ、見ず知らずのガキとオレどっちが大事か分かるでしょ?
ーー選べないよって笑うアンタが好きなんだから、こんな詰問意味もないよね。
「嘘つき」
先に逝かないで。いやだ。認めたくない。こんなの夢だ。はやく覚めてよ。覚めろ、覚めろ、覚めろ。
全部夢のはずだったのに、オレの頭を撫でるシエルの手はいつもより優しくて、それがやけに現実的だからなのか泣けもしなかった。
流石に死んだとなったらパンダさんに隠したままでいることなんて出来なくて、電話で隠し続けてきた婚約者の死亡を伝えれば、告別式にはシエルが参列するもんだからビックリだよね。笑える。
アイツの両親が泣き崩れている。オレの両親もやけに暗くて、それでいて皆オレを気遣うんだ。何言ってんの、オレ、泣いてすらいないのに。やめてよ、そんな気遣い欲しくないんだよ。
(だって、本当にもう会えなくなるみたいじゃないか)
ぐちゃぐちゃな背中は見させてもらえなかったけど、アイツの死に顔はとても綺麗だった。まだ若いから、とても、とても。きっとお骨も綺麗なんでしょうね。箸渡しは誰とかなあ。ああ、納めたくないなあ。でも納めなきゃ。離さなきゃ。骨壷になら指輪って入れてもいいのかな。
20年しか生きてないから、そんなことも知らない。
「
……
ユゥ?」
静かで、落ち着いた低音。シエルの声はオレと全然違って染み入るようだった。
「ねー、シエル。パンダさんにさ、電話出来るかな」
きっとシエルは知ってるだろうね。でも聞かせてよ。間違ってないって教えてくれよ。
ねえ、思念体は電波になるって知ってた?
夏のホラー番組をカノジョと二人でビビりながら観てるときに偶然聞いた都市伝説みたいなもの。普段のオレならオカルトなんて信じるワケない。嫌いだし。こわいし。
でも、今だけは信じさせて。
声も電波になるのだとしたら、どうか、どうか、アイツにこの気持ちが全部届くように。
「ライブ、したいな」
もう二度とアイツが迎えてくれないバックステージに降りたら、オレも死のう。
*
パンダさんによって用意されたライブハウスは、インディーズの時にはじめてライブをした所よりもキャパが大きいけれど、今のJETとしては小さめの箱だった。
ムチャブリで賑わせるCRレコードだから出来たJETゲリラライブ開催の告知は本番三日前に突然と姿を現したにも関わらず、開始六時間でチケットはソールドアウト。いやー、人気になったね。なんて笑うオレとは対照的にメンバーの顔はどこか浮かなかった。
それから一日で当日のセットリストを考えて、がむしゃらに練習して。その間に初七日とかそういうもろもろを済ませても、やっぱりオレは一度も泣けないままライブ当日を迎えたのだった。
「
……
ごめんね、オレのワガママに手伝わせて」
本番直前、忙しなく機材調整をしているスタッフ達から少し離れたところでメンバー全員でサークルを作る。ラットちゃんが今か、今かと待ち受けている熱気がなんとなく伝わってきて、こんなにもJETは愛されていることが嬉しくて、虚しい。
だって、あの熱気の中にオレの愛した人は居ない。オレの一番欲しい熱さはどこにもない。もう、どこにも。
オレの謝罪を聞いて、やっぱり浮かない顔をしているくせにメンバーの誰もがオレを止めないのは、きっと理解してくれたからなのだろう。このライブが誰に宛てたものなのか、誰のための手向けの花、なのか。
「ありがと、何も言わないでオッケーしてくれてさ。ホントに感謝してんだ」
笑顔と泣き顔は同じ表情筋を使うんだと思う。笑ったはずなのに、なぜかドラムが泣きそうな顔をするから少し胸が傷んだ。
「そろそろ行こうか」
いつも通りの掛け声と共に、先にメンバーが登壇していく。わき上がる歓声はいつだって心地良い。この歓声が最高潮になるのは、フロントマンであるオレが出た時。その瞬間ライトによって赤く染まるステージはいつだって爽快で、目の前のラットちゃん達の輝く笑顔と叫び声を受けるたびに生きていることを実感する。
(いつもなら、そうなんだけど)
今日はそうもいかないかもしれないなあ。
左手の薬指にいまだ嵌まるエンゲージリングは、アイツの見立て通りしっくりと俺に馴染んでいる。アイツが死んでからずっと外さなかったそれはそのままに、もうひとつ指輪を嵌めた。やっぱりちょっと無理があるなあ。まあ、手袋で隠れてしまうし不格好でもいいか。
「行ってきます」
ひとつ指輪にキスを落として、衣装に合わせた黒のグローブで証を隠す。ここからはツーユゥだ。たとえこれがアンタに宛てたライブだとしても、ライブに来ているファンが待っているのは、フロントで笑う『オレ』だから。
噛みしめるように一歩を踏み出せば、あとは自然と身体が動いていた。さあ、始めよう。愛しのラットちゃんたちに、最高のライブをプレゼントしよう。
オレの本当の想いは、届いてほしい人に届くか分からないけれど。
ステージに上がった途端、歓声が最高潮に轟く。下なんか一度も見なかった。ただひたすら前を向くだけだ。ステージのセンター、バンドの顔となるフロント、ここがオレの位置。
マイクを握った瞬間に赤く光るライトを一身に浴びただけで熱く火照る身体は、今すぐにでもこの声で奏でたくてしょうがないって勢いだった。うん、そうだね、今日はがむしゃらに歌おう。なんたってムチャブリゲリラライブなんだし。楽しまなきゃ損だよね。
(そういえば、ライブするって言った時、あっちの親御さんもうちの両親も、よく許してくれたよなあ)
こんな思考捨てなきゃいけないのに、ただそれだけはふと浮かんでしまった。みんな優しいなあ。まあ、もうどうでもいいか。
「聴いて、オレ達の歌」
前口上なんて長ったらしく言ってらんないでしょ。
掻き鳴らされたベースの音を合図に、ゲリラライブが始まる。
続きは後日
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