らん
2016-12-09 08:28:34
2668文字
Public
 

エーと彼女。

ディアヴォ

※カノジョちゃん大学生歳上設定

「えっ、マジで?!」
「うん。学祭準備で一週間休講になるから、明日と明後日エーの家に泊まろうかなって」
「ナニソレなにそれ!学校神じゃん?!ハニィがずっとオレと居てくれるなんてチョーハッピー!」
電話越しに伝えられたウルトラハッピーな報告に、俺がソファから転がり落ちた音をマイクが拾ったようで、大丈夫?なんてオレを心配する声がかかる。だいじょーぶダイジョーブ!死んでも生きマス!
「じゃあ、明日はハニィに晩ごはん作ってほしいなー、なんて」
「いいよ。何が食べたい?食材買ってからお家行くから、リクエスト聞くよ」
「ハニィのつくるモンならなんだって!って言いたいケドぉ、ハンバーグがいい!」
「ハンバーグね、分かった」
それじゃあまた明日ね。おやすみハニィ、おやすみダーリン。たまにノッてくれるそんな所も大好きだ。
通話終了を表す画面にキスをして、軽く打った頭をさする。少し痛いけれど、すぐに忘れるぐらいの衝撃だ。ようやく包帯もリストバンドも必要じゃなくなった腕のタトゥーはハニィの名前かどうかも分からなくなったけれど、たまに痛いからこっちのほうがオレの体には衝撃的だったんだろう。
「んーーっふっふー!ひっさびさにハニィがお泊りだァー!」
来月から始まるツアーのためにここ最近はスタジオに詰めていることが多くて、ろくに会う時間も取れなかった。ハニィもバイトだとか課題だとかで忙しい時期だったもんだから、互いに忙しさが重なったのは好都合だったのかもしれない。けれど、やっぱり会いたいって思う気持ちは強くて捨てきれなくて。
もしかして、ハニィも同じ気持ちだったのかな。そうだったらいいな。
「はやく会いたいぜェ、はーにぃ」
愛されたくて、死んじゃいそう。
会えなくても俺を狂わせ続けるハニィはやっぱりスゴい。



「なーなー、夜のミーテってマジで7時からなの?6時からにできないの?」
マネージャーにいくら確認しても返答はノーの一点張りで、そりゃねーぜ!とパイプ椅子に倒れ込む午後1時。
本来なら午後7時に帰れるはずが、緊急ミーティングが入ってしまったのだ。どうやら次のホールでの機材搬入制限が変わったらしい。
そうなると帰宅時間は短針が10を指し示すことがほぼ確実で、これじゃあハニィのつくる晩メシにありつけるのも深夜になってしまう。
えーん!やだやだー!そんな嘘泣きが通じるわけもなく、結局メンバーに窘められて控室に戻った。ちょうど休憩時間にミーティングのことを知ると大体ダダをこねるのはオレだ。
「ハニィの晩メシ冷めちゃうじゃんかよぉー、やだー!」
知らねぇよ大人しくしてたらチョッパヤで終わるだろ。そう一気にまくし立てられて、確かにいつも何かとこだわりまくって妥協しないせいで、ミーテを長引かせる最大原因がオレであることを思い出す。
だってNSFWがクレイジーガール達にありきたりでつまんねぇものなんてひとつも提供したくないんだ。オレがこんなに優れた環境で、これほど恵まれた場所で、いつまで音楽を奏でられるか分かんないんだから。
死んだように生きていたオレを生き長らえさせたハニィが少しでも飽きてしまうような音楽なんて一片の価値もない。
……んんんん〜〜〜〜、んん〜!」
時間に関しては悩んだって変わらない。それがこの世の中だって痛いほど身に沁みている。仕方なしにカノジョへと帰りが遅くなるとメッセージを送ると、返信はすぐに来た。
『分かった。帰ってこれる時間が分かったら連絡してね』
文句も言わずに、自分の苦い気持ちも押し殺して「良い彼女」として受け入れてしまう健気さがたまに冷たいなんて思う所以だったりするんだけど、今日ばっかりは優しさに涙が出そうだった。だって俺から作ってって言ったのに。一緒に食べたいって望んだせいで、時間が減っていくのに。
この申し訳なさはこれからオレの音楽で返していかねば。
「エーたんはお仕事頑張るかんな〜〜!」
控室で叫んだら頭を叩かれたけど気にしない。そろそろ練習再開だ。オレも喉の準備をしなければ。
ここ最近お気に入りのドリンクと一緒に写真を撮る。ダーリン今からガンバってくっから!はやく会いたいぜ〜!そんなノリのメッセージと共に自撮りを添付すると、やっぱり返信は速かった。
『待ってます』
たった一言。愛しい人の待ってるがこんなに効くことってあるだろうか。
だって、待っててくれるんだぞ。限りある時間を使って、オレを待ってくれるんだ。死んでる暇なんて1ミクロンも存在しない。
いまだ光る電子画面にキスを落とす。会ったらご飯の前にハグをして、キスをして、それから一緒におんなじご飯を食べるのだ。ハニィお手製の、愛情たっぷりのハンバーグだ。きっとハニィのことだからスープもセットしてくれて、ちょーっとイヤ、うそ、かなり嫌だけどサラダもついてくるんだろう。
それでも、ハニィがオレを思ってくれたと考えるだけで頑張って食べようって思えるから。
「愛してるぜ、ハニィ」
呪文のように、魔法のように何度も繰り返す『愛してる』。そろそろ練習に行きますか、と電源を切ろうとしたところで新たにメッセージが送られてきた。
これだけチェックしよう。開けばハニィからで、メッセージでもなくて画像だった。もしかしなくても自撮りではない。ハニィは自分の顔を撮るのがあんまり好きじゃないから。
その代わりに送られてきたのは、ハート型に成形されたハンバーグのコネだった。おまけにピースしたハニィの手まで写っている。
……っ、ハニィーー!好きだー!」
あいしてる!
スマホを代わりに抱きしめて、控室を後にする。午後一番の練習が今日サイコーにうまく声が出たのはきっと、ううん、絶対ハニィのおかげだ。
やっぱりアンタはオレをずっと狂わせ続けてくれる天才で、こんなどうしようもないオレを受け入れてくれるカミサマみたいなひとなんだ。
はやく帰りたい。ハニィの待っているオレの家へ。普段はしんと静まった部屋に今日はハニィが居て、美味しいご飯もあって、きっとお風呂も沸いていて。明日も一緒に居られて、しかももう一泊?!それはもう死ぬしかないのでは?!
「なー、オレ明日死ぬかも……
少し先を歩くメンバーにそうこぼせば、いささか呆れられたけど、オレにとっては死亡原因になってもちゃんちゃらおかしくない。
練習頑張りたいから明日のお弁当もつくって、なんて言ったら、どんな顔するかな。


END