らん
2016-12-05 17:54:03
2160文字
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ジュダカノ

ディアヴォ。

「あのクソパンダ……次こそ転がす……燃やして食う……
夏の無人島での合宿を終えて、帰路に着く足はひどく億劫なものだった。
そもそも、テントのボヤ騒ぎでろくに寝れてないだとか風呂に入れてないことだとか、良かったことよりサイアクだったことが多すぎて疲弊しまくっている。まあ、あの場で作った曲たちは持ち帰ってこれたから、それだけが収穫といったところだろうか。
各自解散となった足でそのままタクシーを捕まえて自宅まで戻ってきたはいいものの、鍵を出して開けるのも面倒で仕方ない。
この疲労が曲作りで起きたものなら別に構わないのに、全く別のことだというのがどうしようもなく苛つかせる。チクショウ、蹴り上げた近くの観葉植物が土を吐いた。
時刻は午後二時を回っていて、朝食どころか昼食の時間も過ぎている。さすがに腹が減った。コンビニに寄ればよかったとそこで思いついて、ろくに機能していない脳みそに悪態をつく。
「マジでねーわ……
アイツが来てたらこの玄関の鍵さえ開いていて、メシも作ってくれて、更に癒やされるのに。いや、俺の気分が悪すぎて喧嘩になるかも。やっぱり居ないほうがいいかも。いや、でも、
なんて夢物語はしっかりと創り出す脳みそはやっぱりバカになってるように感じた。全部クソパンダのせいだ。
はあ、と大きな溜息を吐き出して、鍵穴に鍵を通す。重く開くことを想像していたら、存外軽い感覚というより、既に開錠されている感覚が伝わってきた。
俺、家出た時鍵閉めなかったっけ?クソだりぃことが重なりすぎていて、その記憶すらもう遠く彼方に消えている。オートロックだから、別に扉の鍵が開いていようとそこまでの危険性はないけれど。
「あーあ、不用心デスネー」
皮肉で自分自身をあざ笑って、ドライも効いていない、梅雨のせいでクソほど蒸しているだろう我が家とご対面、するはずだった。
……
随分と涼しい。廊下にも冷気が漂っていて、長時間冷房が付けられている時と同じ状況が保たれていた。なんで、なんて、どう考えてもここまで来れば理由はひとつだ。
案の定、玄関に並ぶスニーカーは見慣れたアイツのもので、思わず口元が緩む。ああ、アイツ、居るんだ。
靴を放るように脱ぎ捨てて、足早にリビングへと向かう。掃除機の音が聞こえるから、もしかしたらあっちは俺に気づいていないかもしれない。
廊下とリビングを隔てる薄い扉を開ければ、ちょうどこちら側を向いて掃除していたカノジョと目が合った。ぽけ、と何度か瞬きをしたと思えば、途端に満面の笑みになる。掃除機の音が止んで、その代わりに、数日ぶりくらいの声が俺の耳を通過した。
「おかえりなさい」
柔らかい声。いつも俺を「大好きだ」と告げる、優しい音色とそっくりなそれに、どうしてか安堵した。帰ってきたのだ。ひとりだったらろくに感じなかった実感が、たった一言でこんなにも胸を打つ。
疲労の糸が更にどっと緩んで、思わず座り込むほど。
「えっ、ちょ、ジュダ?!どうしたの?具合悪いの?」
「ちがう。……ただいま」
掃除機をほっぽり出して同じようにしゃがんできたカノジョの右手首を捕まえて、もう一度おかえりなさいと紡ぐ唇を軽く塞いだ。べろりと唇を舐めれば冷たい室内温度とは逆に熱くて、まあそりゃ掃除してたんだもんなあとどこか他人事のように思う。
「今日来るなんて聞いてない」
「え?昨日の夜にメッセージ送ったけど……
「クソパンダのせいで無人島居たんだヨ。ついさっき帰ってきた」
「ああ、合宿……?相変わらずだねえ、お疲れ様。掃除終わったら入ろうと思ってたから、お風呂わいてるよ。あと、とちおとめもある」
「とちおとめ食う……し、風呂も入る」
「相当疲れてるね、ジュダ」
いつもならもっととちおとめ〜!って感じなのに。
潮風のせいでザラつく髪をなぜか撫でられつつ、まだ掴んだままの片手を繋ぐ。アンタの中の俺の印象どうなってんだよ。なんだそのデレ顔。とちおとめ好きだけどそんな変な顔してねぇし。多分。
「お昼ご飯は食べた?」
……まだ」
「じゃあ先にお風呂入ってきちゃいなよ。その間にご飯作るから。冷しゃぶうどんでどうですかね」
「食えればなんでもいい」
「すーぐそういうコト言う……後で文句言っても聞かないからね!あ、とちおとめだけ先に食べる?」
……いつも食後ねって言うくせに、どうしたワケ?」
「だって合宿だったんでしょ?ジュダにとってはめちゃくちゃストレスだったろうし、今日くらいは甘やかすよ。前のときも酷かったしね」
クマ出来てる。その言葉と共に今度は目の下が撫でられて、ひとつ息をついた。
俺にはもったいなさすぎるんじゃないかって思わせるくらいに、人の心配をしたり変化を感じ取ることが出来てしまうコイツが居るだけで、俺もちゃんとした人間になれる気がするのはなんでなんだろう。
……とちおとめ食う」
「はぁい」
繋いでいたてのひらが離れて、軽やかにキッチンに向かう後ろ姿を眺め終えてからゆっくりと立ち上がる。たった1日家を空けただけなのに、やけに懐かしい気分になった。無人島がクソすぎただけかもしれないが、こうしてカノジョが待っている家は良いなって思うからかもしれない。


めっちゃ途中。避難用。