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らん
2016-11-28 17:27:35
2833文字
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モモチと彼女
ディアヴォ。
重い南京錠を外す時が、一番興奮するかもしれない。
不格好な重たい鍵穴と鎖が外れていく 音を内から聞いて安堵するのかな、とか、じゃあわざとらしくゆっくり開けてやろうかな、とか、そんな加虐心がクラクラとシナプスを経由していく。良い子に待ってたかな、実はオレが居なくて安堵してたりして。そっちのほうがいいなあ、怯えさせているのはオレだっていう事実で、最高に気分がいい。いつもより気分爽快、ニコニコと口角を上げてしまうほど。
オートロックで招き入れない限り自分の部屋にまで辿り着けないこの要塞は、気づけばカノジョを閉じ込めるための鳥籠になっていた。
誰にも見せたくないというより、俺のことしか考えられないようにするために閉じ込める。飼われているのだと自覚させるための、そのわりにはひどく熱がこもる、一人きりだと広い家。
ジャラリとぶら下がった鎖を回収して、今度こそドアの鍵を開けた。
「ただいま」
普段なら、お帰りなさいって声が返ってくる。玄関先で両手を胸の前で組んで笑ってくれる。そんな姿が主人を理解している犬と同じそれに見えていつもキスをするのだけれど、今日はカノジョの姿が見えなかった。
「
……
おい、帰ってきたのに返事ナシとかどういうこと? 」
溜息と共にスニーカーを脱いで、リビングまで歩いていくとずいぶん肌寒い。そろそろ秋も終わるというのに、暖房もつけずに何をしてるんだろう?家の中に居てくれさえいれば、それ以外のことは自由にさせているのだけれど。
「ねえ、かくれんぼかなんかしてんの?そろそろ怒るよ」
着ていたコートを近くのソファにかけて、静まり返ったリビングで跳ね返ってくるのは自分の声だけだった。さすがにおかしい。もしかして、逃げた?
南京錠は外れた形跡がなかったし、玄関から逃げるという正攻法は絶対出来ない。となると、窓だろうか。
リビングからベランダへと続く窓を確認すれば、こちらも施錠されていた。外側から施錠することは不可能だから、ここも違う。
キッチンにはオレが出る前には存在しなかった鍋がある。中を見ればキャベツと卵の味噌汁だった。 こういうの好きだよねえ、不味くないから別に良いけど。とにかく、やっぱりここで生活していた証だ。
それじゃあなんで見つからないんだろう。段々とはやる気持ちを抑えきれなくて、馬鹿みたいにたいして広くもない部屋を走った。
もしかしたら寝てるのかも。それだったら応えがないのも頷ける。そう思ってベッドルームに駆け込めば、ベッドの上にカノジョの姿はなかった。むしろ、寝た痕跡さえないくらいに綺麗なまま。窓を確認しても施錠されている。
(ウソだろ、おい)
足枷でも嵌めてやれば良かったんだろうか。それとも手錠でもして自由を奪ってやれば良かった?
トイレにも、他の部屋にも居なかったとなると、残りは風呂場だ。洗面台や脱衣場にいるのかもしれない。もしかしてお風呂に入ってるのかなあ。水音なんてさっきからこれっぽっちも聞こえてきてないけど。
「ねえ、」
縋るように脱衣場の扉を開けば、スラリと伸びる白い足が見えた。なんだ、居るんじゃん。バクバクと波打っていた心臓を落ち着けるように、普段通りを装うように、悪態をつきながら扉を限界まで開く。着替え中かも、なんてどーでもいい。飽きるほど見た身体に今更躊躇なんてない。
「オレが呼んでんのに反応しないのってさぁ、どういうこ、と
……
」
語尾は掠れた声しか出なかった。違う、居るけど、起きてない。コイツが反応しないなんて絶対ありえない。つまり、何かしらの緊急事態なんだと心の何処かで思っていたくせに、認めなかった自分がこんなにも馬鹿だと自覚したのは久々だ。
脱衣場で崩れるように倒れているその姿は、まるで死人のそれだった。
「おい!ねえ、ちょっと、?!ウソだろ
……
っ!おい、」
呼吸を確認するように顔を近づけてもどうにか聞こえる程度で今にも消えそうだ。それを理解した途端に全身が震え恐怖が募る。ウソでしょ、どうして、なんで?
どこもかしこも冷たくて、冬の寒さなんか比じゃない冷え方に息を呑んだ。とっさに触れた心臓も動いているのかよく分からなくて、今度は耳を押し付ける。どくり、どくり、あまりにも遅いペースの心音に、俺の心臓の鼓動を分けたいくらい、おそい。
「救急車、っ
……
ッああもう、クソ!」
俺の居ないところで勝手に死ぬな。そう何度だって伝えてきたはずなのに、なんで。
わけもわからぬまま、震える指でスマホに三桁のナンバーを打ち込んだ。
*
「脳貧血と高熱が重なった結果、失神したんでしょう。過労の可能性も高い。もう少し発見が遅ければ大事に至る所でしたが、今回は大丈夫。明日には退院出来るかと」
そうですか、良かった。ありきたりで当たり前になっているどんな時でも出来るハリボテの笑みを浮かべて、大人しく医者の話に耳を傾けてみれば、想像以上にどーでもいい理由で笑いそうになった。なにそれ、たかがそんな理由でオレを焦らせたの?ありえない。バカかよ。
「あの、このまま付き添っててもいいですか?明日退院できるなら、ボクも残ります」
ちょっと説教もしたいんで。
裏に潜んだ言葉なんて微塵も知らない医者は、恋人さんに大事がなくて良かったですね、なんて冷ややかに微笑んだ。きっと噛み跡とか見られてるんだろうなあ。首の指の跡は消えてたはずだけど、どうだったっけ。
それよりも、オレ以外がアイツに触ったって事実が忌々しい。不可抗力とか言われても、どう考えてもアイツが倒れなければ防げたことで。とにかく全部アイツのせいだ。ほんとに最悪。明日のオレのオフもパァだ。イライラさせる天才かよ、こんなにオレに考えてもらえてることを感謝してほしいくらいだ。
医者が廊下から消えたのを見計らって、滑るように病室に入り込む。よくわからないけど個室だったのは不幸中の幸いかもしれない。こういう時って相部屋だと思ってたから、好都合だ。
点滴を繋がれて眠っているカノジョの顔は家で見た時より随分と明るい。解熱剤も効いているんだろう、呼吸も整っていた。
近くのパイプ椅子を引き寄せて、顔の真横に陣取ってやる。そういえば、心臓はどうなんだろう?
病院着に身を包んだ薄い身体に触れた。あたたかい。そろりと服の下に片手を侵入させて、左胸を掴めば、どくりと鳴る鼓動があった。覆いかぶさって耳を近づける。俺と同じ速度だ。
「アンタさぁ、死にたいわけ?」
聞こえないことは分かっている。それでも、口をついて出てしまったんだから仕方がない。
ベランダから落ちるかもしれないって時はあんだけ泣いたくせに、怯えたくせに、死ぬ気なの?
きっとオレがずっと部屋に居ろって言ったから、ろくな準備も出来なかったんでしょう。スポーツ飲料も、柔らかい食材も、何もないから。それなのに味噌汁は作ってて、バカじゃないの。
続きが出来たら支部にポイする
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