らん
2016-07-06 23:05:11
2785文字
Public
 

凛月と司


りつかさワンドロ「七夕」

※七夕祭にKnightsも参加していると捏造してます。

「意外だなあ。ス〜ちゃんって七夕知ってるんだ?」
「日本の年中行事を覚えておくことも、今後の糧になるかと思いまして。海外だと喜ばれるんですよ、お国の文化」
「ふーん?」
なんかつまんないなあ。笹の葉に結ばれた短冊達を見ながら、凛月はそう呟いた。

夏のS1である七夕祭は佳境を迎えている頃合いで、Knightsはといえば、先程までステージで勝ち続けていた所だった。十八番のデュエルと似た今回のイベントはKnightsにとって絶好の舞台だったのだ。
といっても、体力には限度がある。全員がへばらないところで自主的に降り、ちょうど今は休憩中だ。
夜になったことで活発に動き回れる凛月は身体を動かし足りなくて、司が七夕を知らないこと前提でステージ回りをしよう、と後輩を散歩に誘ったわけだが、あいにくと予想は裏切られた。
「そもそも、織姫と彦星は私達の時間に換算したら数秒に一度会っていますよ」
「え、なにそれ。そうなの?」
「星は光ですからね」
「うげー……頭良い奴って夢がなーい。つまんなーい」
もっと子供らしく楽しめないの?とこぼせば、司はただ笑うだけだった。ああ、ちょっと、しくじったかも。
「朱桜家の嫡男としては、七夕はビジネスに使えるかもしれない行事、ですから」
事も無げに言うけれど、司はまだたったの16歳。凛月よりも年下で、それこそ悟りを開くような年齢でもない。けれど、環境は司に子供で居ることを許さなかったのかと思うと、凛月にとっては虚しく感じるのだ。だから、
「ねえス〜ちゃん、短冊書こうよ」
……はい?」
「お願いごと書こう。俺は今、気分が良い〜」
奇人の一人、渉が気球から配っていた短冊の残部がいくつか地面に落ちている。軽く土を払って二枚手に入れると、凛月は一枚を司に手渡した。
「短冊、書いたことある?」
……ないです」
「じゃあやろ。小さい頃はさ、まーくんと書いてたんだよね」
たとえば、ゲーム機がほしい、とか、太陽がなくなりますように、とか。
ろくでもない、叶いっこないことを願うひとときはなんだかんだでとても楽しかった。所詮神頼み、いや、星頼みの子供騙しだ。それでも考えている時間は無駄じゃない。だってまだ、子供だし。楽しんだもの勝ちなのだ、いつだって。
「ん〜、どうしようかなー太陽がなくなりますように。ついでに兄者が俺の目の前から消えますように」
「いきなり書けと言われても、全然思い浮かびません……
スラスラと手持ちのペンを使って短冊に記していく凛月と打って変わって、司は真面目に考え込んでいる。何を書けば、そもそも、どういうものを書けばいいのか?なんて、いかにも「はじめて」といった勢いだ。
「お金がほしい!とか?スナック菓子がお腹いっぱい食べたい!とか」
「願わなくても叶いそうなことしかありませんね……?」
「えーなにそれ……嫌味……?まあ、なんでもいいんだよ。書くことに意味があるから」
首を傾げ、なおも悩む司にペンだけ預け、凛月は出来上がった短冊を手頃な竹に飾りつけた。ちょうど観客達が帰る際に通る場所だからと、見つけたファンへのサービスとして、裏面には感謝の言葉も書いているあたり策略家の名は伊達じゃない。
ゆらりと風に揺れる短冊を眺め、久々の七夕の景色を感慨深く眺めていたところで司が隣に並んできた。
「書けました。あとは吊るせば良いのですよね?」
「うん。何書いたの?」
「言ったら叶わないって聞きましたけど」
「あー、そうだった。……てことは、俺の願い叶わないじゃん。ス〜ちゃんに言わなければ良かった」
「知りませんよ、そんなこと……
ぎこちない手つきで短冊を吊るす司の背中を見守りながら、凛月の頭は冷静に司という後輩を分析していた。
春よりも格段と体力がついたらしく、さきほどまでのライブの後遺症もほとんどなさそうだ。汗もすぐに引いていたし、技術は勿論、体力面でも凛月達に並ぼうと努力していることが伺える。
(たまにステップ間違えると、悔しそうな顔する所はまだまだだけど)
そう、ちょうど今みたいに。
どうやらうまく紐が結べないようで、悪戦苦闘している後輩を見兼ねて凛月がバトンタッチすることになった。
「ありがとうございます……
「ス〜ちゃん不器用さんなの?」
「慣れてないだけです」
「そういうことにしといてあげよう」
他愛ない会話をしながら、器用に凛月の指先が紐を結ぶ。これ幸いと司の願い事を盗み見たところで、凛月の手先は止まってしまった。
(ほんとに、この後輩は、)
「はい、結べたよ」
「すみません…………願い事、見てませんよね?」
「んー?さあどうかな」
「見ましたね?!」
「ふふふ、……星頼みしたくなるくらいなんだ?」
「叶わなくなったらどうするんですか!」
「さあ?ス〜ちゃんの実力次第かなあ」
白の短冊に綴られた、司らしい流れるような筆跡。星に頼み込むほど求めてやまないお願いは、『Knightsがずっと続きますように』だったのだ。
ステージからまた歓声が聞こえてくる。誰かの短冊の願い事が叶う音がする。キラキラと光るステージを見回りながら、凛月の胸のうちも確かに輝いていた。
(入ってきた時から、ずっとブレないね)
面白い奴。眩しいほど輝く光にも似た存在。灰になりたくないのに、司の隣に居るとそれすらも少しは良いかな、と思えてくる自分がいるのだ。
「夢は掴むものって、王さまが言ったんだったかなあ」
「はい?」
……なんでもない。そろそろ戻ろうか?またステージに上がろう。セッちゃん意外と好戦的だし、俺もまだ物足りないや」
短冊に書かなくたってきっと叶う。叶えてみせる。
個人主義と謳っていたのに 、今のKnightsは凛月の隣を歩く少年によって確実にその姿を変えている。
Knightsは実力至上主義の騎士道だ。誰よりも鋭く、研鑽された刃であるべきだ。今も、昔も。
けれど、今はもう昔と違う。司という光によって全体としてひとつになってきている。そんなKnightsで、『ずっと続きますように』と殊勝な願いをする末っ子を、一体どうしてくれようか。
――そんなの、短冊になんか願わなくても叶えてみせるよ。
「ずっと続くものなんてないよ。でもさ、続かせようと思うのなら、見せつけなきゃね」
魅せて、見せよう。俺達を。忘れられないように。
そんな熱苦しいこと大嫌いだから言わないけれど。
夜はまだこれからだ。ここからが、凛月の時間。またたく星空の元、きょとんと間抜け面を晒す光に凛月は笑う。
「ス〜ちゃん、帰ろう」
「はい!」
Knightsにとっての星は、きっとス〜ちゃんだ。


END