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らん
2016-07-04 12:27:31
3600文字
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鳴あん
女々しいことは罪じゃない
「アタシでいいの?」
聞いたのは本心からだった。
アタシのどこがいいの、アタシは男になれないかもしれないわ、アタシの好きとアンタの好きは本当に同じかしら?
いくつも渦巻く不安と疑問の中、アタシが声にして絞り出せたのはたった一言。その一言を、あんずちゃんはいとも容易く頷いてみせた。
「私は、今目の前に居る鳴上嵐さんが好きです」
恋愛対象として。たとえ自分しか愛せないのだと言うとして。私を妹だと言うとしても。
あんずちゃんの両手に包み込まれたアタシの右手は少し震えている。ああ、情けない。今まで沢山、たくさん、自分で自分を愛していたのに。まだアタシは誰かからの愛が欲しいのか。
沢山の仮定を並べた上で、アタシの右手に温もりを移しながら、やっぱりあんずちゃんは微笑むのだ。言葉よりも確かな笑顔で、アタシに伝えるのだ。
(強い子ね)
アンタも震えてるじゃない。
「嵐ちゃん、好きだよ」
陥落したのは、アタシのほう。
もうそのてのひらがなくちゃ生きていけないわ。
***
「嵐ちゃん、顔色悪いよ?」
斜め下から覗き込んできたあんずちゃんの顔はアタシよりもしっかりしていて、やっぱり「男」らしくなれないわ、と心のうちで溜息をつく。
心配をかけるのは女の役目で、それを拭うのが男だというのにね。
夏前なのに、憎たらしいくらい照りつける太陽の下、アタシは弱々しく笑みを形作った。
「ごめんなさいねェ、暑くてちょっとバテたのかしら
……
日傘、持ってくれば良かったわ」
デートをしようと持ち出したのはアタシで、一緒に服を選んでほしいとお願いしたのはあんずちゃんだった。
それじゃあ少し遠出して、アウトレットに行きましょう、来週の日曜はどうかな?いいわねェ!なんてトントン拍子で話は進み、今日はそのデートの日。ただ、お互いに天候のことは特に気にせず来てしまったのは誤算だった。
まだ日差しは強くないだろうし。そんな言い訳をして、本当は手が塞がってしまうからと持ってこなかった日傘がここで欲しくなるなんて、と溜息をついたって現状は変わらない。
常に日焼け止めは塗っているものの、脳天に降り注ぐおひさまにはどうしたって敵わないのだ。
「日傘買う?」
「んー、どうしましょう」
「結構日陰少ないし、外歩くこと多いから買おうよ。アウトレットのあとも外歩くでしょう?」
「だけど、」
日傘を差すとあんずちゃんと手が繋げないじゃない。
声にして言わないものの、むすっと膨れたことであんずちゃんはなんとなく意図を察したらしい。やんわりと伸びてきた左手が、アタシの右手に重なる。
せっかく恋人という立場になって、あんずちゃんに触れる機会を逃すのは本意じゃないのだ。だって、もう妹みたいに可愛がれないし、アタシはアタシ以外に愛される喜びを知ってしまったもの。
あんずちゃんがずっと手を握って愛をくれるものだから、アタシはそうやって他人からの愛を受け取りたいのよ、どんなに少しの時間でも。
「最近の嵐ちゃんは、言葉にしてくれない」
「
……
、どういうこと?」
「彼女になってから、嵐ちゃんが黙ることが増えたなって」
だって、言ったら女々しすぎてしまうでしょう。彼氏って、きっとそういうものじゃないでしょう?
女の子が憧れる少女漫画の王子様はいつだって、男の子だもの。
そんなひねくれたことを言ったら、アタシは泉ちゃんを叱れなくなっちゃうから言わないのよ。こうやって計算高い所も「女」みたいでどうしようもない。
「
……
アンタはもう妹じゃないもの」
「彼女には何も言ってくれないの?」
「オトコとオンナになるってそういうことじゃない?」
「それは、そっちの逃げでしょう。私は私だし、嵐ちゃんは嵐ちゃんでしょ。勝手に役割で決めないで」
「
……
じゃあ、なに?アタシがお姫様でアンタが王子様になるって言うの?」
「だから、そうやって決めつけないでって言ってるの!」
別に喧嘩がしたいわけじゃない。それでも、アタシは今までそうやって生きてきた。自分の役割を決めて、自分を自分で愛してきた。その環境下からいきなり抜け出すなんて出来ないのよ。
それすら言葉に出来なくて、曖昧に笑おうとする前にあんずちゃんは畳み掛けるように言葉を紡ぐ。
「たしかに、役割が決まってるととっても楽だし、いきなり変えろって言えないよ」
「そうよねェ。あんずちゃんも『プロデューサー』を使うものね」
あ、顔が、歪んだ。
傷つけたいわけじゃないのに、どうしたって止まらなかった。ずきりと頭に走る痛みは暑さのせいか、それとも。
少し沈んだ面持ちで、けれど言葉は強いまま、あんずちゃんはアタシを見つめ続ける。
「そうだよ、プロデューサーだよ。でも、私は今ただのあんずとして、アイドルじゃない鳴上嵐の前に居るの。嵐ちゃんは嵐ちゃんじゃダメなの?」
「
……
ダメじゃないわよ」
「じゃあ何がイヤなの?」
「アタシはただ、」
ただ、彼氏なのに、こんなに女っぽくていいのかなって。
降り注ぐ熱に犯されて、くらりとした視界の中ようやく喉元を通り抜けた言葉は無意識的なものだった。本当なら笑って誤魔化すはずの言葉が、告白された時にも怖くて聞けなかった言葉が、あふれて止まらない。
「アタシ、王子様になれないわ。だってこんなに女々しいもの。俺、なんて言えないし、服だってパステルカラーが好きだし、ネイルも化粧もしたいし、今更この言葉遣いだって変えられない」
全部、アタシがアタシであるために必要な、アタシが愛するために創り上げた最高傑作。誰に理解されなくても、自分は自分でしか愛せないと学んだアタシの素になってしまった。
「それでも、オトコとしてあんずちゃんが好きなのよ。男になれないけど、でも」
「私が好きな鳴上嵐は、自分に自信を持ってる鳴上嵐だよ。自分を自分でちゃんと愛してる嵐ちゃんが好き」
「でも、」
「私は、嵐ちゃんが妹みたいに可愛がってくれたから嵐ちゃんを好きになったわけじゃない。でも、も何もない。私は自分を愛せないから、自分でちゃんと自分を愛してあげられる嵐ちゃんが好きなの!」
王子様になってほしいなら、なってあげようか!
周りの通行人がアタシ達を興味ありげに見つめてくる。ああ、そうだった。ここ、人前だったわ。さすがにジロジロ見られたらアタシがアイドルで、モデルの鳴上嵐だってバレちゃう。
それでも、それよりも。
「
……
王子様には、ならないで」
ずっと離れていなかった掌を握り返して、人目を振り切るように足早に歩く。小走りになっちゃうあんずちゃんを気にしている余裕もなかった。
「嵐ちゃ、」
「アタシが王子様になりたいの」
アイドルとしてじゃなく、あんずちゃんの王子様になってみたいの。そう思わされたから、陥落したの。アタシはアンタの愛でも愛されていると思いたい。そして、アタシが愛すことであんずちゃんの中身が埋まるなら、それは良いなって考えたの。
本当に、きっかけなんてただそれだけ。
ガヤガヤと通り抜けていく人々の声が風と共に流れていく。聞こえたかな。聞こえてなくてもいいんだけど。
アタシの大股一歩に追いつくために小走り四歩のあんずちゃんは、随分と弾んだ声で返してくれた。
「嵐ちゃんは女王様だよ!」
「そうなんだけどねェ、」
「でも、私の中では、ずっと王子様だよ」
私が嫌いな「私」を愛してくれるから。
掌から伝わる愛は今日も大きい。これまで色んな人からたくさんの言葉を貰ってきたのに、どうしてこんなにもあんずちゃんの言葉は胸に届くのだろう?
もうこの時点で、アタシはあんずちゃんに陥落しているのだ。
「
……
ほんとに、強い子ねェ。ありがとう、あんずちゃん」
「諦めの悪さだけが取り柄です」
「あら、それだけじゃないわ。これから沢山教えてあげるからね」
アンタが愛せないと言うのなら、アタシが沢山愛してあげる。男らしくなれないけれど、きっと誰もが羨む王子様にはなれないけれど、アンタの王子様にはなれるから。
お気に入りのアウトレット店を見つけて、ようやく足を止めた。少し息の上がっているあんずちゃんの手は離さずに、涼しい店内へとゆっくり足を踏み入れる。
「日傘買いましょうか。相合傘、一度はしてみたかったの!夜になったら手を繋ぎましょ?」
今日は折れてあげよう。でも、もう黙ってなんてあげないからね。そんな意思表示の一言に、あんずちゃんは笑う。
「熱中症になったら、膝枕してあげようかなって思ってた!」
繋ぎ直すように絡まった指先から、今日も愛を教えてもらうの。もう何もこわくないように。
END
ことりちゃんお誕生日おめでとうございました!
いずあん〜っていわれたけど、前々から鳴あん!って何度か言われてたので、これを機に。笑
お気に召さなかったらごめんなさい
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