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らん
2016-06-29 13:35:10
4798文字
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いずあん同居話そのさん。(泉とレオ)
※レオに妻子が居る
!レオに妻子が居ます。詳細に設定練ってるので苦手な人ごめんなさい
「セーナー、五線譜あるかー?紙無くなった!」
4人用のテーブルいっぱいに音符で埋め尽くした五線譜を広げ、この家の主である泉に新しい紙を催促する姿は、高校時代とほとんど大差がない。
散髪が面倒くさいのかなんなのか、いまだに長髪を束ねただけのボサボサ頭に、少し長めの前髪から覗くのは輝くエメラルドの瞳。気障で 、まわりくどい言い回しすらあの頃と同じだ。
月永レオは、泉とあんずの家でもインスピレーションを止めなかった。
月永レオは作曲家である。
司が一年生の時のジャッジメントを終えて以来、彼はアイドルを引退した。勿論在学中は最後までKnightsのリーダーとして存在していたし、歌わずにしても、ダンスはこなしていた。ファンサービスだって欠かさなかった。それでも、彼は引退していたのだ。
「客を笑顔に出来なかった。それに、俺自身を魅せて笑顔を与えたいわけじゃないって気づいたからな」
溢れ出るメロディを届けて、そこに価値を見出したい。歌うのは自分じゃなくていい。俺は一度逃げたけど、逃げなかった奴等の方が音は輝く。そう告げたのは、高校三年生の冬の終わり。
逃げだって経験なのではないかと諭した者もいた。それでも、レオはそれを認めなかった。逃げを認めているからこそ、その逃げを音にすることを望まなかった。
そうして彼は卒業すると、海外と日本の行ったり来たりを繰り返し、霊感の求めるままに作曲をしている。
そんな月永レオは半年ぶりに日本の地に踵をつけ、そのままの勢いで泉の元へとやって来ていたのだ。
「ストックくらい持ち歩きなよねぇ
……
あんた、自分の作曲ペースぐらい分かるでしょ」
「うーん、荷物ってすぐどっかに消えるんだよな
……
?」
「かさくんに貰ったって言ってたホルダーはどうしたの?」
「あるけどスマホしか入ってない!」
「チョーうざぁい!」
お決まりの口癖を吐き出しつつ、泉はもう慣れたようにテレビの横の引き出しから五線譜の束を取り出す。早くしないと俺の霊感が消える!と急かしてくるレオの頬を引っ張り、机に五線譜を置くと、向かいに回って腰を下ろした。乱雑に散らばる楽譜を軽く纏め、相変わらずの王様にひとつ溜息。
「まずは事務所行ってあげなよ」
「スオーには内緒で帰ってきたんだよ。アイツの驚く顔はいつ見たって楽しいからな!」
「後輩だけど一応雇い主でしょ」
「俺がわざわざ折れて入ってやったの!モーツァルトみたいでちょっとばかし嫌だけどなっ!」
まあ、もうそんなことを言ってると養えないものがあるから。
鼻の下と上唇とでうまくシャーペンを挟むと、レオは五線譜やノート、筆記具などをわすれずに持ち運べるようにと司から貰ったホルダーに唯一入っているスマートフォンを取り出した。待受に写るのは目つきや瞳の色こそ違えど、レオと同じ鮮やかなオレンジの髪色をした2歳くらいの小さな女の子だ。その女の子を抱きしめている手は女性のもので、それが彼の妻、なのだろう。
「あー今日も愛娘が可愛くてつらいっ!るかたんみたいな大天使になること間違いなし!可愛い!」
「正直、王様は恋愛とか、結婚とか、子育てとか、無縁の世界で生きてくと思ってたんだけどぉ」
そういったものはレオを縛る足枷にもなる。奔放に世界を生きることは出来なくなってしまう。だからもし恋愛をしても、結婚をしても、それはあの時のKnightsメンバーで一番遅いと泉は考えていたのだ。
それが蓋を開けてみればビックリ。突如結婚するから!と一番に報告してきたのはそのレオだった。
結婚報告から半年後には子供生まれるから!と海外からメッセージが届いた時には、急遽レオをのぞくKnightsメンバーで会議を開いたほどだ。
王さまに奥さん?子供?頭トチ狂った?
数々の暴言を覆すように、生まれた子供と笑う奥さんを抱きしめる写真がまたも海外から送られて来た時に泣いたのは司と泉だったのも数年前の記憶。
「結婚とかするのかなーっておれも考えたんだけどさ。あいつがいると書かなくてもいいなって思ったの。書いても喜ぶし、書かなくても笑ってくれるから結婚したんだっ」
「どういうこと?」
「あれ、言ってなかったっけ?おれの嫁さん、後天的な難聴なんだよ」
「
……
は?え、待って、難聴って、」
「娘はちゃんと聴力あったぞ」
「そうじゃなくて!」
そんなこと今まで一度も言わなかったじゃないか。
それじゃあどうやって知り合ったのか。レオの曲をもってして知り合ったのではないとしたら、それはどういう巡り合わせなのか。
それほどまでに、月永レオという作曲家は世界に名を残し、彼自身も音符で形作られているというのに。
「フランスに居た時、歩きながら作曲してたんだけど、五線譜落としまくってさ。それ拾ってもらった礼にそのまま曲あげようとしたらうんともすんとも言わないから、おれのフランス語間違ってんのかなーって」
「そうじゃなくてさぁ
……
」
「
……
あいつはおれの曲がほとんど聞こえてない。あいつは視覚でほとんどを判断する。おれの苦手な言葉も、大好きな音楽も分からないんだ」
それが分かった時、レオにとって妻の隣は妄想がなくなっても居ていい場所になった。それが、レオに新しい感情を与えた。
彼がどれだけ放浪しても、どれだけ妄想の世界に行っても、現実に帰ってきた時、行き着く先を見つけたのだ。
「ほとんど聞こえないあいつがもし聴こえるようになった時、世界に音が溢れててほしいから結婚したんだ。おれが音を失った時、誰よりも痛みを知ってくれると思ったから、
……
おれは神様じゃないから、痛みを分け合わないとなーって」
神は全知全能が故背負う痛みを、人間に振り分けたように。
「王さまって人を愛せたんだね」
ふとこぼれた泉の言葉に、レオはぱちぱちと瞬きをする。少しだけ影の差していた顔は途端にはなやかな笑みを浮かべた。
「何言ってんだ!おれはみーーんな愛してるぞっ!」
「そうだけどさ。
……
あんたは、痛みの共有の仕方を知らなかったから。だから一番遅いって思ってたんだよ」
何もかも抱え込んで、我武者羅に突き進んで壊れた高校時代。戻ってきた時も箍が外れたように笑うだけで、誰もレオの痛みを心から共有することは出来なかった。彼は誰にも自分の痛みを、弱さを、見せなかったから。
そんなレオの見つけた最後の居場所が、今の家族の元なのだろう。
幸せを掴んだことに、泉の心の内は安らいでいく。壊れていくさまを誰よりも間近で見ていた泉自身が、自覚はないにしても一番レオを抱え込んでいたのは明白だった。
「セナだって痛みの共有出来ないじゃん?おれらの時代は、痛みは弱さだったから」
「
……
」
「でも、ちゃんと弱くなれる場所が出来たんだろ。それがココじゃん。おれはあんずと同棲してるって聞いた時、良かった〜って思ったぞ」
泉にとって、壊れない居場所。それが今の彼が立っている場所だ。あんずが隣で笑って、ほだされた泉も笑う。そんな場所。
弱さを受けとめられたから、泉はあんずに同棲を持ちかけた。誰かに取られる前に、互いが痛みで壊れる前に。
そんなこと言えるわけもなく、泉はぼかすように見当違いなことをのたまう。
「かさくんからの隠れ場所が出来て良かったねぇ?」
「それもある」
意地悪く互いに笑い合って、話の区切りがついたところで泉は席を立った。
時刻は夕方四時頃。もう一人の家主であるあんずも今日はそろそろ帰ってくるだろう。企画書の提出はまだ先だと聞いている。
「そういえば王さま、なんで俺が今日オフだって知ってたの?」
「んー?あんずに聞いたー」
「ふーん。あいつと連絡取ってんだ」
「お?やきもち?おお?いいな!インスピレーションが湧き上がる〜☆これでもあんずの音楽の師匠だからなっ、楽曲のセレクトとか、そういうのアドバイスしてんの。それだけだから安心してくれよ、シニカル王子!」
「なんであんたにヤキモチ焼くのさ。チョーうざぁい。あとその呼び名やめて」
あんずから聞いたということは、どうせあんずが帰ってくるまで居るのだろう。そうなると、夕食は三人分用意しなければ。さあどうしようかと冷蔵庫の中身を思い出しながら、泉は手を洗いつつ献立を思案する。
「あのなー、セナ」
「なぁに?」
「セナとあんずが同棲してるって聞いた時、ほんとに良かったって思ったんだ」
さきほどと同じことを繰り返すレオに、ついに曲に没頭しすぎて直前の会話も忘れるようになったのか、と泉は小さく笑った。
「もう聞いたよ、それ」
「だってさ、」
もう理想に縛られてないってことだろ。
蛇口の水はとまらない。とめようとしていた手は止まってしまった。
「
……
求められた理想に応えるのは、理想を求めるのは、プロとして当然でしょ。それとこれは関係ない」
「大丈夫だ。セナはお人形じゃなくたって綺麗だよ」
「会話噛み合ってないんですけどぉ!」
「セナは分別出来てるくせに、悩むと一緒くたにするからさー。あんずと似てる。自分より他人を優先するのも、似てる」
「俺のどこが他人優先なワケ?」
「感情の殺し方がうますぎるんだよ。そんなセナが、感情を殺さなくていい、ずっと変わらない場所が出来たんだなって思ったんだ。だから、おれは良かったって感じるぞ」
分かってないような態度で、分かったようなことを口にするレオの言葉が耳に痛い。的を射てることが、どうしようもないほどに泉をかき乱す。
月永レオとはこういう男だった。ズカズカと入り込んでくるわけでもないのに、把握しているのだ。
「で、結婚しないの?」
「ほんと会話する気なくて嫌になるなぁ
……
。まあ、いずれはするんじゃない?話に出したことないけど。
……
そういえば、子供はどうして欲しいって思ったの、あんた」
「んー?おれら事実婚だからさ、夫婦の証明」
「ハァ?!」
ようやく止められた蛇口の水のかわりに、今日何度目になるのか分からない言葉をもう一度吐き出す。何度驚かされたら気が済むのか、なんて、レオに限って言えば意味もない。どうせこれからも驚かされることしかないのだろう。
「おれはすーぐどっか行っちゃって家にほとんど居ないからさっ?おれが忘れないように、あいつが寂しくないように、って。単純に欲しかったのもあるけど」
「王さまってそんな人並みの感覚持ってたの?」
「おれだって人間だぞ!セナは形式とかこだわるから、分かんない感覚だと思うけど」
「全然分かんない。俺は届け出したいし」
認められることはいつだって大事なのだ。特に、あんずは「承認」に重きを置く。それが安心に繋がるのなら、しないわけにもいかない。
「届け出すためには事務所の許可が必要だけど、難しいだろうなー、だから結婚言い出せないなーって?」
「分かってんなら黙っててくれる?」
やっぱりな、と笑うレオに、どうやったって泉はかなわない。いつだってレオは泉の半歩先を走っている。悔しいが、隣に並ぶことはあっても、追い抜かせることはきっとないのだろう。
途切れた会話はそのまま、久々に日本に帰ってきたというのなら和食にしようと算段をつけて、泉は野菜室からいくつかの野菜を選ぶ。
ほうれん草のおひたしに、肉じゃが、味噌汁はわかめと豆腐。白米に少し玄米を混ぜて
……
、そこまで考えたところでレオからリクエストが飛んできた。
「セナーっ!おれ、プリンが食いたい!」
「あんずに言って」
「分かったー!」
そこでメールではなく電話を選ぶのがレオらしいといえば、らしいのかもしれない。
包丁の規則正しい刻む音に混じって、レオの軽やかなテノールがあんずの名を呼んだ。
END
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