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らん
2016-04-27 10:38:15
2402文字
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いずあん
『ワンシーン』
:瀬名泉→←あんず
「おにいさんが助けてあげるよ、一生恩に着てねぇ?」
人間離れしたほど綺麗な男の人はそう言って微笑んだ。これまた人間なのか疑ってしまうほど、無機質に。
正門の受付でこの学院の生徒ではないかもしれないと疑いをかけられて、困っていた私を救ったのは遊木くんを「ゆうくん」と呼んで、つい最近レッスン中に現れた瀬名先輩だった。
どうやら彼はその場に私が居たことなど覚えていないのか、もしくは眼中にも無かったのだろう。えーと、あんた、名前は
……
まぁなんでもいいけど。なんて投げかけられれば、それくらいの検討はつく。
「俺がこの女の子も夢ノ咲学院の生徒だって保証するから、通してやってくんない?」
先輩はテキパキと問題を解決していく。一見横暴にも見えるけれど、今の私にとっては救世主だった。制服だって着ているのに、どれだけ学生証を見せても渋られてこっちはほとほと困り果てていたのだ。上司に確認を取る、なんて方法が思いつかない程度には焦りもあった。
有難うございます、そんな言葉が口をついて出る前に、瀬名先輩は早く中に入れと促す。ようやく流れ出した受付には人だかりが出来ていて、申し訳なさがつのった。
そんな私にはお構いなしに先輩は言葉を重ねていく。はじめての印象が最悪だっただけに、なんだか不思議な気分だ。もしかしたら、想像以上にこの人は恐くないのかもしれない、なんて錯覚しそうなほど。
「あんたも俺の『邪魔な石ころ』にならないよう気をつけなよ、転校生♪」
――
前言撤回。人をモノ扱いする人は、やっぱり恐い。
それが、私に対する瀬名先輩への第一印象。
*
「あんたの名前は転校生じゃなく、あんずでしょ」
その一言が、どれだけ胸に響いたかきっと先輩は知らないでしょう。
ねえ、先輩は覚えていないかもしれないけれど、私、貴方に助けられたことがあるんです。
右も左も分からない学院で差し伸べられた救いの手がどれだけ貴重だったか、先輩は知らないでしょう。正門で受付に捕まった時、私の為に動いてくれたのは先輩だけでした。
あの時、私の後ろで待っている生徒は沢山居て、きっと、中には私のことを把握している人だって居たはずで。それでも、誰も私に味方は居なかった。そんな中、先輩だけが動いてくれたんです。
『邪魔な石ころ』を排除することだけに全てのエネルギーを使っている先輩だから、私のためではなくて先輩自身のためだったのは分かっています。だけど、私にとって救世主、だったんです。
私が踏み入れても良い場所を指し示してくれたようで、それがどれだけ私を安心させたか。
全部、あなたは知らないでしょう?
「それとも、転校生って呼ばれたいの?」
「
……
名前が、」
名前がいいです。とは言えなかった。言いたかったけれど、言ってしまえば何か溢れそうで、ただ曖昧に笑った。声に出しそうな言葉は一度飲み込んで、任せます、そんな一言を無責任にこぼして足元を見つめる。
なんて言われるか、今ばかりは想像できなかった。
「なら、あんずって呼んであげる」
「
……
、は、っはい」
ああもう、どうして。
そうやって欲しい言葉をくれる。邪魔な石ころではないのだと認めてくれたと思っていいですか?私、ここに居ても平気ですか?
それを聞くにはまだほんの少し、お互いの距離が遠い気がして、代わりに私はそろりと視線をあげて先輩を見た。
瞳がかち合って、大きく揺れる。澄んだ滑らかなアイスブルーは今日も不遜に光っていて、デュエルの衣装に身を包んだ体躯は今日も背筋が伸びていて。敵わないなぁ。なんて、思うことすらおこがましいのかもしれないけれど。
「プロデューサーって、呼んでもらえるように頑張ります」
今、私に言える精一杯のありがとうを、先輩に。
これからも知らなくていい。私の中の思い出で構わない。ようやく私と先輩は同じ世界に立ったのだ。『石ころ』から『あんず』になった私は『プロデューサー』を目指そう。そうして、今目の前で私を認めてくれた先輩が困った時、手を差し伸べられるような存在になろう。
「一生恩に着てねぇ?」なんて、お節介のような台詞とは裏腹な優しさを、今度は私が返せるように。
「
……
ほんの少しだけ、あんたに期待しててあげるからさ」
泉の囁きは、颯爽とtrickstarの元へと駆けていった彼女には届かない。届かなくても良いのだ。ただ、胸に秘めておくにはどうしようもない感情だから清算したいだけ。
(あんたはもう覚えてないと思うけど、本当に、あの時から比べたらマシになったよねぇ)
正門の受付で若干青ざめていた少女は本当にただの「一般人」でしかなかった。それがここまで来たのだ。少しくらいは褒めてやるし、認めてやる。
泉は人を過大評価もしなければ、過小評価もしない。価値が何かを知っているし、努力には報いることだって出来る限りするようにしているつもりだ。だから、あんずを認めた。ただそれだけ。
「泉ちゃーん、最終リハするわよー」
「ん、今行く」
翻るスカートと髪から目を離し、泉はKightsの元へと歩いていく。足取りはいつも以上に軽かった。ああ、だって、今から楽しみで仕方ない。ゆうくんとのデュエルも、敵を倒すことも、この舞台を成功させることも、全部。
俺をその気にさせるなんて、今はあんたとゆうくんだけなんだから。はやくおいで、その履いている靴を穴も開くくらいに履きつぶして、今度は自信を持って駆けておいで。その時は『プロデューサー』って呼んであげるよ。
「なに笑ってるのよォ、不気味ねェ」
「ふざけんなクソオカマ、チョ〜うざぁい。
……
まあ、気分が良いから許してあげる」
さあ戦場へ向かおうか。誰よりも輝くための、白も黒も入り混ざった世界へ。
そこにうっかり入り込んできた杏色も認めて。
END
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