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らん
2016-04-18 12:22:49
2007文字
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いずあん
フォロワーさんからのお題を使って小話。
▼アンラッキーガールの溜息
「こんなはずじゃなかったのに。」「壊れたパンプス」
「俺に迷惑がかかる、とかどうせ思ったんでしょう」
返す言葉が見当たらず、私はふいと視線を逸らす。だって、なんて言い訳を吐き出せば絶対に怒られるだろうから、ぐっと呑み込んだ。
ヒールの部分に相当深い傷が刻まれていて、それがどれだけ私が盛大に尻餅をついたか思い知らせてくる。先輩に脱がされた、壊れたパンプスを私は睨みつけた。
「俺との待ち合わせに遅刻しそうで、溝にヒールが引っ掛かって尻餅ついて?」
「ちょっと、足を怪我してしまいました
……
」
「ちょっとじゃないよねぇ?脛あたり切れてるじゃん。こんのクソバカ。捻ってないだけマシだけどさぁ」
駅前のベンチに腰を下ろして、先輩はそんな私の前にしゃがみこみ、私の足の手当をしながらひとつ溜息をつく。ああ、せっかくのデートなのに、まさか集合してすぐ溜息をつかせるなんて。
先輩の脇に置いてある絆創膏と濡れたティッシュを見れば通行人達はさして気にした様子もなく私達を風景の一部として認識していく。良かった、誰も気に留めなくて。本当はそれが一番怖かった。
だから、自分でやりますと言ったのに問答無用で瀬名先輩が私のパンプスを脱がせた時は蹴り飛ばしてやろうかと思ったくらいだった。今思えば、多分そのほうが注目を集めてしまっただろうと冷静になる。
「はい、消毒終わり」
「すみません」
「は?」
「
……
ありがとう、ございます」
「ん、いい子。それにしても、このパンプス相当傷入ったねぇ」
お気に入りだった桃色のパンプスのヒール部分はガジガジに削れてしまっている。ついでに私の血もついてしまって、今日でおさらばするしかなさそうだ。
「履かなければ良かった」
「なんで?」
気に入っていたものが汚れたことが悲しい。転んで怪我したことも痛くて悲しいし、先輩に迷惑をかけてしまったことだって悲しい。
そんなこと、言わない代わりに押し黙って溜息をついた。
せっかく先輩とのデートだと思って(しかも久々の一日中で外出!)、少しでも可愛いと思ってもらいたくて、願わくば先輩の好みであるように、なんて考えていた私がバカだったのだろうか。はしゃぎ過ぎた少し前の私を叱りたいくらいだ。
「あんず、なんで履かなければよかったの」
「
……
だって、」
「転んだから?俺に迷惑をかけたから?だとしたら、チョ〜うざぁい」
「え、」
「あんたはいつも俺と会う時、俺に可愛く見られたいって気持ちより、俺の為に周りから可愛く見られたいって気持ちのほうが強いでしょ」
そりゃそうだ。先輩の横に立つ時、身嗜みを気にしろと言ったのは先輩自身だし、何より私もつり合っているように見られたい。その上で先輩にも可愛く見られたい。面倒な乙女心は私だって持ち合わせている。
「で、それで今日はこのパンプスを選んだわけでしょ。俺は悪くないと思うよ、今日も、違う日も、
……
いつも。だから、その努力を自分で否定すんな」
怪我した場所が痛くないように、丁寧に先輩は私にパンプスを履かせる。触れた掌はやけに恭しくて、思わず息を呑んでしまった。
「俺の為にあんたが自分を磨く努力は悪いことじゃない。迷惑だとも思わない。でも、俺の為にってあんずを蔑ろにすんのは許さない」
あんたは今『プロデューサー』じゃなくて、『あんず』なんだから。
こんなはずじゃなかったのに。そんな気分が一気に晴れたようだった。そうだ、今の私はあんずであって、プロデューサーとして先輩の隣に立っているわけではないのだ。
立ち上がった先輩が手を差し伸べてくる。その手を掴んで、私も立ち上がった。いつもは離れていく掌が今日は離れなくて、そのまま包まれるからどうしたらいいのか分からない。
戸惑いながら先輩を見やれば、怪我した私のテンポに合わせるためにも手を繋いでおきたいようだった。先輩は確かに足が少し速い。それに合わせているうちに私もいつのまにか歩く速度が速くなったのは遠い昔。
「俺としてはそんな傷だらけの履かせたまんまは嫌なんだよねぇ」
「お気に入りなのになぁ」
「それなら次までに修理して履いてきな。今日はダメ」
「じゃあ帰りますか
……
?」
「はぁ?アホじゃないの?」
まずは靴屋に行こうか。
歩き出した先輩の速度はやっぱりいつもよりゆっくりとしていて、合わせて私の歩幅も小さくなる。
転ばないように、走らないように、とびきりの靴でも探さないと気が済まないだとか、小言は止まないあたりが瀬名先輩らしい。ねえ、私ももう19ですよ?ヒールのマナーなんて心得てます。
「そんな奴が転ぶんだ?へぇ?」
「
……
先輩ってほんといやみったらしい」
「ぶち倒すよ?」
悲しい気分や溜息と共に、壊れたパンプスはやっぱり今日でおさらばしよう。お気に入りだった事と、先輩との思い出は残して。
END
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