らん
2016-04-05 01:02:57
717文字
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零とあんず


「嬢ちゃんは、こんな顔をしておったかのう」
下から見上げたその表情は、確かに見知らぬものだった。今まで見なかったのは自分で、きっと、見ようともしてこなかった顔だ。そうか、君はこんな顔も出来たのか。自分の弱さばかりでさよならしたその表情に、いっそ羨ましさを感じる。
……幸せ、?」
聞こうとしたのはほんの気まぐれだ。答えなんて分かりきっていたのに、漏れたその台詞を飲み込むことはもう出来なかった。
嬢ちゃんは髪を撫でながら、柔和な笑みを作る。しあわせです、囁かれた言葉が俺の耳に届いて、この愛が終わることを実感した。
「嬢ちゃんは、強いのう」
我輩はそんなに強くないから。だから、見ているフリをして、ずっと遠ざけた。いっそ囲ってしまえば良かったのに、そうしたならば絶対に自分のものになったであろう少女を前に、泣き言をこぼす。
……朔間先輩は、優しいです」
「そう見せてるだけじゃよ」
「それも優しさだと思います」
「煽てるのが上手くて我輩泣いちゃいそうじゃ……有難う、嬢ちゃん」
現実的なさよならは言わない。まだ教えたいことも追いついてほしいこともある。きっと向こうから聞いてくることだって分かるから。
それでも、さようならをしなければ。このままでは自分の惨めさが際立ってどうしようもない。
嬢ちゃんは知ってるかのう。我輩、嬢ちゃんのこと、愛しく思っていたのじゃよ。
恋慕なんて阿呆らしい程の劣情を持て余していたのだ。その感情はたった今燃え尽きて灰にしてしまったけれど。
「あんず、笑って」
最後のお願い叶えてくれないか。
泣き顔はアイツに譲ってやるから、どうか。

さよなら、守るだけで抱きしめられなかった恋よ。

END