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らん
2016-03-01 21:44:04
2399文字
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あんスタタロット企画(瀬名泉)
とりさん(@tori_ess)主催のあんスタタロット企画に瀬名泉【塔の逆位置】で参加させていただきました。
▼クラッシュミー・プリーズエンター
その日の夢見は最悪だった。それはもう朝から不機嫌さを露骨にしたくなるほど。
悪夢の内容は至って単純で、古ぼけた塔の上で時代錯誤な服を着た男女が言い争っていた。どちらかといえば男が窮地に立たされていて、最後に女が男を突き飛ばして落下させたのだ。そんなありきたりな悪夢。
俺は女側からそれを見ていて、実物なんて見たことないくせにやけに鮮明な死体を見ていた。飛び散った赤が空気に触れて黒くなっていく様を眺める。赤く染まる白銀の髪を、なんの感情もなく。
それよりも女が泣きながら笑うことに苛立ちを募らせるくらいだったのだ。泣くくらいなら突き落とさなければいいのに。笑うくらいに愛しいなら閉じ込めてしまえば良かったのに。
(馬鹿な女)
そうして女は俺を見た。見れるはずもないのに。それでも、見た。
「これで満足?」
問われた言葉は、まるで俺が望んだ帰結のようで。
そこで目が覚めたのだ。普段夢なんてあまり見ないから、尚更最低な朝になった。
あの女の瞳が夢だというのにやけにリアルで、焼きついて離れてくれやしない。まるで非難するような、それでいて満足しているような、気持ちの悪い瞳。毎朝鏡を見れば写るアイスブルーと同じ色をしたそれは、確実に俺を射貫いていた。
(何かな、俺が今日ファンに殺される暗示?)
ストーカー気質なファンというものは相当数居るもので、そいつらに実家を特定されるのが嫌で一人暮らしを始めたマンションは、今日も静かだった。あまり住人には会ったことがない。
胃にムカムカとしたものを抱えつつバイクを走らせて学院に向かう。俺の気分とは裏腹に、天気は快晴。喧嘩売ってんのか、なんてささくれた心で舌打ちをして、おまけに外界にも漏らした。
「なるほどね」
どうやら夢は、コレの暗示だったらしい。
学院の下駄箱で、久々に面白い事件が発生した。どこからともなく仕込まれるラブレターと、それに混じって俺の顔が見るも無惨に切り刻まれた写真。
非難されることも窮地に立たされたことも往々にしてあるのでそこまでの衝撃はない。ただ、元から最低だった気分は更に降下した。最低を超すとどこに行くって言えばいいかな、なんてアホみたいなことすら考えるほど、サイアク。
億の価値がある俺の顔に鋏を入れられる奴なんて同業者くらいで、1年生あたりでは頻繁にあった嫌がらせは3年の今となればほとんど無くなっていたのに。大体嫌がらせをしていた奴は途中でこの道を挫折しているから、というだけだが。
(まーだいたんだ、こういうやつ。それともガキ?下級生にモデルの奴でも居るのかねぇ)
ラブレターと一緒に写真をゴミ箱に捨てる。このアイドル科の下駄箱にラブレターを入れてくる非常識なファンの愛を読む気になんてならない。同業者の妬みも受け取らない。
捨てることに躊躇いなんてない。だってこれはルーチンワーク、なのだから。ついでにこの不機嫌さも捨てたいくらいだ。捨てられないから苛つくというのに。
「これで満足?」
よみがえる夢のアイスブルーは、既に薄ぼやけた死体よりも鮮明なまま、まだ俺に問うてくる。
「満足に決まってんでしょお」
不変は至高なんだよ。
届かない声は、朝の冴えた空気に溶けて呑み込まれるはずだった。
「何が満足なんだ?」
「別に?」
いつもより早く家を出たせいで、生徒会業務の為に朝早くから登校する副会長と鉢合わせてしまった。同じクラスとは言え、話したことはほとんどない。適当にあしらって去ろうとすれば、待て、と呼び止められたので一応止まってやる。
「なぁに?俺、これから朝練なんだけど」
「瀬名、近くで誰か亡くなったか?」
「は?」
「死人の香りがする」
そういえば寺の息子、だったっけ。誰も死んでいないけれど、心当たりはある。実際に見たことがないのにやけにリアルだったアレ。
夢の中の、白銀の死体。
「
……
勘違いじゃない?」
「そうか、ならいい。引き止めて悪かったな」
「ほんと、チョーうざぁい」
動揺の隠し方は心得ている。数度瞬きをして、よぎった幻想をかき消した。足よ早く動け、この世界は現実、だ。
朝練なんてものは存在しなくても、Knightsのメンバーは時たまスタジオに篭っていることがある。それがまさしく今日で、居城ではオカマが雑誌を読みつつ足の筋トレをしている最中だった。
「なるくん」
「あら、おはよう泉ちゃん。アンタの星座って何だったかしら?」
「脈絡なんもないねぇ」
「いいからいいから」
当たるって噂なのよォ、この雑誌の星座占い。タロットでやってるんですって!
ストレッチをしながら、なるくん本人が「乙女の嗜み」なんて称する星座占いという当てずっぽうな神頼みを熟考する姿に、呆れを通り越して平常心が保たれた。少しは感謝してあげよう。
「蠍座」
「ハイハイ蠍座ね。
……
あら、塔の逆位置」
塔、なんて何でもないようなワードに動揺するのもらしくない。ああ本当に、今日はどれだけ最悪な日だと言うのだろう?もしかして、俺は今日突き落とされて死ぬのかも?
「泉ちゃん、運勢サイアクよォ?」
「いいよ別に、んなもん信じないから」
思い出した。よぎってかき消したかったのはアイスブルーの女の瞳なんかじゃない。俺が消したかったのは、俺が忘れようと目を逸らしていたのは、
「ラッキーアイテムは鏡ですって」
窮地に立たされて突き落とされた、俺自身だ。
END
塔の逆位置:非難、窮地、争い
瀬名泉は不変の為に、自分を自分で殺すことの出来てしまう人だろうな、と。そして、それを時たま後悔とはいかなくても、満足かどうか問いただすのも自分自身なのだろうな、と思い書かせていただきました。
素敵な企画を開催してくださった主催のとりさん、ここまでお読み下さった皆様に感謝を込めて。
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