らん
2016-02-09 11:28:06
3598文字
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いずあん

ことりちゃんからネタをいただきました。ちょっとえっち。

▼焼くならいっそ焦がせ


私の先輩なのに。なんて、言えないことは分かっている。そもそも私はプロデューサーであって、瀬名先輩と恋人関係になっていることが可笑しいのであって。
それでも恋人という関係を獲得してしまったのだから、仕方ないじゃないか。どうしても好きで、同じ感情を返してくれて、同意の上でお付き合いしているのだから。だから、先輩には言わないから、私の中でだけ嫉妬くらいさせて。

舞台袖から見るKnightsのパフォーマンスはいつだってファンのためのものだ。学院内で一番ファンサービスが厚いという噂は真実のようで、彼等はファンが求める自分達を最大限引き出してアイドルで在る。
ウインクは勿論、投げキスも、ファンのコールに応えて歌を盛り上げることも、全部が完璧。ファンが求めるならビジネスでの男同士の絡みだってやってみせるあたり、プロ意識が逞しい。
そして、その結果が普通科と合同で催しが行われた時に私の目の前で叩きつけられる。
舞台袖からなんて遠い所ではなく、文字通り目と鼻の先、と言いたくなるくらいの距離で。
「泉くん、すっごく似合ってた!写メ撮らせてもらっちゃった」
「え、セッちゃん?!どこ?!凛月は居た?!」
「瀬名くん居るって!ってことは嵐ちゃんもいるかな?」
「Knights全員揃ってはないみたいだよー!司くんはさっき1階って聞いた!」
そんな声が耳に届く中、人気の居ない方へと足を運ぶ。おかしいな、バカみたいだな。こんなの当たり前なのに。耐えられないなんてプロデューサー失格だ。こんなに求められるアイドルならば、それは喜ぶべきことなのに。
はじめは瀬名先輩の横で経過を見守っていたけれど、どうにも居た堪れなくてゆっくりと逃げたのだ。ファンの対応に追われる先輩にバレないよう、抜き足さし足で。
(私の先輩、なのに)
今の私はひどく醜い顔をしている気がして、その場の空気にそぐわないようにも思えて、だから現場を悪くしないために、なんて変な言い訳をして逃げ続ける。
本当はただの嫉妬だ。私より可愛い子、私より輝いてる子達に囲まれて、私には滅多に見せない笑みをずっと浮かべて話す先輩が見たくないだけ。
気づけばこの階の最深部である理科室まで来ていて、随分と遠くまで来たなぁとぼんやり考える。ここまで来れば人影は微塵もなく、ただシンとした空気が私の棘のような心を落ち着かせてくれた。
戻らなくちゃ。完全に止まった足を奮い立たせるように呟く。
そろそろ瀬名先輩が異変に気づいてしまうだろう。報連相は大事だって言ってるのに、とかなんとか小言を頂くのは本意ではない。
瞳を閉じて、大きく深呼吸する。息を深く吸って、吐いて。もう一度吸って、吐こうとした息は腕を掴まれたことによって悲鳴に変わった。
「煩いなぁ! ただ腕掴んだだけじゃん」
「せ、せな、……っせんぱ、」
なんで、どうして、いつから。聞きたいことは沢山あるけれど、それを言葉にするためには早鐘のように鳴る心臓を落ち着かせなければならない。うまく喋れない私を前に、先輩は聞きたかったことを理解しているかのように話してくれた。
「あんた今日気配消すの下手くそ。何も言わずに抜けるから、ファンサ終えて追ってきた。……こんな所まで来て、何?人気もないし寒いし、さっさと戻るよ」
戻ったらまた甘い先輩を見せつけられるじゃないですか!なんて言ったら困らせるのは百も承知。だから素直に頷いた。けれど、それで許してくれる人ではないのも事実だ。
突然頬を撫でられてビクつく。なんですか、震える声でこぼしたソレに、先輩は不機嫌そうな顔を見せる。
「言いたいことがあるなら言うの。……付き合う時に言わなかったっけ?俺は優しくないから、言わなきゃ汲み取ってあげないよ。まあ何を考えてるかは大体分かるけど」
……言いたいことなんてないです」
「俺から逃げたくせに」
「っ、分かってるなら、聞かないでください!」
恋人という関係の前に、アイドルとプロデューサーなのだ。こんなことでいちいち傷ついてる弱い自分なんて見せたくない。ましてや言葉にして、その弱さを自分から教えるなんてまっぴらごめんだった。
ファンに嫉妬しました、なんて、自分でもアホらしいと思っているのに。それでもやりきれないから、自分の中でだけヤキモチを焼かせてほしいのに。
「あんず」
名前を呼ばれて、先輩の腕の中に閉じ込められる。誰か来たらどうするんですか、なんて抵抗も虚しくて、大人しくした。香るシトラスは先輩のものだ。大好きな匂い。
「俺はアイドルだよ」
……はい」
「だから女に愛想ふりまくのは絶対やめらんない」
「知ってます」
「でも、こうやって俺に触れんのはあんただけなの分かってる?」
……え、」
先輩の顔を見ようと視線を上げた瞬間、顎を掴まれてそのままキスをされた。目を閉じる暇さえなくて、ただただ先輩の長い睫毛が見えて、これって絆されてるのかなぁ、なんて可愛くないことを思ってしまう。嫉妬すること自体可愛くないのになぁ。
「ファンに嫉妬してるでしょ、バカ」
…………
「今の顔ブサイク〜」
「煩いです」
「いいよ、そのままで。嫉妬してる自分が嫌で、顔にも出るからここまで来たんでしょ?その心がけはプロデューサーとして最適なんじゃない?」
でも、俺のものとしては全然可愛くない。
指が絡まって掌は逃れられない。もつれた足はそのまま壁際まで追い込まれ、上手く日陰になる場所まで誘導されてしまった。前髪にキスを落とされて、耳を甘噛みされた辺りでキャパシティオーバーだ。この流れは、どう考えても、
「まっ、待ってくださ、」
「待たない」
「人が来たら危ないです!」
「へえ、学校って所は許容範囲なんだぁ?」
そうではなく!言葉を発する前に呑み込まれた。私の息はもう先輩のもので、先輩によって呼吸を支配された私は先輩がいないと今は生きていけない。
舌と一緒に少し酸素が入ってきて、それでも足りなくて、気持ちよさと息苦しさがごちゃごちゃになった私はズルズルと壁を伝ってしゃがんでいく。ギブアップを伝える為に先輩の肩を叩く時には地べたに座り込んでいた。
伝う銀の糸がやけに合わなくて、またもや私の頭の中にはなんで、どうして、という疑問符ばかり。今回は答えてくれないようで、先輩は妖艶に笑う。
「少しはマシな顔になったかな」
そう言うくせに止まらない指先と唇に翻弄される。首筋を舐められて、リボンも解かれた。輪郭をなぞる様に頬がすり寄って、気づけば第三ボタンまでワイシャツは開いていて。
「せんぱ、ひゃ……!だめ、」
「なんで」
「なんでって、なんでもです!ダメです!」
聞く気はハナから無いらしい。太腿に先輩の意外とゴツゴツしていて、指が長くて、綺麗な掌が這う。内腿を撫でられたら大袈裟に反応してしまった。舌なめずり、しないでください。
ゆっくりとスカートの中に侵入してきて、ショーツの片側に手がかかったところで先輩のブレザーをキツく掴む。ああもう、どうにでもなれ。
「はい、終わり」
……へ、」
「学校でやるわけないでしょお?誰が来るかも分かんないのに」
期待した?
囁かれた甘い声にすら今は敏感で、離れていく先輩を追うように立ち上がることさえ出来ない。
「そんな誘うような顔してこっち戻って来ないでよねぇ。ちゃんと冷ましてからおいで」
嫉妬してる顔より、俺のせいで泣いてる方があんたは良い顔するからね、なんて、冗談なのか本気なのか分からないけれど、先輩の顔はこの上なく輝いていた。意地悪な人。それでいて、優しい人。
最後に私の頭をひと撫でして、先輩はまたファンの元へと戻っていく。ヤキモチなんてどこかに吹き飛んで、先輩に触れられた場所の熱と、与えられた熱を冷ますことしか考えられなかった。



(嫉妬、ねえ)
それだけ強いあんずの感情を向けられる自分のファンがいっそ羨ましい。
嫉妬なんて所詮は敵対と焦燥なのだから、その顔は俺に向ける顔ではなくてファンに向ける顔だろう。だからブスに見える。
(俺が与えて変わる表情じゃなきゃ嫌だし、そもそもそんな強い感情を俺以外にあげるなんてちょーうざぁい)
自分のファンに嫉妬したなんて、絶対に言ってやらないけれど。
早くまたあんずの熱が欲しい。俺のせいで泣いたり、気持ちよさで歪む顔が見たい。それよりも、戻ってきた時の無愛想さの中に潜む気恥ずかしさを見たい。
「あ、泉くんだ!」
「え、うそ、ほんとだー!」
黄色い声を聞きながら、こいつらに向けられるはずだったあんずの顔が見れた優越感に浸りたいところだけれど、ここからは仕事だ。
ファンにだけ見せる甘い顔で今日も笑う。仮面の下は、さっきの熱で覚めたオスのまま。



END