らん
2016-01-31 22:35:13
1585文字
Public
 

いずあん

のあさんのイラストを受けて書かせていただきました。

▼言い訳の写真


「このゆうくんめっちゃ可愛いねぇ……
「先輩」
「あ、ちょっとささくれてる?爪先まで手入れは怠っちゃ駄目じゃん、ゆうくんったら」
……あのー……
いい加減に私に構ってくれてもいいんじゃないですか?なんて言葉が通じない相手だということは骨身に沁みている。
あんずは彼がゆうくんと呼ぶ相手、trickstarの遊木真の写真をうっとりと眺めて悦に浸る一応「彼氏」の瀬名泉を見つつ呆れ果てた。瀬名泉という一つ上の先輩である彼は、自身の大好きなゆうくんの事になると周りが見えなくなる節がある。むしろ見たくもないのかもしれない。
(呼び出されたと思ったら「ゆうくんの写真ちょうだい」だもんなぁ)
もしかしなくても、彼女というよりゆうくんをくれる便利な道具、くらいなのかもしれない。きっとそんなことを本人に言えば、不機嫌になる事は火を見るより明らかだから言わないけれど。
彼はそれだけの理由で色恋を考える人ではないと知っているし、理解しているからあんずもこうして止めに入りはしないのだ。
でも、それにしたっていささか放置されすぎではなかろうか。
「せんぱい」
ブレザーの裾をつまんでみる。それだけでは気づかれもしなくて、今度は掴む。少し皺が寄るくらい許してほしい。だって今日は写真を渋々見せたことへの礼すらないのだから。
「せ、……い、いずみ、先輩」
いつもとは呼び方だって変えてみる。しかしというより、やっぱり気づいてはくれない。彼の目線はいまだ目の前の写真に夢中だ。
「構ってくれないと拗ねますよ」
今まで言ったことのない言葉を口にしてみる。ここまで恥ずかしいことをまさか声にする日が来るとは思わなくて、あんずは自分自身の言動に体温が急上昇したような気分だった。ダメだ、無理だ。絶対顔が赤い。
そんな自分を隠すのと、構ってという意思表示で、彼女は泉の背中に額を押し付ける。そのままうりうりと動かせばさすがに気づいてくれるんじゃないだろうか、なんて淡い期待を添えて。
「せんぱい」
ゆうくんより綺麗でないことも、魅力的でないことだってあんずは承知している。それでも、もうちょっと見てほしい。いつだって彼の目に映る自分は情けないことだって知っていて、今の彼女だってきっと情けないと彼は言うだろう。それで良いから、少しは「あんず」に興味を持ってほしいのだ。そう願うことさえ我儘かもしれないけれど。
「よし、」
彼の肩甲骨がゆるりと動いて、どうしたのかとあんずが視線を上げようとした瞬間に腕を引かれる。躓きそうになったあんずはしっかりと支えられながら、泉の前に引きずり出された。笑う顔はいつも以上にご機嫌そうだ。
「構ってあげないと拗ねるんでしょ?」
……!き、聞いて、?!」
「俺、そこまで現実に興味がないワケじゃないからねぇ?」
まずはもう一回名前を呼んでみようか。
確実に遊ばれていた事が判明して、途端、あんずの顔は別の意味で赤くなる。いつだって意地悪でどうしようもない人。離れようとすれば絶対に捕まえられてしまうのだ。それが嫌ではないから困る。
……ゆうくんは、もういいんですか?」
「もう少しって感じだけど、」
「けど?」
「あんたが拗ねると後が長いからねぇ」
構ってもらえなくなるのは本意じゃないから、なんて言わない本音はそのままに、怒りたいのか、嬉しいのか、どちらにせよ緩んだ顔のあんずの唇の端に泉はキスを落とす。焦らすのはお手のものだ。
「ちゃんと見てるよ」
あんたが思ってる以上に、ちゃんとね。
……ずるいです」
「ずるくない」
「〜ッ、ばか……
「バカはあんずでしょお?」
苛めたくなる顔するほうがズルいよ、クソバカ。
逸らされたあんずの視線の標準を無理矢理自分に合わせ、泉は今度こそ彼女の唇に触れた。


END