らん
2016-01-26 01:04:49
895文字
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いずあん


「せなせんぱぃ、っいき、」
できない。
溢された声はいつも以上に甘くて、俺はそんな声でぞくりとうなじのあたりが粟立つのを感じた。
一体いつからこんなちんちくりんに欲情するようになったんだっけ、もう覚えてない。ただ、プロデューサーとしては踏み込んでこないくせに、個人としては裸足で一歩一歩大切そうに近づいてきたあの時、少しは可愛がってやってもいいと思ったんだ。
「出来ないならしなくていいよ」
「で、でも、」
溺れて死んでしまえ。そう願うくらいの欲望を抑えて、仕方なしに首筋を撫でてキスの場所を移す。息がちゃんと吸えるようになりたいなら鼻で吸えって言ったのに未だに下手なんだ。いつになっても慣れない不器用さに翻弄される。甘く鳴くのは上手くなったのに。
「ねえ、」
「っ、は、はい」
「いつになったら靴を履くの?」
俺の中に土足で踏み込む権利を得たくせに、あんたはいまだに裸足で来るんだ。もう靴を履いてても怒られないと知っているくせに、自分を全部さらけ出したまま、今日も俺の中で笑うんだ。
「先輩が履かせてくれるまで、です」
……ほんと、生意気」
強かで、甘えるのが下手。無愛想なようで、一度知れば豊かな表情。引き際の美学を知っているくせに、止まり方は知らない。そんなアンタに俺の靴なんか履かせたら、一生逃せなくなるよ。分かってんのかな、この女は。
「じゃあ、はやくおいで」
俺が履かせたいと思うくらい、俺が履かせたことに後悔を抱かないくらいの場所へ。ゆうくんとは違う、柔らかな場所へ。
整った呼吸を確認してもう一度奪う。縋るように握られたシャツが窮屈で邪魔だ。いっそ脱いで、脱がせてしまいたい衝動が駆け巡っては消えていく。
「瀬名先輩」
好きです。
……知ってる」
まずはスニーカーを贈ろう。駆けずり回るアンタにピッタリなそれを履いて、走って戻っておいで。履き潰して捨てなきゃいけなくなった時、ガラスの靴をあげる。それまでどうか、俺がアンタの中にいれますように。なんて、弱気でらしくない俺がたまには居たっていいでしょう?
知ってか知らずか、あんずは俺の髪を撫でた。



END