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らん
2016-01-13 15:14:11
1967文字
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薫あん
けいさんのイラストを受けてお話を書かせていただきました。
▼裸足のシンデレラ
ねえ、機嫌直してよ。
その言葉で彼女が機嫌を直すはずもなく、むしろ悪化させることは承知の上だったのに、それ以上の言葉を切羽詰まった俺が吐き出せるはずもなかった。
ツン、と俺に背を向けるその姿は上こそ体操服のままだけれど、下は制服のスカートに裸足。悪いことしたなあ、なんて気持ちと同時に、それだけ必死に俺の元に来てくれたことが嬉しい。ニヤける。
それを言ったら今度こそ存在自体を無視されそうだから押し黙るけど。
「たんぽぽちゃーん?」
「
……
」
「んー、捻挫してた足ほっといたのがダメだった?ホント、それについては謝るから」
俺の元に必死に駆けてきたのは他でもない、俺の足を気遣っての事だ。
普通科との合同で行われる数少ない機会、体育祭での部対抗リレーを終えた後。最後のコーナーで軽く捻挫した足をそのままに、これを機と新規ファン獲得も兼ねて女の子達にファンサービスをしていた。生で聞く自分の賞賛を受け入れて、甘い言葉で惑わせて。なんとなく響く痛みに気付かないフリをしつつ、ファンに極上の対応をした。
ようやくファンに解放された所であんずちゃんが走ってきたのだ。問答無用で近くの入り口から校舎に入らされて、そのままがらんどうの教室に連れこまれる。脱ぎ捨てたお互いのスニーカーの行方は後で考えることにした。
ペタペタとあんずちゃんの足が鳴る。裸足で寒そうだ。
「いきなりどうしたの?もしかして、ヤキモチ?」
「羽風先輩、足捻挫してるでしょう」
そこ座ってください!
臨時の物置き場として机や椅子すら用意されていない教室の床に大人しく座る。真剣な眼差しに逆らうことこそ無益でしかない。
ジャージを捲られて、スポーツ用の靴下も脱がされると、彼女の少し冷えた手が患部に触れる。小さく呻いた俺に、やっぱり、なんて声が漏れた。
「腫れてます。なんで放置するんですか」
「アイドルだからね」
「ファンサービスする事は良いですけど、アイドルは身体だって資本なんです」
後々のライブに響いたらどうするんですか?
スカートのポケットに詰めていたらしい湿布とサージカルテープが出てきて、そんな正論と共に治療が施されていく。そうだね、ちょっと考えナシだったかも。ごめんね。俺の謝りに対する返答は一言も無かった。
そうして手当が終わると同時、愛しの彼女は俺に背を向けてしまったのだ。
「ごめんね」
「
……
ごめんで済むなら警察はいらないです」
「ええ〜、そこまで重大な事件じゃないでしょ」
「ッ、私が、どれだけ」
ようやく振り向いたあんずちゃんの顔は泣きそうなくらいで、途端、愛しさが溢れた。
心配してくれたのだ。こんな俺を、着替え途中でも、裸足でも気にしない程。真っ先に気づいて、痛さを紛らわすくらい丁寧に治療までしてくれて。
愛される事は幸せなんだと、今日も君が教えてくれる。
「あんずちゃん、」
両手を伸ばせばやっぱり無視される。それなら俺から行こうかな、と焚きつけてみれば睨まれた。
「捻挫してるんですから無闇に動かないで下さい」
「でもあんずちゃんが来てくれないなら俺から行かなきゃ」
「
……
何ですか?」
縮まった距離に頬が緩む。警戒心の緩んだその身体を捕まえて、両脇から抱えあげるように俺の元まで連れ込んでやった。
「ごめんね?」
「
……
本当にそう思ってますか?」
「思ってるよ。でも、それ以上に嬉しくて」
君が見つけてくれた。君が俺だけを見てくれた。俺の小さな変化に気づいて、俺を心配してくれて
――
それがどれだけ嬉しいか伝わらない事が悔しいくらいなんだ。
「ねえ、どうして俺が捻挫してるって分かったの?」
鼻先が触れ合う程の至近距離に、あんずちゃんの両手が俺の襟足を掴んで離れようとする。ごめんね、今日ばかりは逃がしてあげられないや。
「
……
顔」
「顔?」
「少し、顔色が悪かったので」
アイドルは顔が命でもある。だから、表情を作るのは上手いはずだった。それなのに彼女は気づいてしまうんだ。それがいとしい。
「嬉しいなぁ」
「私はヒヤヒヤしました」
「そんなたんぽぽちゃんも可愛い」
「ふざけるのも大概にしてくれますか?」
「ふざけてないよ」
ありがとう、あんずちゃん。
泣きそうな顔の君にキスをする。狡いって言われようと、最低と言われようと、したくなったから許してほしい。
どうか、これからも俺のことを見ていてね。俺のことを知っていて。この体温も、弱さも、全部。
「
……
裸足のシンデレラみたいだね」
「靴がなくても、先輩を見つける術を知っているので」
「俺は君を見つける術がないよ」
「嘘を付く人は嫌いです」
目ざとくいつも見つけてくるくせに。
憎まれ口すら可愛くて、抵抗が無いのを良い事にもう一度唇を塞いだ。
END
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