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らん
2016-01-01 17:40:01
1323文字
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両片想いいずあん
両片想いの自覚ありの瀬名泉と、自覚なしのあんず
「あんず」
呼ぶ声が甘くなったと自覚している。それを本人に対して隠そうとしなくなったことも、同様に。
廊下で偶然すれ違う瞬間、名前を呼べば律儀に止まった少女は不可解な顔をしていた。
「瀬名先輩、最近何か変なものでも食べました?」
「さあねえ」
振り返らず、立ち止まりもせず、そのまま歩き続ければあんずは後をついてくる。特にこの後の予定はないらしい。珍しい事もあるもんだ。
サプリメントは今日も変わりない。少食に抑えていることも、変わらない。アイドルとしての笑顔も、モデルとしての背筋の伸びも、最上級生としての不遜さも、何ひとつ変わらない。仕事である以上プロデューサー自体には厳しくあたっている。
それでも、「あんず」だけは甘さを含める。自分に出来る最大限の甘さを渡す。
「なんか、変です」
「そうかもねぇ」
「変なの」
「それでいいんじゃない?」
気づいたって、気づかなくたって良いのだ。最終的に自己満足というやつだから。縛りつけて殺してしまうくらいなら、いっそ嫌ってくれたほうが俺は笑えるから。
それでも、ねえ、気づいたなら離さないからさ、せいぜい沢山悩んで沢山唸ればいいよ。
俺のこと考えてどこかに住まわせといてよ。それだけで今は良いから。
壊れた過去のようになるのは俺の望む所ではないのだ。だからたったひとつだけ甘さを落とすんだ。
俺の足音に続いていたもう一つの小走りな足音が止んで、そこでようやく立ち止まる。振り返れば、あんずは怒気を含んだ複雑な表情をしていた。多分そんなに表情自体に変化はないだろう。それでも俺にはそう見えるから、きっと正解。
「
……
先輩は、いつもズルいです」
「はあ?」
「分かってるくせにそうやって自分から逃げる」
「
……
逃げ道がなくなって困るのは誰かなぁ」
「私、逃げませんよ」
多分、先輩より強いですから。
減らず口ばっかり叩くね、生意気だ。それでも肝心な言葉を口に出さないんだからアンタも逃げてるね?いつもの口癖でもくれてやろうか。
きっとこれが俺とあんずの距離で、この均衡はいつ崩れるかお互いに探って、逃げて、またゆっくり近づくんだろう。けれど、たったひとつの言葉が無い限り伸びる影は重ならない。
「じゃあ賭けようか、あんず。どっちが先に変われるか」
「変わらせる、ではなく?」
「それだったら俺の圧勝でしょ」
「どうですかね」
「ほんと、生意気だなぁ」
俺が何か賭けるものがあるほど好戦的になることを知ってるくせに煽るのはプロデューサーとしてなら絶賛しても良いくらいだけど、あんずとしてはどうかと思う。
「俺は、ゆうくんがこの世で一番価値があると思う」
「私は、皆の笑顔がだぁい好きです」
「あんず」
「
……
瀬名先輩」
その声色、なんだかこっちが恥ずかしいです。なんて言葉と共に俯いたあんずが可笑しくて、軽く息を吐いて踵を返した。
ほら、俺の勝ちはほぼ決まってるんじゃない?
「死ぬ程悩めばいいよ」
俺と同じくらい悩んで、考えて、苛立って、それを通り越して迎えた感情に名前がついたら賭けの結果を話そう。ひとりを愛す俺と、みんなを愛すアンタが同じ答えを導いた時、絶対逃がしてなんかあげない。
END
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