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らん
2015-11-11 14:44:05
1809文字
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いずあん←まこ
▼涙にキスをしてあげて
「ゆうくん」
嫌いで、どうしようもない呼び名だった。忘れたくて忘れられなくて、立ち向かいたくて、それでも足が震える相手だった。いつだって、あの人は僕より前で手を振って、綺麗に飾るように僕をガラスケースにしまう。
幼心に植えつけられたトラウマがぶり返しても前を向けるようになったのは、tricksterの皆と、あの子のおかげだった。そして僕は優しくて、普通を与えてくれる彼女に恋をしたのだ。
しかし、そんなあの子は、彼を選んだ。
「あんず」
泉さんは彼女の名前を何の色も宿さずに呼ぶ。僕を呼ぶ時とは打って変わって、表情だって涼しげだ。
それでも、彼女は笑う。なんですか、泉さん。僕を呼ぶ時とは全く違う、甘くまろやかな音。
気づいたのはいつだか分からないけれど、自然と彼女を追っていれば理解できることだった。彼女は僕の嫌いな人に、恋をしている。
どうせ叶わないよ。いや、そうじゃない、叶わないでほしい。
そんな僕の願いとは裏腹に、その恋は叶ってしまった。それを伝えてきたのは、お人形の様に綺麗なあの人だった。
「ゆうくんには伝えなきゃと思って」
ずっと追いかけていたから、ゆうくんがあんずをどう思ってるか知ってる。「また」俺が奪う。ごめんね。
そうやって僕が壊れた理由も分かってるくせに、僕があんずちゃんをどう想っていたかも知ってるくせに、先に謝るなんて卑怯じゃないか。
僕の退路を塞いで、僕の心に一生の傷を付けておいて、貴方は緩やかに僕の中から身を引いて、同時に僕が大切にしたいと思ったものを攫っていく。
一度失敗して、僕の中に土足で踏み込むのを止めた貴方は、今度はガラスケースの上に布をかけてサヨナラするんだ。そしてそれを謝るんだ。狡い。ずるい。ずるいよ、泉さん。
僕は今、どうしようもないほど貴方になりたい。
「ごめんなんて言わないでよ、」
「
……
うん、そうだね。ごめんなんて言ったけど、後悔はしてない」
俺はゆうくんが居なきゃ生きていけないけど、あんずが居ないと心を殺せないんだ。
心を殺さないでいられる拠り所があんずちゃんなのは僕だって同じだ。僕のほうが先に好きになったのに。僕のほうがあんずちゃんを真っ直ぐに好きだったのに。貴方のような理由なんかナシに、好き、なのに。
「ゆうくん、あんずのこと貰うね」
「っ、そうやって、貴方はいつも僕を壊すから嫌いなんだ!」
「うん、知ってる」
「知らないよ!僕がどんな思いで今まで生きてきたか、僕がどんなにあんずちゃんを好きだったか、」
「
……
大切にするだけじゃ、手に入らないんだよ」
痛いほど俺はそれを知ってるから。
見たことのない顔で笑う泉さんに、僕の心は悲鳴をあげた。囚われてたのはお互いで、彼女によって掬われたのもお互い様だった。それでも、彼女を甘やかせるのは泉さんだけなのだ。鏡のようなお人形だった僕達は、もういないのだ。
「だから、あんずは俺が貰うよ。幸せにするなんて言えないけど、笑わせたいとは思えるから」
バイバイ。
ああ、さよならさえ僕から言わせてくれないのだ。
突き放したのは僕なのに、それすら受け入れて泉さんは笑って、僕をガラスケースから取り出して離れてく。僕がケースの中から手に入れたかったものさえ連れ去っていく。どうして僕は貴方になれないんだろう?
それはきっと、鏡ではないからだと無意識的に知っていたからなんだろう。その本質を先に理解したのが目の前に立つ泉さんだった。それだけ。
「泉さん、っ」
一生許さない。一生忘れない。それでも、貴方が進むなら僕だって進めるはずだから。
これは最初で最後の意地だ。
「ちゃんと、あんずちゃんを泣かせてあげなきゃ許さないから!」
「
……
出来なかったら、ゆうくんが俺から奪ってよ」
そのまま俺を殺してね。
最後まで、貴方は狡い。
「真くん、」
爽やかな君の声がリフレインして、眼鏡の奥で静かに泣いた。大切にしすぎて進めなかった道に、お別れしなくては。君が好きで、君が一番の光だった。
どうか幸せに。僕の一生許せなくて、一生嫌いな人は、きっと君をそのまま受け入れてくれるから。
「ゆうくん」
その名で、僕を子供で居させてくれた彼だから、守るためなら自分を捨てる人だから、君が心を受け止めてあげてね。僕にはそれが出来なかったから。
さよなら、守りたかった初恋よ
END
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