らん
2015-09-25 00:41:10
1651文字
Public
 

いずあん


紫音ちゃんリクエスト
「教室で寝ちゃってるあんずちゃんを見つけて反対側に座って髪の毛に触れる瀬名泉」



空き教室で眠り姫を見つけたのは、本当にただの偶然だった。
今日は3年生のみ7限が発生する日で、そのおかげとでも言おうか、放課後にレッスンも無かった。夏から秋に変わったこの季節だと、7限を終えると夕陽がちょうど沈んでいき、紺と混ざってコントラストを作り出す時間帯だ。晴れた夕空はいつもに増して鮮やかで、瞳に入り込む色彩の輝きに目を細める。
さっさとバイクで帰ろうと歩を進めて、はたとあんずはどうしたのかと思い出す。生徒会の雑務を手伝っていることは蓮巳づてで聞いていたけれど、姿を見ないから帰ったんだろうか?
なんとなしに2-Bの教室に向かったのは気まぐれだ。あんずがいるなら、ゆうくんもいるかもしれない。そんな淡い期待も込めて廊下を歩く。人気のない廊下は夕陽によって赤くなり、普段の学院と雰囲気さえ違うように思えた。
若干開いているB組の扉を特に力加減も考えずに引くと、わりと大きな音が立ってしまったが、まあ気にしない。
……あれ、」
ゆうくんはいなかった。でも、あんずは居る。
窓際から少し離れた一番後ろの席で、机に伏せた様に眠る女子生徒。ブレザーを着たまま寝ていて居心地が悪くならないのだろうか。たまに、というか毎度思うけど、あんずはバカだなぁ。
カーテンが無いせいで、窓から差し込む夕陽の強さは中々だろうに、それでも寝ているようだ。相当疲れが溜まっているのか、寝不足なのか。俺には関係のないことだけど、やっぱりバカだ、なんて。
近づいてみてもあんずは起きやしない。配慮なんて無しにあんずの前の席の椅子を引いても起きない。熟睡だ。
引いた椅子に腰かけて、あんずの伏せる机に肘をついて眺めても、起きる気配は更々なかった。
「もうそろそろ夜になるよ」
名前の通り、アプリコットブラウンの髪にそっと触れる。なんだかんだで枝毛は無いし、掬ってもサラリと指を流れ落ちていく髪質は正直羨ましい。
軽く撫でて、掬って、それでも起きない。なら、もう少し意地悪をしたって起きないだろうか。そんな邪な気持ちが横切って、自然と口角が持ち上がる。
気づいても、気づかなくても、俺にとってはどっちでも良い。どんな反応だって結局は俺の予想の範疇で、きっとあんずはいつも照れたように眉を下げて笑うから。
髪先にキスをして、次は頭頂部付近にキスをする。少し覗く耳にもキスをして、……ああ、やっぱり、あんずはバカだなぁ。
「アンタさぁ、狸寝入りも下手だねぇ?」
…………な、なな、なに、して、るんです、か……
起きたらキスされまくってて動揺するあたりが本当にバカだ。この学院に女はあんずだけだって何度言えば良いんだろう?襲われても文句は言えないと思うけど。
「こんな所で無防備に寝てると、王子が来る前に騎士に食べられちゃうんじゃない?」
……それ、瀬名先輩のことですか……
「さあね」
それより、はやく顔上げなよ。
アプリコットブラウンの髪を揺らして、林檎のように赤い顔、動揺して震える声に、白くて細い指に覆われた唇、伏せた睫毛の下に見える潤んだ瞳とか、そのどうしようもないくらいの顔が見たい。夕陽に照らされたって分かるあんずの色は嫌いじゃないから。
それに、知ってるんだ。俺の声があんずにどんな影響を与えるか。ニヒルな笑みですら、あんずは瞳に焼き付けることも。
全部知っている上で、もう一度髪に触れる。柔らかくて指通りの良い髪。すぐ通り抜けるから、耳の裏に指をかけて顔を固定して。
「あんず、おはよう?」
「おはよう、ございます 」
眠り姫なんて柄じゃなかったかな。元から起きてたし。まあ、それもどうでもいいか。
唇を覆う指先は俺のもう片方の掌で絡め取って、ようやく見えた桃色の唇にキスをした。


夕陽は沈んだよ、もう、夜の時間だ
(どうせアンタは俺の瞳のスカイブルーしか見えてないけど)


END