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らん
2015-09-20 23:02:50
2892文字
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いずあん
『knights』『独占欲』
:瀬名泉×あんず
あれも欲しい。これも欲しい。
そういうわけではないのだ。欲しいものはごく一部で、それは俺が求めてやまない理想達。けれど手に入った時、きっと俺は死んでしまう。だから、進めない。
他人に生き方を固められて生きてきた。お人形として造られた「瀬名泉」で、これまでを過ごしてきた。他人の好意を着て、他人の言葉を盾にして、他人の視線を剣にして、他人の求める理想で笑顔を振りまいた。それがモデルとしての、アイドルとしての瀬名泉だ。
学院内での俺はきっとそんな良い子でもない。口は悪いし、他人を貶めることが楽しいし、何より他人が自分の言葉で表情を変える様を見るのはいつだって面白かった。他人が俺に強いてきた事を、自分が他人に返すことは道楽の一つになっていたのだ。
そのわりに、俺は他人の評価、他人の求める「瀬名泉」であるが為に努力を惜しまなかった。ストイックに、何事も自分を縛るようにしていたし、それが正しさであると思っている。瀬名泉は「瀬名泉」でいないと、存在を許されない。
だから心を殺すことは、バレエよりも得意だった。
そんな中、俺が「ただの瀬名泉」として理想にしたものがある。それがゆうくんだ。
完璧で、綺麗で、永遠に輝く光。「ただの瀬名泉」を「お兄ちゃん」としてくれた、希望。一緒に閉じこもって雁字搦めに縛られた硝子細工。
今ではその光も、俺を置いて前に進んでしまった。眼鏡という仮面を作って硝子細工であることを隠していたゆうくんは、それでも認めて貰えたんだろう。「ただの遊木真」であることを知れて、心を殺さなくても幸せなのだろう。俺という鳥籠がなくても、生きていけるようになったのだ。
その瞬間、俺はそれでも前に進もうとは思えなかった。前に進まなくても良いとさえ思った。この均衡が崩れたら、「瀬名泉」は死んでしまう。追い続けることが、俺を瀬名泉として生かす方法なのだと無自覚に気づいていた。だから、進まない。
そうして生きてきた俺に、イレギュラーな存在が出来た。それがあんずだ。
気づいたら目で追うようになった。危なっかしくて、そのくせ強くて。無表情にしようと努めているが隠しきれない感情が見えることに苛つくけれど、頑張る姿が俺のやる気になることもあった。ゆうくんと一緒にいる姿を見ることが多いのは、俺のせいだ。
自分の感情が分からないほど馬鹿ではないし、鈍くもない。この感情が巷でいう恋なのだと理解している。それでも、進まない。それを認めた時、「瀬名泉」は死ぬんだろう。
だからといって理想にも出来ない。あんずも俺に好意があるからだ。理想が叶っても、「瀬名泉」は死んでしまう。叶わない理想が「瀬名泉」の糧なのに。
心を殺して他人の理想を身に纏うことが「瀬名泉」である以上、悟られてはいけない「ただの瀬名泉」の感情だった。
「瀬名先輩、」
ハッ、と意識が覚醒する。近くで聞こえた声は凛とした女子特有のもので、あんず以外にはあり得なかった。どうやら練習の休憩中に眠ってしまったらしい。あたりを見渡せば、鏡張りのレッスン室のあちこちに俺とあんずの姿を視認出来る。
「チョ〜最悪
……
俺、寝てた?」
「はい、5分ほど。私が一度レッスン室を出る時は起きてたので
……
」
水を買いに行っていたらしく、手渡された冷たい水を首筋にあてると頭が冴えた。短い時間で悪夢を見ていた気がする。掌に滲んだ汗が気持ち悪い。
「お疲れのようなら、今日はもう終わりにしましょうか
……
?」
「いい。やる。仕事が入って皆より遅れてるし。ユニットの足引っ張るのだけは御免だね」
「
……
先輩、少しは甘えること覚えた方が良いですよ?」
「はぁ?チョ〜うざぁい。そのセリフ、そっくりそのままあんたに返してあげるよ」
背負い込んでも笑ってばっかりで、泣き顔なんて誰にも見せないくせに何を抜かすんだか、このプロデューサーは。
甘えても許される場所があるのに、あんずはいつだって笑って誤魔化すのだ。そういう所に惹かれたのだけれど。弱いくせに強くて、前を向いていける、俺にはないものを持っている。
「じゃあ、私も甘えるので先輩も甘えてください」
「あんたに甘えるくらいならゆうくんに会いに行く。そっちのほうが癒されるしサイコー」
「遊木くんにまた嫌がられますよ
……
」
「嫌がる所も可愛いよねぇ、もっと素直になってくれたらいいのになぁ」
「
……
嫌がってるって分かってるのに、やめないんですね」
「やめないよ、諦めてないからねぇ」
「瀬名泉」は理想がないと死んでしまうから、やめられない。だって誰も「ただの瀬名泉」を認めてはくれないのだから、「瀬名泉」を作るために理想はずっと必要じゃないか。
「
……
先輩は、甘える場所なんて欲しくないように思えます」
「要らないからね」
「認めてほしいのに?」
「
……
気づいてるなら、気づかないフリしててよ」
認めてはくれないと知っている。他人に期待なんてしていないから、認めてくれてもいつかは離れると分かっている。だから守るために進まない。結局いつも、何もかも自分で雁字搦めにしているのだ。
だからもう放っておいてよ
「嫌っててほしいんだよ、」
「
……
じゃあ、嫌ってますから、一度だけ甘やかさせてください」
それで全部終わりにします。
ほら、やっぱりあんずは強いんだ。泣きたくても笑って、駄々なんてこねないで、今日も強くあろうとする。だから、惹かれたんだよ。
「
……
これで全部終わりにしてよ?」
「終わりにします。」
「じゃあ、良いよ」
真正面から抱きしめられた。抱きしめ返して、身体全体で体温を貰う。「ただの瀬名泉」を許してくれる存在。ゆうくんとあんずだけが許してくれた、「ただの瀬名泉」の居場所。「瀬名泉」の為に要らない居場所。
「先輩、一度だけですから、言わせてください」
「なぁに?」
「好きです」
知ってるよ。俺が望めばこの温もりを俺だけのものに出来ることも、笑顔も、泣き顔も、唇も、体温も、望めば手に入ることも、全部知ってる。
知ってる上で、俺は手放すんだ。「瀬名泉」のために、なんて言い訳して、「ただの瀬名泉」の臆病さを利用して。
他人に期待なんてしていない。だから、離れた時が怖くて仕方ない。他人の理想を裏切った時の結末も分かっているから、何にも出来ない。
「
……
知ってるよ、あんず」
俺もきっとそうだから。恋だと分かっているから。
「あんず、一度だけ許して」
「はい、何でも」
セミロングの髪に隠れた首筋にキスをする。言葉にしてしまえば溢れて止まらなくて俺が変わりそうで、どうしようもない代わりに、ズルをした。
「これで終わり」
「
……
はい、終わりに、します」
泣かないでよ。俺だけのものに出来たかもしれないものを見ると、どうしても手を伸ばしたくなる。理性なんか放棄して、欲しくなる。
独占欲は、理想だけで充分なんだよ
「先輩が自分に誇りを持てた時、迎えに来ます」
「
……
覚えておくよ」
プロポーズはきっと、叶わない。
END
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