らん
2015-08-30 23:02:37
2910文字
Public
 

まお→あん


『Trickstar』『存在価値』
:衣更真緒→あんず



「俺はまだ、認めたわけじゃない」
出会って間もない頃あんずに向けたその言葉は、自分にも向けた言葉だった。
信用しきれていない、認めたわけじゃない、あんずを支えるフリをしつつ、いつだって根底にあったのは行動と反する思いだ。Trickstarとしての衣更真緒、生徒会としての衣更真緒、自分で足枷を増やして雁字搦めにして、逃げ出さないようにしていた自分自身にも反響させていた、言葉のナイフ。
俺とあんずは似ている。必要以上に手助けをしてしまったり、相手の思いを抱え込んで自分が潰れそうになったり、性分だからと世話焼きを辞めることはしなかったり。まるで鏡のようにそっくりで、それがどうしようもないほど、嫌悪すらしてしまうほど、耐え難かった。しかも、鏡のようにそっくりなくせに、俺とあんずは決定的に違うものがあったのだ。その「決定的な違い」が羨ましくて、欲しくて、焦がれて、憎さすら覚えて。
そうやって嫌悪して、憎んで、羨ましがるだけの自分はより一層嫌いだった。

***

合宿で花火を全員で見た時、俺の存在価値は此処で本当に合っているのかと悩んでいた頃の自分をふと思い出した。綺麗なものを見ると感傷的になるのはやめた方が良いと知っていながら、瞳に入り込む色の火花と共に記憶も逆流を起こす。
俺は俺であって、他の誰でもないと腑に落ちたのはまだまだ最近の出来事だ。Trickstarの衣更真緒も、生徒会役員の衣更真緒も全て自分だと認識したはいいものの、悩みなんてないように笑うメンバーを見ていると、俺は小さい男なんだと思い知らされる。
皆、それぞれ抱え込むものがあって、それでも笑っている。踏ん切りをつけて、それをバネにしているのだ。そんな中、俺は本当に踏ん切りをつけられたのか自信がない。腑に落ちたはいいものの、感傷的になるとぶり返すのはいつだって「衣更真緒」の存在価値の有無であり、今日もそれは変わらなかった。
「真緒くん、今日は表情がコロコロ変わるね」
隣で静かに花火を見ていたあんずから声をかけられて、思わず素っ頓狂な声を上げる。そんなに?と苦笑すると、あんずもつられたように苦笑した。
「お昼は前髪下ろして恥ずかしそうにしたし、茶化して失敗して照れたり、さっきまですごく幸せそうだったのに、今は眉間に皺が寄ってたよ」
「さすがプロデューサーは目の付け所が違うなぁー……
「真緒くんもいつも言うけど、私達似てる所多いから、なんとなーく気持ちも分かるけどね」
「えっウソだろ?!」
「綺麗なものみてると、感傷的になるの。……だから、真緒くんもそうなのかなって」
本当に敵わない。こういう所、すごく苦手なんだ。他人を気にするがあまりに表情を読むのが上手くなって、どうやって立ち回れば良いのか考えてしまう自分を見ているようだから。
なんて建前でずっと嫌っていれたら楽だったのに。
「こうして皆と過ごせる今があるのは理解してるんだけどさ、やっぱりまだ俺の存在が必要なのか悩んじゃうんだよ。……いつ、必要とされなくなるのか、怖い」
俺とあんずは似ている。似過ぎてる。そんな中、決定的に違うものがコレだ。あんずは「助けること」に意義を見出している。それに対して、俺は「必要とされること」に意義を見出しているのだ。手段は同じでも、目指しているものが違いすぎる。
誰かの中に俺の「存在」があってほしい。逃げ出さないようにしていたわけじゃなく、「自分の存在価値の証明」の為に人助けをして、世話を焼いていた。無意識的に働いていたその思いが俺の足枷を増やしていく。
しかし、あんずは自分自身の為ではないのだ。いつでも他人を思いやれて、他人の為に動いていける。存在価値なんて考えずに、きっと本能で動いている。打算なんて無くて、ただひたすらに純粋で、綺麗で。
だからこそ手段が同じことに同族嫌悪して、それなのに目的が正反対で生きていることに憎さを覚えた。綺麗すぎて、感傷的になった。見ていると眩しくて、俺も綺麗になれるような気がして、なれなくて。
そう打ち明けたのはいつだったろうか。他人の為に動けることを知っているから、きっと俺は話してしまったんだ。こんなに汚い俺でも受け入れてもらえると思ったから、曝け出したんだ。
どう足掻いても存在価値を求めることに嫌気を覚えながら。
「真緒くんはいつも自分を汚いって言うけど、皆そうだと思う。……誰だって認められたい。誰かの中に自分の存在が欲しい。その気持ちが真緒くんは人より多いだけで、それが汚いと私は思わない」
「あんずはそうじゃないじゃん」
「私だってあるよ。……ずっと真緒くんに嫌われてると思ってたから、認められたくて必死になった時もあるの」
……は、?」
花火は未だにあがっている。後ろではスバルと真が手持ちの花火ではしゃいでいて、北斗がやんわりと注意している。その喧騒に紛れてもなお、あんずの声は俺の耳に届いた。
「真緒くんは優しいから、打ち明けてくれた時もぼかしてたけど、私のこと嫌いだったでしょう?」
無言を肯定と受け取ったらしいあんずは苦笑する。そうだ、嫌いだった。嫌いだったよ。でも、今は――
「認められたくて必死になったけど、媚を売るような方法で心を開いてもらっても虚しいと思って、やめたの。Trickstarを手助けして、徐々に理解していけたらなって」
それで今こうして隣に居られるから、私の判断は間違ってなかったね。
あんずの笑った顔は一際大きな花火に照らされて、俺の瞳に焼き付いて離れない。その照れたような声色も、俺の脳に反響するようで。
綺麗すぎて眩しいぐらいだ。俺とあんずは似ているようで、やっぱり似ていないのかもしれない。俺はこんなにも誰かを思って何かを成し遂げたことがあっただろうか?思い返しても、Trickstarとしてやったことしか無い気がする。
「あんずは、すごいよ」
俺もそうなりたい。存在価値を求める為だけに生きるのはもう疲れた。足枷だと思うことすら、もう嫌だ。そう思いつつまだ変われていない俺だけど、それでも、
「真緒くんもすごいよ。私なんかより、もっともっとすごい!優しすぎて、心配になるけど」
「それはこっちの台詞だ」
「アハハ、」
――それでも、いつかあんずのようになれるだろうか。
あんずが俺を「優しい」というから優しいだけで、俺は優しくなんかない。いまだに存在価値を証明するための手段に「手助け」を使うし、きっと簡単には変われない。分かっているけれど、いつかは「助けること」に意義を見つけたい。俺を救い出したあんずのように、自分のことは一切抜きで誰かを助けることが出来るようになった時、自分を好きになれると思うんだ。
「ありがとな」
「いえいえ、似た者同士ですから 」
「そーだな、これからも宜しく!」
今は、この感情に名前を付けなくてもいいだろうか。俺が認められる衣更真緒になった時、この想いに名前を付けたい。本当の「似た者」になれたら、認められると思うから。


END