らん
2015-08-24 00:14:44
1990文字
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いずあん


周りからバレないように、周りと同じような扱いをしてくれているのだろう。そう思い込むようにしていた。それで良いと思っていたし、それが当然だとも思っていた。けれど、実際は、ほんの少しくらい甘さが欲しいと言ったら。きっと先輩は私を捨てるんだろう。
瀬名泉という恋愛が出来るかどうかも怪しい完璧主義で潔癖で後輩である遊木真を追い回すストーカーとお付き合いをはじめて数ヶ月。あんずは本来なら幸せなはずの毎日に、溜息をついた。もう何度目だろうか。1日1回以上だから100回はゆうに超している。
彼氏彼女という特別になったわりに、彼の対応は以前と変わらず、むしろ、対等すぎるのだ。彼にとっての「特別」とは一体何なのか分からなくなってしまって、あんずにとってはそれが少し寂しい。想いを伝えて、同じ気持ちだと知って、付き合うことになって。彼女の浮かれていた気分はどこへやら、今では泉を見ても曖昧にしか笑えなくなってしまった。
今日だって、プチ合宿と称して嵐が企画した練習に副主催という形で参加しているものの、もう少し何かあったっていいのでは、と思わないこともない。いや、でも、ここは仕事であって、私情は持ち込めないし。なんてモヤモヤとして、もう一度溜息。
そこまで魅力がないのだろうか、それとも、「特別」な付き合いではなかったのだろうか。彼にとって自分とは、一体何なのか。
悩めば悩んだだけ溜息は大きくなる。膝枕ー、と言われて仕方なく貸していた膝もそろそろ痺れてきた。休憩はあと5分で終了だ。
「凛月くん、もうそろそろレッスン再開するよ」
「んー」
「凛月くーん、皆ウォーミングアップしてるから……
室内のほうが涼しいからと休憩は校舎内を指定していたのに、凛月以外のメンバーは既にグラウンドでウォーミングアップをしている。そんな中、いまだに起きない凛月にも小さく溜息をついた。
すると、タイミングよく教室の扉が開く。視線をやればそこに立つのはあんずの溜息の一番の原因、瀬名泉だ。
「ちょっとくまくん!いい加減にしてよねぇ、レッスンしなきゃなんないんだからさぁ」
「ゲェー……セッちゃんうるさー……俺昼は無理なんだって……
「この俺だって今日はしぶしぶやってんだから、あんたも参加しろっつーの!せめて日陰は用意してやるからさぁ、つうか、あんずもくまくん甘やかすのやめてよねぇ」
「す、すみません……
「あんずはカンケーないじゃん。セッちゃんの短気〜」
「あ?なに、喧嘩売ってんの?ぶち倒すよ?」
どんどん険悪になっていくムードに、あんずはまたも溜息をつく。膝に乗った凛月の頭をそっと持ち上げて、そのまま床に移動させれば、不機嫌そうに凛月が起き上がった。
「あんず……?」
「レッスン終わったら良いから、ね?」
「えーじゃあもういいや。このまま寝る」
再び床にそのまま寝転がる凛月にしびれを切らし、泉は凛月の顔めがけて右足を振りかぶった。
「くまくんマジで蹴る」
「あーーーー!瀬名先輩ダメですアイドルは顔が命です!!顔蹴っちゃダメ!」
「あんたは、」
どっちの味方なわけ?
泉の咄嗟の言葉に、あんずは息が詰まるような思いだった。それを、その言葉を、あなたが言うのか。今まで散々対等に扱ってたのはそっちなのに、こういう時だけ、そうやって。
「俺だって膝枕してもらったことないし!暑いし疲れるしチョー最悪な気分の時にこの光景見た俺の気持ち考え、」
「セッちゃんヤキモチー?」
間髪入れずに発された凛月の言葉に、泉の身体が大げさなほどビクリとしたのは見間違いじゃないだろう。あんずは思わず溜息ではなく、ポカンと口を開けて泉を見やる。
「な、な、チョ〜うざぁい!違う!忘れて!」
「べつにいーじゃん。付き合ってんでしょ?いつヤキモチ焼くのかな〜って思ってたけど、ずーっと無反応だったからさぁ」
セッちゃんもちゃんと男なんだね。
寝転んだまま笑う凛月に、泉は今度こそ顔を赤くして凛月の足を蹴る。それでも尚笑う凛月と、最悪だと愚痴る泉を交互に見て、あんずは今度こそ曖昧な笑みではなく、本心で笑った。
完璧主義で潔癖で遊木真のストーカーで何が「特別」なのか教えてさえくれなかった先輩が、ヤキモチを焼いたなんて!
「なんであんずも笑ってんの!チョ〜うざぁい!」
「だって、」
「ちょっとぉ!泉ちゃんも凛月ちゃんも遅ーい!何してるのォ?」
「お姉さま、午後のlessonは何ですか?」
結局ユニット全員が集合して、泉の「特別」な赤い顔はあんずだけのものにはならなかったけれど、それでも幸せだった。ちゃんと、「特別」なのだ。瀬名泉の「特別」として、存在しているのだ。
今度は二人きりの時に、その綺麗で可愛い顔を見せてほしい。
メンバーにからかわれる泉を見ながら、あんずはもう一度微笑んだ。


END