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らん
2015-07-28 00:49:56
3009文字
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いずあん※女子の日ネタ
※生理ネタ。
「最悪
……
」
よりによって、こんな日に忘れるとは。
あんずはポーチを開いてただ呆然とするしかなかった。下腹部は既に相当な痛みを伴っていて、正直立ち歩くのも辛い。本来授業を行う自クラスならまだ良かったものの、今日に限って3限は移動教室だった。その3限はあと10分で終わりを告げる。
あと、10分。果たして立ち上がれるのか、自クラスまで戻れるのか、なんて、どうにかするしかない。ここ、アイドル科には自分以外に女子などいないのだから。
元々生理痛が酷い方だった。高校1年の冬に生理痛で気絶し、それをきっかけに産婦人科に行くと、お腹に変なゼリーみたいなジェルを塗られてエコーを取られ、一体何を言われるかと身構えれば月経困難症でも何でもなく、ただ、人より内壁に付着した排出物が多いと言われた。生理周期が悪いわけでもないし、ピルではなく漢方薬と、生理痛が酷ければ、と渡された錠剤達。何かあったらすぐに来てね、と言ってくれた女医さんにはここ最近会えていない。
この学園に急遽転校してきて、あの優しい女医さんに会いに行くなんて、そんな暇は無かった。幸い転校直前に多めに貰っていた錠剤が家にはあるのだが、今日はそれをポーチに入れていなかったのだ。
(前の生理の時、緊急で飲んで補充するの忘れてたんだ
……
)
2限の終わりに生理が来たことに気づき、3限の授業中にでも薬を飲もうとポーチを開けば空っぽだった時の絶望感ときたらなかった。痛みはどう足掻いたって消えてくれないし、今回は相当重いようで息をするのも辛い。それでも、それを悟られるわけにもいかなかった。周りにこの痛みを理解してくれる人は誰もいないのだ。自分でどうにかしなければ。
せめて血行だけは良く見せようと淡く色づくリップを塗り、居眠りのフリ。お腹を擦って紛らわしてみるものの、ここまで酷いともう気絶した方が楽なのは経験で分かる。
「今日の授業はここまでー。はい、解散」
先生の声が通ると、ガヤガヤと辺りが騒がしくなる。あんずー、と呼ぶのは多分スバルの声だろう。それを確実に判別するほどの気力も今の自分にはなかった。
「あんずー、授業終わったよーおっきてー」
「珍しいな、居眠りなんて」
「あんずちゃん、いつも真面目に聞いてるもんね。あんずちゃーん、教室戻ろう?」
ああ、いつものメンバーだ。痛みも何もかも見抜かれないように笑わなくては。弱みは見せられないのだ。頼れるのは、自分しかいない。
「
……
おはよ〜
……
ちょっと寝不足で
……
」
「寝不足?もしかしてまたプロデュースを何件か抱え込んでるのか?」
「ううん、勉強してたら熱中しちゃって
……
全然机片付けてないから、申し訳ないけど先行ってて!その後飲み物買ってから教室戻るので」
「分かった、じゃあ先に行ってるね」
違和感もなく受け入れられたことに内心で一息つき、生徒が誰もいなくなった教室でようやく痛いと呻くことができた。ダメだ、本当に、今日はやばい。
保健室に行ったほうが良いのは分かっている。しかし、どうにも男の保健医に生理痛というのは気が引けるし、サボり魔だから保健室自体が開いていない可能性もある。そう考えると帰宅したい所だが、まず帰宅出来るほどの体力もないし痛みも酷い。八方塞がりだ。
「こういう時、女の子が居ればなあ」
薬を持ってたりするのに。痛みを共有できるのに。
弱音を吐いたって始まらないのだけれど。
下唇を噛んで、痛みを痛みで誤魔化しつつ片付けを済まし移動教室を後にする。自クラスまでの道程は渡り廊下を渡って、階段を登り、一直線。普段の自分で約5分の道程だ。腕時計で時間を確認すると、既に5分は経過している。4限まで残り時間5分。もう確実に間に合いそうにない。誰にも出会わなければいいなあと壁に手を這わせながらゆっくり歩く。
痛い、しにそう、寝たい、気絶しちゃいたい、自分しかいないのだから、薬を忘れた私が悪いんだから、頭に巡る思考はぐちゃぐちゃだけれど、それが唯一意識を保つ為の最後の砦だった。これを手放したらこの場で蹲って気絶するのが目に見える。
渡り廊下を半分過ぎたところで、前方から複数人の声が聞こえてきた。壁から手を離し、至って普段通りです、とでもいうように背筋を伸ばして歩く。速度はさすがに普段通りには出来なかった。
誰だろう、知らない人だといいな、いや、アイドル科に知らない人なんていないのだけれど、あんまり関わりのない人達だと有難い。今はちょっと精神を削られる人にも会いたくない。
――
なんて、今日はどれだけ最悪な日か忘れていた。
「あっれぇ、あんずちゃんじゃーん!やっほ〜、移動教室の帰り?一人?珍しいねー」
「
……
羽風先輩、に、
……
えーと、3年A組の皆さん」
最悪だ。苦手な人ばかりのクラスに当たってしまった。英智先輩くらいしかにこやかに話せない。
それでも必死に笑顔を貼り付けて、歩いたまま挨拶を交わす。
「こんにちは。先輩達はこれから移動教室なんですか?」
「そーそー。ここで会えたのも何かの縁だし、あんずちゃん今度遊んでよ〜」
「遠慮させていただきます」
「それにしても、時間ギリギリだぞ。次の授業には間に合うのか?」
「あ、はい、頑張ります」
「もっと余裕をもって行動しろ」
「まあまあ、敬人。あんずさんも色々大変なんだよ」
すれ違うまであと5歩程度。このまま、はやく行ってほしい。きっと先輩達の方が歩くのは速いのだ。それを待って、ゆっくり行こう。胸に抱えた教材を強く握って痛みに耐える。
と、瀬名先輩と目が合った。いつも先輩は不機嫌そうな顔をしているけれど、今日はなんだか
――
「ちょっと荷物預かっといて」
「は?あ、おい、泉?!」
千秋先輩に自分の教材を押し付けると、瀬名先輩は先頭を歩いていた羽風先輩と敬人先輩を追い抜かす。先輩達と私との間の約5歩の距離はたったの3歩で埋まり、目の前に立たれたと認識した瞬間、私の身体は浮いていた。
「っ、
……
え、?!」
腰を触られることはなく、太ももから一気に上に持ち上げられて、そのまま背中を抱えられる。浮遊感があったのは最初だけで、背中を抱えられる時なんて所作が丁寧で優しすぎて、何が起こったのか理解できなかった。
「ちょっと、泉くん?!」
「遅刻するって言っといてぇ、このクソバカ送ってから行く」
「え、ええ?!」
ちょっとーー!という羽風先輩と千秋先輩の声が聞こえるのに、それを無視して瀬名先輩は私を抱えたまま足早に闊歩する。速いのに、振動が全然来ない。そういえば瀬名先輩の特技はバレエだったっけ。そりゃあ持ち上げるのも運ぶのも慣れているわけだ。
「瀬名せんぱ、」
「クソバカっていうよりクソアホ!あんた何してんの、もしかしてこのまま授業行く気だったわけ?」
「あの、意味が、」
「腹痛酷いんじゃないの、今」
「な、なんで
……
?」
「あんな顔で笑ってりゃ気づくっつーの。つうか、あんた色付きのリップ塗る時大抵生理でしょ。なるくんもそれには気づいてるし
……
。しかも、前にレパミピドとロキソニン併用してたから重度。気づかれたくないなら俺みたいにサプリメント常用者とか、そっちの知識に明るい奴の前で薬なんか飲むな」
「
……
ごめんなさい」
「薬は?」
「忘れてきちゃって
……
」
「もういい。分かった」
続きは今度!
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