IchoKaede
2024-09-17 11:09:13
2918文字
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BLAZE GRIEF -プロローグ-

獣山学園 犬ぞり部2期 X(旧Twitter)交流企画に参加中のキャラクター「浅海 湧治」スピンアウト小説作品です。
主人公は彼(↓リンク先をご確認下さい)
https://x.com/inodogs/status/1740319359426527275
キャラクターデザインは鮫式犬雄さん@inodogs、
元キャラはくーりさん@kuuri_krttです。感謝✨
目指せ CERO Z(※ライトノベルや青少年向け漫画レベルの暴力その他表現を含みます)。



プロローグ

 喧噪が渦巻く夜半の歓楽街。電灯の明滅する路地を2つ抜けると、そこは一面の血の海だった。
 幾度となく雨が乾いた跡とヒビが目立つコンクリートの壁。カラカラと古びたファンが回る幾つもの室外機。隅には投棄された分別のされていない腐臭を放つゴミ袋。そこに人体を巡っていた鉄の臭いが足下から立ち上ってきており、駆け付けた息の荒さから鼻腔と口は瞬く間に吐き気をもよおす臭いに支配された。
 嘔吐きたくなる口元を腕で拭い暗闇に目をこらすと、月明かりと窓から漏れる弱い室内灯に照らされた暗闇に浮かぶ人影が二人。……正確には一人と焼死体ヒトだったもの
 正面に見える黒い服の男は灰緑の長髪をなびかせながら振り向き、口を開く。
「お、ようやく到着かよヒーローさん」
 顔はバイザーに覆われて容貌は窺えないが、声は若く青年のようだ。その一言と共に、ぶっきらぼうに掴んでいたものを足元に捨てた。
「残念だったなぁ? お前の守りたかった命ってのは文字通りになっちまったぜ?」
 サッカーボールの位置決めをするようにつま先で2、3回つついたかと思うと、道端のゴミ袋を邪魔だからと蹴り飛ばすように、地面に落とした亡骸をこちらに一蹴した。
「コイツのお涙チョーダイなセリフ、お前にも聞かせてやりたかったなぁ。『アイツが悪いんだ、俺は関係ねぇ、だから命だけは! 命だけはぁ!!』って、汚ったねぇ手でオレの足に縋りついてきてよ。ウゼェから焼き殺しちまった」
 三下が知らずに親玉へ害をなしてしまった様子を、よほど滑稽だったのかヘラヘラとおどけながら三文芝居を打って見せる。
「んなの最初っから知ってるってーの! だから先にアタマ潰して腹かっさばいてモツ引き出してばら撒いてンだからさぁ! したら腰抜かしてションベンも糞もちびらせてやがんの。ガキかっつーの」
 辺りに染み渡っている血液はどうやら人としての形を留めないまで害された1人目の被害者のもののようだ。よく見ると視界の端には砕けた頭蓋骨、こぼれた内容物。挽き肉となった死体と腸が包んでいた消化物が、ゴミ袋からこぼれた内容物と共に異臭を放ち、ひとかたまりの腐敗物となってしまっている。
 現場の凄惨さを意識してしまい、胃が収縮し吐瀉物が口の端から血溜まりの上にこぼれ、マーブル模様をつくっていく。その光景がよほど愉快だったのか、目の前の当事者はんにんはゲラゲラと下卑た笑い声を腹の底から響かせていた。
……あー、で、お宅なんの用? 見ての通り、助けを求めてた野郎はもういないんだがな」
 潰された1人目、消し炭にされた2人目の無念を思うと、怒りに手が震える。こいつはここで止めねば、と力を入れ直し、黒い服の男に構えをとる。
「はぁ? アンタ、自分が何か変えられるとでも思ってるクチのヒト? 祝福ギフテッドになって、ヒーローになったからって世界でも救える気になってんのか? 江独市このまちから出られないのに?」
 そう、ここは元・首都 江独市こどくし。黒い服の男もじぶんも、いわゆる超能力者だ。
 ――ヒトは進化の中で『社会性』を発達させてきた。その中で異質なものを排除するのは集団としてのメリットを確保・維持するのに不可欠だ。
 だが野放しにもできない。ならば、ひとつところで管理してしまおう。それが全天周型ドームに囲われた特別都市区画の江独市である。
 秘密機関が都市の地下で行っていた実験が暴走・失敗してグラウンド・ゼロとなったこと、直後から急増した超能力者……祝福ギフテッドにより混沌とした時期もあった。暫定政府が下した都市規模核シェルターの内外反転運用が功を奏し、国の内部崩壊は免れた歴史もある。
 そんな奇跡が積み重なっているのに、どうして悪事に能力を使うことができるのか。だからヒーローはここにいる。
「どうせ誰にだって目の前の命ひとつ助けることだってできねぇんだよ。そんな道ヒーロー選んで、今回こんなことだって間に合ってねぇのにな? 後悔の数だけ増えていくばっかりだろ? なぁ?」
 バイザーに隠されて見えないが、その瞳は嘲笑っているのが感じられた。
 今まで助けられなかった人々の事切れた瞬間の顔が浮かぶ。今回は……今回も助けられなかった。例え、それでも、私には……!!
……バァーカ、ヴィランの言うことなんか正直に聴いてんじゃねぇよ。――サラマンダー!!」
 ダンッと踏み込んだ片足の先から炎が広がる。まるで血だまりが石油のように、足もとから全身にまで炎が延びてくる。
「一瞬、考えたろ? 考えちまったんだろ、助けられなかった奴等いままでのこと。目の前のオレから意識を放すなんてキンチョー感足りてねぇな。むしろ足りてねぇのはおつむの方か、なぁ?」
 陽炎のごとく黒い男の輪郭が歪む。酸素を求めて吸う息で喉まで焼けてくる。耐えきれなくなり、膝から崩れ落ちる。
 
 一面の火事に巻き込まれたのか、視界の端に小さな子供が倒れていた。
「は……やく……
 早く逃げるんだ、早く助けなければ。
……たすけ……なければ」
「あ……、ど……して、たすけ……くれなか……
 自分の耳には細々とした子供の声が、だがしっかりと聞こえてきた。生きている、目の前の子は、まだ生きている!
「あのとき、どうして、たすけてくれなかったの?」
 爛々と燃え盛っていた炎は消え去り、ステージの上でスポットライトに照らされている様に、いまこの場には私と子供のふたりだけ。
 倒れていたはずの子供が、いま自分を見下ろしている。片方のまぶたが水ぶくれていて、その肌はひどい火傷でケロイド状になっている。
 ――思い出した。いや忘れることなんてできない。この前の事故現場。目の前で助けを求め泣き叫んでいて、しかし他の大勢を救う為に見捨てざるをえなかった、その子供だった。
「済まない……、ごめんな……
「いたいよ、くるしいよ、たすけてよ」
 焼けただれた手は今なお助けを求め、私の顔に触れる。ぺたぺたと手を這わせ、その度に皮膚と破けた水ぶくれがべちゃべちゃと付着していく。
「いたい、あつい、くるしい、たすけて」
 自分の周りには、いままで助けられなかった人たちが立っている。
「痛い、熱い、苦しい、お前のせいだ、お前のせいだ……
「済まない…… 助けられなくて、済まない……
「お前だ、お前が私たちを殺した」
「もう……やめてくれ、お願いだ やめてくれ……
「おまえがおまえだおまえだおまえがおまえがおまえがおまえおまえおまえおまえおまえ」
「やめてくれ!! ああぁぁぁーーー!!」

 涙、鼻水、唾液。顔の穴と言う穴から分泌液を垂れ流すヒーローこしぬけやろうを蹴り転がし、ゴミを見る目で吐き捨てる。
「ハッ、中途半端になんかするからオレの害意ゲイザーにも耐えられねぇんだよ」
 しゃがみ込んで顔に唾を吐き着け、『人生ってものはなんてくだらないものなんだろうな』と呟く。
 胸もとにある有機物か無機物か判別のつかない目玉からは青緑色の妖しい光が燻っていた。