IchoKaede
2022-05-02 20:10:18
4139文字
Public
 

今夜月の見える丘に

オレがアイツに片想いしていたら、オレ自身に片想いされていた件について

【表紙イメージのイラスト】



【はじめに】
本作は🌊←💤の、浅海湧治を好きになってくれた眠根柚くんとのお話です。
柚くんの気持ちは主にこちらの4作のSSが投稿されています!
https://poipiku.com/3881539/6286898.html
https://poipiku.com/3881539/6378985.html
https://poipiku.com/3881539/6400036.html
https://poipiku.com/3881539/6507866.html

また、浅海湧治は他のキャラに『好き』の感情を向けていました。
時系列としては↓こちらの続きとなります。
https://privatter.net/p/8507359

今作を一層楽しめると思いますので、ぜひご一読下さい。🙏✨️


【登場人物紹介】
💤眠根柚(羊野メフィさん@youmou_mohimohu)


🌊浅海湧治(あすなろ@IchoKaede)


(ゲスト)
⛩厳島信玄(鮫式犬雄さん@inodogs )
☀️誉太陽(44さん@ClawLion )





【本作のイメージソングについて】
今夜月の見える丘に/B'z
・曲へのリンク

眠根柚くん視点をイメージしています。
I love you. を「月が綺麗ですね」と表現したその人は偉大です。

オーバートイ/phatmans after school
・曲へのリンク

浅海湧治の視点をイメージしています。
彼の手を振り払ってしまった湧治は、果たしてこれからどんな思いを抱えて過ごすのでしょうか…… ( ˘ω˘ )


――――――――――――――――――――――――
【今夜月の見える丘に】


恋の季節、バレンタインデーが過ぎて少し経った。
もし月が出ていたら、その輝きから音が響きそうな深夜。雪がしんしんと降り積もる音がよく聞こえる。
過去のトラウマか今抱えてる悩みが原因か、そんな時間に目が覚めてしまうオレは、テレビの雑音が欲しくて共用スペースに向かう日が増えた。

部活の皆との交流のおかげで家族の事を考える時間は減ってきた。だがこれが幸か不幸かは分からない。
その部活の事や仲間との事で、結局のところ独り悩む時間は変わっていなかったりする。

その悩みのひとつはポジション変更への事だ。
『皆と一緒に走りたい』その思いでホイールからマッシャーへ切り替えを志した。寮長――太陽先輩もオレの気持ちを後押ししてくれている。
だが、きっと顧問の厳島先生は「よし、やってみろ。」とは言わないだろう。
「何故ホイールの適正を持ちつつ、それを捨てるのか。」
「今からマッシャーのトレーニングを始めたところで、初めからマッシャーのトレーニングを重ねてきたメンバーと肩を並べられるのか。」
少なくともこの2点は課題として出されるだろう。

「やりたいから『やりたい』んだよ……
 みんなに置いて行かれたくないんだ……

そう誰に言うともなく、つぶやく。
――こんな時、誰に何を頼ったらいいのか分からない。なんでも一人でできるよう頑張ってきた弊害だ。

もうひとつは仲間への感情の事だ。
オレが『恋だと思い込んだ』感情を向けたアイツは自身の想いを意中の相手に伝えられたのか、とぼんやりと考えている。

「オレ自身はアイツの事が好きだ。ただそれは単純に嬉しかったことの裏返しなんだよな……
 アイツの胸の内にある『恋』って、『好き』って何なんだよ一体……

――本当にこの世界は分からないことだらけでイヤになる。


――トトトトッ……
そんな事を考えていると、共用スペースに近付く足音が聞こえた。耳だけ入口に向けて立てて、「あぁまたアイツか……」と思う。

――カチャ……スッー……
本人は気付かれない様にしているのだろうが、オレたちの聴力は良い。
「(今日も来たのか……独りで居たい時は少し鬱陶しいな……)」
仲の良い同級生に対してそんな風に思ってしまう自分にも嫌気が差す。

「湧治君、今日も夜更かし? ちゃんと寝ないとダメだよ〜。」

マネージャーの眠根柚はソファーにぽすっと音を立てて隣に座り、オレに声を掛けてくる。

……いろいろあンだよ。」

夜の暗さに引っ張られるのか、気持ちまで明るく振る舞うことができず、ぶっきらぼうに声を返す。

……ねえ、湧治君。」
「なんだ?」

そうして柚の顔を見ると、柚の目はいつにも増して熱を帯びて見えた。

「今晩は……
 今晩は、月が綺麗だね。」
……ん? 今は月なんか

窓の外を見ても、依然として雪がゆっくり落ちていっている。
月なんか見えないのに、と疑問に思いながら振り返ると、柚は視線を落とし耳まで赤くしていた。
その視線はいつかどこかで見た事があるもので、最近までオレもアイツに送ってたかもしれないものだ。

…………
 『月が綺麗ですね』……か。」
――!」

意に決した言葉が届いた事に、柚は少し体を緊張させる。
――だがオレの答えは……

「そうだな……
 『月には手が届かないから綺麗なんだよ』な。」
……え、それって…………
「済まない。」

「あはは……そうだよね。やっぱり湧治君は……
 そうだよね、好きな人、居るもんね……
 ボクなんて……

「? ちょっと待て、柚。オレに好きな人がって」
「いいよ〜、大丈夫だよ〜」

そう言って柚はスッと立ち上がり、逃げるように踵を返す。
オレは急いで柚の腕を取り、引き留める。

「だから待てって!」
「ちょっと……!! 痛いよ、離してよ!!」
「柚が振り解こうとして逃げるからだろ!
 ……逃げなくて良いんだ。頼むから逃げないでくれ。」
その言葉を聞いて身体に届いたのか、柚の力が抜けていく。

……だって……、だって……
「『オレの好きな人』? よく聞いてくれ。
 そっちの方は今は関係ない。
 そもそも、まだオレはどうしたいのか分からないんだ。」

…………
「さっき柚が『その気持ち』を込めて言葉にしたのは分かる。
 だけどオレは今、誰の事が好きなのか、『恋』って何なのかが分からないんだ。
 この頃、柚がよく近くに来てくれているのは薄々分かってた。でもそう想われてたとは思わなくて、柚の事をそう見れる自信が無いんだ。
 だから……今のオレには『その気持ち』に応えられない。」

「だったら僕、振られた相手の目の前に居るの、なおさら恥ずかしいよ……
 ……うわっ!?」

うなだれた体から力が抜けたその瞬間を見逃さず、柚をオレの身体に引き寄せる。
背中に手を回し、頭に手を添えてオレの胸に押し付ける。

「大丈夫、逃げなくていいんだ。
 心がひとつに重ならなくても、想いは受け止める。
 こんなオレでも好きになってくれた、それだけで嬉しいからな。
 ……ありがとう。」

……ぐすっ」
「だから、おもいっきり泣け。」

「湧治君。僕、湧治君の事が好きなんだよ。」
「あぁ。ありがとうな、柚。」
「僕のこと、『好きだ』って言ってよ。」
「ごめんな、柚。」
「謝らないでよ。」
「うん。」
「うぇえ〜ん」

誰かの一番になれる事が、こんなに嬉しいものだとは思わなかった。コレがオレの正直な気持ちだ。
だからせめて『好きな人の傍に居る』ことを、オレがされて嬉しいことを柚にしてやるのが精一杯の誠意だと思った。

……とりあえず、ソファーで座るか。」
「ぐすっ……、うん……

まだ夜も長い。
「もし弟が生きていたら、こんなことをしてやっていたりしたのかな……」なんて思いながら、柚の頭を撫でて、柚の体温を感じていた。

気付けば柚は泣き疲れたのか寝息を立てている。
オレも人肌の温もりを感じながら、雪の積もる音を聞き、穏やかな波のように寄せてくる眠気に身を任せてまぶたを閉じた。









……じくん、ゆーじくん起きて!」

柚に身体を揺さぶられながら、オレは寝ぼけた頭のままで

「んー……、なんだ柚、まだ寂しいか?」
「うわっ!」

ぐいっと柚を胸元に引き寄せて、背中に手を回し抱きしめる。

「柚ってあったかいな……
「んむっ! ちょっと! もう目ぇ覚ましてよぉ〜!」

その瞬間、周りがざわついた匂いになったのに気付き、一気に覚醒した。
『眠根と浅海ってそういう関係だったのか……
『なんかこの頃、浅海君と眠根君、よく一緒に居たもんね……
『前に二人で街のイルミネーション見に行ってたって、そんな噂もあったもんなぁ。なるほど、デートだったのか……

「っ!!」
「うわぁ!!
 ……あたた……急に起き上がらないでよぉ〜。」

ソファーから飛び起きた拍子に柚が転げ落ちた。

「あぁスマン柚、悪ぃな……
 ってお前ら! 違ぇからな!
 ってか朝練……の時間過ぎてる!!」

「お! 二人とも起きたか!?」
「太陽先輩!? 見てたんですか!?」
「ん? よく寝てたから起こさなかった!!」
「そう……ですか、あはは……

ニパーっとサンサン照りのお日様みたいな笑顔で答えてくれた太陽先輩に対して、柚とオレは苦笑いで返した。


――人の噂も七十五日。……しばらく続きそうだな、柚。


【今夜月の見える丘に】