もう少し続きそうなところで終わっていますが、続いたら…いいな…。半衿ときめき委員会に入会許可頂いた後書けてなかったので、挑戦で…!ほのかに鬼→水ってくらいの感じに見えるくらいかも…。でも最後の方はしっかり関係のできあがっている二人のつもりでいます。
身の回りのことは何でも自分でできるようにならなければいけなかった。くわえて水木は器用な方だったので、一通りのことはすぐこなせるようになった。
だが、裁縫を教えてほしいと義息に言われた時は驚いた。面食らったというか…、雑巾なら俺が縫ってやる、それとも服がほつれたか? と尋ねた水木に、鬼太郎は首を振り、自分でやらなくちゃ意味がないからです、と堅い意思をのぞかせる表情で答えた。そうか…、とわけがわからないながらも、ネクタイだけを外したワイシャツとスラックスのまま、糸の通し方、縫い方、玉留めの仕方、玉結びの仕方、ボタンの付け方、裾上げの仕方…、と丁寧に教えてやった。鬼太郎は水木にとっては真面目な優等生で、教えたことはすぐ吸収し覚えた。学校の勉強もこのくらい熱心なら…、と親なら一度は考えそうなことをこっそり思ったが、教師が全員水木だったなら話は違っていたかも知れない。
そうして水木が教えた裁縫が何の役に立ったか、結局水木は知らないままだったが、時を経て知ることとなった。正直、水木は教えたことを少し忘れていたくらいだ。
「あの、これ…」
正座であらたまって差し出してきたのは、きれいにたたまれた半衿だった。
水木は首を傾げてそれを見つめた後、これは…、と尋ねる。
「あなたに、使ってほしくて」
「…俺に」
きょとんとしていたのが驚きの顔に変わり、見ていいか? と尋ねる水木に、鬼太郎は黙って頷いた。それを見てから、丁寧に手にとり広げた水木の目には、生成り色の生地に刺繍された色鮮やかな南天の枝が映った
「……僕が縫ったんです」
「……………」
水木は口を開いて…、咄嗟に、何も言えず、まじまじとその刺繍を見た。けして派手ではないし、大きな柄でもないが、上品で、そして丁寧に、精緻に一針一針刺したのだろうと思わせるのに十分な出来映えだった。
水木はゆっくり顔を上げ、鬼太郎を見た。物静かな養い子は今日も変わらず落ち着いているが、それでも、うんと小さな頃から育てたのだ。ほんの少し不安に思っていること、水木の言葉を待って鼓動を早くしていること、緊張を覚えていることは読み取れた。何年親をやっていると思うのだ、と。たとえ一緒に暮らさなくなって数年が経つといっても、そんなにすぐに耄碌したりはしないのだ。
「…おまえが?」
鬼太郎はこくりと頷いた。水木は、我知らず微笑んでいた。そうして目を伏せ、また南天の刺繍を見ながら呟く。
南天は難が転じる、に通じる縁起物。
「俺を思って作ってくれたんだな」
「…っ、は、…はい」
最初の音だけひっくり返ったが、後は驚いたことをおくびにも出さない。…まあ、隠しても水木にはわかってしまうけれども。
「…波縫いくらいしか教えてなかったろう、俺は。言われなければ職人に頼んだのかと思ったところだ。誰かに習ったのか?」
そうっと刺繍の表面を指でなぞりながら、水木は尋ねる。玉留めがうまくできなくてイライラしていた小さな鬼太郎を思い出す。あれはもう、ずいぶん昔のことになってしまった。
「いえ…、ああ、…本を借りました。それで、練習したんです」
「…器用だなあ」
そこで鬼太郎は初めて笑った。はにかんだ、といった程度のものだったが。
「あなたを見て育ったから、勉強するのと努力するのが大事だっていうのは知っているんです」
「………」
水木は複雑な気持ちを飲み込んだ。その割に学業はいまひとつふるわなかったのではないか、と思ってしまって。だが、それは今言うことではない。
「…使ってくれますか?」
水木は困ったように肩をすくめた。洋装の方がなじみ深いし、動きやすい。普段和装をすることはほとんどないが、全く着ないということでもない。まっすぐ見つめる鬼太郎の目を見ながら、結局水木は頷いた。
「ね、じゃあ、明日は着物を着て待っていてください。僕、迎えに来ます」
「え?」
いつか、という話ではなく具体的に日時を指定され、水木は呆気にとられる。しかも明日、とは。
「明日って」
「はい。一度帰って、また明日来ます」
どちらかというと問題は急すぎないかという点だったが、気づいているのかいないのか、鬼太郎はそう答える。ダメですか? と今にも言い出しそうな目に水木はこの上なく弱く、わかった、以外の答えは最初からなかった。
「あ!」
「なんだ…」
「やっぱり、用意だけしておいてください。僕が着付けるので。半衿も僕が縫い付けるので。ああ…それなら今夜借りて帰って縫ってくるのがいいのか…」
「………踏み台も用意しなくちゃいけないか?」
気持ちは嬉しいが物理的に無理だろうと告げると、むう、と鬼太郎が幼く眉をしかめる。つい無意識に撫でてしまうと、もう、という顔をしたが、水木にはただただかわいく思えたものだった。
遠く地上の月を見上げながら、水木はぼんやりと思い出していた。
今の彼は、妖怪達の問題に巻き込まれ、子狐を抱えって深い穴に落っこちてしまった身だ。先ほどまで意識も少し朦朧としていた。だが、自分を案じてきゅうきゅう鳴く声に意識を浮上させ、ついで、自分が今夜着ている着物、正確にはその半衿の由来を思い起こしていた。
「…大丈夫だ。おまえさんのお袋さんも探しているだろうし…、うちの子は、とても頼りになるから」
ぽん、と子狐を撫でる。銀色の毛並みが美しく月光を弾いている。もちろん、ただの狐の子ではない。血筋正しき妖狐の末の子、と聞き及んでいる。
水木の足の上には恐らく岩か古い木の杭か何かが重なっていて、そこから抜け出そうにない。危険な事態だったが、不思議と恐怖はなかった。
お守りがあるからな、と半衿に意識を向ける。
一番最初に鬼太郎が贈ってくれたのは、彼自身が刺繍した南天が小さく入った半衿。そこから始まり、今では随分増えたのだが、最初に贈られたこれはやはり特別だった。どんな気持ちで縫い、水木の前に現れたのか…、それを思うと胸が熱くなる。
ざわりと夜が蠢く。舌打ちしたくなったが、弱みを見せるのは得策ではない。人間らしく最後まであがいてやる、水木は腹を括る。
だが、半ば形を得て伸びてきた闇は、水木に触れる寸前にレーザー光のようなものに激しく散らされた。水木は慌てて地上を見る。
第二撃を構える姿は小柄だが、何よりも頼りになり、たくましく見えた。水木は「目を閉じてな」と子狐に囁き、ぎゅうと胸にしまいこむように抱きしめる。
指鉄砲、確かにそう聞こえた気がする。二撃目が闇の中の何かを粉々にし、音に形容しがたい断末魔が聞こえる前に。
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