aknzy
2024-09-16 00:14:32
1840文字
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ぶったおれた

月永が。
続き読みたいかもこれ、空から降ってこないかな〜

きっと、些細なことだったのだ。けれど決して、実現するのは容易いことじゃない。この先永遠に、それが成されることはない。それでも、自然とその風景が浮かぶくらいには確信を持って、そうであったはずだろうと言える。あの日、本心の中からそんなことないというたった一言を引き摺り出せていれば。あの日、勢いに任せて心にもないことを言っていなければ。もしくは、あるいは、ああしていれば。後悔と呼ぶには実在性がないし、妄想と呼ぶには現実味がありすぎる。そんなやり場を見つけてやることすらできない情念を、後生大事に抱えて俺は生きている。



 「え〜、セッちゃん聞いてないの? 「王さま」一昨日から入院してるって。なんか中庭でぶっ倒れてたらしくて……お医者さんによると、冷えと疲労と食べなさすぎ飲まなさすぎ……その他諸々が重なった結果だって」

 「……は?」

 いつものように朝起きて、いつものように登校して、いつものようにレッスンをこなして、いつものように一日が終わる、はずだった。朝から恙無く過ぎていった学校生活の一日の最後。そろそろ生徒会が終わるから、と珍しく迎えがくる前に目を覚ましたくまくんと駄弁って、話の流れで王さまの所在について触れた時だった。

 「コーギーが最初に見つけたって。畑の肥料がなんちゃらとか言ってたっけ……

 一人つらつらと思い出しながら話すくまくんに対して、俺は何も言えずに固まることしかできない。普段なら俺の本心としては望まないようなことまで喋ってしまうぺらぺらと回るこの口も、それなりの冷静さを持ち合わせていると自負する頭も、一ミリたりとも動いてくれはしなかった。米神の上が圧迫されて喉の奥がきゅうと締まる。焦点が手元の編み棒から外れ、やけに鮮明な心臓の音が次第に大きくなっていく。

 ──倒れた? 誰が? 王さまが? ……あれほど口を酸っぱくして水分を取れ食事をしろ睡眠を疎かにするなと言いつけて、時に重い腰を上げ行動に起こしてやっていたのにも関わらず、倒れた? しかもそのうえ入院まで、そんな、あの筋金入りの病院嫌いが大人しく……俺になにも言わずに大人しくしていられているってこと? あの時あんなに電話をかけ続けていた、あいつが? いや、まあ、あの時とは確かに多くのことが違っているのは身をもって理解しているけれど。それでも真っ先に浮かんできたのは、寂しさを全面に押し出しながら花びらをちぎる真っ白なあいつの姿で。
 混乱する頭にどこからか怒りともつかない感情が湧き始めたその時、くまくんはただでさえ無くなっていた俺の平穏をさらにぶち壊す言葉を放った。

 「あ、そうそう、あとね。後から怒られたりしたら嫌だし言っておくけど……俺が最初に王さまが倒れたこと聞いたの、エッちゃんからだからね」

 呼吸が、止まった。

 「……は」

 何か言わないと、と焦るばかりでその度に何も考えられなくなる。目の前の顔がぼやけていくのを眉を顰めて止めようとするも、何も変わらず下を向いた。覗き込むなアホ。

 「おお〜怖すぎ、セッちゃん。顔やばいよ、鏡見る?」

 「なに、それ」

 俺に、真っ先に、教えてくれるんじゃなかったの。

 「え?」

 「……なんでもない」

 ジャッジメントの時もそうだった。フルール・ド・リスの時もそうだった。この間の、金糸雀館の時だってそうだった。何を考えているのか分からないままに、俺に抱えさせてくれないままにあいつは一人で完結して終わらせて、そしてどこかに行こうとする。俺がいないどこかに、一人で。
 一度、俺に何も渡さないままにいたら俺が折れずにいたことを成功だとでも思っているのだろうか、あいつは。確かに、俺のためではあったのだろう。俺に渡すことなくあいつ自身は傷ついて消えたけど、俺はそこまで傷ついていないから大丈夫だとでも思っているのだろうか。ふざけるな、ふざけないでよあのアホ。俺はもう、毎日見るあの頃の夢ですら、日常になりつつあるくらいだというのに。あんたのたった一言をふとした瞬間に思い出して舞い上がるくらいに、俺の中にはあんたがいるのに。
 あんたの中に、俺はいないの? 俺は、俺は今。

 「──俺は、今、天祥院よりも、あいつから遠いところにいるってわけ?」

 唇から落ちた言葉は、こたつの微かな駆動音と秒針の時間を刻む硬い音の間に掻き消された。

 「……何言ってんのかよく分からないけど。」