ろころころ
2024-09-15 22:24:30
5170文字
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Code:??? A mission to save the world.





「こんにちは、可哀想な”私”。誰にも愛されず、誰からも必要とされず、何者にも成れないまま現世を生きる気分は如何ですか?」

血濡れのステンドグラスは揺らめく炎のひかりをぼんやりと映し、外からは一寸の光すら通らない。上を見上げればシャンデリアと共にぶら下がるのは真っ暗な三つの穴がぽっかりと空いた知っている顔、見た事のある顔、懐かしい顔。彼らは地獄の海から助けを求める様、此方に向けて手を伸ばしている。

この日の”此処”もあの日のままであった。





Code:??? A mission to save the world.

暇だからって毎晩呼び出さないでいただけます?私は貴方と違って暇じゃないんです」
嗚呼、これは失敬。貴方は成れもしない”愛される善人”の真似事で忙しいんでしたね」

鮮血のような禍々しい赤い瞳をそっと細めて男は綺麗な笑みを作る。

この教会は元は孤児院であった。否、本来は反対である。閉鎖された教会は老夫婦に買い取られ、孤児院として使われていた。しかし十数年前の人為的な事故により孤児院は閉鎖され、ただの”教会だった建物内”に逆戻りしたのだ。
彼はこの孤児院の子供だった。ある日、同じ孤児院の子供二人と出掛けて帰ると、先程まで和気藹々としていたその場所はご覧の通りの惨状と化していた。

「私は貴方の無駄を好む性質も嫌いでは無いのですよ。人間らしくて良い事であるかと」

そして眼前の男は何故かこの時のこの場所を好む様で、度々彼が眠りにつくと彼を意識空間の中この場所へと呼び出す。きっと精神的に弱い彼のルームメイトならこの惨状を何度も見せつけられれば悲惨な事になるだろう。しかし、彼にとってはかつての”家族”の死体が蝙蝠の如くぶらぶらとぶら下がっていたとしても、それは単なる死体に過ぎなかった。生き物ですらないそれに抱く情など彼には無い。それが自分が善人にも救世主にも成れない理由であることを、彼自身はよく理解していた。

「世の中の半分は無駄な事で出来ているんです。社会不適合者を極めた貴方にはわからないでしょうがね」
「ええ。ですから私は身を弁えてこうして姿を隠しています。貴女の様に叶わぬ夢を追い求めて無様に足掻く様な愚行はせぬ、ということです」

男はゆっくりと教壇を降りる。一歩、二歩。
そして彼の頬を指先で愛しむ様に撫でる。

「嗚呼、可哀想な子。私に呪われ、貴方は人ですら無くなった。貴方が共に歩もうとする彼らと貴方は、同じ道を歩む事などとうに出来ぬのです」

彼は男の言葉に何を返すことも無く、ただ何の感情も読み取れぬ表情でその男の”赤”を無機質に、されど憎悪を込めて見ている。
男は歌うように嘲笑う。

「貴方は、父親が化け物に犯されていた時、母親から罵倒と暴力を浴びせられ捨てられた時、孤児院が燃え悲惨な姿の”家族”を目にした時、侵入先で捕まりユニオンから捨てられた時、────そして今の貴方の周りの”彼ら”が誰一人貴方を愛していないとしても」

男はまるで人形の様に綺麗に嗤う。

「何故、貴方はこの世界を救世主であろうと望むのですか?

貴方を愛さぬ世界など、捨ててしまえば良いでしょう。」




男は、彼の頬を青白い指で撫でた。

この男、"デストロイヤー"は世界を滅亡の道へと歩ませるためにレオンを器としてこの世に潜んでいる化け物。天の御使いらしいが、そんな話はどうだって良い。
彼──レオン・クローヴィスは、この化け物を自身に封じ込めておくことで世界を守っていた。

この男が定期的にレオンに接触してくるのは、レオンの精神を乗っ取ることで世界に潜む破壊の脅威、"少年A"に該当する存在を探し出して世界の滅亡に引き込むためである。何故ならこの男は、この世界では実体を持たない難儀な性質をしている。だから、彼は毎世界で自分で選出した人間の精神世界に住んでいるため。そこから宿り主に夢や精神世界で干渉して、宿り主の身体を奪うこれが彼のやり口であった。
今までこのやり方で、彼は76回の世界を滅ぼしてきたのだから。


しかし、レオンは今までの76人の宿り主その名を"破壊者"というがとは異なっていた。
異なると言え人間では無いとか、飛び抜けて強いとか、とても恵まれた環境にいるとかそういう話では無い

単に、レオンは負けず嫌いだった。
割と普通な理由。

しかしそれで、彼は今までデストロイヤーの戯言に耳を傾けることなく、片っ端から否定を続けてきたのだ。

だから、今回の"これ"だって、心に響いているかと言われれば答えは否。またいつものが始まった、そんな感覚であった。

──────しかし、思うことがない訳でもない。

「貴方、私のことを心配しているのですか?」
………………心配?どの様に曲解したらそういった解釈になられるのか、私には理解が追いつかないのですが」

珍しく本気で困惑した様子の男に、レオンも純粋な疑問を浮かべたまま話しかける。

「なら私が他者に愛されているか否かなんて貴方には微塵も関係ないですよね?何故貴方が気にかけるのですか?」

そもそもな話、レオンの周りに誰一人頼れる人物が、心の拠り所が無いというのなら、レオンの精神を追い詰めて肉体を乗っ取りたいデストロイヤーとしては万々歳なはずだ。それを放っておかず、わざわざ忠告してくるというのはレオンにとっては不可解だった。仮にレオンが彼と同じ立場なら、彼は喜んで今後の成り行きを見守っていることだろう。

「では、私が貴方を心配していると仮定しましょう。それは何故ですか?それこそ、貴方の言うように私が貴方に忠告する必要も無いでしょうが、私が貴方に心配の念を抱く理由もありません」
「それは、貴方が単に優しい人間だからですよ。デストロイヤー」
「私が……優しい?」

男は、真っ赤な瞳を見開く。
それはそうだろう。彼が今まで直接関わってきた人間と言えば、自分の宿り主だけであり、宿り主からしてみれば自分を破滅へ引きずり込もうとする闇の手にしか見えていないはずだ。
彼と対等な立場でコミュニケーションを取ろうとした人間など今までいなかったし、彼を一人の人間として認識したのも、レオンが初めてだった。

………………そうですか。それが貴方の答えで」
「ええ。ま、そもそも私は"自分が孤独"だなんてジメジメした感情を抱いたことはありませんけどね。
強がりじゃないですよ。事実です。
確かに私には家族はいません。ですが、

気づいた時から隣にはキキュイさんがいました。
孤児院の彼らも死んでしまったけれど、私を可愛がってくれました。
ユニオンにだって私を使ってくれる上司、頼ってくれる後輩がいます。
救助隊に行けば彼らは私を受け入れるし、隊員としての役割を与えてくれます。

そして私は、ユニオン警察として、救助隊員として、人々の生活の安寧を守っています。
人々の中には感謝の言葉を送ってくださる方、本部宛に手紙まで送ってくれる方、街を歩けばエールをくれる方。
沢山の人達が、私にエネルギーをくれるんです」

彼にしては珍しく、穏やかな口調であった。
デストロイヤーは、そんな彼を吸い込まれるように、じっと見つめていた。


「私は、この世界を守りたいんです。だから貴方や天には負けません。

この世界の醜い部分ばかりに焦点を当てて美しさを何一つ知らぬ、貴方達なんぞの思い通りになりたくはないので」


レオンだって、世界には悪人がわんさかいることも理解している。何せ彼は警察官で救助隊だ。そうした悪人を捕まえたり殺したりそういった仕事だって何度もしてきた。
だからこそ、彼は美しさだって知っているのだ。

危機的状況の中でも他者を優先した被害者。
銃撃から見知らぬ少女を庇った町人。
正義のために命を懸けて戦う仲間達。
ありがとう、と礼を述べてくれる住民達。

これらを美しいと言わずしてなんというか?
悪なる側面があるからこそ、美しい側面も存在するのだ。どんなものだって、裏がなければ表もないのだから。

「だから、私はこの世界がどんなに醜い側面を抱えているのだとしても、それら含めた全てを守ります。今の貴方にはこの感情も言動も理解し難いかもしれませんが……

もし、貴方がそれらを理解出来た時が来たら、今度は私の"中"では無く、私と共に並んで、世界を一緒に見ましょう」


レオンはそう、彼に笑いかけた。
デストロイヤーは、彼の笑みに何も返すことが出来なかった。


彼はまだ、"世界の美しさ"を知らなかったからだ。




************


「先輩その、あなたは、初めて人を殺した時……どうしましたか?」
「殺した、というのは語弊があるかと。暗殺任務のことでしょう?それならば"裁いた"が正しい表示かと思います」

ユニオン本部、諜報科にて。午前中の職務で得られた情報をファイルにまとめて整理していたレオンの元に、同じく諜報員の後輩が姿を現した。
青白い顔に震える身体、それを見たレオンは、彼が何をさせられたかを一瞬にして理解した。ユニオンにおける諜報員としての活動歴が長いレオンの元には、こうして後輩が度々相談にやってくるのだ。頼れる先輩として数いる中から自分が選出されているのなら、それは非常に喜ばしい事だとレオンは思っていた。

「貴方が対象を殺したのだとしても、貴方は命に従っただけですから。例えば、仕掛けられた爆弾により多くの人の命を奪うような事故が発生しても、爆弾そのものに責任を問う人はいないでしょう?任務の間、私達は"モノ"なのですよ」
…………………
「良いですか?この世界に手を汚した事のないヒーローなんて居ないんです。いるとしたら、それはただの口だけ達者なヒーローもどきです。
この世界に救いようもない悪人がいる以上、手を汚さねば平和は訪れません。落ちているゴミを排除せねば、いくら床を磨こうと綺麗にならないのと同じです。

そしてその汚れ仕事を、多くの人達はやりたがらない。掃除が好きなもの好きは非常に極小ですから。
それを、私達はやっているのですから。
もっと自信を、誇りを持ちなさい。
私達は悪人を裁く、ヒーローなのですよ」

実際にレオンの周りにだって、いるのだ。

例えば炎の力を使う彼は、今まで多くの仲間に命を懸けて守られてそれを抱えきれずに何度も"死ぬ"道を選ぼうとしては失敗している。必ず何かしらに助けられてしまうのだ。自分の命に手をかけようとして、失敗して、それを反省することなく、その汚れた手を他人に救ってやると差し伸べるのだから、なんというか随分と図々しい話だと思う。

どこぞのバーサク不死者だって同じだ。彼は根本的な気狂いなので、世界を救うために、障害物は容赦なく壊す。彼は"お前を守る"と言うが、お前の敵を殺してやる、と言う方が語弊は生まれないだろう。そしてお前を救ってやるといいながら殴るのだから、なんというか随分と度し難い話だと思う。

「成程、図々しくないとヒーローなんてやってけないというわけでしょうね」
「せ、先輩、一人で納得しないでください!」

不満げに声を上げる後輩に、レオンは笑った。

「大丈夫ですよ!頑張ってる人は少しずらい図々しくなったって良いでしょう?何せこの世界は身勝手な人間ばかりですから、少しぐらい強引にならないと正義も正義で通らないんですよ」
「そ、そういうものでしょうか?」

そういうものです、とレオンはファイルを本棚に差し込みながら頷いた。

「とにかく、貴方よりヤバいやつなんてわんさかいますから心配は無用です。それでも耐えられないのなら、貴方の代わりに私が出ましょうか?」
「い、いえ!大丈夫です、私の仕事は私で成し遂げます!」
「そうですか。それは良いことです。……ふふ、また美しい面が増えましたね」
「美しい?なんの話ですか?」


ほら見ろ。世界というのはこうも美しい。
ですから私は、世界を守ります。
貴方たちの思いどおりにはなってあげません。

悔やむなら、"レオン・クローヴィス"というスーパーでエリートなエージェントを、破壊者に選んでしまったことを是非とも悔やんでくださいね?


Fin.