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奴田原 ミズキ
2024-09-15 20:30:51
3194文字
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触れた指先を
現パロ同棲ビマヨダ
※流血表現
これ↓のヨ視点
https://x.com/ythr904/status/1834944509756760470?s=46&t=DgiD6nWzqDNaD8BNqlC-Iw
指先から体温が抜けていく。
いや、正しくは魔力だろう。親玉の首と引き替えに貫かれた腹部からはどろどろと血が流れ、辺り一面を紅く染め上げている。起き上がる気力もない。血の池に己が身を沈めながら、エーテルの肉体が解け、消えていくのを待っている。
マスターは、上手くやった筈だ。現に、筆頭を失くした理性のない獣達は次々と消滅していった。生き繋ぐ為の魔力がなくなったからだろう。此処に居るのはおびただしい量の鮮血と、死にかけの己だけだ。他には何もない。何も、ない。
この特異点は消える。きっとこの身体では、カルデアに帰還する事は叶わないだろう。
日が傾いてきた。少しずつ、夜が迫ってくる。
(
……
寒い)
もはや痛みはない。己を形取っていた粒子が空を舞い、消えていく。それはまるで夜光虫のようで、この様な死に体ではなければさぞ美しいことだろう。そう自嘲めいて笑おうとするが、ごぼりと血を吐き出した。
第二の死というものは案外苦痛ではなく、ただ『元に戻る』だけという事実にいっそ安心すら抱いていた。全ては泡沫の夢。やがて消え逝くものだ。この胸に渦巻く感情も、捨てきれない恋慕も、全て。いっそ、流れる血液と共に抜け落ちてしまえば良いものを、未だ抱えたままの自分に辟易する。振り切ってしまおうと頭を振りたいが、頭は愚か指先ひとつすら動かすことは出来なかった。
ぽつり、と頬に何かが当たる。かろうじて動かすことの出来る目を向ければ、真っ黒な雲が空を覆い尽くしている。やがて降り始めた雨の雫が全身を濡らし、薄まった血が四方へと伸びていく。
ただでさえ低くなった体温が急速に冷えていく。もはや視界も朧げだ。溢れた光が身体を覆って、先の方から消えていく。『死』が、すぐそこまで来ている。嗚呼、俺は2度目も一人で消えていくのか。構わない。だって俺は、悪なのだから。
マスターを守る使命は果たした。正しい者がマスターの傍に残った。だから悪は消えるのだ。きっと、それが正しいことなのだから。
目蓋を閉じる。はやくこの寒さから解放されたかった。
おかしい。
なくなった筈の体温が戻ってきている。
というか、なんかすごく、熱いものに包まれている。なくなった筈の指先も戻っている気がする。どういうことだ。まさか、マスターが駆け付けて来たのだろうか。
ゆっくりと目蓋を開ける。ブレた視界の中、それでも見間違えることのない人物が己を抱き抱えていた。
「びー、まがおる、ッぐ、ゲホッ、ぅえ
……
」
「喋るなトンチキ。今マスターの所へ向かってる」
ビュウ、と風が鳴る。一陣の風と化した巨体が空を舞い、木々の間をすり抜けていく。
「な、で
……
」
「喋んなっつってんだろ。
……
言っとくが、マスターの指示じゃねえぞ」
舌打ちをして、そう吐き捨てられる。尚更訳が分からない。マスターの指示ではないのなら、何故、こんなことを。宿敵を、憎悪の対象を救おうというのか。たとえ悪であろうと、全てに手を差し伸べようというのか。それが俺でさえも。それが正義だというのなら⸺
「お前が何を考えているのかは知らん。だが俺は、俺の意思でお前を助けると決めた」
ふたつのアメジストがきらりと瞬く。美しいその瞳は、今まで見たこともない色を帯びていた。
「此処で終わりになぞしてやらん。俺は、お前を逃しはしない」
分からない。何故。どうして。そう声を出そうとして、ごぽ、と血が溢れる。喉が詰まって、呼吸が出来ない。息を吸えない苦しさに喘ぐと、ビーマは動きを止め、くしゃりと歪めた相貌が眼前に迫ってくる。
次いで、唇に暖かな体温が触れる。口内を満たす血液をじゅるじゅると吸い取って、べっ、と吐き捨てていく。それを、満足に呼吸が出来るようになるまで繰り返された。
「
……
死ぬなよ。せっかく、殺し合う理由がないのに。俺を置いて逝くな。スヨーダナ」
それはあまりにも弱々しく、死にかけの自分よりも弱く、儚い懇願。
懐かしい名を紡いで、迷い子のように顔を歪ませた、嘗ての少年がそこにいた。
***
「おい、まだ寝てんのか?もう朝だぞ。つっても雨降ってるけどな」
身体を揺すられる感覚に、沈みきった意識が浮上する。乱暴な行いに文句を言おうとして、ズキン、と頭に激痛が走った。
「っ、
…
ぅ
…
」
脈打つような痛み。微かに外から雨音がする。恐らく原因はそれだ。ここ最近は多少不摂生だったので、蓄積した結果だろう。先程の
夢
かこ
も、その影響だろうか。
「
…
ドゥリーヨダナ?」
身を包んでいた肌掛けが取り去られる。目蓋を開けようとして、降りかかる光にまた頭が痛んで逃げるように蹲る。
「っ、どうした?何処か痛いのか?」
痛みに身体を蝕まれる中、不安でいっぱいです、みたいな声色が落ちてくる。このままでは姫抱きでもしたまま病院へ駆け込まれそうなので、うっすらとだけ目を開け、途切れ途切れに声を紡いでいく。
「
……
あ、たま、いたい」
最低限のことだけ伝えて、目を閉じる。これで病院へ担ぎ込まれることはないだろう。偏頭痛を訴えたのは今回だけではない。薬を飲むべきだが、今は起き上がる気力もない。
ふと、パタパタと足音が離れていく。先程まで居た筈の場所へ手を伸ばす。握ったシーツは温もりが残っていて、しかし徐々に冷たくなっていく。
いやだ。ズキンと鈍い痛みが走る。あれだけ平気だった孤独が、何よりも、恐ろしい。
溢れてしまいそうな涙を必死に堪えていると、ひやりと側頭部に冷たい何かが当てられた。
突然のことで身体が硬直するが、頭痛が和らいでいく感覚に力が抜けていく。ゆるゆると目蓋を開ければ、氷嚢を持ったビーマが不安そうに此方を見つめていた。
「
…
つめ、たい
……
」
「そりゃあな。さっきよりマシか?」
「ん、
……
」
確かに、痛みは和らいでいる。けれど、それよりも今欲しいのは。
ビーマの手の上に己の手を重ねる。凍えた指先がじわりと熱くなる。だが冷えると思ったのだろう、振り払おうとするので無理やり掴んで頬に擦り寄せた。
「
……
お前の手は、あつい、な
……
」
「
…
じゃあ、意味ねえじゃねえか。冷やす方がいいんだろ?大人しく寝とけ。なんかあったら部屋に行くからよ」
困ったように眉を下げて、再び手を引こうとする。許さない。それは望んでいないことだ。
「
……
、
……
ばか、ビーマ。やっぱりお前は、気が利かん。ばか。バカビーマ」
「バカバカ言うんじゃねえよ馬鹿。何がご不満なんだよ」
浅く息を吸う。ツキンと痛む。わかっている。この男が己を案じて、安静にさせたいと思っての行動だ。想いが通じ合ってから、過剰な程の愛を押し付けられているのだから理解はしているのだ。
「びぃま」
だが、そうだとしても、今は、それじゃない。
「
……
体調が悪い時は、すこしだけ、弱ってしまうものだ。
…
そんな俺を置いて、行ってしまうのか?」
傍にいてほしい。置いて行かないでほしい。だってそれは、
さびしい。
そう呟くと、ぐっと息を呑む様な音がしたかと思えば徐にベッドがギシリと悲鳴を上げ、ぎゅうと全身をあつい肉体に包まれた。
頭を包み込むように抱かれたものだから、ばくばくと煩すぎる心音に笑ってしまう。そんな俺を知ってか知らずか、おずおずとビーマの手のひらが頬を滑った。
「
…
俺、体温高いから
……
、負担になるかもしれねえって、だから離れようと思ったんだ。
……
もしかして、今までもそうだったのか?」
「
……
どうだろうな」
何時もなら違うのかもしれない。
夢
かつて
を見てしまったからなのかもしれない。自分自身にもわからない。不安、だったのかもしれない。
「だが今は」
視線が交わる。今や見慣れた、愛を纏ったその瞳を、離したくはないのだ。
俺だけのものだと、そうお前が誓ってくれたのだから。
「⸺とても、心地良い」
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