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いを
2024-09-15 18:56:58
2323文字
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刀神
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しろがねの末路
青嵐
・降藤さん【yasuinokikaku】
・紫垂月さん【Metol_P】
ふわっとお借りしています。
「君、目はいいが使い方はまだ慣れていないようですね」
「目がいい?」
青年がぼやいたのを聞くと、机に置いたままの符を見下ろした。ぼうっとした霊力がその符に、たしかに籠もっている。
青年
――
玉匣蓮は眼鏡をとって眉間を指でおさえた。
「初めて言われたな」
「そうですか。なにも、
物体を見る
・・・・・
だけがすべてではありませんから」
「
……
ふうん。あんたはどうなんだよ。眼鏡かけてるみたいだけど」
指をひたいのあたりから離し、眼鏡を耳にかけた蓮に笑いかける。
「ええ。まあ、老眼です。ただの」
「老眼ね
……
。それだけに見えないが」
青嵐はくちびるの端を緩め、「やはり目がいい」と言った。
物体として存在しないものを見続けた年月が長すぎたのだろうか。異界と現実が合い混ぜになっていることも確かだ。
見えすぎるのは、やはりよくないものなのだろう。
「見すぎた弊害ですね。君はいい師に恵まれているから、きっと大丈夫でしょう」
「意識しなくても見えるってこと、あるのか」
チリン、とどこかで鈴のような音色が響く。オフィスの軒先を見ると、なにかが吊り下げられていた。糸、だった。
「そうですね」
あの糸は天と地を繋ぐなにかか、あるいは蜘蛛の糸か。
「あります」
蓮の赤い目は、はたしてあの糸が見えているのだろうか。
「それは困ったものだな」
「ええ、困ったものです。ところで以前の賄賂ですが」
「賄賂。ああ
……
ゴマ団子ならもうとっくにないけど」
「ならよかった」
「誰にも言ってねぇよ。あれからあそこ、行ったのか」
ふふ、と笑う。彼も彼なりに青嵐を心配しているのだろうか。
「1度だけ。それで最後です。神の気が強すぎて、嫌われてしまいました」
「神の? ああ、刀神のことか。そんなしょっちゅう
……
」
蓮の言葉の端が濁る。それから、歯を噛んだ音がした。
「
――
べつに悪いとは思わないが、
それ
・・
っていいことなのか?」
「さあ。どうでしょう。君のバディはたしか夜伽噺卿・降藤殿と仰いましたね」
さらされた眉間に、かすかに皺が寄る。そうだけど、と零した。
「彼と共にいれば、悪いものはきません。そうでしょう?」
「
……
そういうことじゃなくて」
「分かっています。けれど、そういうことです。お互いの利害が一致しているだけでなく、その先に〝なにか〟がある。私はそれに興味があるんです」
蓮はまっすぐに青嵐を見ている。また、チリン、と音が聞こえた。
「たとえば情や、愛。そういったものが見たい。人間ではないものが、人間と同じ量のそれをはたして、持てるものなのか」
「人間と刀神は違う」
「そうです。価値観もきっと違うでしょう。違うもの同士がそういった感情を持つことで生まれるかたちを見たいのです」
眉間の皺が更に深くなり、青嵐はふたたび吐息で笑った。
視線をさげ、机に置きっぱなしの符を見下ろし、彼はため息をついた。
「あんた結構悪趣味だな」
「ええ。そうかもしれません」
「人間がしていい思考じゃない」
「私は刀遣い。
……
カミに呑まれる覚悟はできています」
「藤ねぇはそんな神じゃない」
抵抗するように、蓮は呻いた。
そういう神も、いるだろう。人間へあらゆる意味をふくんだ愛情を持つ神も。
それでも、彼は
――
紫垂月頼宗はきっと。
青嵐の薄い皮膚に触れた手を思い出す。首筋を愛撫するような手や指の温度を。
「
……
」
あれに意味があるのかないのか、ただの人間である青嵐には分からない。
「刀神は人間を
……
刀遣いを愛玩することも、あります」
犬や猫に接するように。甘噛みされても「かわいい」で済ませるような。
「人間はそういったことに関して敏感です。愛玩されて、いいというものも、悪いというものもいるでしょう」
話が通じないわけではない。けれどこれも、人間側の勝手な憶測で、理解だ。
「ヒトはカミに対等を求めることもあります。それを許すかも、カミによって異なります」
「そうだろうよ」
「
……
君、よいバディに巡り会えたようですね。強い信頼関係が築かれている」
「藤ねぇは俺を人間として見ている。青い、まだ十数年しか生きていないこどもだと。愛玩なんて」
言い切れないから疑っているわけではない。青嵐も、蓮も。
それでも「違う」とは言えない。刀遣いとはいえ、人間だ。刀神の心など分かりはしない。そして刀神も、人間の心を理解しきれないだろう。
「あんたはそれでいいのか」
「いいんです。私は。だって私のほうから踏み込んだのですから」
男は、笑っていた。
すがすがしいくらいに。これが当たり前だというように。
キャップを取り、ペットボトルを潰し、ごみ箱に入れる。
呑まれる、と言った。私のほうから、と。
それがいいのか悪いのか、蓮には分からない。だから止めることはしない。
刀神にとっての情、愛。そこから生まれるかたち。
以前、男から賄賂だと言って差し出されたゴマ団子を思い出す。
あのゴマ団子のように、喉に絡みつくような甘さをふくんだ目。苦いもので飲み下したくなるような。
ぞっと背筋が震える。
今日のことは忘れようと思う。
――
忘れたほうがいい。ジーンズのポケットからスマートフォンを取り出し、時間を見る。そろそろ外を回る時間だ。夜伽噺卿・降藤と一緒に。
ふたたびそこにスマートフォンを仕舞い、自販機に背を向けた。
チリン、と音がした。オフィスのほうから。そして一本の糸がつうと垂れていることに気付いた。
見ないふりをして、蓮は廊下を後にした。
「けれど私は、彼になにを求めていいのか分からない。」
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