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いしえ
2024-09-15 17:48:06
23773文字
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封神腐
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小説/飛刀中心本『飛闘黄(ひとうき)』再録/CP有無双方有。CPも色々含む(腐も男女も)
便宜上封神腐タグですが、腐と、CPなしや男女も含む。
221106エアブーにて発行。当方の小説で飛刀が出る全年齢のものをまとめました。
CPなし、CPあり(腐:発天、天祥×飛刀、余化×飛刀、フォロワさんの影響の道天。男女:乙竜/太乙×公主、やんわり飛虎賈氏)が入っています。
目録 ★:弐記〇一、☆:発恋愛に天ず、にもそれぞれ収録
【腐】たとえば余化が宝貝だったら/前提:発天、天祥×飛刀&余化×飛刀
もしこうだったらこうなっていたけど事実としてそうはならなかった。そんなもしかしたらを幾つか並べました。少しシリアス気味ですが、あたたかい部分もあるかと思います。
少し、ゲーム『仙界伝弐』の要素があります。
妖精・飛刀について、語ること
本編後ずいぶん先の未来において、とある妖げつ(オリキャラ)の語る飛刀の話。飛刀と黄家との絆を描けていたらいいな~と思います。(黄家は直接は出ません)
のこされたものたち/飛刀と天祥の短話
天化封神後、哪吒との約束で立ち直った天祥が飛刀に声を掛けた。
継承の儀 -のこされたものたち・アナザーサイド-/飛刀と天祥の短話
飛虎から天祥へ、飛刀が継承されるまでには、タイムラグがあった。
『のこされたものたち』の天祥の描写寄りの三人称文。
【腐】ことだまリレー/発天(+天祥×飛刀)☆
両親にかつて教わった恋愛なるものを理解していなかった天化と、天祥との無自覚コイバナから、お相手に突撃して、結果としてこれが恋愛かー!って自覚してハッピーエンド。
天化がお酒呑む設定です。やんわり飛虎賈氏要素あります。
【男女カプ】嗚呼しあわせ/太乙×公主+天祥と飛刀(飛虎賈氏前提)
ゲーム『仙界伝弐』から。太乙と公主を見ていて両親を思い出す折々がある天祥視点(+飛刀)。ゲームのセリフやエピソードから、ちょっと調整してお話にしました。甘め。ハッピー。
【腐】再会/飛刀を要に、姫発と黄家の話(発天) ★
ゲーム『仙界伝弐』をベースに。飛刀が発天の要になっていることや、紂王の人生における姫発と天化との役割がとても好きです。
天祥は天化の傷のことを知らされないまま余化の元コレクション飛刀を相棒にしていて、けれども弐で余化と対峙する前にはそれを知らされた、それを受け止められる成長をしたと判断された。そういう解釈に基づき、秘密を人間界で共有する姫発と飛刀の間柄に非常に趣深さを感じ、まとめました。
全体的に少ししんみりしているかもしれませんが、ラストは甘めです。天化も途中から出てきます。
【腐】初恋、愛に転ず/発天(で姫発+飛刀の恋バナ的やりとりのみ) ☆
ゲーム『仙界伝弐』時点。天化に好きだと告げたことのない姫発が飛刀に頼んだ伝言と、それに対する飛刀のひと押し。
二曲の歌謡曲からワンフレーズずつを、組み合わせてモチーフにしております。
天祥が飛刀をよく王前に置き忘れる(任を担って張り切りすぎると)という設定で、そのとき密談を重ねてきた姫発と飛刀の話。
【腐】兄弟、弟子、師父/道天前提、天祥×飛刀要素あり(道徳+天祥+飛刀(+α)
時系列等置いておいて平和な感じで。広義の黄家ラブなかんじで。フォロワーさんの影響で書いたもの。
【腐】似たもの同士ズ/飛刀+天化+天祥(天祥×飛刀、道天前提)
天化に剣の稽古をつけてもらっている天祥と、飛刀とのわちゃわちゃ。フォロワーさんの影響で書いたもの。
*まえがき
この本は、pixivで公開しているSSから飛刀の出る作品をまとめたものです。一部(★印と☆印のもの)は発天本に収録しておりますが、飛刀に関連するものとして、再収録致しました。
飛刀、と言いますか色んな封神キャラが、色んなキャラと縁深く、深く絡み合って世界で生きており、とてもすきだなぁと思います。飛刀ーーーー!!!!! 大好きだーーーー!!! 飛刀への愛が少しでも籠っていればうれしいなあと思います。そして、色々なキャラたちの飛刀への愛情だったり縁だったりを、描けていたらうれしい限りです。いろいろなテイストの作品が集まりましたが、少しでも楽しんで頂けましたら幸いこの上ないです!
ゲーム『仙界伝弐』に関連するネタも多いですが、本編後の世界で起きる出来事としてこれほど完成された派生作品があるんだ
…
?!ととにかくめちゃくちゃ驚いたゲームで、マジで好きです。プレイしてよかったすぎる
…
感謝しかないです。私が十数年前から超好きなサークルさんがプッシュされていて長らく気になっていたのですが、本当に、もう
…
感謝しかないです
………
乙竜は私の原点のような存在で、初めて作ったサイトが乙竜を扱っていたので、こうしてまた形になること、感慨深いです。発天も長く好きで、好きなカプの例を訊かれたときに回答してきたくらいの存在なのですが、飛刀については近年の再燃でマジで急にあっ好きだ!!!!!!!!!!と思ったキャラなので、マジで、マジで背後からぐっさりやられました。飛刀
………
ラブ
………
そんなかんじで、飛刀まわりの人間関係を描けていたらうれしいです! 飛刀メインの既刊も併せてよろしくお願いいたします! それでは、長くなりましたが、本文へ移ります。
-----
【腐】たとえば余化が宝貝だったら/前提:発天、天祥×飛刀&余化×飛刀
たとえば余化が宝貝だったら。天化の傷は治せた可能性もあると雲中子から言われ姫発は机を拳で叩いた。四不象一族の、宝貝エネルギーを食べる能力。それで吸収できたかもしれないと。けれども余化は宝貝ではなく、これといった武器のかたちをしてすらいなかったと聞く。刃物と以外に言い様がない、そして単純にその語でも形容しきれないまがまがしさ。余化の元型が天化に与えた呪いの傷は、彼を少しずつ蝕んだ。わずかな救いは、彼が“自己”を成し遂げてから封神されたのだと、ずいぶん経って本人から確認できたことだった。姫発は、まあそうだと思ったけどよ、と、何となく察していた旨返しながら、内心で安堵に涙した。
たとえば飛刀が宝貝だったら、余化は飛虎のエネルギーを干乾しにできたのかもしれないと楊戩から言われ、飛虎は余化のプライドに顔を皺寄せる。その “コレクション”、それが持つ性能への自負と執着、そして策謀の方向性にまるで命拾いさせられた心地になったのだ。太公望からも諫められると同時に笑まれた。妖怪仙人の用意した武器を何の疑いもなく持つ飛虎の人柄。それは危険性も伴うが美点である、と。そして、事実、飛刀は宝貝ではなく、普通の剣が心を持った妖精だった。それが何らかの縁を持ち、飛虎たち家族の一員となる。にぎわいは、他者から見ても憩い。
たとえば飛刀が余化の持ち物になっていなかったら、黄一家と出会うこともなかったかもしれないと飛刀自ら飛虎に皮肉めいて言う。それにびっくりして、天祥は、泣いてしまった。飛刀がわたわたしてオマエに言ったんじゃねぇよ天祥、とぽんぽん肩を叩く。それでも彼は、ひとーがお父さんと出会ってなかったら悲しい、と、きれいな雫をこぼした。飛刀は うっと言葉に詰まり、悪かった、と、ただひとこと、まるで天祥だけに向けたかのようにつくろってぽつりつぶやく。飛虎が豪胆に笑い、飛刀をばしばしと叩くので彼はまた同じやりとりを繰り返しそうになる。
たとえば余化が宝貝だったら、彼のとっておきのコレクションの枠に居た飛刀も、宝貝だったかもしれない。彼は刃物を元型とし、だからこそ宝貝以外の武器にこだわった。余化の元型が宝貝だったら、普通の武器の妖精を手元に迎えなかったかもしれない。彼が妖怪仙人となり、飛刀を迎え、飛虎への策を斯様にしたことは、すべて、すべてが一条。事実、余化と飛刀は宝貝ではなく、そこに用意されたものはある面では活路、ある面では非情だった。それでもつむがれた道を引き継いで天祥は飛刀を相棒とし、のちに周の将軍となって、神界崩壊の際にはことさらに活躍したのだった。
余化は宝貝ではなく、飛刀も宝貝ではない。そのピースが生み得た分岐点は、事実、その分岐を排除しながら進んでいったのだった。人々は考える。もしあのとき、ああだったら。人々は見つめる。そうでなかったから今がある。人々は前を向く。それならばこれから先は? 傾げる首は、時に迷う。その向く角度に規定があるか、知らずに、それでも向いたほうをゆこう。それでもそこに、胸抱いた名残が、あることは赦された。
終
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妖精・飛刀について、語ること
その妖精サマには少し不思議なところがある。妖げつの私が妖精に様付けをすること自体がいささかおかしいだろうか? しかし、そのお方は何でも私が心を持つより遥か前から既に妖精だったときくものだから、どうしてもこう呼ばずにおれないのだ。それに、そのかたはどこかいつも兄貴分のような親しみやすさと頼もしさとを持って接してくれる。敬意とともに親しみを込めて、我々はみんな彼をこう呼ぶ。飛刀兄キ、と。
兄キは、もうじゅうぶんすぎるほどに月光を浴び、じゅうぶんすぎるほどの仙気を持っていると誰もが思う。だのに人型を取りたがらない
――
そう、取りたがらないのだ。決して取れないわけではないだろうことを我々は見ずとも知っていた。それがヒトへの嫌悪ではなく、むしろ彼がヒトを誰よりも好んでいることも、みな知っていた。だから不思議に思うのは当然だろう。私も、思わず尋ねた者の一員だ。
『兄キ、兄キはどうして、人型を取りたがらないんですか。兄キほどの力があれば、どんな人間よりも勇ましく、どんな妖怪仙人より美しく、あらゆる生き物よりも強い
――
そんな力を、体現できましょうに』
兄キは、その大きな目をぱちくりさせ、へらりとどこ吹く風。そこに私を否定する意は一切なく、その切っ先を伸ばして私の肩をぽんとひとつ叩きながらこう返したのだった。
『
――
オレはな、この姿が気に入ってるんだ。それだけじゃ不充分か?』
『気に入ってる
……
』
それに対して、それだけですかと返すほど私は愚かではなかった。この方にとってその気に入りが、何よりの尊さを持っていることを瞬時に理解したからだ。兄キにそうまで言わせるような出来事が、過去にあったのだろう。それを追求する野暮もしようとは思わなかった。ただ、少しだけ兄キがやはり大妖精“サマ”なのだと思って、少しだけ、胸を締め付けられた。
それでも私は兄キを兄キと呼ぶし、兄キはみんなをかわいがってくれる。面倒見がいい。
私はその後妖怪仙人となったが、兄キは相変わらず剣の妖精のままだった。わずか好奇心。兄キにこう言ってみた。
『兄キ、私と組む気はありやせんか』
いつまでも大きな眼は少し遠くを見て、ふるり、刀身を左右に振る。その口元と私の胸にある感情が同じなのだと察せられた。それは私にとってあらゆる恵みだった。
私が兄キのよくやるようにイヒッ、と笑ってごまかせば、兄キは眼をぱちり、ひとつむりののち細めるように開く。そこにあるものが確かに、懐かしい心地というものであることを感じて、私は人の情操を理解しつつあると感じた。
終
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のこされたものたち/飛刀と天祥の短話
『飛刀、おい、飛刀!』
なんだよ、うるせぇな。放っておけよ。
『
――
飛刀、オメェは外に出てろ』
おい、バカじゃねぇのか。待てよ、なあ、おい。
***
「
…
ねえ、飛刀」
ああ、久しぶりに声聞いたな。けど、その調子は、今までで初めてのものだった。オレサマは戸惑う。同時に、理解もしていた。こいつは、ちっとばかしのんきでガサツなあのオッサン(ありゃぁぜってぇに陽気とか言うかわいげのあるもんじゃねぇ)に似てて、だが、まあ相手にしてやってもいいだろうと思わせる。もっと早く話しかけてくれりゃあ、まあ、オヤジさんや兄貴の笑顔くらい見せられただろうに。でもそれじゃだめだったんだよな。オレに出来ることは、なんてちっぽけなんだろう。
――
チッ、らしくもねぇ。で、用件はなんだ?
「飛刀、きいてよ。ボク、ひとりぼっちになっちゃったとおもったんだ。みんな、ボクをおいてくと思ったんだ。だけど哪吒にーちゃんは、ボクと約束してくれた。そしたら、ちょっとだけ、みんなのことがみえたんだ」
『
…
だからなんだよ。だったら、オレなんかに構う必要ねぇだろ』
なんだ? オレは今度は自分の声のトーンに戸惑う。こんなの、こんな声、らしくなさすぎるだろ。おい、責任とれよ飛虎。
ふるり、と、天祥が首を左右に振る。それが背伸びや無理ではないことをオレは感じる。
「何言ってんのさ、飛刀! おまえは、お父さんの剣だ。大事な、お父さんの。
…
って言っても、ずうっと使ってたわけじゃないけど」
うるせぇな、悪いかよ。
「お父さんや、おにいちゃん、お母さん。みんな、いなくなっちゃった。だけど、ほんとにいなくなっちゃったわけじゃないんだ。今は、そんな気がする」
だから何だってんだ。ああ、むずがゆい。そうだよ、わかってる。
「まだまだ、なんでみんなボクをおいてったの、っておもう。でも、いっこだけ、わかった。
…
ボク、お父さんがのこしたお前を、使いたいよ。そうして、もっともっと強くなったら、たぶん、みんなが置いてったものが、もうちょっと、わかる気がする。
――
だから、飛刀。ボクの剣になってくれ」
ああ、身勝手だな、この親子は。本当に、よく似てるよ。
オレは、初めて、自分が、ヴィジョンを見せるんじゃなく見せられる側に立った。切実に、願い乞う、けども強引な笑顔。みせかけだけのそれならいくらでも、オレにだってコイツに見せられたかもしれない。だけど、それはたぶん、コイツを完全に閉ざしただろう。不完全な、今にもまた泣きそうなこの笑顔。ああ、これが、お前がオレにのこしたもんってやつか、飛虎よ。ばかみてぇだろ。
『
…
オレは、オレサマは、
…
だれのもんにもならねぇ』
「それはお父さんのものだってこと?」
『ちげぇよ! あいつのもんだったことなんて、一度も、
――
一度だって、あるもんか
…
』
「
……
そうだね。じゃあさ、ボクに、力をかしてよ。それならいいでしょ、飛刀」
『
…
フン。勝手にしろ』
「ありがとう!」
こうしてオレサマは、天祥のやつに偉大なる力を貸してやることになった。っつっても、こいつはオレの能力はつかわねぇ。もったいねぇけど、ま、らしいっちゃらしいだろ。あいつだって、使わなかったんだからな。それでもオレは強い剣だ。安心しろ。
聞仲との決戦のとき、オレの能力を利用することもできたはずだ。けど、あいつはそんなこと、思いもしなかっただろう。それより前にも、オレはただの、動ける剣としてしか使われてなかった。そうだ、オレは、ただの剣として扱われた。そんなやつ、後にも先にもテメェくらいだと思ったのにな。お前とのしがらみ、切れねぇんだな。オレサマに、オレに、きれないものがあるなんて。ばかみたいだろ。べつに、うれしくなんかねぇよ。
そうして、のこされたオレは、オレ“たち”は、ちょっとだけだぞ、同じほうを、向いた気がする。ああ、らしくもねぇ。向き合う顔に、見せる幻覚は必要なかった。
終
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継承の儀 -のこされたものたち・アナザーサイド-/飛刀と天祥の短話
強酸が、金属の身にすらも染みる。痛いと騒いで一転、その空間からは蚊帳の外。放り出された軌道のまま天祥がキャッチしてくれたので少しは助かった。仙道剣士天化を挟まぬ、天然道士同士の直接の継承がその場において成された。けれどそれは、そのときはまだ誰にもそう思われてはいなかった。それがそうと明らかになるのは、もう少しあとのこと。
飛虎封神後、天祥は、すぐには飛刀を自分の剣として使えなかった。それは飛刀が父の形見であると認めること、すなわち、父の死を認めることになるから。飛刀が良き遊び相手で話し相手であるあいだは、父からの借り物の剣である間は、父の生前となんら変わりがない、なにも起きなかった、いつも通りがそこにある気がしたのだ。けれど父の封神直後は、飛刀を見ることすらもつらかった。
天祥が紅水陣から出された飛刀をキャッチした動作があまりにもスムーズだったのは、それまでに遊び慣れていたためでもあったが、黄家の血を持つ天然道士の天賦の武才にもよった。その大先輩、父親飛虎から直接天祥の手へ。それは宿命だったのだろうか。けれど天祥はそのときは飛刀を抱きしめてわんわんと泣くのみだった。傷を、負って身を寄せ合う、ひとときの止まり木。
泣いて、泣いて、それから天祥は、ことさらに天化に遊んでもらっているうちに笑顔を少しずつ取り戻した。天祥が少し持ち直したのを見て天化は、天祥の目に触れぬようしまっておいた飛刀を、自然と遊びの輪に復帰させていた。天祥は自分が何故飛刀を見るとつらかったのか、考えることを無意識に避け、内に封じ込めた。誰もそれに触れない。飛刀も文句の一つも言わない。天祥に「ひとー、今日は何して遊ぶー?」と言われれば、ただただその遊びがいつも通りであるように応じた。ブランクなど、ないように。望まれれば手遊びにだって付き合った。兄弟稽古のときにはまるきり父親からの預け物を振る舞った。
“天祥は、朝焼けが嫌いか?”
天化封神前、飛刀と天祥はそんなやりとりをした。そのときですら飛刀は、天祥に父の剣として扱われていた。お父さんの剣をちょっと借りてるだけ。飛刀とは仲良しで、遊び相手だから、おしゃべりをする。その砂の城が、殷王朝とともに終わりを迎える。あるいは夜明けか。兄、天化が亡くなって、いよいよ天祥は、完全に内にこもった。飛刀はふたたび、かやのそとへとぽつり置かれる。天祥は飛刀を手に取ることも近づくことも、見ることさえも拒んだ。すべてから、心を閉ざした。
それが哪吒との約束により救われる。そうして、改めて自分の周りが少し見えた。そこに居たのは
――
「
……
飛刀。ねえ、ひとー。
…
ボクの、剣になって。ボクと一緒に、いてほしい」
『
……
ケッ。んなモン、元より決まってらぁ』
「それ
…
いいってこと
…
?」
『
……
言わせんなよ』
「やだ。聞きたい」
『
…
チッ。
…
しょーがねぇから、オレサマの力を貸してやるよ、天祥』
こうしてひと対の、パートナーが産声を確かにしたのだった。そしてそれは、ひとつの継承の儀の完遂を意味した。同時に、これからさきの未来、父のかつての地位と同じ名を継ぐか否かの選択に立つ、その歩みのスタートでもあった。飛刀と天祥、その良き相棒同士が、幾多もの苦難を経てさきを切り拓いていく。
終
-----
【腐】ことだまリレー/発天(+天祥×飛刀)
天幕の中は、ひみつの時間。
「
…
ねえ、兄様。ボク、飛刀のこと、すごーく好きだなー」
「そーさね。ずいぶん、気に入ってるなぁ」
寝支度整え今日は二人きりで横になると、天祥が言ってきたのはそんなことだった。彼はまるで、きっと二人が子ども時代を共に過ごしていればとっておきの場所を耳打ちしてくるときがそうだったのだろう、と思わせる様子だけれど、あいにくとその場所には天化も心当たり。夜目の利く天化にはどんぐりまなこのまたたきが外の星くらいはっきりと見えた。
天祥は、特に困惑するでもなく、続ける。
「あのねー、思うんだー。飛刀が痛いのがイヤだって言うなら、ボク、もう、お父さんから飛刀を借りて稽古しないよ。だけど
…
でも、飛刀と、一緒に居たい。どーしてかなー」
「あー、そーゆーのちょっちわかるさ。俺っち、王サマの護衛の任はもう終わってっけど、あのひと今どうしてっかな、とか、気になるし、そういうのとか関係なしに、酒呑みに行くなら王サマのとこがいちばんいいさ。なんでかねぇ?」
「ねー」
ひみつを紐解くにはまだ少し、夜が更ける必要があるようで
――
***
その翌朝、天祥は、父の天幕で壁に立て掛けられている飛刀に同様のことを言った。物知りの彼ならば理由が分かるかもしれないと思ったのだ。けれど、途端、沈黙。あれー?、と天祥の傾げた首が九十度を上回る前にそれでも飛刀はなんとか、ひどく重たそうに、くちを開いたのだった。
『
……
オレは、べつに、多少痛くてもお前に使われるのはキライじゃないけどな。それだけは、勝手に勘違いするなよ』
きょとり。天祥は曲げたままの首を止めて思案する。それが痛むころ、質問を重ねた。
「それは、稽古に付き合ってくれるってこと? でも、ボク、そうじゃないときでも飛刀と居たいんだ。飛刀はなんでか知ってる?」
飛刀がよろりとよろめくように刀身をのけぞらせる(壁に立てかけてあるので実際には全体の中ほどをダイナミックに突き出すかたちになった)。思わず声を張ろうかと一瞬くちをおおきくあけながら体勢を戻し、それからはたと思いとどまり、すぼめる。シュルシュル、伸ばした剣先で、天祥の耳元にだけ、彼にだけ聞こえるようにちいさく、ささやいてからトントンと、その肩を叩いたのだった。
『
…
そいつはな、天祥。オレサマも、お前と一緒に居てもいいからだ』
「そーなの?」
思わず小声で返す天祥。飛刀は、しかりと、うなずいて返す。ニマリ、ニヤけ顔はこの天然を少しだけからかっているからなのだけれど、彼は気付くまい。ところが。
天祥が「兄様にも報告してくる!」と去って行くのを止められず、やってしまった、と飛刀は崩れ落ちた。がらんからんころん。
…
よいしょっ、と。はぁ。
天祥が事の次第を嬉しそうに話すのを聞いて、天化は、同様に首を傾げ、それから、片てのひらを他方のこぶしでぽんと叩く。
「そーいや、王サマも、俺っちと呑む酒がいちばんウマいっつってたさ。利害の一致ってやつかね?」
「りがいのいっち?」
「ま、たぶんね。ああ、王サマ今ちょうどちょっぴしヒマしてると思うから、訊いてくる。悪ぃね、天祥、ちょっと外すさ」
「うんっ、行ってらっしゃい、天化兄様!」
「っし!」
かくしてリレーのバトンは姫発のもとまでつながれる。
「王サマー、今、ちょっといいかい?」
「おー、天化。どーした?」
「あのよ、俺っちたち、酒の趣味はちぃーーーっっっとも合わねえけど、話はすげえ合うさ?」
「急だな。
…
ま、そーだな。酒の趣味が合わねえから取り合わなくて済む。これだけは確実だ」
「ああ
…
そういうことだったさ?」
「待て待てジョーダンだ! お前と話すの、すげえ楽しいよ。べつに、酒が入ってなくても。もっと時間ありゃいいんだけどなぁ」
「そーさね、なんだ、やっぱ、思ってるの俺っちだけじゃなかったんか。なんか、すげぇどうでもいい話とか、つまんねぇことで笑い合えて、
…
たまにしんみりするとこもちょっち気が合って、あー、ずぅっと呑んでられたらなぁ、って、思うけど、そうもいかないから
…
だから、次の日が来るのが、すげぇ待ち遠しいさ。まるでガキみたいにな」
にひひっと、笑う彼に姫発はぼんと頬を熱くさせる。
「
……
そりゃ、その、お前
……
呑み足りない、とかじゃねぇのかよ
…
」
ぽそぽそ。くちびる尖らせもごつくは照れ隠し。天化がきょとんとして、それから姫発の背をばしんと叩く。
「俺っち呑兵衛じゃねーさ。アンタと呑む酒はなんだかオヤジたちと呑むのともまた違う、なんか、うまく言えねぇけど、ほかとちょっち違う味がするさ。けど、なんか、アンタもさっき言ってたけど、べつに、酒がなくてもきっと俺っち、王サマとダベるの、結構好きさ。ダチじゃぁねーけどね」
すき、の、二文字がやけにエコーする。姫発は思わず待ってくれの意をこめててのひらを天化に向け、腕を突っ張る。まて。ムリだ。この破壊力はムリだ。まってくれ。ひらり、マントが動揺のままに大きく揺れた。
一呼吸置きたい意が伝わったのか分からないが、しばし沈黙。時間がやけに、ゆったりと感じられた。姫発は体勢を戻し、静かに、呼吸を整え、そうして、意を決する。自分に、同じだけのパワーが発揮できるかわからないけれど。それでも心意気だけは負けないつもりで、ありったけの想いを、込めて告げよう。
「
……
あのよ、天化。俺はな、お前と過ごす時間が楽しいってのはもちろんだけどよ、その前提としてだ。前提として、
…
お前のことが、好きだ、っていう
…
そういう気持ちがあるんですけどね、天化サン、どーでしょうか。おっと、この場合、好きってのは恋愛感情を意味するぞ」
照れ隠しは混ざったけれど一気に言い切った姫発。天化が、ぽかんとする。それからまたぽんと手を打った。目から落ちるウロコが見える。
「そういう
……
ことだったさね
……
」
「お分かりいただけましたか」
どきどき。成り行きに胸がはぜそうな姫発へ、そして自身へと確認するように天化が、こんな話をした。
「オフクロが、よく、嬉しそうにオヤジの話してたさ。俺っちたち兄弟や叔母さんの話もよくしてたけど、なんか、オヤジのこと話す時はオフクロのほっぺたがいつも以上に桃色してて、そんで、袖で口元隠してなぁ。オヤジもオフクロとしゃべるときは声が高かったりしてよ。なんでかなぁ、って、思って訊いたことあるさ。そんときに、恋愛って概念を俺っち教わったさ」
「
…
そっか」
「それかーーーーーーー、それだったんかぁ
…
そっかぁ
…
なるほどなぁ
…
」
うんうん、と頷く天化。これはつまり?
「ならよ、天化、お前も
…
」
「うん。俺っち、王サマのこと好きみたいさ。恋愛っぽい意味で」
「っぽい」
「うん。あーーー、そしたら天祥ももしかしてそうさ?」
「え?」
「ちょっと天祥に教えてくるさ!」
リレーのバトンが帰って行くのを、置いてけぼりくらった姫発が説明されるのはその日の呑みにて。以降数日、飛刀は顔を出さず、その後は天化をよく突っついているさまが見られたとか、見られなかったとか。
終
-----
【男女カプ】嗚呼しあわせ/太乙×公主+天祥と飛刀(飛虎賈氏前提)
公主は、崑崙山の清浄な空気を失って以来苦しそうなのだと周りから聞いた。公主の体調を良くするための手段を、太乙先生が率先して、ほかの研究や開発と並行して模索していた。そして、なんと“極上のかすみ”というものがあればいいということが分かったじゃないか! 先生は公主に経過報告をしながらも、その手にそれがないことをとても申し訳なさそうにしていた。公主は、「気にするでないよ、太乙」と、少し苦しそうだけど力強く、先生に笑んだ。先生の頬がぼんと真っ赤にはぜてまるで頭から湯気が出そうだ。程度は違うけど、母さんがそうしたときの父さんの、くすぐったそうに頬を掻く仕草が重なって、ああそうか、先生は公主のことが好きなんだ、と自然に思った。飛刀も、『ありゃぁ、完全にホの字だな』と言うから間違いないのだろう。
先生は、自前のサーチシステム(先生はそれを太乙ナビと呼んでいる)や崑崙山2に搭載した探査機器からも探すけれど、どうしても、自分から遠い場所や、地上の細かいところなどは漏れがあると、これもひどく申し訳ない様子でオレに言う。オレは、神界再構成のために地上などを細かく探ることになっていたから、その傍らどこかで極上のかすみを見つけたら持ってきてくれないか、と、先生から言われ、もちろん引き受けた。そして、縁があってそれを手に入れた。急く足で先生に報告すると先生はまるで父さんが帰ってきたときの母さんみたいにうれしそうにして、けれどもっとずっと子どもっぽく、飛び跳ねるようだった。先生が「急いで公主のところに行こう!」と言ってオレと一緒に自室を走り出て、短い移動距離の間に手はわたわたと首元の巻き布を正そうと乱したり自分の髪を手櫛で整えようとしてかえってこんがらがらせたりなんてしているんだから、ちょっと待とうかと思ったくらいだ。父さんのいないとき、母さんが何度か、髪を梳いていたのをなんとなく覚えてる。母さんの長い髪はいつだって、きれーだなぁと子ども心に思わせた。父さんがいつ帰ってきても、母さんがバタバタすることはなかったように思う。
公主の部屋にはすぐに着いた。太乙先生は髪がぐちゃぐちゃでもみじんも気にせず公主に声を掛ける。一刻も早く、という気持ちが先生の心のなか全部を占めてるみたいだ。
「公主! 極上のかすみが見つかったって! 天祥くんが持ってきてくれたよ!」
「なに、まことか」
「ええ、公主。よかったら、これ、もらってください」
「助かる
…
ああ、なんと全身に、沁みることだろう
…
肺深く呼吸することが、こんなにも心地よいよ
…
あっという間に、活力に満ちた」
「本当かい、公主?!」
「ああ、もちろんだとも」
「よかった、
…
よかったよぉ
…
うう
…
」
「泣くでないよ、太乙。おぬしに涙は似合わぬ」
公主がためらいなく袖口でぽんぽんと太乙先生の頬の雫を拾い上げ、そのまま目元の手をそうっと握って外し、目元まであやすように布で叩くものだから、オレは少しびっくりした。太乙先生も動揺して完全に固まっていた。ぷしゅうっと、蒸気を噴き出すのが見えた気がする。あとで聞いたら飛刀もそう言うから合ってたと思う。太乙先生の頭をぽん、ぽんと公主がこれもあやすように叩くので、先生、さすがに倒れる。公主がとっさに水でクッションを作ってキャッチしたけど、びっくりしながらだったから、無自覚なんだと思う。飛刀と目を合わせて、思ったのは相思相愛という単語だった。たぶん先生も公主も気付いてないから黙っておくけど。
そうして太乙先生と公主と、オレと飛刀とのメンバーで、封神台の駅の開通作業に入る。なかなか混沌としてるけど、やりがいがあるね。入ってすぐ、公主がこんなことを言ったとき、太乙先生の目にはまた光るものがあった。そしてオレは、そうだったんだ、と思った。
「外を歩くのは楽しいものだのう」
「うう
…
そうだよね、公主
…
キミの足は、今、確かに外の地を踏みしめている
…
私も、同じその場に居られて、すごく、心から、うれしいよ
…
」
飛刀が耳打ちしてくれた。公主は基本的に浮いて移動するんだって。だけど、今、彼女は歩いて移動している。それは太乙先生の言うように、外の地を実感したいためなんだな、って、オレはようやく理解した。
「そうだ、公主! 私が、みんなで歩んだ記録をマップにつけるよ! 記念になるんじゃないかな」
「おお、それは、うれしいことだな! よろしく頼んだぞ、太乙」
珍しく公主が声のトーンを弾ませる。先生は特に驚きもしなかったけど、オレはちょっとびっくりした。先生はすかさずこう返していた。
「もちろんだよ! わたしのほうこそ、うぅ、うれしいよ、公主~~~
…
うわぁーーー、ほんとうに、キミが元気になって
…
もう、ぜったいに、ぜ~~~ったいに最高のマップになるよ
…
!」
ああ、太乙先生ってばまたぼろぼろ泣いて。公主に肩を叩かれながら、「頼もしいが、無理はするでないぞ。
…
おぬしを信頼しているが、背負い込みすぎる点は少々いただけないからな」とまで笑まれて、先生、思わず抱きついたね。背中をぽんぽんあやすゆったりとした袖を、見ているだけで懐かしい心地になって、オレもちょっと泣きそうになったのは飛刀とだけのヒミツだ。
そうしてオレたちは、太乙先生のナビにマップのデータをたくわえていくことになる。決して行楽気分じゃないけど、それが彩り豊かになることが容易く予感できた。そしてきっと、この戦いが終わっても、先生と公主と、二人がマップを広げていくような、そんな気がしたんだ。この気持ちを、形容する言葉は両親の姿から知っていた気がする。
終
-----
【腐】再会/飛刀を要に、姫発と黄家の話(発天)
「
………
あいつら、大事なモン、置いてっちまったな」
『
………
うるせぇ』
飛虎は飛刀を、天化はそれが純化された形見であるためのひみつを、それぞれ遺していった。天化封神後、成立した“周”においてはそれを知る者は姫発と飛刀の両名しかいない。時折、否しばしばの訪問者、太公望を除けばだが。そのひみつを当事者の一人天祥が明かされるまでには、長らくの時が空いた。
***
飛刀、飛刀。ひとつ、頼みがあるさ。
…
何だよ。どうせ、ろくでもねぇ。
飛刀。天祥には、どうか、この傷のことは隠しておいてほしいさ。
…
わかってる。わかってるよ、そんなこと
…
………
それから、王サマに、よろしく。
それは自分で言えよ!
じゃあ、俺っち、行くさ。
おい、絶対、テメェで言うんだぞ!
……
よろしく、頼んださ。
夢を、見た。そう感じてから否定する。夢なんて見るもんか。ああ、そうだ、少しの間、放っておかれてヒマだったんだ。だから、少しだけ
…
少しだけ、拗ねてただけだよどうせ。
天祥の兄貴、天化がオレの元持ち主(いちおうな)余化の原型から受けた傷で苦しんでることは、知ってた。そりゃオレサマは善良な剣だから多少は気にかかる。オレが、余化のコレクションだったオレがここにいてホントにいいのか? 天祥のやつがもし知ったらオレは
……
だからって、どうにもなりゃしない。
***
「
…
黄、天祥。先頃の意向調査を経て、そなたを我が周の、将軍位に任ずる。
…
よろしく頼んだぞ。天祥」
「はっ」
***
『なあ、飛刀。俺、将軍にならないかって、武王から直接相談されたんだ。ありがたく引き受けるつもりだよ。だからさ、飛刀。これからも、俺と、一緒に戦ってくれよ。お前は、今までも、これからもずっと、俺の相棒だ!』
言葉を、失った。何となく察してはいた。けど、あのオウサマ野郎、オレに判断を全部押し付けやがったんじゃないか。へぇへぇどうせ、そんなの、きっとヒガイモーソーだろうよ。
『
…
飛刀?』
はっとする。天祥のやつはオヤジに似てガサツなようで機微に敏感だ。オレは今は問題を、保留することを選んだ。いいんだ。いいんだよ、それで。オマエも、アイツも、それが望みだろ。違うのかよ。オレは天祥に言葉を返す。軽口で、混ぜっ返す。今向き合いたくないすべてと。
『
…
へぇ。よかったじゃねぇか。ま、そうだな。オマエが、はしゃぎすぎて大ぁ事な相棒のオレサマを忘れてなくて安心したぜ』
『はは、なんだそれ。
…
ああ、それにしても、今後は、臣下としてのふるまいとか、しゃべり方とか、もっともっと、熱心に爺ちゃんから教わらないと』
『
…
いいんじゃねぇか、そのままで。なぁんにも、変わらない、そのまんまで』
『そんなことないよ!』
ああ、そうだよ。いつかは、変わらなくちゃならねぇ。オレたちは、変わらなくちゃ、ならねぇんだ。内緒事が用をなすうちはそのままでいい。だけど。そんなモンつまんねぇことだって思える日が来たら、その時は。
…
いいや、違う。そう変わるんだ、オレたちは。
***
「
…
なぁ、飛刀。俺はよ、オメェのこと、信頼、してるんだぜ」
なんだよそれ。ガラでもねぇ。
「オメェだけじゃねぇ。俺のところでみんなが自分の仕事をしてくれてる。そんなみんなのことを、俺は、信頼してるんだ」
アイツのこともか?
「
…
もちろん、今までの、この“周”に関わった全員が、そうだ。
…
俺は、してたよ。あいつのことも。信頼、っつぅの、ハッキリ言ったことはねぇけどな。はは、言っときゃよかったかなぁ。アイツ、どうせ知らなかったぜ。知ってたのかな」
オレサマが知るかよ。
「
…
まあ、それは置いておいて、っつうのもヘンだけどな。天祥のこと、よろしく頼む。
…
はは、俺が言うのも、おかしいかなぁ。おかしいよな。俺たち、妙な間柄だよなぁ。なんだかよ、時間の流れに、
…
置いてけぼり、くらってんだよな。蚊帳の外っつうかさ。結局、あいつの信念で、妙なモンだよなぁ、いっちばん置いてけぼりくらってる天祥が、オヤジさんの戦力をまっすぐに引き継いでる。当事者、なんだよなぁ」
オレとオマエを一緒にしないでくださーい、オウサマ野郎。
「
…
つれねぇなぁ、飛刀。
…
けどよ、マジで、頼んだぞ。天祥はいつか、本当の意味で、当事者になる。それが、できるだけ良いかたちであるよう、俺も、手伝えることは何でもするぜ」
オウサマのお手なんざ借りる必要ゴザイマセン。
「
………
頼んだぞ、飛刀。俺もよ、たぶん、長くはねぇな」
バカ言え。
「だからよ、示してやんだ。生き様、っつうの? 響きはちぃっとばかし、くすぐってぇけどな。俺は、
…
この国、周は、たくさんの、あまりにもたくさんのものを、背負って、犠牲にして、成り立った。そいつら全員に示しがつくような生き方ってやつを、いっちょ、見せてやろうじゃねぇか!
…
それがさ、俺なりの、責任ってもんだと思うんだ。俺は、天祥のやつに、堂々と王様してるとこを見せ続けねぇとならねぇんだ。胸張って、オヤジさんや兄貴が体張った国を背負ってねぇと、ならねぇんだ。
…
数奇なもんだな、アイツとおんなじじゃねぇか。腹の傷が障ってるんだってよ。なら、俺にだって、できねぇことはねぇよ」
長話は済んだかよ。
「
……
よしっ! 一通り話して気が済んだ。
…
付き合わせて悪かったな、飛刀」
…
今更だろ。
***
“へぇへぇ、オレは、どうせ出来損ないですよ”
久しぶりに里帰りしてみれば口をついて出るのはそんな言葉。ああ、そういやあのオウサマ野郎も、そんなこと言ってたらしいな。伝え聞いただけで、今のやつにはそんな意識なさそうだけどな。
そういえば、オレサマっていう素ん晴らしい剣は、宝貝作りの自称達人、つまりはとある変り者が気まぐれで生み出した、フツーの剣だった。その意味では似たような境遇のやつはいる。気まぐれじゃねぇけど、天祥の師匠、哪吒だとか、雷震子のやつとか。そういや雷震子のやつはオウサマ野郎の兄弟らしいな。いちばん上の兄貴だとか、オヤジさんだとか、そういう存在を亡くしてるって聞いてる。
…
なんだかな、似たとこ探して、それで何になるってんだろな。バカなんだよ、オレたちはな。
見ろよ。天祥のやつ、余化の名前すら知らねぇんだ。
***
天祥や飛刀たちは、牧野での四方の聖獣像移動を終え、メインの霊穴を解放すべく、中央へと戻る。するとそこに現れたるは妲己。天祥が飛刀を、天化が莫邪の宝剣を構える。けれど、妲己はどこか弄ぶよう。その招きに応じて天祥たちの目の前に現れたのは、何たることか、紂王、そのひとだった。封神前の安らかなる心地をすっかり忘れたかのように暴走し、拳を向けてくる彼には、当時を知る者なら誰でも胸が締め付けられずにおれないであろうほど。
一度は、倒した。それがまた、復活する。否、させられるのだ。だが、打つすべを飛刀は知っていた。
自身の能力を使うのは、ああ、あれ以来だ。ほら見ろ、天祥なんざオレの能力を知りもしない。とっさのときにそれを忘れずにいた自身の機転に飛刀はうっとりしたくなる。
飛刀は紂王に、その心へと訴えかける幻を見せる。それがあまりにも効果的であった背景に、天化と姫発、両名の存在が大きいことを知らずに。場にいた天化すら、その自覚はなかった。
紂王は、その人生の最期、すなわち封神前、天化との真剣勝負によりぬくもりを、まごころを身に沁みて思い出した。そしてその最期を任された武王姫発。彼は、紂王に、王として、同じ、王として、王らしく、身なりを整える時間を設けた。その新王の心遣いに紂王は、天化によりわずか体温を取り戻した心で、その底から感じ入ったのだ。ああ、よい若者たちに出会った。これからは、こういう者たちの時代になるのだ。そう体感した。彼は心を、すなわち彼の魂の真なる姿をその身に取り戻し封神された。きれいに最期を迎えることができた。だからこそ、飛刀の能力、相手の情や悔いに訴えかける幻を見せるそれが実に効果的に彼を再び救ったのだった。その要につながる地続きの存在。天化と、姫発。彼らは紂王の人生において、よく似た役割を、けれども違う分担でもって、重ねた存在なのだ。
牧野での紂王との “再会”の後、天祥と天化との共闘は続く。さまざまな存在との出会いを経て、天祥がどこか変化していくのを、飛刀はその太刀筋に身をもって感じた。天祥が特に自分の意志をはっきりと示したのは、蓬莱島2に赴いたとき。彼は聞仲相手に、きっぱりと、物申したのだ。飛刀はそのとき、この時、自分に未だ委ねられていたひみつ、すなわち前持ち主余化と天化との間に起きたことを洗いざらい話すことを決意した。天化の意志に関係なくするつもりだったけれども彼も同じことを決めたようで、父親を助け出し島を脱出したあと飛刀にこっそりと話しかけてきたので、よかった。
そうして飛刀と天化は、天祥に、大事な話がある、と、大まかなことをシンプルに説明した。天祥は彼らがこの時までそれを隠していた真意を充分察し、それを責めることも、飛刀への相棒意識を変えることも、余化への憎悪に囚われることもなく、ただわずかに、ほろりと泣いたのだった。天化と、そして父飛虎とがその肩を背を、抱きすくめた。飛刀もその手に、わずか寄り添う。飛虎は既に神界で天化からいきさつを聞いていた。
飛刀が天化に、武王にこの件の報告に行くよう言ったのは、その晩のうちだった。彼は少しごにょごにょと渋って、それからやっと、「
…
わかったさ」と、言って闇夜へと消えていった。あいにくとそこまでは、飛刀には見えなかったけれども、彼が豊邑のまちでは城に近い天祥宅の地の利を活かすことなく蛇行して進むことを何となく予測できた。はやく行ってやれよ。時間、なくなるぞ。お節介焼きになったものだ、まったく。
その夜天化は、日の出る直前まで、宅に帰ってこなかった。
それからしばらくの更なる旅を経て、妲己をその目的ごと封じ、崑崙山2へと戻る。天祥が武王に報告に行きたいと言えば飛虎や天化も名乗り出る。そこで太乙が「ゆっくり再会しておいで」と言うので飛刀は笑ってしまい、天化にばしりと小突かれたのだった。へぇへぇ、どうぞごゆっくり。言えば更に、むすりとされた。
終
-----
【腐】初恋、愛に転ず/発天(で姫発+飛刀の恋バナ的やりとりのみ)
「
…
あいつに、伝えてくれよ。
…
まだ好きだ、って」
神界システムに横やりが入り、一度は封神された者たちの一部がその魂に肉体を持って人間界へと下りてきた。混沌の気配が忍び寄る、それを食い止めなくてはならない。周の将軍黄天祥とその相棒飛刀とが、ここから各地を回る旅に出ることになる。その報告を武王姫発にした。“そうか。それじゃあ、崑崙に行ったらみんなによろしくな”。そうは先ほどことづかったはずだけれど。けれども飛刀が姫発のその追伸を唐突に思ったのは、決して伝言を頼まれたこと自体でなく、あくまでその内容に関してだけだった。脈絡もなにも、あったもんじゃない。そういうもんだよこいつは。
『
…
それ、直接言ったことあんのかよ』
きっとないと、不思議と確信があった。案の定、返ったのは次のお言葉。密談だからこその本音。
「
…
ねぇよ。言いそびれたまんま、ご覧の通りだ。けどよ、どうせあいつ、知ってるぜ。はは」
肩を控えめにすくめてから、細まる双眸。遠くを見る彼が、ふんわりとおぼろげな何かを、それと同時に明確な誰かを、漠然とその知覚に捉えるのだった。
話は少し戻る。天祥には、少しうっかりなフシがある。いつものクセで、彼は新たな任を帯びるたびに張り切りすぎて飛刀を王前の床に置き忘れたまま場を去ってしまうことが多々あるのだった。ひざまずいたときに置かざるを得ないのがそもそも悪いんだなこれは。飛刀はそう思う。けれどもそれをわずかな好機とばかりに、密談、あるいはただの雑談を、してくるのがオウサマ姫発。飛刀は特殊能力の都合で人間の機微には触れるほど都合がよいので、気まぐれで付き合ってやっている。天祥の自宅から置き忘れられそうなときはさすがに慌てて彼に声を掛けるけれど、王前を元気いっぱいに去っていくその背中を自発的に止めたことは、ただの一度も、なかった。
とある変り者の気まぐれにより生み出された自身が、ある時は家族ぐるみの勝手に振り回され、今はこうして、ああ、これも振り回されてんだろうな。そんなことを、飛刀はぼんやりと片隅で思う。思いながら、姫発の相手を、してやっていた。今もそうだ。
『
…
そいつは王命か?』
問うのは当然の権利だろう。けれども。
「
……
どうだかな。お前ェに、任せるよ」
『なんだそりゃ』
素っ頓狂な声を出してしまった。黄飛虎と出会ったときから、こういったことが増えた。最早、らしくもないと思うのも不自然なほど、彼ら親子と、そしてその“深~い”関係者姫発とに、こうされてばかりだ。
だが、姫発は意に介することなく(介してくれ、とは飛刀の念)、また先ほどとそっくり同じ目をして、誰にともないふうで続けるのだった。
「
…
わかんねぇんだよな。俺は、プライベートであいつと居たとき、一度だってオウサマなんてもんじゃなかった。けどよ、あいつ、いつだって俺を、王サマ、って呼ぶんだぜ。いつだってだ。だからよ、あいつが俺を王って呼んでくれるなら、俺はきっとそうなんだ。あいつ、変わってねぇといいな。変わってねぇんだろうなぁ」
言外に、会いたいと言っているようなもんじゃねぇのかよ。思ったけれども飛刀は、口をつぐんだ。
『
……
わぁったよ。そんじゃあ、まあ、言うは言っておいてやる。
…
けどな、もし、もしだぞ。俺があいつに伝える前にオウサマがご自分で会う機会がございましたら、そんときゃ自分でおっしゃってクダサイ。分かりましたか』
ぱちくり。またたく眼が、やつれた容貌のなかで一点のあどけなさを放つ。それはそこにある感情そのもので。
少し口や頬をもごつかせて尖らせ、それから眼を閉じうーんとうなり、ゆっくり、重たげに開く。ぽりぽりと掻くこけた頬。そこにある表情を面映ゆげと言うことを、飛刀は知っていた。それから一転潔いほどににかっと、笑って姫発は、拳を片方突き出し、こう宣言する。
「
……
はは。そりゃ、そうだな、面白れぇ賭け事じゃねぇか。
……
分かったよ、約束する」
事実上ここに、飛刀は天化に伝言を告げないという密約が、交わされたのだった。こいつらは、こうして背中を押しでもしなけりゃどうにも進まないんだよ。いつだったか姫発は、こんなことを言っていたくらいだ。同じくどこか遠くを見ながら。
“初恋
……
はつこい、だったのかも、しれねぇな。あいつに抱いた感情は、それまでのほかの誰とも、違ってたよ。いつだって誰にだって本気で愛を告げてたつもりだ。けどよ、あいつの前じゃタジタジだった。実のところ、てんで恋愛の経験なんざなかったんだな俺は。そんなの、あいつと会わなかったら、知りもしなかったんだろうよ。
…
昔、飲み仲間が言ってた。初恋は、いっちばんトクベツなとっておきの思い出だ、って。そのとき俺ぁ、ピンと来なかったんだ。当然知らなかったが、あれはしたことなかったからなんだな。今なら分かるよ。引きずるとか未練とか、そういうのともまた違う。大事な、大ぁ事な、とっておきの思い出なんだよ。いつまでも大事にとっておきたいような、な。そうしてこの胸のなかでいつか、それが、愛ってやつに変わるんだ。炎みたいな激情じゃぁねえ。
…
くすぐったくて、生温かい、
…
そうだな、ちょうど人肌合わせたくらいかな。そのくらいのぬくもりが、ずうっとよ、この胸に、灯り続けるんだ。
…
好きだ、って、言っちまったら崩れるんじゃないかって、そうだ、こわかったんだ俺は。言えなかったんだよ。そうさなぁ、言えなかったこと自体は、未練かもしれねぇな。ははっ、やっぱ、簡潔にキレイなことだけじゃ語れねぇな。愛ってのは、奥深いものなんだ。知ってるか飛刀”
概ねそんなことを姫発は以前密かに飛刀に言っていた。飛刀は少しあなどられている気がしてムッとしたのでよく覚えている。べつに恨んじゃいねぇぞ。べつにな。思い出しただけだよ。
その時は、告げる相手を既に亡くした姫発相手に“そう思うんなら思い切って言ってこい!”とは言えやしなかった。けれど今は、状況が違うではないか。きっと天化も、人間界に下りている。きっと、体をいまひととき取り戻した彼と再会する時が、来る。だから言ってやるんだ、ことづかりなんかじゃねぇオレサマ自身の言葉でな。
“
――
オウサマが何かお前に用があったみてぇだぞ。あいにく、何て伝言頼まれたかは忘れちまったけど。
…
ああそうだ、直接聞いて来いよ。それが早い。今ならいけるだろ?”
どうだ、これだけお膳立てすればさすがにお前らでも進むだろ。これ以上は、してやれねぇ。どうせオレは、レンアイなんざ、知らないようですから。へぇへぇ、恨んでますよ。おっと、本音が出ちまったな。
そんな憎まれ口をオプションに、さて、青春なるものはどうなることやら。それが単純に思い出で終わるのか、それとも、衝動を伴うのか。飛刀にとっては、知ったこっちゃない。
ああ、天祥の、慌てて戻ってくる足音が聞こえ始めた。密談はこれで終い。次に会う時は色よい報告を、どうぞ互いに。
終
-----
【腐】兄弟、弟子、師父/道天前提、天祥×飛刀要素あり(道徳+天祥+飛刀(+α)
「剣術の稽古をつけてほしい
…
? 私に、かい?」
青峰山に客人。四不象が連れてきて彼はそのまま息抜きに飛び立っていった。残されたのは、かわいい弟子の弟(初めて見たがこれもまたかわいいものだ)天祥。その彼からの申し出に完全に意表を突かれた。けれど天祥の瞳が真剣そのもので、道徳は元よりの気質もあり真っ直ぐに、話を聞くこととする。膝に両手をついてかがみ込み、視線の高さを近づければ、幼い戦士はキッとつよいひとみでわずか見上げて、こう打ち明けた。
「天化兄様の太刀筋をいちばん知ってるのは、そのオシショーサマだから」
「それは、まあ、そうかもしれないけど
…
」
愛おしい弟子の武芸のことは確かによく知っている自負がある。それを第三者から認められたのが面はゆくて、真面目に話しているというのに道徳は思わず頬を掻いてしまった。にへら、と、ゆるみそうになる顔を必死でくいとどめる。そうして、尋ねた。
「それで、どうして、天化の太刀筋を知りたいんだい」
「
…
あのね、ボク、飛刀と一緒に強くなりたいんだ。今は兄様に稽古をつけてもらってるけど、ボクは、飛刀と一緒に、兄様との手合わせに勝ちたい。だから、お願いっ!」
ぺこり、下げられたつむじの位置が弟子と一緒だな、と思った。毛質は全く違うけれど。
「
…
わかった。その飛刀というのは、キミにとって大事な存在なんだね」
文脈から飛刀が天祥の剣なのだろうと推測して胸が温かくなりそう返す。そのときだった。
『待て待て、なんだそのムズムズかゆい言い方は! オレは天祥のやつにたまたま使われてるだけだぜ!』
天祥の背中から剣の刀身が伸びてきてそう主張する。宝貝だろうか。ああ、けれどこの子は仙人ではないから使えまい。
「うん、飛刀は、お父さんの剣だもんね」
『待て待て待て!!!! なんだそりゃ、やめろ、むしずが走る!』
天化の父上の剣なのか。そうか。さっぱりわからない。
「あの
…
きみが、飛刀くんかい?」
『
…
そーだけど、何だよ』
「天化の家族を、よろしく頼むよ」
『
…
何目線だよ』
「はは、それもそうだな。オレは
…
天化のコーチだ! だが、きみたちはいい家族と見受けた!」
『やめろ!』
スポーツ!!と背後にどーんと書き文字が見えた気がして飛刀はくらりめまいがする。けれども天祥がこの相手をひとときの師として鍛練を積むというのだから、しばらくは付き合うことになるのだろう。いっそうにふらりぐるぐるとあたまが揺れて、飛刀はそのまま目を閉じた。そのまま即座にスパルタ特訓が始まって、動けるとバレた飛刀まで腹筋をさせられるとも知らずに。
道徳は、天化が弟子入りした直後のことを思い出しながら、その頃と同じ入門編のトレーニングメニューを、久しぶりに次々口にしていく。飛刀は早々にバテていたが天祥の進度が天化とそっくりそのままで、ああ、懐かしむあの頃。思いを馳せる今。
「
…
天化は、元気にしているかい」
尋ねれば、激しい筋トレで上がった呼吸のまま天祥が元気よく「うんっ!」と答える。ああそうか、それはよかった。この指南が終わったら私も一緒に下山してみようか。そうして、天化に手合わせを申し込むのだ。それはワクワクする構想だった。
“強くなったな
――
”
その言葉をきっと、彼ら全員に掛けるのだ。自分まで家族の一員になったかのようでくすぐったい。けれどもあたたかく、心地がよくて
――
胸が、やさしい気持ちでいっぱいになった。トレーニングメニューは飛刀から鬼だと言われたけれど、それすらもかわいげのあるものだ。飛刀には易しめの別メニューを特別に考えて課せば、『うう
…
免除してほしかった
…
』と言いながらも道徳なりの配慮に懸命に応えてくれた。
「飛刀くん、かわいげがあるな!」
そう言ったら天祥にやきもちを妬かれて少し申し訳なかった。こう弁明する。
「天祥くんの強くなりたい気持ちについていこうとしているさまをほめただけだよ。安心してくれ」
一転、うれしさ満面の天祥。ぎゅううっと、飛刀に抱きつく。痛くないのかいそれは。不思議な剣だ。きゃっきゃと、はしゃぐ天祥に、逃げようとするそぶりだけかたち上とる飛刀。相応にあどけない。ああ、かわいいな。弟子の家族は、なんとかわいいんだろう。にっこりと、自然上がる口角。下がる目尻。
そのあとも少しの間稽古をして、ぐでーっ、と天祥と飛刀とが地に寝そべるころには四不象が迎えに来た。
「
…
なんだか、いい顔してるっスね」
にこり、笑顔になるきみもとてもやさしいいい顔だ。そんなことを道徳が言えば、「天祥くんたちだけじゃなくて道徳さんもっス! なんて言うか、やさしい気持ちにめいっぱい包まれたような
…
」と返され、一瞬目を丸くさせてしまった。今自分もあどけない顔をしたのだろう。自覚して、へらり、まただらしなく笑んだ。
終
-----
【腐】似たもの同士ズ/飛刀+天化+天祥(天祥×飛刀、道天前提)
「
…
よしっ! 今日の稽古は終わりさ。剣の腕前、めきめき伸びてるなぁ、天祥」
兄のその言葉に、ぱちり、まばたき。それから破顔する。
「ほんとっ?! 天化兄様!」
「ほんとに決まってらぁね、なぁ、飛刀」
いきなり話を振られて、それまで剣に徹していた飛刀は無視を決め込もうとするが、この兄弟相手ではろくなことにならないと分かっているので大人しく顔を出す。けれど、ぷいと、視線は逸らして。
『
…
ま、使われてて悪い気はしねぇな』
「ほんとー?! うれしーなー、飛刀、大好きー!」
ぎゅうううっっ。怪力で抱きしめられて飛刀はとっさに身をツイストさせる。慣れたものだ。天化がノーリアクションなのがばつの悪い心地にさせるけれど。
『あのガサツオヤジよりマシってだけだからな! けどよ、マジな話、天化、オマエの指導、けっこうイイ線いってるぞ』
「そーかい? 俺っち、コーチに教わったコツをそのまま教えてるだけさ。天祥に合わせて調整したほうがいいんかなーとか思ったけど、なんか、意外とトントン拍子っつーか
…
天祥にもうまくハマってるかんじさね」
『そりゃぁ、オマエら兄弟が似てたのかもな。体の使い方とか、細かいクセとか』
腕の中の飛刀が兄と会話しているのを笑顔で聞いていて、天祥は、思ったままを口にする。
「ねーねー、それじゃーさ、天化兄様の教えかたと、兄様のこーちさんは、そっくりってこと?」
「へ? まー、そーなるんかね。けど、俺っちのクセは出てると思うぜ。コーチの指導はすごく分かりやすいさ!」
にぃいっ。上がる口角は面はゆげ。にっこり、それに返る笑顔も満開の花畑。
「兄様もわかりやすいよ!」
「へへっ、あんがとよ、天祥」
「兄様こそ、いつも、教えてくれてありがとう!」
飛刀は内心で、確かに天化は分かりやすい、と思ったけれども黙っていた。そこに向く無邪気。
「飛刀も、いつもありがとう! 稽古のあと、もっとこう使ってほしいとか、教えてくれるの、すっごくうれしいんだ」
『バッ
…
おい天祥っ、それはコイツにはナイショだっつってただろーが!』
「あっ
…
ゴメン。けど、なんで兄様にはヒミツなのさ」
『べ、べつに
…
』
「飛刀ー、なんで?」
じいいっ。真っ直ぐな瞳は、責めるわけでもなく、ただただ純粋な疑問。言えるわけがない。わかっているらしい天化がへらへらと、ニマニマ目と口元を細めて眺めている。オマエ助太刀くらいしろ、剣士だろーが! 飛刀のじとり目に、天化がわずかにくつくつと笑ってから一転、真剣ぶって言う。
「俺っちも聞いてみたいさ。飛刀、教えてくれないさね
…
?」
しょんぼり、まるで雨に打たれでもしたかのようなふりが追い打ち。おまえのこと評価したオレサマがバカだった。もうぜってぇ信じねーからな。バーカバーカ裏切り者ー。心の声はダダ漏れすぎた。
「
…
飛刀」
ドスのきいた声にぴしり背筋を伸ばすことが今は叶わないが伸びた心地。じりり、追い込まれた。
『うぅう
……
べつに
…
天祥のことだけ特別扱いしてるみてぇだから、兄貴にだまってろ、って、それだけだよ!』
やけくその心地で言い放ったのが、飛刀を抱きしめる力を何倍にも増すのだった。
『ぎゃーーー、イッテェ、さすがにキツすぎだろーが天祥!』
わぁわぁ、わちゃわちゃ。たわむれる飛刀と天祥を見つめる天化に、飛刀は、絶対にいつかやり返してやると固く決意するのだった。立場が逆転するときが来ることを、天化はまだ知らない。
終
*あとがき
飛刀と姫発のコンビが好きなので、ちょっと多めだったかもしれないです。発天前提の黄家(飛刀含む)と発、というのがとても好きで
…
発天本のほうに入れていたのですが、今回、飛刀本としても収録してみて、自分では興味深いなぁと思いました。
それでは、またご縁がございましたら! いしえでした。
奥付
発行日:2022.11.06(エアブー1106) 一部改訂2022.12.20
発行者:grantieYa(ぐらんてぃーや)/いしえ
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