すなつき
2024-09-15 14:02:49
4953文字
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はなはさいたか

わたしをみてくれたね。
わたしにはなしかけてくれたね。
わたしにわらいかけてくれた。

きみが、わたしに、花をさかせたんだよ。




(ストーカーに狙われているアキラくんの話。ライアキは付き合ってます)

Day.1
店の裏に置きっぱなしにしていた、収納ボックスの表面に何かで引っ掻いたようなキズができていた。中身は前の家から持ってきたもので、今の生活に別段必要ないから急いで開けることもないなと放置していたのが悪いのだけれど。これは、何だろう。ネコの爪とぎ?確かに引っ掻きやすそうだしな。
フェンスがあっても彼らには何の障害にもならない。困ったな、と口ばかりで結局ネコのしたことだからと僕は許してしまうのだろうな。



Day.2
キズは増えていない。気まぐれなものだ。
いや、増えてないことは良いことなのだけれど、せっかく用意した猫用のゼリーが無駄になってしまうことは由々しき事態だ。



Day.3
収納ボックスのフタの境目を中心に酷いキズがついている。まるでバールのようなものでこじ開けようとしたみたいな……。う、昨日見てしまったホラー映画にバールでドアをぶち破って入ってくるものがあったのを思い出した。今、思い出すなよ、僕。
ひとまず、収納ボックスは2階に置いて置くことにする。

中身に問題はなかったけど、ネコの仕業というのは無理がありそうだ。じゃあ考えにくいけど泥棒?金目のものが入っているとでも思ったとか?ありえないか。
リンが2階に上がるたびに邪魔だよね、という顔をしてくる。絶対に僕の部屋には置かないからな。



Day.4
異常なし

いや、ごめん。駐車場には何の問題も起きてはいないよ。だから異常なし。
変わりにポストに真っ白な封筒が入っていた。封はしっかりされているけど中身は紙じゃなさそうだ。歪に膨らんでいるからね。
中身はちぎれたひまわりの花だった。
リンに見られると良くない気がしたので僕の部屋のゴミ箱の奥底に押し込んだ。ゴミ出しの日は明後日。忘れないようにしないと。



Day.5
雨が降っているからお客さんは少ない。
チラチラとずっとこちらを見てくる女性の方が気になるけど変に反応しないのが良い。笑顔をひとつ浮べておけばなんとかなるのさ。リンにはあんまりそれしないでね、って言われているけど笑顔は接客の基本じゃないか。
一連を見ていたサラリーマン風の男性の人に大変ですね、って声をかけられて苦笑いしてしまった。まったく、本当にね。



Day.6
ゴミ収集のおじさんが、あれは猫ちゃんの仕業ですかね、と困った顔で言うものだから慌ててダストボックスを見に行ったよ。
なんと前日の夜に出したゴミが荒らされていたんだ。袋を破かれて中身が散乱している。この片付けは誰がするんだろうか? おじさんではない? じゃあ僕か。まったくため息を禁じ得ないよ。幸運なのは荒らされたのが生ゴミではないことだね。
ただ、この前捨てた変な手紙の中にあった可哀想なひまわりがダストボックスの上に置かれていた。うーん、偶然かもしれないけどちょっと気持ち悪いな。リンには黙っておこう。



Day.7
ポストの中に封筒があった。これって多分ひまわりの時と同じ封筒じゃないかな。
厚さはそれほどなくて中で何かがカサカサ擦れている。虫とかだったら嫌だなって思ってはしっこから封を剥がしたら中から出てきたのは見たことない花だった。小さな飴玉の包みのような白い花に何だかぴょんぴょんと触覚みたいな、トゲのようなものが生えている。うーん、後で詳しい人に聞いてみよう。

ああ、それとメッセージカードが一枚入ってた。
『捨てるなんて酷いね』
と書かれている。
捨てる……ひまわりのこと? わざわざゴミ袋を破ってダストボックスの上に置いたのはこの手紙の差出人なのか?

…………なんてね。そんなことあるわけ無いか。イタズラの類だろうなこれは。



Day.8
裏口の扉にキズがついている。まったく……イタズラにも程がある。監視カメラの設置も検討したいけど、先月の電気代が大変なことになっているから暫くは無理かもしれない。
とりあえず閉店後はフェンスにカギをかけておくことにしよう。イタズラ目的ならば諦めてくれるだろう。
六分街は治安の良い住みやすい街だと思っていたのに。悪いことをする奴ってのはどこにでもいるものだね。おっと、あまり大きな声では言えないな。



Day.9
ルミナモールで手頃なチェーンと鍵を購入。安全の為とは言え、閉店後と開店前二度も施錠作業をしないといけないのは面倒だ。それに伴って早起きもしないといけないってことだろう? 至福の二度寝を味わえないなんて。でもリンやうちのボンプたちに何かあるよりは全然ましだよ。お兄ちゃんは頑張るつもりだけど、もしうっかり鍵を外し忘れたその時はリン、頼んだよ。

そういえば花屋さんがあることを思い出してこの前の花について聞いた。写真を撮っておいて良かったよ。確証は持てないけど恐らく、ガマズミ? って花らしい。この辺りには咲いていない珍しい花らしいよ。ますます意味が分からないな。



Day.10
チェーンのおかげか、異常なし。フェンスの隙間から指を突っ込んだのか鍵に細かいキズがついているけどまあ、うん。開けられていないのだから問題ないだろう。

前に僕のことをチラチラ見ている女性がいるって話たろう? 最近なんだかよく店の前からこちらを見ているようなんだよね。決まって僕が一人でいるときに店内に入ってきて「今日は妹さんいないんですね」ってビデオを借りていくんだ。それだけなんだけどちょっと気になってしまって。
リン、気をつけてね。何か変なことがあったらすぐに言ってくれ、いいね?



Day.11
五分街で空き巣が出たらしい! 隣の街じゃないか。犯人は逃走中らしいし、こわいね。もしかして今までのって空き巣の下見だったりするかい? なら戸締まりをもっと厳重にしないと。
遊びに来てくれた1ディニーボンプにも気をつけるように言って、たくさん撫でておいた。

今日は昼からライカンさんが宣伝に来てくれるらしい。楽しみだな。え? お菓子が、じゃないよ。ライカンさんに会えるのが楽しみなんだ。

差し入れしてくれたクッキーが、気がついたら半分なくなっていた。ごめん、リン。だってライカンさんのクッキーが美味しすぎるのが悪いと思わないかい? 僕に食べてくれって言っているんだよ。言い訳してたらライカンさんに笑われてしまった。尻尾が揺れてたのしっかり見たからね!



Day.12
『オオカミは やめたほうがいい。きみの しゅみが うたがわれる。これは ゆうえきな アドバイス だよ。きみには もっと ふさわしい にんげんがいる』



Day.13
ポストの中に花が詰まっていた。赤にピンク、それから白。どれも同じ形をした花だった。足元に散らばったそれに呆然としてしまった。無理やり押し込まれたのだろう茎も葉も折れているし、潰れた花もある。
ひし形の3枚の花びらにその中心から伸びる3本のめしべのようなもの。なんだっけ、この花……

「ブーゲンビリアじゃないか。どうしたんだ、それ?」って声をかけてきたのはセスだった。ビデオの返却に来てくれたらしい。
ブーゲンビリア。そっか、花の名前。ブーゲンビリアか。
セスはどこからか袋を取り出して黙ったまま散らばった花を集めてくれた。とりあえず中に入ろうと促されて店内へ。僕のお店なんだけどな。

何かあったんなら話を聞く、と言ってくれた。でも、あったと言えばあったけど、直接的な被害があったわけじゃないんだ。言い淀むうちにセスに肩を引き寄せられてぽんぽんと叩かれた。無理すんなよ、だって。優しいよねセスは。



Day.14
『きみの ほんめいは やまねこ なの? あれは ちあんかん だよ やめておいたほうが きみのため だよ』

ポストの中のカードを握りつぶした。
邪兎屋に連絡をする。ニコ、ヒマかい? そうちょっとお願いしたいことがあって。うん、利子をチャラにしてあげるから、頼むよ。



Day.15
リンにはしばらくホテルで生活してもらうことにする。
何もないポストの中に安心する日が来るとは思わなかった。

ええと、ゴミの日っていつだったっけ。部屋のロッカーの中にしまい込んでいたブーゲンビリアをダストボックスに押し込んだ。



Day.16
空き巣の犯人が捕まったって店に来たジェーンさんが教えてくれた。うちの店の裏側の家に忍び込もうとしたところを見回りの治安官が捕まえたそうだ。安心ね、と笑うジェーンさんに頷いてみせたけど彼女の視線は僕に注がれたままだった。
顔色が悪いらしい。そうかな。そうよ。こんなときはラーメンでも食べましょって手を引かれて連れ出された。

結局半分も食べられなくて大将にもジェーンさんにも迷惑をかけてしまった。


…………空き巣は捕まった。
じゃあこれは、空き巣の仕業ではないってことだよね。
駐車場に枯れたブーゲンビリアが散らばっている。僕が捨てた花だ。社用車のフロントガラスに紙の切れ端が挟まれていた。

『ネズミの女なんてきみにふさわしくない!!!!』



Day.17
夜に物音が響いた気がして目を覚ます。最近ちょっと眠りが浅くて辛い。
音は外から。厳密に言えば駐車場側からのように聞こえた。
恐怖と好奇心がないまぜになっている。足は無意識に屋上へと上がる梯子へ向かっていた。
音を立てないようにそっと窓を押し上げて、隙間から見下ろす。誰もいない……? 音もしなくなったみたいだ。バクバク煩い心臓を宥めて僕は部屋に戻った。



Day.18
しゃしんがはいってた。

ぼくのしゃしん。
ウーフが鳴いている。人が集まってしまう。

どれも汚れている写真を、慌ててかきあつめて、部屋に戻った。ビリビリに引き裂いてゴミ袋に詰める。何重にも重ねて、口を縛って、ふ、と息を吐き出した途端、喉の奥に焼けるような熱さを感じてトイレに駆け込んだ。
胃液しか吐き出すものがなくて、酸に焼けた喉を押さえて喘ぐしかできなかった。



Day.19
チェーンが切られていた。フェンスは大きく開いている。

裏口の扉が汚れている。ノブに、かかっているのは、しろい……


!!吐き気がする!
きもちわるい、きもちわるい、きもちわるい!!


気がつけば縋るようにスマホを取り出して、電話をかけていた。


「ライ、カンさん……たすけて……



Day.20

あれからすぐに駆けつけてくれたライカンさんは泣きじゃくっていた僕を抱きしめて背中を擦ってくれた。
汚されていた扉も綺麗に掃除してくれて、ここでは不安だからとライカンさんの家にも連れてきてくれた。1日中献身的とも言える介抱を受けて僕のメンタルは何とか持ち直した。

治安局へ行くことを強く勧められて、なら証拠も持っていくと一旦家に帰ることにした。ライカンさんは車を回してくれて、治安局まで付き添ってくれるそうだ。
嬉しくて思わず抱きついてしまった。


あんなことがあった家に帰るのは不安だが、ライカンさんがいるなら平気だ。周囲を見回ると言ってくれたライカンさんの行為に甘えて中に入る。工房の中に避難していたイアスたちはみんな無事だ。良かった。
とにかく、早くことを済ませてしまおう。こんなことになるならあの時セスに話しておけばよかったと後悔したってまあ今更遅いよね。

階段を上って、あれ……

部屋の扉が閉まっている。確か開けっ放しで、家を出たような気がするのに。もしかしてライカンさんが閉めてくれたのかな。

疑いもなく、僕は部屋の扉を開けた。 

―――ッ!!」

部屋のなかに、花が、散らばっていた。


なんだっけ、あれ、前に映画で見た花に似ている。

むらさきの花びらに、黄色の雌しべ。
ああ、クロッカスだ。
床を埋め尽くすクロッカスの花。


それから、ベッドの上にはズタボロに引き裂かれた縫いぐるみが横たわっていた。 


赤い血つぶらな目をこちらに向けたら白い毛並みの、イヌのようなその縫いぐるみの口にカードが捩じ込まれている。



――ぎんいろの、弾丸のカードだった。