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九條もぐ
2024-09-15 11:28:22
9945文字
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逢引
5月のサムレムWEBオンリーにてネップリ頒布したこれまた幻の伊剣♀小説。
タイトル通り、伊織とデートしたいセイバーのために手を貸すカルデア面々と初めてデートする伊織とセイバーのお話。
「いっ
…
伊織殿と
…
」
「デートしたい
…
?」
「
…
うん」
ある日、ヤマトタケルはアーサー・ペンドラゴンと由井正雪をカルデアが用意した部屋に招き入れ、冒頭の話題を持ちかけた。正雪とアーサーはタケルの元マスターで想い人である宮本伊織との関係に一役買ってくれた経緯があるので何かと相談に乗ってもらっているのだ。だが、この話題を振られた二人は頭が混乱していた。
「デートしたいだなんて
…
どうしていきなり?」
「
…
アーサー殿、すまないが
…
“でぇと”とは、なんだ?」
「逢引
…
というべきかな
…
」
「あいっ!?」
正雪はデートの意味を知らなかったようで、アーサーに意味を聞いた。その意味に顔を真っ赤にした。無論、話を持ちかけたタケルも顔が真っ赤だ。
「えっと
…
君は、デートの意味は
…
」
「うむ
…
スズカとナギコから教えてもらった
…
」
「あー
…
彼女ら、か
…
」
アーサーは思わず頭を抱えた。どうやらタケルは鈴鹿御前と清少納言にデートのことを教えてもらったらしい。では、何故伊織とデートしたいと言い出したのだろうか
…
その理由を聞くことにした。
「話を戻すけど、いきなりデートしたいだなんて
…
何があったの?」
「そっ、そうだな
…
タケル殿、その由を聞かせてくれぬか?」
「由をか
…
じっ、実は
…
だな
…
」
タケルは細々と理由を語り出した。鈴鹿御前と清少納言に伊織のことについて絡まれた時に「あんだけラブラブなのにデートしてないのぉ!?」とか「私ちゃんもビックリ!!」と二人に喚かれてしまったのが原因らしい
…
。それを聞いた瞬間、アーサーは頭を抱えながら大きなため息をこぼした。
「
…
彼女らは黙って見届けるってことができないのかな
…
」
「あ、アーサー殿
…
」
「すまぬ
…
変な話に巻き込んで
…
き、聞かなかったことに
…
」
「いやいや、落ち着いてタケルさん」
タケルはアーサーのげんなり度合いに申し訳なく思ったのかなかったことにしようとしたら、全力でアーサーに止められた。
「助言してやりたいところだが
…
私の知識ではなんとも
…
」
「これは
…
立香に相談するしかないよ、こればかりはね」
「いや
…
その
…
アヤツのことがあるし
…
」
「その辺は僕に任せて
…
マシュ経由で呼び出すから」
こうしてアーサーは一度タケルの部屋を後にした。タケルは未だに顔を赤くしながら、少し落ち込んだ様子だった。正雪は少し可哀想に思い、背中を擦ってやる。
「イオリとデートだなんて
…
何をすれば良いのだ
…
アレの朴念仁度合いを知らぬから
…
」
「た、確かに
…
伊織殿はそう云ったことにはかなり疎いが
…
」
「リツカにはできるだけ迷惑をかけぬようにしていたのに
…
はぁ
…
」
タケルはいつぞやの騒動で、マスターである立香に対してあまり迷惑をかけないようにしていた。だからアーサーと正雪にこの話を持ちかけたのだが
…
結局、頼らざる得なかった。
*****
「とりあえず、食堂に行ってお菓子と紅茶をもらって来たよ」
「おおっ!!」
「してアーサー殿、その肩に乗ってる生き物は
…
」
「フォウっ!!」
「っ、フォウくん!!」
数分後、アーサーは食堂でお菓子をもらってタケルの部屋に戻ってきた。その際、珍しい客人を肩に乗せてやってきたのだ。タケルはその客人
…
もといフォウくんを見て目を輝かせる。フォウくんはアーサーの肩からピョンッとタケルの方へ飛び乗った。
「マシュの所に行ったら一緒にいてね
…
タケルさんの話をしたら付いてきたんだよ」
「そうだったのか
…
愛いヤツめ〜」
「キュウ〜
…
」
タケルはフォウくんが部屋を訪れてきた事により少し元気になった。正雪はタケルとフォウくんがじゃれ合っているのを不思議そうに見ていた。
「
…
この生き物は、マスターとマシュ殿にしか懐いていないと聞いたが
…
」
「マシュの話だと、伊織殿とタケルさんには懐いたみたいでね
…
いきなり僕の肩に飛び乗ってくるから驚いたよ」
「こんなに可愛らしいのに、何故怖がるのだか
…
私には理解できぬな。なぁ、フォウくん」
「フォウッ、フォウッ」
(なるほどね
…
伊織殿もタケルさんもこの子の正体を知らないからか
…
キャスパリーグも懐いてるし、この話は野暮になるね)
アーサーはタケルとフォウくんのじゃれ合いを見ながら内心そう思った。
「とりあえず、立香とマシュは後で来ると思うよ。なんだかマシュ
…
目を輝かしていたから。その子が遠い目するぐらいね
…
」
「マシュ殿
…
が?」
「何故、マシュまで??」
立香だけ来れば良いのだが、何故かファーストサーヴァントであるマシュまで同席することになった。正雪とタケルは何故?と思った。
「いや、来なくても大丈夫って言ったんだけど
…
あの子も聞かん坊な節があってね
…
“是非とも私も同席させてください!!”って」
「フォウ
…
」
「
…
フォウくんが呆れた目をしている」
「そりゃ、あの二人の近くにいるからね
…
マシュの聞かん坊なところも良く知っているから」
そんな微妙な空気が流れているところに、コンコンとドアをノックする音が響いた。
「タケルさん、いらっしゃいますか?」
「
…
来たね」
「止む終えんな
…
いるぞ、入るがいい」
タケルも半ば諦めた表情を浮かべながら、マシュそして訳が分からないと言わんばかりの表情を浮かべた立香が部屋に入ってきた。
「マスターをお連れしました、それと
…
アーサーさんから事情をお伺いしておりますが、伊織さんのことで少し悩みがあると
…
」
「あるにはあるが
…
きみを呼んだ覚えは
…
」
「同じ“女性”としてお力になりたいのです!!」
「
……
。」
「マシュ
…
落ち着いて、タケルドン引きしてるから。そしてフォウくんの顔を見なよ
…
物凄い呆れた顔してるから」
マシュの勢いに明らかに引いてるタケル。タケルの膝の上でお座りしてるフォウくんは呆れた表情を浮かべ、アーサーと正雪はなんとも言えない表情を浮かべていた。
マシュを落ち着かせてから、タケルは立香とマシュにもアーサーと正雪に話した事を打ち明けた。立香は頭を抱えながらガックリと肩を落としていた。
「
…
あの二人、絶対に伊織の朴念仁度合いを知らないで言ってる」
「やはりそうだよな!?」
立香は伊織の朴念仁度合いを良く知っている。バレンタインの一件でその様子を見ていたが、当時は仲いいな程度。けど、伊織とタケルが恋仲になってから数日後に「よくよく考えて見れば
…
とんだ朴念仁じゃん!!」と理解し、タケルを気にかけてはいたのだ。
「
…
思えば、バレンタインの時もタケルはヤキモチ妬いて霊体化してくっついてきた時も“お前には関係のない話”
…
だなんて言ってるし」
「うわぁああ、それを皆の前で云うなぁあああ!!」
「そんなことがあったんだ
…
」
(どおりで機嫌悪いとは思ってたんだよね
…
)
「私も
…
それなりのことをしたが
…
伊織殿も大概と云うべきか
…
」
「ユイ??」
「何があったんだ、一体
…
」
立香の爆弾発言にタケルは顔を真っ赤にするが、正雪の言葉で逆に何をしたんだと本気で心配になった。アーサーもバレンタインのあの日、やたら機嫌の悪いタケルを目撃しており理由が分かったのは良いが、逆に気になることが増えてしまった。そんな時にマシュが声を上げた。
「とっ、とにかく!!タケルさんは伊織さんとデートをされたい
…
ということですよね?」
「そ、そう
…
だが
…
」
「それなら、夜のシュミレーションルームを使ってデートをする
…
というのはどうでしょうか?」
「「「夜のシュミレーションルーム??」」」
「はい、夜のシュミレーションルームです!!」
マシュの提案に立香・アーサー・タケルの三人が見事に声を合わせた。シュミレーションルームは、実際の戦場を再現し戦闘訓練を目的として作られた場所。滅多に私用目的で使うだなんて話を聞いたことないからだ。だが正雪はマシュの提案を聞き考えながらふむっと頷いていた。
「なるほど
…
この世界は漂白化していて逢引する場所もない。そして唯一それを再現できるのはシュミレーションルームのみ
…
確かに日中は伊織殿を含めた面々が独占していて中々入れぬ。夜になれば使う者もいない
…
逢引するには好都合
…
ということか、マシュ殿?」
「はい、正雪さんの仰るとおりです。シュミレーションルームでタケルさんが行きたい場所に設定してそこでデートをするんです!!」
「うーん
…
なんとなくは解るのだが
…
そんなことで使って良いものなのか、あそこ?」
「
…
新所長、怒りそうだなぁ」
可能かもしれないが、立香はゴルドルフがどんな反応するのか
…
それが不安で仕方なかった。だからこそタケルの問いに答えることができなかった
…
のだが。
「別に気にしなくて構わないよ〜、日中だったら他のサーヴァントから反感を買うかもしれないが夜は誰も使わないしね!」
「うわぁああ!!」
部屋の主であるタケルは驚きのあまりに変な声を上げた。タケル以外の者たち全員がバッと声がした方へ向く。何故かダ・ヴィンチがタケルの部屋にいたのだ
…
ハベトロットを連れて。
「だ、ダ・ヴィンチちゃん!!それにハベにゃんも!!」
「悪いね〜、マシュとアーサー王が面白そうな話をしてるのを偶然に聞いちゃって!その場にいたダ・ヴィンチと一緒に来ちゃった」
立香の一声にハベトロットがそう説明する。ハベトロットがニコニコと笑顔を浮かべながら、今も固まっているタケルの元に近寄った。
「なっ
…
なんだ?」
「ねぇねぇ
…
その計画さ、ボクら衣装班も手伝わせてよ!!」
「「「「
……
えっ??」」」」
「ハベトロット
…
さん?」
ハベトロットのお願いに全員が固まってしまった。何故ハベトロットがこのようなお願いしてきたのか
…
それはハベトロットの本質が関わっていた。
「食堂で君たちのことをずっと見てたんだけど
…
もうね、今よりもっと幸せな時間を過ごさせることができたらなぁ
…
ってずっと考えていたんだよ!!」
ハベトロットはタケルの手を取る。ハベトロットは満面な笑みを浮かべながらタケルを見ていた。
「デートがしたいなら
…
めいいっぱいオシャレしなきゃだね!!」
◇
タケルを含めた一行はハベトロットに連れられ衣装班が使用している作業工房へ訪れた。タケルと正雪は工房に訪れたのは初めてで、見慣れない衣装が並ぶ工房に目を惹かれた。
「これを
…
貴殿らだけでか?」
「そうだよ〜ちなみに、マスターの魔術礼装もここでダ・ヴィンチらと共同で作ってるんだ〜」
「ハベトロットさんと、ミス・クレーンさんは普段ここで他のサーヴァントの皆さんの霊衣を作っていらっしゃるのです」
「おお
…
これを二人でか?うむ、どれも丁寧に出来ていて
…
素晴らしいものだな!!うんうん!!」
タケルは工房に入ってからずっとこれまで二人が作った衣装を見て目をキラキラと輝かせていた。見慣れない当世の衣装に古代日本の大英雄様は興味津々のようだ。
「
…
もの凄いはしゃぎっぷり」
「タケル、好奇心旺盛な一面あるからね
…
」
「
…
伊織殿、かなり振り回されていたのだろうな。だが
…
何故だか嫌な気分にはなれぬな」
「きっと
…
生きた時代が関係してるのかもしれません。タケルさんはずっと戦乱に身を投じてきた方ですから」
(なるほど
…
伊織殿があのような顔をするタケル殿を見て優しい笑みを浮かべていた理由がわかる)
正雪もタケルの楽しそうな笑顔を近くで見て伊織の気持ちが少しわかった気がした。ハベトロットも同じで楽しそうにしているタケルを見てうんうんと頷いていた。
「君みたいな凄い英雄に褒められると照れちゃうなぁ
…
なんせクレーンが君がカルデアに来たと聞いた時、もの凄く興奮していたからさ〜」
「そうなのか?」
「うん、日本出身のサーヴァントが全員絶句してたって言ってたよ?」
「確かに
…
軽く大騒動でしたね、先輩?」
「ああ
…
言われてみれば確かに。伊織もすごかったけど
…
タケルは桁違いだったね」
タケルはカルデアに来ても伊織にくっついていたのであまり知らなかったらしいが、タケルが立香の声に応えたあの日
…
カルデアでは軽く大騒動になっていたのだ。“かの有名なヤマトタケルがカルデアに!?”と
…
。
「まぁ
…
クレーンは別の意味でも騒いでいたけど
…
」
「お待たせいたし
…
あっ、あっ
…
あああああっ!!」
「なっ、なんだ!?」
「お鶴さん
…
」
「始まった
…
」
ミス・クレーンが工房の奥から出てきた瞬間、タケルを見て大発狂した。タケルと正雪は混乱し、それ以外は始まった
…
と言わんばかりの表情を浮かべていた。ミス・クレーンは興奮した状態でタケルに近寄った。
「わっ、私
…
ミス・クレーンと申します!!ああ
…
ヤマトタケル様
…
なんと見目麗しいお方
…
!!」
「は、ハベトロット!!だ、大丈夫なのか、これは!?」
「ごめんね
…
君の容姿云々がクレーンの好みに入るみたいでね
…
」
「確かにタケル
…
可愛いもんね」
「第三再臨のタケルさんは、だいぶ雰囲気変わるけどね」
「云われてみれば
…
見目麗しい恐ろしき妖、と呼ばれていたな」
「そうだったんですか!?」
ミス・クレーンがここまで興奮する理由は確かに分かる。それを唖然とした様子で見ていた正雪は盈月の儀の時のことを思い出す。確かにタケルの整った容姿の影響か、伊織の嫁とか見目麗しい恐ろしき妖だなんて言われていた。だが、ここまで興奮していると本題に入ることができないのでミス・クレーンを宥めることにしたのだった。
*****
「大変申し訳ございません
…
ヤマトタケル様がこの工房にお越しになるなんて夢にも思わず
…
」
「いや
…
気にはしておらん
…
私こそ急に押しかけてすまぬな」
ようやく落ち着いたミス・クレーンはタケルに謝罪した。だが、急に押しかけてきたのはこちらだからだとタケルがミス・クレーンに謝罪した。ミス・クレーンはあわあわしながらタケルに謝らないでほしいと言った。
「そ、そんな
…
謝らないでくださいませ!!」
「まぁまぁ、クレーンもそう言ってるし、そろそろ本題に入ろうよ」
ハベトロットから本題に入ろうという声で、ようやく本題に移る。ハベトロットからタケルが伊織とデートしたいという話題を持ちかけた。
「なるほど
…
そのような事情が」
「という訳でね
…
ボクとクレーンでタケルをコーディネートして上げようと思って連れてきたわけ!!」
「こーでぃ、ねーと??」
タケルはまたもや初めて聞く言葉に困惑する。タケルの無知ぶりは今に始まったことではないが、伊織が危機感を覚えるほどで
…
手合わせをしない時は図書室に連れられ色々と教え込んでる最中だ。するとハベトロットが助け舟を出すように話しかけてきた。
「まぁ簡単に言うと
…
おめかしだよ!」
「な、なるほど
…
」
「さーて、そろそろ始めよっか!!正雪とマシュも手伝ってよ!!」
「はいっ!!」
「私で
…
良ければだが」
「あっ、マスターとアーサー王で伊織に着せる服考えてよ!!」
「分かったよハベにゃん」
「悩みどころだね
…
」
こうして工房にいる面々で伊織とタケルのデートで着る服選びが始まった。男性陣は伊織、女性陣はタケルの服を選ぶことになったが
…
工房には様々な時代そして様々な国の服があるため、まずはタケルの服を決めることになった。
「やはり
…
江戸にいたのだから、無難に着物で
…
」
正雪がチョイスしたのは、やはり着物。落ち着いた色合いの着物を身に纏うタケルは
…
江戸にいたら間違いなく絶世の美人と騒がれていたでだろう。
「物凄い美人だ
…
」
「とても似合ってます!!」
「
…
なんだが、カヤを思い出すな
…
」
「伊織の妹?」
「うむ
…
一度だけだが、カヤに着させられたことがあるのだ」
タケルは盈月と儀の中、伊織の妹・カヤに一度だけ着物を着させてもらったことがありそれが懐かしく思った。
お次はマシュのコーデ。マシュはタケルの動きやすさを考慮したのか、とてもシンプルだが白パーカーにデニムのショートパンツと現代のコーデだった。
「なるほど、動きやすさを考慮したのか〜」
「はい、タケルさんはよく動いてらっしゃいますから!」
「うむ、確かにこれは動きやすい衣だな」
現代の衣類を着ても似合ってしまうタケルに男性陣は少し驚いていた。
「
…
伊織に怒られそう」
「どうして?」
「だって
…
両思いになった翌日、俺タケルに飛びついたでしょ?」
「ああ
…
アレね」
立香は二人が両思いになった翌日の出来事を思い出す。立香がタケルに抱きついた時の伊織の顔が未だに忘れられずにいたのだ。すると今度はハベトロットがチョイスした服を着たのか、一同唖然としたしていたのだ。
「わぁあ
…
」
「それをチョイスするとは
…
」
男性陣も固まる、目の前には白いロングワンピースを身に纏うタケルがいたからだ。タケルの容姿も相まって可憐な美少女になっていたのだ。
「な、なんとも愛らしいっ!!」
「どれもお似合いなんですが
…
」
「これは
…
その
…
なんだ
…
どう云えば良いのか
…
」
「ボクの目には狂いがなかったね〜」
「
……
。」
タケルも鏡に映る自分を見ていた。着慣れない衣服に身を包む自分に少し驚いている様子だった。するとタケルは三つ編みされた髪に触れ、髪留めを霊体化させる。三つ編みを解いた長い髪がサラッと広がる
…
その光景を目の当たりにした面々はあまりの美しさに思わず見惚れてしまう。
「
…
うむ、決めた。ハベトロット、きみが選んでくれたこの衣を着ることにする」
「本当かい!?」
「ああ
…
とても気に入った。これで、あの朴念仁イオリをひと泡吹かせてやる」
タケルはいたずらっ子みたいな笑顔を浮かべながら、その場をくるくると回る。
(ひと泡吹かせる
…
か、でも
…
上手くいくかもね
…
本当に可愛らしいから)
立香は楽しそうな笑顔を浮かべたワンピース姿のタケルを見てそう思ったのだった。
その後、タケルは衣装選びを終えたので工房を後にした。だが男性陣は伊織の衣装選びに苦労していた。
「うーん
…
困ったなぁ」
「まさかあんな可憐なワンピースを選ぶとは
…
想定外だったね」
「正雪さんが選んだ着物を着るかな〜って内心思っていたんだけど
…
うーん
…
」
立香もアーサーもかなり頭を悩ませていた。できるだけあのワンピース姿のタケルが不自然にならないような服を選ばねば
…
そう考えていた時だった。
「何を考え込んでいるんだい?」
「えっ?」
「シャルル
…
それに、伊織!?」
アーサーと立香が振り返るとシャルルとそのシャルルに首根っこを掴まれた伊織がいたのだ。
「アストルフォがアンタらが工房に入る所を目撃したって
…
その際ヤマトタケルもいたっていうから連れてきたんだが
…
なーんだ、もういないのか
…
」
「タケルは数分前に出たけど
…
伊織を連れて来てくれたのは好都合だよ
…
」
「
…
セイバーがいないなら俺は
…
」
「あー、待って待って!!伊織はここにいて!!マスター命令!!」
「
…
主命とあらば」
マスター命令と言われてしまえば伊織は逆らうことができない。伊織は仕方なく工房に居座る。そしてシャルルはなんで悩んでいるんだと質問する。そして立香はシャルルに耳打ちして事の経緯を説明した。
「なるほどねぇ
…
なら、この俺に任せてくれ!!」
「えっ!?」
「あれほどヤマトタケルを嫌ってる君が
…
珍しい」
「それはそれ、これはこれだ。うーん
…
そうだなぁ
…
」
シャルルは工房にある衣装を見る
…
するとこれとこれとこれと言いながら服を選び、それをすべて伊織に押し付けた。
「なっ、なんだ
…
いきなり」
「とりあえず、それに着替えてきてくれ」
「
…
はぁ?」
伊織はシャルルの言ってることが理解できずにいたが、アーサーがまぁまぁと宥めながら試着室へと連れて行ったのだった。
数分後、シャルルが選んだ服を身に纏った伊織が試着室から出てきた。シャルルが選んだのは黒のパーカーに白シャツ、デニムパンツとシンプルなものだった。
「
…
なんだか落ち着かないな」
「似合ってるよ、伊織!!」
「君にしては
…
随分とカジュアルなものを選んだね」
「派手に着飾るより、シンプルかつカジュアルな方がこのお侍さんには似合うと思ったからさ!あとは
…
髪型だな」
「あぁ
…
髷のままだとね」
「なら
…
伊織、その椅子に座って!!」
「
…
解った」
伊織は立香に言われた通りに椅子に腰掛ける。立香は伊織の髷を解き、伊織の長い髪を後ろに結った。
「これなら違和感ないと思うけど」
「だな!そっちがいいな」
「
…
立香、何故俺はこのような格好を?シャルルマーニュも由を云わぬから
…
」
「
…
それは、夜になればわかるよ」
「??」
伊織は未だに状況を把握できないまま、夜まで待つことを決めたのだった。
◇
夜になり、伊織は立香の指示でシュミレーションルームに来ていた。当然いつもの着物姿ではなく、衣装班の工房で着させられた服を着てだ。
「立香、シュミレーションルームを使って何をすると云うんだ?」
「俺はあくまでも手伝ってるだけだよ」
「手伝ってる
…
て
…
」
「理由はタケルが教えてくれるよ」
立香はシュミレーションルームの設定をし終え、起動させる。
「中で待っていればタケルが来るはずだから」
「
…
解った、由はセイバーに聞く」
伊織は半ば諦めた状態でシュミレーションルーム内に入って行った。
「
…
イオリ、シュミレーションルームに入ったのか?」
「うん、入ったよ」
振り返るとあのワンピース姿のタケルが少し不安げな表情を浮かべていた。
「
…
不安?」
「うん
…
少し、な
…
」
「大丈夫だよ
…
ほら、行ってきな」
「うん」
立香はタケルの背中を押し、シュミレーションルーム内に送り届けた。タケルがシュミレーションルーム内に入ったのを確認してから、立香は外へ出たのだった。
*****
一足早くシュミレーションルーム内に入っていた伊織は、その風景に驚いていた。目の前には大きな湖、湖を囲む木々、空には満天の星空に月が輝いていた。
(戦闘をするわけではなさそうだが
…
それにしても、これは
…
)
「い、イオリ!!」
伊織は背後からタケルの声がしたのでゆっくりと振り返る。「セイバー」と言いかけるも
…
タケルの姿を見て言葉を失ってしまった。いつもは三つ編みにされた長い髪は解かれていて、見慣れない当世の衣に身を包んだタケルが立っていたのだ。シュミレーションルーム内の風景とタケルの姿があまりにも美しく
…
そして儚く感じた伊織は、顔を赤くしながら視線を反らした。
「せっ
…
セイバー
…
その格好は
…
」
「
…
変、か?」
「いやっ、変ではなくっ、その
…
似合ってるぞ?」
「っ
…
そう、か
…
」
(イオリ
…
耳まで真っ赤になってる
…
あの、朴念仁イオリが!!)
タケルは耳まで真っ赤になったイオリを見て嬉しくなった。普段、感情を表に出さない伊織がここまで感情が表に出ているからだ。自分の反応を見て嬉しそうにしているタケルを見て不服そうな態度を出しながら伊織は口を開いた。
「何故
…
こんな時間にシュミレーションルームに呼び出した?ましてや
…
この格好も
…
」
「そうだな
…
イオリ、きみと
…
逢引したかったからだ」
「逢、引?」
「当世風に云えば
…
そうだな、デートがしたかったからだ」
「
……
」
顔を赤くしたタケルは照れくさそうにもじもじと身体を動かしていた。あまりにも可愛らしい反応をするものだから、伊織はタケルに近づきそのままぎゅうっと抱きしめた。
「いっ、イオリ?」
「
…
そのような反応をするな、愛おしくて
…
理性がもたなくなる」
「っ、バカ
…
」
タケルは伊織の言葉に更に顔を赤くした。悪態をつくタケルが愛おしくて仕方ない伊織は、タケルの頬に触れる。そっぽを向いているタケルをこちらに向けさせ
…
ちゅっと触れるだけの口づけを落とした。
「
…
これはこれで、良いものだな」
「
…
ぷいっ」
「やれやれ
…
けど、本当に
…
良く似合ってるよ、セイバー」
「い、イオリも
…
似合ってるではないか
…
」
「お前のような存在に褒められて光栄だな」
伊織は微笑みながらタケルに手を差し伸べた。タケルは少し涙を浮かべながらその大きな手を握りしめた。そして、二人は月明かりが照らされた湖の傍を歩いて行った。
─盈月の儀を駆け抜けたあの頃は
…
きみとこんな関係になるだなんて思わなかった
…
限られた時間だが
…
きみと
…
こういったことを、していきたいな
…
─
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