スズ
2024-09-14 22:18:19
15688文字
Public あつおさ
 

朝チュンってやり直しできるもんなん?

酒の勢いでヤってしまったあつおさの話。
侑に気持ちがない現実を目の当たりにしたくなくて朝、侑が起きる前に侑の家から逃げ出した治と、逃がすわけがない侑の攻防。
▶2024/12新刊に収録しています
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 俺は、歩く足を速める。
 凍てつくような冬の朝の空気を、ぶった切るように。
 鳴らない携帯に意識を持っていかれないように。
 まだ火照りが残る身体を、自分で抱きかかえながら。
 
 昨日の夜。俺は、男と寝た。
 セックスをした。
 舐めあったとか、抜きあったとかでなく、まあそれもしたけど。俺のケツの穴に、アイツのちんこを埋め込んだ。
 埋め込んでは抜いて、抜けそうなギリギリまで引いたかと思えば、一気にまた貫かれてを何度も繰り返した。
 絶対に無理やって思ったのに、最後は割とあんあん喘いでた気もする。無我夢中で、わけがわからなくなってたけど。痛いばかりじゃなかったのは確かだ。俺は男なのに。そういうふうに作られてないのに。でもその場のノリでセックスがしたかったわけでもなんでもなく、そこに言い訳できない感情があったのは俺の方だ。だから入れられる側でよかったんだと思う。この目に焼き付けるなら、侑のつらい顔とか、しんどそうな顔とかよりも、いくらか気持ちよさそうなツラの方がいいに決まってる。
 ワンナイトの相手には、あまりにも適さない男だった。
 宮侑。MSBYブラックジャッカル所属。現役で日の丸を背負うプロバレーボール選手。妖怪世代と俗に言われる稀代の一角。
 イケメンセッターなどと持て囃されることもありメディアの露出は多く、世間の認知度もそれなりにある。最近はその顔とスタイルで本業には支障ない範囲でモデルのようなこともしているらしい。
 そして俺の家族であり、兄弟であり、なんなら双子の片割れの男だった。
 
 遊びで切り捨てるには、余計なものが多すぎる。
 そんな男と、俺は昨晩、酒の勢いでセックスをした。
 
 気分は最悪だった。
 なぜなら俺は、よりにもよって双子の兄弟に、それ以上の気持ちを抱いていたからだ。
 なんとも思ってなかったら、どんだけラクか知れない。
 この余計な感情があるせいで、アイツにとってはただの一夜の情事でも、俺にとっては覚めたくない束の間の夢になってしまった。
 だから。俺はひとり、飛び出してきた。
 泣けるほどやさしくて温かな、侑のベッドから。逃げるように。
 追い出されるよりは、自分から去る方がいくらかはマシだと思った。マシなだけで、しんどいことに変わりはないのにな。
 それは喉から手が出るほど、欲しかった時間だった。
 味見はできても、決して自分のものにはできないもの。
 でもせめて味だけでもいいからなんて。酔いに任せて。
 味を一度知ってしまったほうが、得られない辛さはもっと酷くなるって、わかってたのに。
 
 この身体が震えるのは、冬の凍るような朝の空気せいだけじゃない。
 それは昨日の夜との温度差を知ったから。
 知って、しまったから。
 
 子供の頃。しょっちゅう繋いでいた手はいつの間にか、繋がなくなった。
 あんなに繋いでたのにな。あんなに物心ついた頃から、ずっと。もう小学校より前の記憶なんて断片しかないのに、それでも片時も離れたくなかった気持ちだけはしっかり焼き付いてる。
 小学校に上がってから、クラスも必ず別々にされるようになって、お互いがお互いを区別して、周りも区別してくるようになっていった。
 それでも行きも帰りも、俺たちは隙あらば手を繋いでいた。からかってくる奴もいたけど、それでも「俺らの勝手やんな!」て口揃えて言って、自分もアイツもそう思ってることが、嬉しかった。
 ただ、思春期に差し掛かると流石にどうなんだと、友達に割と真剣に言われたことがあって、俺から「ツム、知っとるか? ふつうは兄弟でも、もう手ぇ繋がんもんらしいで」と教えてみた。
 侑は「ふつうってなんなん。周りは関係ないやろ。オマエと俺が、どう思うかや」とか言ってくるから「俺は、繋がんでええ」と答えて、そしたら「オマエがそんな嫌なら、もう繋がん」てその日は取り付く島もないくらい不機嫌だった。次の日にはケロッとしてたけどな。
 だって、みんなからみたらオカシイらしいから、しゃーないやんか。オマエは、オマエがよければそれでええやろうけど、俺はちゃうねん。
(俺はオマエほど、思い切りよくできんねん。フツーのヤツは、そこで立ち止まって考えてまうんや。でもオマエは、……立ち止まらん)
 そうすると俺も、うっかりお前に負けたくなくて立ち止まれなくなる。
 俺はそれが少しだけ、恐ろしかった。
 
 それからは侑の体温なんて、もちろん知るわけない。
 距離感が近すぎるだのなんだの、高校卒業するまでずっと言われ続けてたけど、ボディタッチが多いだけで、素肌で引っ付いてるわけでもなし。
 侑の温度を知るのは、幼い手のひらしか知らん俺じゃなく、大人になっていく中で付き合ったり別れたりしていった彼女たちだけ。
 だから。素肌でその体温が、自分の体温と混ざるまでくっついてたのは、本当に幼い日ぶりだった。 
 昨夜の始まりを思い出しても、特段なにかいつもと違うことが起こったわけじゃなかった。
 俺は店を閉めたあと、侑が「明日、店休みやんな? 俺も休みやから、うちで飲もうや」とメッセージを送ってきたから、適当にツマミになるもんをタッパーに詰めて侑んちに向かった。
 俺たちが、休みの日を合わせて会ったり飲んだりするのはお互いに酒が飲める年齢になってから、なんとなく生まれた習慣みたいなものだ。
 必ずというわけでもなく、でもお互い仕事だなんだと忙しくて顔を合わせない日が続くとやっぱり顔を見たくなるし、積もる話もしたくなったから、どちらからともなく晩酌をしようと持ちかけるようになった。
 どちらからともなく、と思えるような距離と頻度に、少なくとも俺はしてたつもりだ。酒が飲めるような子供でられなくなった頃には、俺はとっくに恋をしていたから。
 可愛らしくて気が利いて、ふっくらした胸や尻がある女の子ではなく。可愛げもなくてむしろ憎たらしいときの方が多くて、すぐ人に喧嘩を売るしなんなら煽りよるし、人に気を利かせれる観察眼はあってもそれを誰にでも尽くして使おうとは微塵も思わない、俺より背も少し高くなって、やわらかいとは程遠い筋肉がバキバキでシーズン中は体脂肪率七%とかの、それも兄弟の男に。
 でもそんなこと、当たり前だけど言えるわけもない。もちろん墓まで持って行くつもりだった。
 だから昨日だって、いつもと変わったことなんてひとつもなくて。
 飲み物はあっちが用意してくれてて、あっちはあっちでツマミは俺が持ってくると思ってて、用意してなかった。こういうところとか、離れてこそ「ああ、俺らほんまツーカーなんや」て再認識したりする。
 侑のマンションにいくと、侑は風呂から出たてで、ホカホカとしてた。
「外、寒かったん?」と聞かれて「まあ冬やし、こんなもんやろ」と伝えると、自然な流れで頬に手を当てられ「つめたっ!」とオーバーなリアクションをする侑に、勝手に触って勝手になに冷たがっとんねん、とツッコミをしそこねたら「はよ飲もうや」と実に機嫌よくリビングに消えてった。こういう人の気も知らない行動ばかりするから、いつか女に刺されないか心配になるけど、でもこういうことをなんの気兼ねもなくするのは、俺が双子の片割れで、兄弟で、勘違いなんかせんのが当然だからっていうのも、俺かてちゃんとわかってる。俺のこと、なんとも思ってない何よりの証拠なんやって。
 ツマミを食べながら、缶を開けて。テレビもつけながらあーでもないこーでもないと、くだらない話をして。今日の練習はどうだったとか。今日の店の繁盛具合はどうだったとか。最近おもしろかったチームメイトの話。最近わらったバイトくんの話。いろいろして。
 なんでもないことだけど、俺は侑にそれを知っててほしいし、たぶん侑も俺にそれを知っててほしい。家族だから。たったふたりきりの兄弟だから。侑に他意はない。
 ないはずなのに、つけていたテレビが深夜時間帯になって、少し際どいシーンがある男同士の恋愛ドラマが流れてきて、それを見てた侑が「男同士って、気持ちええんかな?」とぼやいた。
「なぁ、サム」
「なんや、ツム」
「男同士のヤリ方って知っとるか?」
「あれやろ、ケツに入れんねんやろ」
「そうらしいな。痛ないんかなあ」
「男女でもそういうプレイあるし、悪くはないんとちゃうん。知らんけど」
「あー、前立腺なんとかや。確かになぁ~、なんか彼女にケツを開発されたって話、誰か言うてたわ」
「どんな話の流れでそんなん聞かされんねん」
「酒の席やったかな。なんや、めっちゃ気持ちええって自慢しとったわ」
「ツムも彼女に開発してもろたらわかるんちゃうか」
「あほか! なんで赤の他人の女にケツの穴ほじられなあかんねん」
「いや、彼女やろ」
「彼女かて他人やん。それにいま彼女おらんし」
 彼女が他人なら、もうお前は自分以外は他人だし、誰なら他人やないねん、とツッコもうか迷ってやめた。俺の片割れはそういう男だ。
 彼女はいたり、いなかったりで、遊んでるわけではないが高校のときほどバレー以外のものを全て削ぎ落としてるわけでもない。そのあたりは心も子供ではなくなっていて、それなりのバランスは取れるようになってきたらしい。侑から聞いている限りだと、一年前に別れた彼女が三人目。俺は家族で兄弟だから、おかんやおとんよりはなんでも言える相手で、性格的にもコイツは黙っておけなくてなんでも俺に言ってしまうとこがある。言ってないことなんてないんやないかと思うほど筒抜けだ。
 侑がなんやどこそこの有名な海外メーカーで、身体が疲れにくいらしいとか言って買ったデカいソファのど真ん中に座ったまま、ぐびっと、缶ビールを煽って、ドラマの成り行きを見守る。濡れ場は暗転して終って、朝の清らかな演出のなかで男二人がなにやらピロートークをしてる場面に移った。
 満たされたように笑いあうふたりが。演技だとわかってても、ええな、そんな顔して朝チュンとかするんや、愛し合うてると、なんて思って。
……なんや、ええな」
 とボロッとこぼしてしまった。
 隣に座ってたが、こちらを向く気配がする。
 いや別に欲求不満とかやなくて、と何か取り繕おうかとも思ったけど、それもなんか変な勘ぐりをされても困るしと思って、流してもらおうと思ったら。
「サムはそういう話、あんませんけど。言わんだけで、やっぱおるん?」
 なんでか、少し遠慮気味に聞かれて拍子抜けする。もっとずけずけと踏み込まれるかと思ったけど。
「なにをしょぼしょぼ喋っとんねん。今更、使えん気ぃ使ってもキショいだけやで」
「しょぼしょぼ言うてへんわ‼ 使えない気ぃってなんやねんッ‼ キショいは余計やろ! ……俺は、オマエにはぜんぶ言うてるし、オマエもそうやろなって思うてるけど、言うてへんことも万が一あったりするかもわからんし。昔みたいにしょっちゅう一緒やないし」
「俺に全部言うてんのか、オマエ」
「サム相手に隠せへんし、隠しとおないもん」
……俺かて、お前と変わらん。あることないようには言わん」
「ほんまに? ほんなら、店やってからはおらんやんな? カノジョ」
 しょぼしょぼ喋ってたのが、急にまたいつものお調子者を取り戻して、ずけずけと言ってくる侑に、酔っ払うとコイツほんまコロコロ情緒変わるよなあと思いつつ。
「忙しいし。そういうツムも、しばらくおらんよな」
 確かめるみたいに聞こえやしないだろうかとハラハラしつつ、でもコイツ酔っ払ってるしな、と聞き出してみる。すると侑は、少しだけ顔付きをキュッとさせて。
……カノジョとか、別にほんまはいらんかってん」
 と、整ったキリッとした顔が台無しになるような、とんでもなく人でなしな発言をするから、俺は思わずげんなりとした。
「いらんってなんやねん。この人でなし」
「ちゃうねん! 別に、カノジョらがどうでもよかったとか、そんなんちゃうで⁉」
「ならなんやねん。いらんって」
 
……俺な。ほんとは、ずっと好きな奴おんねん」
 
 ひゅっと息を飲んだ俺は、危うくそのまま呼吸ができなくなりそうになった。
 でも流石に動揺しすぎるわけにもいかないから何か言葉を出そうとしたら「いつからなん……? 俺、それ知らんけど」なんて詰めるみたいになった。
 でも侑はあんま気にすることなく「これだけは、あんま言われへんなと思っててん」と手元の、もう中身がないだろう缶を睨みつけるみたいに見つめて、ぼやくように言った。
「彼女とか作ってみたんは、……ソイツやなくてもええかもしれん、諦められるかもしれんて、忘れさせてくれる女がおるかもしれんて。彼女のこと、好きになれたらええのにって、思って付き合うてた。でも……やっぱあかんなって、気づいた。無理やねん。ソイツのこと、諦められるわけなかった。最初から。どっかわかってたんに、諦めるのを諦められんかった」
 俺が知る双子の兄弟のツラではなかった。
 隣に座る男が、まったく知らないヤツに見えた。
 いつもあんなに自信たっぷりなくせに、いまはまるで試合の時みたいな真剣な目をして、かと思えば普段お調子者なその声は少しだけ、震えてた。
 いやさっき全部言うとる言うてたのソッコーで嘘やん、とか。お前がそれこそ他人にそんなマジになるなんて、なれる相手がいるだけ僥倖やんとか。ツム、モテんのに、そんなずっと片思いせなあかんくらい脈ないのも、不思議やなとか。
 色々と言えることはあったはずなのに、何一つ言えなかった。言えないのに、侑の知らない横顔から視線をはずせなかった。
「これだけは言われへんかったのはな、理由があってん」
「理由?」
「そいつ、男やねん」
……は?」
 思わず持っていた缶を落とした。慌てて拾って、少しだけソファの下に敷いてる、毛足の長い気持ちいい黄緑色のラグにビールの泡がこぼれたけど、それを拭き取る余裕すらなかった。
 拾った缶はもうどうでもよくて、すぐ手前のローテーブルに置く。
 男? ツムが?
 まったく想定してなくて、本当に、たぶん今年ももう終わろうとしてるけど、間違いなく今年一番に驚いた。
 だってオマエ、そんなこと一度だって言わんかったし、一度でもそんな素振りしたことなかったし。
「普通に、胸デカい子がええって言うてたやん」
「それはそれ、目の前にあんならデカいに越したことないやろ」
「うわ。無邪気に言うてビミョーに炎上するやつ。……いやツムが人でなしなんはもう薄らバレてるし、燃えもせんでただオモロくないやつやな」
「オモロくないやつ言うな‼ いちばん傷つく‼ あと人でなしバレてるってなんやねん! バレてへんて‼」
「バレるバレない以前に、人でなしでないようにあれよ! いやだから、今そこはええねんて‼ にしてもお前、男もイケたんやな。知らんかったわ」
「いや……、男もイケるっちゅーわけでもないと思う。そいつ以外に、野郎を好きになったことなんかないし」
……ほおん。にしたって、なんで諦めたかったん? 諦めるとかいっちゃん最後にするやん。やることやって、どうにもならんってならんと諦めきれへんのがツムやろ。男ってだけで、ツムがヒヨると思わんし」
「人のことなんだと思ってんねん、クソサムッ‼ 俺かてヒヨることくらいあるわ‼ ……気まずくなりたなかったし。俺が好きやって知って、離れていかれるほうが、嫌ややった」
 こんなにしおらしい侑を、俺は人生で数えるほどしか見たことない。
 真剣なんだと、わかる。
 その人との関係性を壊してしまって、二度と元に戻れないかもしれないリスクは負いたくない。だから、他の誰かを好きになれたと思うくらい、侑はその人のことを。
(ツムがこんなふうに、臆病になるくらい、繋がりを切れさせたくない、男……、昔から……、もしかして)
 北さんか? それとも銀? 角名? アランくんとか、赤さんの可能性もあるよな?
 でも、誰であれ俺はまったく気づいてなかった。そんな頃から、あの侑が、ずっと一心に思い続けてるなんて余程だ。
「サムは、……どう思う?」
「なにが」
「双子の片割れが、男のこと好きなんは……やっぱ嫌やとかキショいとか、思うか?」
 らしくもなく神妙なツラして、思いつめたみたいに言うから、俺はあえてわざとらしく嘆息した。だって今更そんなことを心配して聞いてくるなんて。俺を誰だと思ってんねん、テメェの片割れやぞ。
「あんなぁ、なんで俺が嫌がらなあかんねん。テメェのことやろ。ツムはどうあがいたって人でなしで人格ポンコツでガキくさくて気分屋でお調子もんで、さいきんは大人ぶってちっとはマシになったけど根っこはまったく変わらんくて」
「え。シンプルな悪口?」
「でもそれと、お前が誰のこと好きになるかはなんも関係ないし。ツムはツムやん。……それよか男だの女だのより前に、ツムが赤の他人とちゃうって言いたなるくらい、誰かのこと好きになることがあるってことの方に驚くわ」
「驚くとこそこかいッ‼ 俺かて片思いくらいするわ‼ でも、そっか……サムは、そう言ってくれるんかなって。ほんとはずっと、思うとった」
 ようやく緊張をちょっと解いた侑が、へにゃりと笑ってこっちを見た。
 耳が酒のせいで赤い。けど俺にコイバナをしてちょっと照れてるのもあるんだろう。これまでカノジョとの付き合いを赤裸々に(しかも一方的に)話してくるときは何もこんなふうに照れたりなんかしなかったくせに。
「ツムがそんなふうに真剣に、大切に想ってんねんから、ソイツやって悪くは思わんのとちゃうか」
「え……⁉ そ、そうか?」
「ツムは、もともと自分の内側に入れた途端に判定甘なるしな。極端すぎるとこあるけど、でもツムは大事なもんには絶対手ぇ抜かんし。……もし俺やったら、きっと嬉しいなぁって、思うけどなぁ……
 俺も気持ちよく酔っていて、もしかするといつもより酔いが回ってたのかもしれない。気が大きくなって、多少のことは面倒になって我慢できなくなってて、つい本音をぽろっとこぼしてしまった。
 まあでも、一般論っちゅうか。もし仮に俺やったらって言うたし、侑はそもそもこんだけマジになるほど惚れ抜いてる相手がおるわけやから俺の気持ちなんて当然、眼中にないし。侑は眼中にないもんには、まったくといっていいほどその良すぎる観察眼を発揮できんし。大丈夫やろ。
 と思ってたら、ソファに置いていた手に、何かが重なる。
 
 手だ。侑の、よくよく手入れされた掌。
 大きさはほぼ自分と変わらない、いつも俺にたくさんのトスをくれた、手。
 
 驚いて侑の顔を見たら、思ったより近くにあってまた驚いた。
 兄弟で、隣に座ってる距離じゃない。こんなのは。
 そんな距離で、見つめ返してくる侑の目は、酔ってるのもあってうっとりと俺を映す。
 なんでそんな目で見てくんねん。なんでそんな、しっとりと手のひら重ねてくんねん。
 やめろ。お前にそんなふうに手を握られて、そんな目で見られたら。おれは。
「あつ、む」
「サムは、男同士は、あかん……?」
「あかん、とか、あかんくないとか、の、話やないし」
「嫌やないってことやんな? ……せやったら、ちょっとだけ、試してみん?」
 言われて、ああなんだコイツ、俺で男同士でヤんのがどんなもんか、試したなってるだけやと。のぼせかけた脳が氷水ぶっかけられたみたいに冷えていった。
 誰かの代わりにしようとしてるんや。人でなしにも程があるやろ。そういって殴って蹴り飛ばしてやればよかったのに、できなかった。
 それでもいい。
 代わりでもいい。
 一度だけでいいから。
 こんなチャンス二度とないかもわからんし、それなら、──決して見れないはずの夢。見せてもらってもええか、なんて。後先考えずに、思ってしまった。
……ええよ」
「は⁉」
「せやから、……ええよって、言うてる」
「え。おさむ、ほんま……? ほんまに、ええんか?」
「ものは試しや。でもおまえ、俺に突っ込めるんか」
「へ? サム、まさか下やってくれんの?」
「シーズン中のプロのアスリートつかまえて、ちんこ突っ込めるかい。せやけどツムおまえ、俺でちゃんと勃たせられ……
 話の途中で、侑が俺の手を掴むと、侑の股間を触らせてきた。驚いた。もうガチガチやん。なんでやねん。
……このとおりなんで、なんも問題ないですね」
「おん……なら、ええけど。その」
「ん……?」
「やさしく、してや……
 自分で何言ってんだとツッコミたくなる、処女みたいなこと言ってしまい、猛烈に恥ずかしくなって俯く。いや処女に間違いはないけど、こんな一八〇も超えたデカい男がとる態度じゃないし。
 でも侑は、意外とおちょくったり馬鹿にしてきたりはしなかった。それどころか。
 
「言われんでも、めいっぱい、やさしくする」
 
 真面目なトーンなのに、欲情を抑え切れない「男のツラ」を隠そうともしないで、俺の体を引き寄せると、そのままソファに押し倒したのだ。
 
 子供の頃に手を繋いでいたとき以来、もうすっかり忘れていた温もり。
 知っていたものとはやや変わっていた。
 小学生の頃と比べれしまえばとうぜん、皮膚は自分と同じようにそれなりに分厚くなり、手のひらはバレーボールを片手で掴めるくらい大きくなった。
 知らないものになっていたのに、それでも重なり合ったらあっという間に溶けて馴染んだ。まるで細胞レベルで覚えてたみたいに。
 少し触れ合ってしまえば、これまでを取り戻すみたいに、俺のカラダは侑の体温をほしがった。
 侑の体温がしっくりと馴染んで、重ねる素肌に、ああ、これが欲しかったと全身が叫んでた。
 
 侑があんなにも優しく、やさしく、甘やかして蕩かすようなセックスをする男だなんて、思わなかった。
 
 もっと自分本位で、気持ちよさや愉しさを優先するのかと思った。しかも酒の勢いなら尚の事。
 こちらの都合なんて考えず、ただの性欲の発散だけのために、多少無理でも捩じ込んで、自分が好きなように揺さぶって、出すのかと思ったのに。
 でもそうじゃなかった。
 こちらがもう勘弁してくれと言いたくなる程、丁寧に丁寧に解された。
 愛撫なんて必要ないと捨てたっていいのに、侑はしつこいほど人の耳を嬲って、胸や尻をいじり、鼠径部に吸い付いて、潤滑油にローション(使いかけやったから、元カノとでも使うてたんやろな)を多めに使って、尻の奥を時間かけて開いた。
 自分はとっくにほぼ完勃ちさせて、早く入れて前後に動かしたいだろうに、おったてたまま、俺への前戯をこれでもかと与えて、人の背骨をふにゃふにゃにしたのだ。
 あんなに全身くまなく愛撫されて、うっとりと「おさむ、気持ちええ?」と何度も確かめられて。
 こっちが必死で頷けば、その目を細めて、まるで愛しいものを見るみたいに笑って「かぁええなぁ」なんて吐息ばかり含んだ声で言うから、勘違いしそうになって困った。
 まるで、本当に愛されてるみたいで。
 酷い錯覚を起こしそうで、気持ちよくて嬉しくて、なのに気持ちよければ気持ちが良いほど、胸は締め付けられて痛かった。
 
 こんなに愛しそうに抱けるのだ、コイツは。
 たとえそれが心が向いてない相手でも。心がそこになくても。
 まるで慈しんでるみたいなセックスをする男だったなんて、知らなかった。
 知っていたら。
 抱かれたあとにこんなにも身も心も裂けるように辛い気持ちになると知ってたら、いくら酒に酔ってたって、間違ってもセックスなんてしなかったのに。
 あんなに好きなもの以外には普段、興味がないくせして。
 こうしていざとなったら、同じ男として見直してしまうほど、相手を慮るように愛せるなんて聞いてない。
 いつの間にそんな男になっていたんだろう。
 俺は双子の片割れなのに、そんなことはまったく予見できてなかった。
  
 鼻の奥が、つんとする。
 まるで大切で仕方ないもののように、これからも侑が誰かを愛して抱くんだと思ったら、目に涙が滲んで仕方なかった。
 まだ身体が、侑に暴かれて気持ち良すぎるせいで泣かされた余韻を残して、涙もろくなってるのかもしれない。
 俺と侑では、あまりに温度差がありすぎた。
 侑にとっては、ただの代わり。ただの練習。
 ただの酒の勢いでやらかした、一夜の過ち。
 そんでも、俺にとっては最初で、最後の──
 
……アホらし」
 なにをそれっぽくセンチメンタルになってんねん。ただ酒でやらかしてセックスする予定とかなかった、身近な関係の相手とヤっちまって気まずいだけやん。
 とセルフでツッコみ、吐いた息は白くなってすぐ消える。
 逃げるみたいに侑の家を出てきたから、コートもマフラーも持ってき損ねてしまった。
 ここで俺はようやく、侑の家からまっすぐ最寄り駅に向かう歩道で立ち止まると、ジーンズのポケットの中からスマホを取り出してみる。
 当たり前だけど、侑からの着信やメッセージはない。
 メッセージアプリを起動して、いつでもいいからコートとマフラー、郵便とか配送とかで送っといてくれ、と打って送信。
 いつも通りなら、この時間にはもうとっくに起きてロードワークにでも出てるはずだ。案の定すぐに既読がついて、でも返事のメッセージは無いし、電話もかかってこない。
 ようするに、そういうことなのだ。
(べつに、そんなん。わかってたことやん。俺やない誰かの代わりに抱かれて、それでもええからって決めたんは、俺自身や)
 でもしばらくは直接顔を合わせたくないな。
 どんなツラして会えばいいか、もうさっぱりわからないし。だったらほとぼりが冷めるまで、顔を合わせんようにしないと。そうでないと隠せる気がしない。
「はら、減ったなあ……
 ぼやきながら、さっさと駅に向かう。電車の中は暖かいといいなと思いながら。
 


 
 
……は?」
 そして、順調に臙脂色の電車を乗り継いで、自分の店兼住居にたどり着いたと思ったら、暖簾のない扉の真下に、今頃ロードワーク中のはずの双子の片割れを発見する。
 鼻の先と、耳の端が少しだけ赤い。きちんとダウンコートを着込んではいるけど、一桁の外気温のなかでしばらく待ってたら寒いに決まってる。そして、その手にはメッセージに書いていた忘れて置いてったマフラーとコートがある。持ってるならマフラーくらい巻いとけ。自己管理あんだけ徹底しとるやつが、なにしとんねん。
 まさか先回りされるとは全く思っておらず、メッセージは送ったけど、今すぐ持って来いなんて言っていないし、むしろ既読をつけたくせになんの返信もして来なかったし。俺になんの用事が。
(なんで外で待ってんねん。どうせ車で来たんやろし、車で待っとけや。ちゅーか、合鍵で入っとけばええのに)
 さて、どうしよう。まだこちらに気づいてない。引き返すか? でも引き返したとて、ここが俺の家で職場である以上は、どうしたってここに帰ってこなきゃならんわけで。
 仕方なく「おい、なんでおんねん」と声をかけながら、侑が待ってる店の入口まで来ると、ぐりんっとこちらに顔を向けてきた。勢いがすごくて、思わず怯むけど、走って逃げ出すわけにもいかず。
 侑は侑で、なんでかわからんけど恐る恐る近寄ってきて、すぐに手に持ってる俺のコートで、俺の体をふわりと包んだ。
 手つきは驚くほど優しくて、でも表情はひどく剣呑としてて露骨に「不機嫌の極みです」と書いてある。
 書いてあるけど、寝癖はつけっぱなしだし、いつも晴れてる日の外出のときはかけてるサングラスはつけてないし、たぶんダウンの内側は部屋着にしてるだるだるの灰色のスウェット上下だし、靴なんて履きふるされて踵が潰れてるスニーカーだ。侑は服装とか見栄えを割と気にする方だし、だからこんな、とにかく慌てて家を出てきましたみたいな格好で出かけてきたことにまず驚く。そんだけ急いで来たんだろうけど。
「そんなんこっちの台詞や。サムこそこんな寒い中、コートもマフラーも無しに、なんで出てったん」
「それは……すまん。わざわざ届けさせて」
「届けたことはどうでもええねん。なんで、黙って出てったんって聞いとる」
「え、そこ?」
「どう考えてもそこやろがい……‼」
 黙って出ていくなって言われても、なら「昨夜はありがとうございましたー」と部活よろしく声掛けて出ていけばよかったんか? それもそれで、おかしいやろ。
「とにかく寒いし、なか入ろうや」
 鼻の先を赤くして待たせてたことに罪悪感がじわじわとしてくるし、早朝とはいえ他人の目もある。けど、侑は左右に首を振った。
「今日、サムも休みやろ」
「? おん」
「なら、うちに一緒に戻ろ」
「は?」
「嫌?」
「嫌、ではない、けど……
 でもわざわざここまで帰ってきたのに、また侑の家に行く意味がわからない。
 別に話すことは構わないけど、場所を侑の家に戻すのは、昨夜の今朝だし選べるなら避けたいに決まってる。
 あんなに優しく、宝物みたいに抱かれてた部屋に戻ってしまえば、どうしたってそれがもう二度と自分には降ってこないラッキーだった現実と、向き合わなきゃならない。
「話すなら、店やあかんの?」
「話もしたい。そんで、サムと俺んちに帰りたい」
「なんで?」
「なんでって⁉ そんなん、お前が勝手に黙ってベッドから居なくなるからやんか!」
「はぁあ⁉ おまえ、こんなとこでそんな話!」
 慌てて周りを見渡すけど、幸い通行人もおらず、時々車道を車が通り過ぎたり、自転車が通り過ぎていくだけだ。
 すると侑が一歩近づいて、今度はマフラーを俺の首にゆっくりと巻く。
 側から見ればマフラーを巻いてもらってるだけのように見える、でももう半歩踏み出してしまえば唇が重なりそうな距離で。侑は、俺だけに聞こえるかどうかの小さな声で。
「好きな子と、念願かなって既成事実つくって。さて起きたらなんて言うて俺から逃さんようにしよかと思ってたら、ベッドにおらんどころか家を出ていかれてた俺のこと。少しは慮れや!」
 唸るように、そう続けた。
 いまにも乱闘でも起こしそうなほどの凄みなのに、その表情は怒ってるようでいて酷く寂しそうで、悲しそうにも見える。
 ちゅーか、いまコイツ。なんて言うた?
「好きな子って……なに?」
「ここまでの話でおまえ以外に誰がおるんじゃ、クソサム」
「はあ⁉」
「なんやねん。ようやっと、なんとか言いちょろまかして、なし崩しでエッチできたのに。起きたら、おらんくて。あかん、先手打ちそこねたって焦った。ほんま焦って、車飛ばして来た。どうせLINEしても電話しても無視する気やろ思ったし」
 うっ、と思わず唸るくらい侑の思う通りで、こういうとき双子なのは本当に面倒だと思った。何考えてるかなんて筒抜けだし、こういうときどう思う、何を考える、なんてのも大体はお見通しだ。
「その様子だと、どうせ俺が遊びで抱いたとか思うとんのやろ。そんで、昨日のことはまあ酒の過ちっちゅーことでーって、シレッとなかったですーみたいな顔するつもりやったんちゃうか」
「ぐっ……! そ、そんなんツムが、試しにって言うたから! せやから、お前が男同士でどうやるんかお試ししたいって、意味かと思うて!」
「試しに、言うたんは、おまえをとにかく昨日逃さんためや。そう言っとけば、まあええかってワンチャン言ってもらえるかもって、思ったから。それに試しにっちゅーのは、俺やのうてサムが男とエッチできるか試してみん? て意味や。……それをなんや、俺が? 片思いのやつの代わりに、試しにオマエのこと、抱いたって? ──それ、本気で言うとるんか、治」
 ギラッと鈍くひかった眼光が、至近距離で、俺を貫く。
 その鋭利さに、反射でほんの少し重心を後ろにするけど、侑が俺の手首をついに掴んで、問答無用と自分の車に向かって歩きだした。方向的にいつもの近くのコインパーキングだろう。
「おい、離せやクソツム……っ!」
「あほか。離せ言われて離す奴なんぞおらんわ。居たら連れてこいっちゅーねん」
「こんな掴まれんでも、ちゃんと行くし」
「嫌や。また逃げられたらかなわん」
「べつに、誰も逃げとらんて……
「はぁあああ……。あんなに俺が丹精込めて、これでもかと丁寧にていねいに、これ以上ないってくらい、ただただドロッドロに甘やかして、溶かして、忘れられんように、またしたいって思ってもらえるように、愛情たーっぷりかけて抱いたのに。でもまさか誰を相手にしてもできるなんて思われてたなんて、ほんま心外やわぁ」
 辛うじて語尾だけ冗談っぽく言っているものの、さっきからずっと侑の声はいつもより低い。なにも冗談で言ってない。これは結構、ヘソを曲げてるときの、そして怒ってるのもあるけど同時に淋しいとか悲しいとか、そっちの気持ちが強いときのやつ。
 それに比べて、俺の声は動揺を引きずりすぎて、たぶんいつもより少し高めな上に昨夜のせいでカスカスだ。誰もおらんし、声も気にしないでええよと囁かれ続けた結果、最後は我慢もせず与えられる気持ちよさに身を任せて、突き上げられるたびに身悶えて、喘いだせいで。
 でもちょっとまってほしい。
 情報量が多すぎる。処理が追いつかない。
 誰が、なんだって?
 電子キーで車のドアをあけた侑は、助手席に俺を押し込むと、すぐに運転席にまわる。バタンっと運転席のドアが閉まって、鍵をかけられて。すぐエンジンがかかって、冷え切った車内にごうごうと暖房の風が吹く。
 シートベルトをのろのろとしているうちに、車はコインパーキングを出ていく。そして向かう先は、俺が朝、身を切る思いで飛び出してきた侑の自宅だ。どういうことやねん。
 あんなに荒々しく人のことを助手席に押し込んだくせに、運転は驚くほど丁寧だ。いつもよりずっとアクセルの踏み方も、ブレーキの効かせ方も、やさしい。
……しゃーないやん。逃げたって」
「ほらぁ! やっぱ逃げとったんやないかい‼」
「ちょお黙って聞けや。俺は……お前の口から一夜の過ちで終わらそうって言われて、あのベッドから追い出されたら、ほんま耐えられんかってん。お前に、あんだけドロドロになるまで抱かれて。お前はこれまで、こんなふうに女抱いてきたんやって知って。知らなけりゃよかったのに、知ってもうて。なのにお前は、ずっと好きな奴がおって。そいつのことしか眼中にないって言われて……キッツいなあって、なってん」
 珍しく茶々を入れることなく、俺の言葉を最後まできいた侑は、でかでかとため息を吐いてよこした。ああ?なんやねん、その溜息は。どつき回したろか。と眉を片方跳ね上げて、隣を見ると信号が赤になって、車を止めた侑は。

「一夜の過ち? 冗談も大概にせえよ。こちとら思春期からずっと拗らせてんねん。誰が一夜の過ちなんぞにしてやるか。頼まれたって泣かれたって、──俺は、逃がしてなんかやらんで」

 信号が赤のうちに、俺の後頭部を掴んで、荒々しく引き寄せる。
 顔の角度をつけて、瞼を下ろして。せやから俺も自分から体を寄せて、角度を傾けた。
 横目で前方を確認しながら、侑は信号が変わるギリギリまで、昨日はしてこなかった口内を犯すみたいなキスをかましてくる。
 昨日、あんまキスしてもらえんかったのも、ちょっと堪えてたけど。あれはあれでコイツなりに俺がどこまで男相手に平気なのか、出方を伺ってたんかなと思うと、なんや可愛らしい気もしてくる。
 信号が変わると、名残惜しむようにチュッと音をわざとたてて唇は離れていった。
 ぐんっと、加速する車の中で、俺は侑に巻いてもらったマフラーに思わず顔を埋める。
 まるでセックスの最中みたいなキスをかまされたせいで、簡単に下半身がずんと重くなってしまった。だってしゃーないやん。つい数時間前まで暴かれてた身体だ。導火線がほぼない状態やし。少しの刺激ですぐ火照りをぶり返してしまう。
「とにかく。やりなおしや」
「はぁ? なにを」
「朝チュン! 俺のベッドで! 俺の腕ん中で! とろんとしてるサム、堪能できとらん! それに」
「それに」
「どうやった? なかなか男同士も気持ちよかったんちゃうん? ほんなら、俺らどうやろか。俺な、……ずっとずっと、おさむのことが、好きやねんって。ほやほやしとるとこに畳み掛ける作戦がまだ残ってんねん!」
「いやそれもう今、俺に言うてしもうてるやんけ。アホなん」
「アホちゃうわっ‼ こちとら大真面目じゃい‼ 大体お前のせいでこうなってんねんぞ! もうここまできたら、黙って最後まで付き合えよ⁉」
「ええよ。付き合おうか。俺も、もとからおまえのことだけは、他に譲ってやれへんし」
「は、はぁあああっ⁉ ちょ、いまの付き合えはその付き合えちゃうやん! なにしれっと答えてんねん! あかん、やめえや! 俺はそれベッドのなかで聞くって今言うたやんか‼」
……とりあえず、思てる以上にテメェが夢みがちなんは、よおわかったわ」
 フッフと思わず笑いが込み上げてきて、巻いてもらった毛足の長めのマフラーにまた深く口を埋める。

 夢みがちだし、やっぱり自分勝手だし、思い込みも強めだし、言葉も配慮もまるで足らんし。
 なのに、さっきから侑のセリフひとつひとつに、俺はことごとく胸が満たされて、きゅんとして、ずっと全身が疼いてる。オマエが好きだと。もはやなりふり構わず、全力で伝えてくる侑が、たまらなく愛しい。
 俺も俺で、大概や。なんせ俺はアイツの片割れだから。こればっかりは、しゃーなしや。
 
 朝チュン、侑は昨日見たドラマみたいに、清々しい少女漫画みたいなピロートークがええんやろか。
 それはそれで、ええなぁと思うけど。
 でももしそうじゃなくていいなら俺だって、とろとろに溶かされた自分を恥じらわずに、目一杯で侑とシたいなぁ、なんて。
 どうなんやろ。でも俺がしたいってことは、たぶん侑もしたいと思うはずだから。
 侑がやりなおしたい朝チュンが終わったら、今度は俺もやりなおしさせてもらおうと思う。
 言うてまだ一〇時にもなってない。
 休日は、これからだ。