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こびゅ
2024-09-14 22:01:18
6361文字
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JB
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ねこさめさんのお返事の話(ししさめ)
X(Twitter)にてさいさん(
https://x.com/nanamimiBBB
)発祥のけだまししさんとねこまたさめさんとそこから書かれたGさん(
https://x.com/g_g_i_i_e_e
)の小説が可愛すぎて、その後にけだまししさんがねこまたさめさんからお返事を貰うまでを書きました!(お二方了解済)
元ツリー→
https://x.com/nanamimiBBB/status/1815347823149486259
猫の族である村雨が、真経津に押し付けられる形で獅子神を家に置くようになってから、少し経った頃の話だ。
故あって猫の耳も人の耳も、鼓膜を全て破損する大怪我を負った
――
その原因もまた真経津であるのだが、それはさておき
――
ことがある。
当時は人型への変化もままならず小さい毛玉でしかなかった獅子神は、言う事を良く聞く賢い仔であってもその精神は幼かった。
血だらけで帰宅し、耳が聞こえなくなったこちらに慌てふためきながら、終いにはぺったりとくっついて延々ぴゃーぴゃーしくしくと泣くくらいには。
珍しく、村雨は困り果てた。
何せ怪我のせいで何も聞こえない為、毛玉が何を訴えているのかまるで分からない。
人型を取れない毛玉相手では、唇を読む事も出来ないのだ。
不安を感じているのは分かるので、大丈夫だと繰り返し告げて撫で、手の平で包んで抱いてやってもなお、獅子神はその毛並みを涙でしっとりと湿らせていた。
村雨が、幼すぎて字の読み書きもままならないこの毛玉に、いずれではなく早急に文字を教えようと決意したのはこの時である。
自分の為に泣いてくれた、ぷるぷると震える温かくも小さい仔。
ジクジクと痛む傷と真経津にしてやられた苛立ちはどこかへと飛んでいき、何だか気が抜けてしまったのを覚えている。
やがて怪我が治り、読み書きを順調に覚えた獅子神から一通の手紙を受け取った時、やはり村雨は困った。
この毛玉は、きっとこの家の外の世界を正しく認識出来ていない。嵐に揉まれるが如くボロボロになった状態で、真経津に拾われこの家に来たのだ。
ぴゃーぴゃーという啼き声に交じる獅子神からの好意に聞こえない振りをしてきたのも、 もっと大きくなれば、もっと世界を知れれば、こういった手紙を送る相応しい相手をきちんと見つけるだろうと考えてのこと。
何か有った時の為にと読み書きを教えたし、手紙を出したいと言われた際にはいよいよかと思ったものだが、まさかこう来るとは。
見ぬ振りなど意に介さぬ真っ直ぐさで届けられた、渾身の一枚。かさりと小さく音を立てながら貰った手紙を大事にたたんで仕舞い、ふわふわの毛玉を脳裏に描いた。
私の元へ転がり込んできた、文字通りの毛玉の仔。いつかのその時までちゃんと、この手紙は取っておく。
そして将来巣立つ日に、この手紙の返事を渡そうと村雨は思った。
まさか早々に、返事を出さざるを得ない日が来るとは、つゆとも知れぬままに。
※ ※ ※
「え? そりゃあ礼二くんは猫の族なんだから、同族と番うんじゃないか?」
その言葉にピャーッ!! と抗議の声を上げながら、獅子神はテーブル上で叶を威嚇した。
村雨は今外出しているのに、勝手に上がって勝手に寛いでいる連中は相変わらず自由気ままだ。
「おーこわいこわい、ミナミコアリクイみたいだな。大きさは手の平サイズだけど。でもほら、何だっけ? 最近礼二君からも教わってるんだろ。それぞれの族は大人になったら、同じ族から番を見付けるもんだって」
「何それ」
「文字の読み書きが出来る様になったら、今度は常識と性教育だろうってさ」
「え〜? それ順番合ってる?」
「まずはこのちいさきものに必要で、重要な所からと考えているのだろう」
好き勝手に会話をする村雨の友人達
――
自称
――
を前に、獅子神は憤慨する。
獅子神にとって村雨は、とても大事な〝だいすき〟だ。手紙に書いた気持ちを村雨はちゃんと受け取ってくれたし、時間は掛かるが返事をくれるとも言った。
確かに基本的には同族と番うものだと習ったけれど、つまりそれは例外もあるということだろう。
村雨の性教育で、番とは特別なだいすき、の相手だと教えて貰った。大人になったら発情期というものが来て、そうしたら番を選ぶのだと。
そして自分にとっての特別な大好きは、当たり前に村雨なのだ。
自分は狐の族で、村雨は猫の族、しかも猫又。
まだまだ大きな差はあるだろうが、最近は少しの間なら人型を取ることも出来る様になった。
自分はこれから沢山勉強してもっともっと立派に大きくなって、前みたいに村雨が血だらけで帰ってきても泣くしか出来ない、なんてことはなくなる。
だからそう遠くない未来、一匹の大人の狐の雄として村雨の番になるのだと
――
。
「ま、もともと晨君に押し付けられて置いてるワケだし。大きくなったら巣立たせるだろ」
……
え?
「そうだな。少なくとも自立出来なければ、番の候補として見るのも難しいだろうし」
あれ?
「でも村雨さんて、そもそも番作る気あるのかな。今までもずっとひとりだったでしょ」
ガーン、と。
擬音で表せばそんな音になるであろうショックを受けて、獅子神は硬直した。
自分はずっと、大好きな村雨と一緒にいたい。番になりたい。
変だけど強くて怖いこいつらみたいな大人になれれば、この願いは叶う見込みのあるものだと思っていたのに。
そもそも大人になったら村雨の家を出ていかなければならず、番を作る気もないのだとしたら、一緒にいる為には
――
毛玉でいるしか、ないのだろうか。
「
……
あ、動かなくなっちゃった」
「後で村雨に怒られないと良いな、黎明」
「えっオレ?」
「どう考えてもそうだよね」
「そうだな」
「えー
……
」
会話を続ける連中を他所に、ぺしょっと耳をへたらせた獅子神は、テーブルからずるずる降りて自分に充てがわれた部屋に戻った。
小さな籠にふかふかのタオルが敷かれたベッドに入ると、丸くなって尻尾に顔を埋める。
手紙を受け取ってくれたのに、だいすきだと通じた筈なのに。
ああ、けれど未だ返事は来ないまま。伝わっただけで、村雨からだいすきだと返して貰った訳ではない。
どうしよう。どうしたら。
分からないことがあれば、まずは私に聞きなさいと村雨には言い含められていた。
そして村雨の言う事は筋道が立っていて、いつもいつも正しいのだ。
だからこそ、もし大人になったら一緒に居られないのかと、番にはなれないのかと問うて、そうだと言われてしまったら。
ひーん、とか細い啼き声が部屋に落ちた。
むらさめ、と。
だいすき、と。
風雨に晒されない寝床と温かくて美味しい食事をくれたから、だけじゃない。
生きる術を、知識を与えてくれるから、じゃない。
ぴかぴかできれいな目と冷たくて気持ちの良い指。体温と良い匂い。
村雨にとっては指先で摘んでしまえる毛玉なオレを、獅子神と名前を呼んで一匹の狐だと認めてくれた。
そのすべてがだいすきだと啼きながら、泣きながら、誰もいない場所で訴えながら、獅子神は心に決める。
今はまだ、小さい毛玉でいられるようにしよう。
頑張って頑張って、村雨の役に立てるようになって、村雨が番を求めるのか、求めるのならばどのような番であるのかを探っていこう。
小さい毛玉のままが良いのならそれでいい。
狐では駄目なのなら、この耳も尾も落としたって構わない。
村雨のあのきれいな色の目で見てくれるのなら、そんなものは大して重要ではないのだから。
ぐしぐしと湿った体をタオルで拭いて、村雨がしてくれるように毛繕いをしっかりとして、獅子神は起き上がる。
たった今から、決めたことを行動に移すのだ。
それから獅子神は、訝しがる村雨をなんとか誤魔化しつつ食事の量を減らしていった。
大きくならないように、しかし毛艶は保てるように食事の中身は勉強をして。
人型になる時も気を付けて、鏡を見ては大きくなっていないかを確認し、変わっていない背丈に安堵する日々が続く。
最初こそ具合が悪いのではないか、と尋ねられたが、実際獅子神は元気にはしていたのでそれ以上何も言われなかった。
自分が隠したいことがあるのを村雨はきっと気付いていただろうが、まだ言いたくない心を尊重してくれたのだろう。
そうして暫くは平穏な日々が続いたが、育ち盛りの毛玉がいつまでも食事制限などしていられる訳が無い。
段々と過度に食事を減らした挙げ句、ぱたりと獅子神は倒れてしまった。
お腹が空いたな、と最後に考えたのを覚えている。
昔みたいだな、とも。
でも昔と違うのは、温かく包んでくれる村雨の匂いがあることだった。
獅子神が倒れた瞬間に村雨が取り乱して大声を上げたのも知らず、気絶した毛玉は目覚めてすぐに竦み上がることになる。
何故ならば獅子神を自分のベッドに寝かせたそのすぐ脇で、見たこともない怖い顔をした村雨が座っていたからだ。
「ぴゃー(むらさめ)」
「おはよう、獅子神。
……
まずは、水を飲みなさい。そしてレトルトのお粥を温めたので、少しずつで良いから食べること」
「ひゃー(ごめんなさい)」
どうやらご飯を減らしすぎて倒れたらしいことを悟り、獅子神は体全部で精一杯のごめんなさいをする。
そして差し出された小さな豆皿に満たされた水をチロチロと舐め、もうひとつの豆皿によそわれたお粥のとろとろとした部分に口を付けた。
小さな体からくうぅ、と胃の動く音がして、村雨が大きく溜息を吐く。
「そのまま食事を続けて良いから聞くように」
「ぴ!」
「あなたは賢い仔だ。だから食事を少なくするのも、何か理由や考えがあってのことだと思った」
淡々と、怖い顔をしたまま村雨が続ける。
「しかし食事の量は少なくなるばかりで、とうとうあなたは倒れてしまったな」
指先で頭を撫でながら何故だ、と問いかけられて、獅子神は豆皿から顔を上げた。
もう黙っていることは出来ないと、身振り手振りを交えつつ先日あの連中と話した内容を伝える。
呆れられてしまうかもしれない恐怖はあったが、頭を撫でる村雨の指先が優しくて、心配させたのだと理解した獅子神は淀みなく告げた。
「
……
なるほど」
ふう、と村雨が大きく息を吐く。次いで、チッという舌打ちが聞こえて獅子神は再度竦み上がった。
「余計なことを
……
ああ、違う。あなたに言ったのではない」
撫でてくれる手は優しいが、それだけだ。
「私は
……
。いや」
言葉を止め、暫し何事かを考えた後に、食べ終わったら休みなさいと言って村雨は部屋から出ていってしまった。
言いつけ通りにお粥をちびちびと舐めながら、獅子神はぽろぽろと涙を零す。
行ってしまった。面倒を掛けてしまった。
村雨は怒っていたのではなかったし、出て行けとも言わなかった。
でも、でも。
呆れたような溜息が、怖い顔が、獅子神の想像を嫌な方向へとばかり走らせる。
元よりしょっぱくなってしまったお粥を食べ終え、毛玉は尻尾で体を包んで丸くなった。
ベッドは村雨の匂いに満たされていて、いつもだったら安心出来る場所なのに。
そう思いながらも泣きつかれた獅子神は、そのまま眠りに落ちてしまった。
数時間後。
しんと静まり返った部屋で目覚めた獅子神は、村雨が居ないことにまた泣きそうになる。
しかし傍に置かれていたものに気付くと、ぶわわっと尻尾を膨らませた。
それは以前自分が貰い、村雨に送ったものと同じ封筒だ。
宛名書きにはしっかりと「獅子神へ」と綺麗な文字が書かれていて、村雨からの返事が来たのだと悟った。
今? このタイミングで?
恐る恐る封筒を開き、毛玉にとっては大きな便箋を体全部を使って開いていく。
読むのはとてもこわい。
けれど、村雨が何を書いてくれたのかちゃんと知りたい。
そう思いながら、獅子神は便箋の文字を真剣な顔で追い始めた。
『獅子神へ
まず、返事が遅くなったことを謝罪する。
この手紙はまだあなたにとって、長くて読むのが大変かもしれない。
しかし頑張って最後まで読んで欲しい。
むつかしくてわからない言葉があれば、いつも通り私に聞くか辞書を引くように。
さて。
あなたが大きくなっても、あなたが望むのでない限り私の家を出る必要はない。
急いで大きくなる必要はないが、無理に小さいままでいようともしなくて良い。食事はしっかりと食べること。
獅子神。私の毛玉。あなたがくれた手紙は、私の大事な宝物だ。それは私にとって、あなたが大事だからに他ならない。
私は私が帰る家に、あなたがいる日々が続けば良いと思っている。
しかし。
あなたはまだ色々なことを知らない。学ばなければならないことがたくさんあるのだ。
だからこそ他を知らないまま、あなたの〝だいすき〟が私だけになってしまうことを、私は恐れている。
だいすきにも種類があるということを、あなたは知らなければならない。
いつか、あなたがそれらを知ってもなお私に〝だいすき〟だと、そう言うのなら。
その時こそ私はあなたの〝だいすき〟にこたえようと思う。
だからあなたも、考えるように。
私の毛玉は賢い仔だから、そう出来ると信じている』
幾度も幾度も便箋に目を走らせて、隅から隅まで手紙を読んで、一声天井に向かって啼いた獅子神はベッドを飛び降り部屋を転がり出た。
そのまま走って村雨を探し、リビングのソファに見つけたその姿、その胸元に思いっきり飛び込んで行く。
むらさめ!! むらさめ!! むらさめ!!
「
……
獅子神」
だいすき!!
「
……
はぁ。分かった。分かったから落ち着きなさい」
すりすりぐりぐりと村雨の胸元に懐いて騒ぐ獅子神は興奮のまま、だいすきを繰り返した。
だって仕方がないだろう。
心配など、何ひとつする必要はなかった。
村雨はちゃんと自分を、大切だと思っていてくれた!!
うれしい、だいすき、むらさめ。
びゃーびゃーと泣いてシャツの胸元を濡らしながら、体全部で訴えた。
頑張って考える。たくさん勉強する。ご飯もちゃんと食べて、大きくなって。
「ぴゃーーーー!!(むらさめの番になる!!)」
「
……
本当に分かっているのか?」
見上げた口元はほんの僅か微笑んでいて、だから毛玉は自信満々に。
もちろん! と一声啼いて、大好きな村雨の匂いを吸い込んだ。
※ ※ ※
全く、大騒動だったな。
村雨はまたもや騒ぎ疲れて眠ってしまった毛玉を抱き、僅かに唇を開いた。
獅子神に余計なことを吹き込んだ連中には後日存分に礼をするとして、今は毛玉の眠りを守るのが重要だ。
「わたしのけだまは、よい、けだま
……
」
以前どこかで聞いた子守唄に、適当な歌詞を紡いで口遊む。
獅子神にとっての自分は、所詮一時的なシェルターに過ぎない。
真経津に押し付けられたとはいえ、仔狐を預かった以上責任があるのだ。
この毛玉が立派に成長するのを見届けて、自らの足で行く道を選べるようにしてやる責任が。
だから手の平に収まるふわふわで温かい毛玉を心地良く思い、そのままずっと留め置きたいと願うのはエゴでしかない。
そもそもこの毛玉は、まだまだ食べて眠るのが一日の大半を占めるような幼い仔だ。
だから、と思う。
そう遠くない未来に、あなたはきっと誰しもの目を惹くような、大きく立派な狐になる。
その時になってもなお、私に求められたからでなく、あなた自身が私を選ぶのであれば。
私を番にと、そう望むのならば
――
。
柔らかく目を細めた村雨は、毛玉をそっと持ち上げた。
涙の匂いがする毛並みをそっと舐め、乱れた毛の流れを整えてやる。
私の毛玉。かわいい仔。
柘榴の瞳を瞼に隠し、猫の族の言葉で告げる。
にゃぁん。
いつかあなたが、この意味を理解する日が
――
。
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