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いしえ
2024-09-14 16:44:15
4482文字
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幽白腐
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小説/ロマンチストはかく語りき/画吏
吏将一人称文。うらめしT戦あたりの心境描写。画魔が生死さまよってる状態ではっきり今後の生死を明記していませんが、吏将は生き延びてほしいと思っている描写です。
多少ベクトル違っても似たもの同士の画吏尊いなーと思って書きました。魔性Tすき………
甘ったれた、ロマンチシズムだ。里をぬけてなお、まっとう忍で在ろうとする。
――
そう、在るしかできないとばかりに。その不器用な真っ直ぐさは、さながら腐った土壌に凜と根を保つ一本の青魔竹だ。曲がりながらも、生ゆ孤碌松だ。白に紅にと咲く冠梅だ。
『
…
土壌がどれほど血で汚れていようと、おまえのように馬鹿正直な木も、育つものなのだな』
いつしか、そんなやりとりを交わしたとき、画魔の返した言葉がわすれられない。本当に、こいつは、ひかりの世界でも忍を続けでもするつもりだったのだろうか?
『それなら、おまえは、真新しいさら土(つち)だな』
唖然と、したものだ。新風だとか新雪だとか、そういったものは確かにきく。だが、ゆるりと自然育つ土に、歴然としたあたらしさなどあろうか? あるならそれはごく薄っぺらいうわつらか、それとも、どこまで指すのやら。
『
――
なあ、吏将』
ああ、まるきりまあたらしいように名を呼ぶな!
『おまえという新天地が、このチームを外へと、連れて行くんだな。まだ少し、信じられないほど高揚するんだ』
はにかむそのツラの、まるでウワサに聞く花冠とやらでも被るよな。
『
……
ありがとう』
せっかちなその言音(ことね)の、馬鹿げたことと、きたら!
土のあたらしさは、なるほどきっと、立つ者の心持ちによるのだろう。あれは、そんなことを思った折だった。甘ったれた、ロマンチシズムだ。薄汚れたこの土に、さあ、いくらでも化粧を施すがいい。
オレ達は、計画的に里を抜けるにあたり、チームを、組んだ。大会のさき、光の世界。ただそれだけを、直球求めて。だが、承知もしていた。たぶん、全員でなどという甘ったれは叶うまい、と。皆で光の世界に降り立つ。それが叶うほど、やさしい大会ではないのだ。わかって、いた。だからこそ、オレには責任があったんだ。コイツらに里を抜けさせた以上、勝つしか、生きる道は永劫ないのだから。
だれかひとりだけ、それだけでもいい。だれかしらが生き延びて、いのちを背負って、勝ち抜けばそれで上々。それが魔忍生まれに出来うる生き方で、きっとほかに、できんのだ。誰が決めるでもなく、自然発生的に、オレが大将に任ぜられた。はん、まあ妥当だろう。結局のところオレは忍であり冷徹で、雇い主が望むなら、手段も選ばないのだ。それが忍としての優秀さであると同時に、同時に、呪縛じみる。オレはどのみち、闇に生きる魔忍を心底抜け切れはしないのだろう。
仮に総員がかりで誰か一人生き残り勝ち抜いたとても、ほかのやつはどうだか知らんが、それがオレであれば、そこで真の光を見ることは到底できず。それはチームの名目上勝利であったとて、総員の勝利では到底なく。恐らく、総員で生き残ることを選んだときに初めて、光をしれるのかもしれない。
――
だが、画魔がその身を何のためらいもなくチームに捧げたとき、オレの中で、勝利の先の外の世界に真の光はついえた。自覚は薄らある、ジレンマを眼前提示される。
実力で勝つために誰かを犠牲にするのなら、それはもう、光では、断じてない。無意識下に理解していたことを、ああ、つまびらかになどされなければよかったのに。深い絶望。強い、歯噛み。ぎりっ、と、ちいさく孤独なマントのなかで音よ、すべてくぐもり掻き消せ。犠牲を払ってしまった以上、もう、それ以上は、どんな手段を使ってでも勝つしかない。それが大将としての責任で、ああそうだ、わかっている! これはシビアぶった、甘さでしかないのだ。全員で外の土? 踏めなど、するほど容易い大会ではないと分かっていただろう吏将よ。抜け忍としてのゆくさき? だから闇の魔忍になど徹しきれはせず、オレ達は、里を抜けたじゃないか。“お前達は、あとさきを考えなくていい”。確かにそう、オレは言ったのだ。“好きなように、やれ。
――
これが、お前達の自由意志で踏む、初舞台となるのだからな”。そうだ、自由意志のために里を抜けたんだ。いきざま縛ることなど、できようもない。
光を求めて、結局のところオレは闇に徹しきれもせず、曖昧な世界の存在だ。そして、そうだ、画魔もそうでしかなかったのだ。在りようこそまるきり光そのものなのに、その根、魔忍のつちにみしり、張っているのだ。オレ達は結局、不器用で、馬鹿正直で、どこか、似たもの同士だった。世界は二元論じゃなくてもいいと、だれかから、否、この大会で勝つことで自ず、肯定したかったのだ。
「甘ったれたロマンチシズムは捨てろ」
画魔の身をささげた以上、どんな手を使ってでも確実に勝ちに行くのが大将を任された者ではないのか? ああ、画魔ならきっと、ばかげたことを、と、涙こぼしながらこの頬はたいてくれようものを。医務室に運ばれた彼の、生命力を信ずるしかない。オレは結局のところ根っこが画魔と種別こそ違えど魔忍であり、それでも抱いた夢ひとしく、だからこそ、オレ自身は真の光は見られなくとも、仲間を減らさず勝ち抜きたい、そして仲間に光を、みせたいのだ。自己犠牲? おまえに言われたくないな。頭に響いた画魔の言葉に、シニカルな笑みでそう返す。汚らわしい任務の日々の中、互いだけが、そうだまるでぬくもりですらあり、支えだったのだ。それほどべったり、関わり合ってきたわけではない。組んで任にあたることはあったが、ただ自ず、どこかセンサーにかかり、寄り合ってできた集団だった。コイツらに、仲間に、ただ光を、それひとつだけを見せたかった、などという甘ったれで里は抜けられないのだ。抜けたさきに、なにがあるか? 皆妖怪だ、食事はどうにかなるだろう。だが、社会的に、生きようがあるだろうか。抜けるならば、この大会に、出るならば。勝つしか、永劫、手段はないのだ。
オレ達が大会に出ること自体、即ち里を出ることそのものが、なりわいを失うか否かの、分岐点だ。生きる意味をどこに置き、何を求め、それをどう意味づけるか、その明示化を表すのだ。里を出た時点で、オレはその責任を強く抱いた共謀者であると同時に、やはり、大将でなければ、ならない。皆が皆、等しい責任意識では任務こそできようとも、この大会に、チームで出るには不都合が生じてくる。コイツらがめいめいの自由意志を持ち、この大会に参加できて、そして、それからさき
――
光を見るために、オレの手は、どうともなろう。
画魔において特に顕著だったのが、里を抜けてもなお、根本の価値観や生き様が魔忍のままということ、それだった。連れ立って里を抜けたくせに甘ったれている。お互い様? 知ったことか。もどかしい部分も、当然ある。だが、それでも、個性を消したさきに真の自由はないのだ。当然、外のやつらもまるきり自由というわけではないだろう。だがオレは、コイツらの好きにさせようと、思っていた。だからだと、うそぶく気はまるでない。裏飯チームとの試合、画魔は仲間を信頼してこそああ動いた。ほらな。思うと同時に、煮えくりかえる、自身への憤りも、感じたのだ。ああ、これが、想像と現実の差なのだな。オレは、大将として、そんな生き方をとめることが、できたはずだ。だが、好きにさせた。オレが、画魔を臨死へと追いやったのだ。そうだ、ほかのだれでもないオレが!
甘ったれた、ロマンチシズムだ。画魔の、魔忍を抜け切れていない、抜け切れようのない性分は、行動は、甘ったれたロマンチシズムに過ぎないのだ。光という夢想を追い求め、生という現実よりも仲間の夢をとった。はきすてるようにこうでも言わないと、大将として、抜け忍となったコイツらを生かせないとわかっていたくせ、そのくせ生かしきることもできない不足を、どうつぐないようも、ありはしないのだ。
里を抜けた以上、どうやっていきていくか? 食事こそどうにでもなる、肉体的に生きていくことは出来うるだろう。だが、それでは、光を見たいコイツらが精神的に生きていけようもないのだ。社会的に、居場所がほしかった。抜け忍にそれがあるか? それをこそ、ほしかったのだ。大会に勝つことは、抜け忍としての我々が社会的に居場所を獲得することだ。今後のオファーか、あるいは、もっと純粋、地位や名誉やなにかか、在りようか。それがなければ、ただひかりをみた、それで満足だ、では済まないのだ。生きようが、ないのだ。画魔には特にその節が、あったのをオレは知っていたじゃないか。大会に出られていることが、里を出られたこと、この地を、足がかりの予兆を踏めたことそれそのものがうれしくて名誉なんだ、と、はにかむように、笑んで、頬を掻いたあの姿が、ほんの少し前なのに、まるきり走馬灯じみて脳裏に鮮明。
オレは、
――
オレは、画魔が、この行動にいずれ出ることをわかってた。それでも止めなかったのは画魔の自由意志を生かすためで、ヤツの光のためで、だが、そうだ、まるきりわかっていたんだ。その、大きな矛盾に。意志を生かせば、身が危ない。
…
わずか甘えを許されるのなら、歯がゆかった、と、そうただひとことだけを、ちいさくぼやきたい。先刻苦々しく、つよく噛み締めたときのマントはもう、脱ぎ捨てた。ほらみたことか。だが、分かっていて、仮にとめようとしたとして、それでも恐らく、止められはしなかったのだろう。画魔は、そういうヤツだ。
魔忍根性を抜け切れようのない画魔。だからこそ純粋、真っ直ぐに、仲間に身を呈する。誰よりも魔忍で、そしてまるきり、ちっとも、魔忍らしくなかった。だからこそ歯がゆくて、だが、思うようにさせるしかなかったのだ。ああ、そうか。矯正したさきに真の光がないというより、たとえ根っこがそれでも、画魔は生きようがどうあがいても光なのだから。存在が、光なのだから。オレが、幾度救われたと思う? 貴様は知るまい。
『それなら、おまえは、真新しいさら土(つち)だな』
汚泥から、ずるりと、引きずりだされた心地のあのとき。
『おまえという新天地が、このチームを外へと、連れて行くんだな』
高揚隠そうともせず頬を化粧の下輝かせたあの日、あのとき、あの刹那。
それが甘いと、わかってた。その頬をどうにも左右させようのない自身の、つたなさを、信じて身を任せてくれる画魔達の、世間知らずな光への憧憬夢想を。それをどうにもできない自分をこそ。甘いと、甘ったれていると、わかってた!
説明会、開会式。ホテルの浴場で顔輝かせ、寝室ではしゃぎ、まぶしそうに日の出に頬ゆるめ、朝の世界を堂々、共にみた。そうだ、オレ達は、ともに、光を生きたいのだ。ああ、画魔よ、どうか、死の淵から蘇ってだけくれていればいい。そうすれば、きっと、勝ち星のあとまたひょっこり、リングに上がることもあるだろう。医務室に願いを飛ばしながら、楽々、仲間を減らさず勝とうとする。入った邪魔は、死に損ない。ならば画魔もこそ、生き延びようとも。そうだ、皆で、勝とうとも。
ああ、甘ったれた、ロマンチシズムだ。
終
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