いしえ
2024-09-14 16:38:41
1539文字
Public 幽白腐
 

小説/とこしえを贈り合う/仙樹仙

忍の没後、亜空間にて、とこしえを生きる。忍からは、各人格ごとにひとつずつ贈り物を詰めたタイムカプセルが贈られていたのだった。
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 ひとつの人格につき、ひとつずつ。樹への贈り物を詰めたそのタイムカプセルは、永劫、あくことのない。
 忍の言い出したそれに、樹は多少なり驚いた。ナルならばまだわかるけれど、と。同時に、言い知れぬよろこびが身に沁みゆくのも感じたものだ。忍が、主人格たる彼が主導したそのプレゼント。それは、約束されしとこしえへの返歌。お前がオレに、永遠をくれる。だからオレも、お前に、永遠を贈ろう―― 彼らは、とこしえを贈り合うのだ。
 忍のなきがらを抱き締めながら、樹は、時折、タイムカプセルの中身を繰り返し想像する。シャイなカズヤは恐らく、ろくなものではなかろう。ナルは、たとえばハートのロケットペンダントとか? ヒトシはちいさな植木鉢、とか。忍は手紙かもしれない。ふっ、と、笑みのこぼれるそれらの、想像にすぎない中身が、樹に、自身のてのひらをぼうっと見つめさせる。きゅっ、と、ちいさく握って、開き、忍の手と重ね握りしめる。
「なあ、忍お前は、オレに、なにをくれたんだろうな」
 こてり、と、かたちよい頭を胸元にて撫ぜ、誰の邪魔も入らぬ亜空間ですべて気を許し、自然やさしく、綿雲よりもやわらかくなる声音で問いかける。忍の髪を梳いては整え、頬を、くちびるを、寄せる。当然、忍のなきがらから直接的な返事はない。樹の笑みが、深まった。箱を開ければ、容易く答えは知れる。彼らの意図も、容易に知れよう。だが、樹には開けるつもりは永劫なかった。
お前のくれたこの箱の中身を、想像するとき――オレの頭から、足のゆびさきひとつさえもが、お前の人格たちと過ごしてきた時間を思い出すよ。ああ、あのときのあれだろうか。こんなことも、あったものだな、とありがとう、忍
 いつくしむゆびさきは、忍の前髪の一束を絡げ、ふわりてのひらで掻き上げてまたつまむように整える。樹にとって、忍とのとこしえに、別段時間つぶしのようなものは無用。彼と自分と、それさえ居ればいい。ほんとうに、それだけだったのだ。だから、ただただこの贈り物が意味するのは、自分たちの過ごしてきた短くも永遠に等しい時間が、正しく、永遠なのだという証明。そのあかしが、うれしかった。
 とわに、箱の中身に想いを馳せるとき――馳せ、つづけるとき。そこに初めてとこしえが、成立する。忍から贈られたとこしえが、永劫続く時間が、約束されるのだ。樹は、その、これからさきの永遠を想う。箱の中身は、正解を求めない。箱の中身は、儚い刹那をとこしえに、換える。箱の中身は
……ははっ。今、ひどく陳腐な言葉が浮かんだよ。“箱の中身は、愛”。これがTVドラマのクライマックスなら、きっと視聴率は伸び悩むだろうな。だがオレは、たとえば何も書かれぬ紙切れひとつでも、いいや、空気の入っただけの箱でさえ、お前の遺したものからそれを、感じ取るのだろうな。やはり人間くさいやつだ、と、お前は、いつものように曖昧に笑むのだろう
 人間であることを、誰より悩んでなお、樹の人間くささを愛した彼。人間であることを、誰より恥じてなお、樹のその中間性を、愛した彼。樹は“人間くさい”妖怪で、忍にとってその曖昧さは、やわらかな憧れだった。自身はたとえ魔界で死のうと、魔族になることはない。解っていてなお、それでも、なお。人間なのに、魔界で死にたい。――人間だから、魔界で、死にたい。断罪。裁きは、自身によってのみ。忍の望みは、それだけだった。
「ああお前に寄り添いつづける時間は、幸せそのものだ……愛している、忍……
 額に口づけて、ふわり、笑む。贈り合われたとこしえは、今日もどこかで人知れず、そのカプセルを時空の狭間に浮遊させている。











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