溶けかけ。
2024-09-13 18:33:46
4739文字
Public ほぼ日刊
 

心配性な君を

ーーどうすれば、安心させてやれるだろう?

えっちなことされてるヌヴィレットが見たい!!をコンセプトに始めたのにただのシリアスになりました。

「フフッ……ヌヴィレット、気持ちよさそうだね」

「フリーナ殿……戯れも程々に……したまえ……っ」

 フリーナの手がヌヴィレットの白い肌に触れる度に、ベッドに繋がれた手錠からジャラジャラと耳障りな金属の擦れる音がした。
 二人は今、ベッドの上に居た。ヌヴィレットは手錠をかけられ、上半身を晒している。彼の上に跨ったフリーナは妖艶な笑みを浮かべながら、程よく筋肉のついた身体を弄っていた。

「そうかい? キミの身体は存外素直なのにね?」

 小さな唇がヌヴィレットの首筋に吸い付く。ちくりとした痛みがして、フリーナが満足そうに顔を上げた。

「ほら、付いた。これがキスマークだよ、ヌヴィレット」

 手鏡で己の仕事を見せつけるフリーナと顔を歪めるヌヴィレット。彼女はそんな彼の表情を機嫌良さげに眺めた後、再び、リップ音を響かせながら、ひとつ、またひとつと痕を増やしていく。

「フリーナッ……!」

 ヌヴィレットが呻り、上体を起こす。ガシャンと手錠が一際大きな音を立てた。上に跨っていたフリーナがベッドの上にころり、と転がった。

「わあ、怖い――フフッ……可愛いね、ヌヴィレット。僕に良いようにされて……どんな気分だい?」

 フリーナは再び彼の上に乗り直すと、つつ……っと身体の真ん中を指でなぞった。

「っ……

「気持ちいい? フフッ、気持ちいいねぇ……

 頬を僅かに染めて顔を背けるヌヴィレット。フリーナの指や手が彼の上を這う度に、切なげな溜息が漏れ、身体がピクリ、と跳ねた。

「男の人でもここは、弱いのかい?」

 ヌヴィレットの胸の片方の突起を口に含み、片方の突起の周りを指でくるくると弄ぶ。時折、少し長めな爪でかりかりと掻いては、彼の反応を愉しんでいた。

「悪趣味、だ……

 フリーナを睨みつけるヌヴィレット。露わになった白い肌は上気し、ほんのりと桃色に染まり、朝焼け色の瞳には薄っすらと涙の膜が張る。

「なんとでも」

 鼻歌を歌いながら、ヌヴィレットのスラックスに手を伸ばすフリーナ。

「もう、暴れないでくれよ! 痛っ……

 ヌヴィレットが暴れた拍子にフリーナの何処かに当たったようだ。彼女はそれきり、ピクリともしない。思わず、抵抗していた足を止める。

「フリーナ……?」

……なんてね」

 フリーナは素早く起き上がると、見事な手際でヌヴィレットのスラックスから彼の陰茎を取り出した。

「こんなに、固くして……僕で興奮してくれたんだね……

 うっとりと顔を緩めたフリーナはヌヴィレットの鈴口にキスをした。チュッ、チュッと音を立てて口づけながら、添えていた手で彼のそれを扱く。

「ん……しょっぱい……案外、早いんだ……

 フリーナの顔や手が白に侵される。彼女の白い肌に落ちる白は幼気な見た目も相まって、どこか背徳的でヌヴィレットは唾液を飲み込んだ。

「欲しい……?」

 フリーナが白いネグリジェを託し上げる。白いレースの下着は薄灰の染みを作っていた。

「えっ……?」

 ヌヴィレットが。フリーナの視界が反転し、頭上でカチャンという鍵のかかる音がした。

「些か、悪戯にしては悪質であったな、フリーナ殿」

 ヌヴィレットは、輪っか状の赤い痕を揉みほぐしながらフリーナを見下ろした。自身の傷は治せば済む話だが、彼女では痣になってしまうかもしれないな、と未だ状況の変化について行けずに目をぱちくりさせるフリーナの手を拘束する手錠に思いを馳せた。

「な、なんで……!?」

「純水はあらゆる形へと変化する――無論、鍵を開けることなど造作もない」

 フリーナの瞳が驚きに見開かれる。途端に、彼女の海色の瞳に影が落ちた。

「へえ? それで? 最高審判官様直々に僕に仕返しをしようってわけかい?」

 それならそれで構わない、フリーナは考える。寧ろ、手酷く抱かれる方がよほど良い。

「仕返し? 何を言っているのか理解出来ないが……どうやら、君は私の愛が信用出来ないらしい。ならば、知ってもらう他ないであろう?」

 カチャン、と手錠が音を立てた。フリーナが逃げ出そうと身を捩る。

「あまり動くと痕になる……私は君を傷つけたくはないのだ……

 ヌヴィレットがフリーナの手錠を外す。身を起こした彼女をベッドへ沈めるとうつ伏せにし、その上に覆い被さった。

「手錠の代わりにはならないが……拘束させてもらおう。君が逃げ出さないように」

 小さな手の甲に手の平を重ねて、指の又に指を入れれば、頼りなさげに握り返された。

「不安になったのなら、素直に言いたまえ」

 フリーナの身体が僅かに跳ねる。硬直した背は小刻みに震えていた。
 徐々に体温を失っていく身体の下に自由な片手を差し込み抱きしめる。彼女は稀にこのような行動をする。自由を奪い、禄に慣らしもしないで、私のものを華奢な身体に受け入れようとする。無理な性交渉に内側が裂けて出血しようと、痛みがあろうとお構いなしに行う姿は一種の自傷行為と言えるだろう。

 フリーナの身体から力が抜けていく。
 抵抗を止めた細く頼りない身体を片手でひっくり返す。離れた手に指を絡めて繋ぎなおしたら、彼女に視線を向ける。

 信用されていない、と嘆いていても始まらない。あの壮大な審判の中で、私は確かに彼女から背を背けたのだから。

「私の愛を試すことは構わない。私は君にそれだけのことをした……だが、そのために君を虐げることは、君自身であったとしても許し難い」

 噛み締め過ぎて血の滲む唇に指を差し込む。もっと早く彼女の心が弱っていることに気づいてケアをしていれば、今日という日を迎えなかったのではないかと思う。

「性交渉において、最も重要なことは互いの身体を思いやることだ……君はもっと自分を大切にしたまえ」

 何か言いたげに唇を震わせたフリーナの口をキスで塞ぐ。舌を差し込み、口内を擽る。所在なさげに縮こまっている彼女の舌を掴まえれば、おずおずと拙く絡められた。
 先程の行為の際、フリーナはずっとこちらを慮っていた。確かに、多少の辱めはあったがヌヴィレットにとっては我儘の範囲であったし、彼女が積極的にマーキングをしてくるなど初めてのことだった。

 唇を離し、ぼんやりとしているフリーナの耳孔に舌をねじ込む。耳朶を食みながら、繋いでいる方とは反対の手でネグリジェの裾に手を滑り込ませる。

「私のものを受け入れるのなら、準備が必要だ。覚えておくように……

 胸を守る布を取り払い、柔らかな丘を揉み解す。小さな突起を指で擦ったり、爪で引っ掻けば、彼女の身体は面白いほどに跳ねた。

「あぁっ……!」

 胸の突起を口に含み、片手で押しつぶせば、声を上げながら、フリーナが達した。だが、止める気は更々なかった。

「やっ……まって、ぬゔぃ……んっ……あっ……

「待たない」

 腹や胸、腕や足など、あらゆるところに私のものである証を残す――翌日の彼女が嫌でも目に入るように。

「なんで、こん……なこと……

 何故、とはおかしなことを聞く。

「私の愛が信用出来ぬなら、信用出来るように態度で示しているだけだ。肌へのマーキングなど、その最たるものであると解釈しているが?」

 目を丸くするフリーナを無視して、小さなリボンのついた下着の上から割れ目をなぞる。慌てて暴れ出す足を押さえつけ、ぷっくりと膨らむ蕾を撫でれば彼女が弓なりに撓った。
 じわりと広がる温もりに満足して、役に立たなくなった薄い布を足から外す。

「なにを……やぁ……舐めないで……!」

 とろとろと蜜を溢す蜜壺を舌で刺激する。甘酸っぱさの中に彼女の香りが混ざり、酩酊感が襲い来る。

 ――愛を試す、とフリーナには言ったが実際は違っている。彼女はいつも、私に嫌われるために自傷じみた行為を繰り返す。本人は無自覚なようだが。
 フリーナは不安の原因を私に求めず、信用しきれない自分を責める。自責の念はやがて、自身を蝕む刃となり、行動に現れる。相手の心が分からないから怖い、怖いくらいならいっそ、蛇蝎のごとく嫌われた方がマシだと彼女の深層心理が訴える。ああ、苦いな――と彼女の蜜を舌で転がす。

「あああっ……やだっ……! ぬゔぃれっと……!」

 フリーナが絶頂を迎え、ぴしゃりと顔に飛沫がかかった。彼女が呆然とこちらを見上げる。

「ぼ、ぼく……

 顔にかかった雫を舐め取れば、僅かな塩味が口内を満たす。顔を真っ青に染めた彼女は粗相をしたとでも思っているのだろう。

「安心したまえ。これは、君が思っているようなものではない……強いて言えば、君の身体が悦んでいる証拠だ」

 おろおろとするフリーナを組み敷き、既に滾って熱くなった陰茎を蜜壺に挿入する。前戯のかいあってか、十分に潤った彼女のなかは難なくヌヴィレットを受け入れた。

「無理な挿入は身体を傷つける……覚えておきなさい」

 抽挿を開始する。ゆさゆさと上下に揺さぶられるフリーナの瞳はとろんと蕩け、快楽に浸っていることが分かる。




「あかちゃん……できちゃう……

 フリーナが赤が咲く腹を撫でる。普段は薄いそこは、私の陰茎と度重なる吐精により、ぽっこりと不自然に膨らんでいた。

「あぁ……それも悪くない……子でも出来れば、君の不安も多少は解消されることだろう……

 彼女の中に子種を注ぎ込む。この薄い腹に命が宿るのだから、生命というものはなんとも不思議なものだ。

――あいしてくれる?」

 不意にフリーナが疑問を投げかけた。何を、とは聞かずとも分かった。

「勿論だとも。君と私の子なのだから」

 汗で湿った髪を梳る。しっとりとした銀糸は、それでも元来の柔らかさを失ってはいなかった。無垢な瞳がゆっくりと閉じられ、気持ちよさそうにヌヴィレットの愛撫を受け入れる。

「よかった……

 フリーナが安堵の笑みを浮かべた。少しは彼女の不安を払拭する一助になれたのだろうか。

「生んでくれるのかね?」

「生むよ」と短く言って、微笑むフリーナに自らの欲が高まるのを感じた。何度も注いだはずの下腹部が再び熱を持ち重くなっていく。

「ならば、孕め」



 ヌヴィレットが起き上がる。既に日は高く上がり、人々の活気のある声が外から聞こえてくる。

「やはり、痕になってしまったか……

 一晩中繋いでいた片手の手首には薄っすらと赤い線が引かれていた。

「んんっ……もう、朝……?」

 寝ぼけた瞳がヌヴィレットを捉える。細い肩を抱き寄せて、目蓋にキスを落とす。

「君は、もう少し眠っていなさい……昨晩は、無理をさせてしまったのだから」

 ――昨晩、と聞いたフリーナの頬が赤く染まる。毛布を目元まで引き寄せて、恥ずかしそうに目を伏せた。

「キミは行ってしまうのかい……?」

 ヌヴィレットの袖をフリーナが控えめに引いた――もう少しだけ、眠る彼女を眺めていても良いかもしれない。

「君の招待を受けようか」

 布団に入り直し、フリーナを抱きしめる。彼女は小さな子猫のように擦り寄ってきた。
 しばらくして、健やかな寝息を立て始めたフリーナの手首の傷にキスを送る。
 手錠の代わりに、ブレスレットでも贈ろうかと考える。
 二人で選ぶのも悪くないかもしれない。
 腕の中で眠る彼女が起きたら、街へ繰り出して、揃いのものを探そう、とヌヴィレットは微睡んだ。