ヒデライカ
2024-09-13 13:50:46
1919文字
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かいとーさんの炒飯が世界一美味い海ター

かいとーさん不在の海ター昔話

 八神はその日、九十九と杉浦に仕事の手伝いを頼まれて異人町に来ていた。海藤には神室町で力仕事の依頼をこなしてもらっている。
 案外あっさり仕事は終わり、俺もそっち手伝おうかと海藤にメッセージを送るが、海藤の方も簡単に完了したらしく、もう上がりだと返ってきた。
 せっかく異人町まで来たのにこのまま帰るのもなんだかもったいない。せめて晩飯くらいはこっちで食べたいなと考えていたとき、ふと異人町の兄貴分のことを思い出した。
 連絡を取ってみると、一緒に飯を食おうと向こうから誘われる。

「鉄爪がまた前のとこで飯食おうってさ。杉浦たちも来るだろ?」
「ほんと? あのお店、美味しかったからまた行きたいと思ってたんだよね」
「杉浦氏が言っていた中華の店ですな? 楽しみです」

 日が沈むにはまだ少し早い時間だったが、八神たちは佑天飯店に向かった。
 以前来たときは事件の真っ只中で、味を楽しむのは二の次となっていた。今日はじっくり味わわせてもらおう。
 鉄爪に出迎えられて入った店内にはもういい匂いが漂っていた。鉄爪に言われて早々に仕込みを始めてくれたらしい。
 鉄爪の隣に八神、向かいに九十九と杉浦が座る。ビールで乾杯してお互いの近況報告をポツポツしていると、炒飯とエビチリ、エビ蒸し餃子、五目麺が並べられた。

「ほう、これは確かに美味しそうですな。それでは早速」
「いただきまーす!」

 杉浦が声を上げ、八神たちも続けて手を合わせる。それぞれが舌鼓を打つのを見て、この料理を作った男、趙は満足気にまた厨房へ戻る。
 レンゲで炒飯を掬い一口食べた杉浦が目尻を下げて味わう。

「パラパラで最高〜!」
「うん、美味い」
「そうだろ八神! 趙さんの炒飯は世界一だよなぁ!」

 八神は頬張っていた炒飯を飲み込み、少し考えてから「世界一ではないかな」と答える。作った本人がすぐそこにいるのに失礼かもしれないが、これは譲れない。
 鉄爪が驚いて八神と趙を交互に見るが、八神は撤回しない。趙は別段怒った様子はなく、「八神くんは世界一美味しい炒飯を食べたことがあるの?」と聞く。

「海藤さんの炒飯がね」
「えっ! 海藤さんって料理するんだ? 意外かも」
「そんな大層なもんじゃないけど」
「詳しく聞きたいなぁ、具材に秘密があるの? それとも特別な隠し味?」

 洗い物をひと段落させた趙が厨房を離れて場に加わる。八神はビールを飲むと、弁護士を目指してた頃に……と話を切り出した。
 海藤のアパートに入り浸って勉強していた当時の八神は、思うようにいかず参っていた。高校も中退してしまい、頭が悪いわけではないが遅れを取り戻すのが大変だった。
 弁護士になるまでの道が果てしなく長く感じて、親っさんにも迷惑をかけているのに、と思い詰めてしまい、食事が喉を通らない日が続いた。
 段々痩せていく八神に松金は、なんでも食わせてやるから好きな物を言えと連れ出したが効果はなかった。
 エネルギー不足で余計に勉強もできなくなって悪循環に陥っていた八神に、海藤があり物で炒飯を作ったのだ。

「俺の胃は縮んで弱ってて、そういうときって普通お粥とか作るわけ。でも海藤さんも、もちろん俺も作り方なんか知らなくてさ。海藤さんが俺のと自分の炒飯を置いて、向かいに座って」

 当時のことを鮮明に思い出しながら八神はフッと笑う。

「食え、水で流し込めって。それまで食欲なんかなかったのにすごく美味そうに見えて、食べたらさ。やっぱ美味くて。久しぶりに腹減ったって思えて、気付いたらボロボロ泣きながら食ってて。海藤さんも何も言わないで食ってて。全部食い終わってごちそうさまって言ったら、お前は頑張ってるよって言ってくれて。そしたらなんか、大丈夫かもって」

 それで俺は弁護士になれたってわけ。
 そう八神が締めくくると、東さんが聞いたら嫉妬で卒倒しそうなエピソードだった、と杉浦が真顔で言う。

「そのあとも俺が落ち込んでるとたまに作ってくれて、毎回具材違うし調味料計ったりしないから味も違うんだけど、俺にとって世界一美味しい炒飯はずっと海藤さんの炒飯なんだよね」

 エビチリはこれが世界一美味いと思います、と八神が食べながら言う。お世辞ではなく本心だったが、趙は「それはどうも〜」と流す。思い出に勝てる味を作り出すことはできない。

「僕も海藤さんの炒飯食べてみたくなっちゃった。感動を抜きにしても普通に美味しそう」
「頼んだら作ってくれるんじゃない?」

 ター坊にしか出さない特別メニューだ、なんて言われたりして。杉浦はそう思ったが、餃子と一緒に飲み込んだ。